第54話
梅雨が明けてある日の放課後。
俺達軽音楽部は音楽室にて紬が出してくれた茶を優雅に啜っていた。
「お菓子もあるわよ〜」
茶菓子も出してくれるというなんとも豪華なティータイムなんだろうか。喫茶店か、ここは。
ガチャン!バタッ
「きゃっ!!」
二人の女子が倒れながら入ってきた。いきなりの訪問者に度肝を抜いた。茶を吹き掛けそうだったぞ。それと和もいたから話を聞く事に。
「ねぇ和ちゃん。その娘達だれ?」
「さぁ、この二人はこの部屋を覗いていたから声をかけたら・・・」
びっくりして倒れて今至る、と。その二人は俺をじっと見る。な、何だよ。
「ゎ、私達は唯先輩ファンクラブの者です!」
ファンクラブ・・・いたなそんなの、存在を忘れかけたな。憂は『わぁ♪』と嬉しそうに二人を見るのだが、目が輝いている。
そんなことよりも、何故ファンクラブがこんな所にいるのだろうか。俺を見る為かと思ったのだが。
「ぁ、もしかして唯ちゃんの髪に付いていたシールの事を見に来たの?」
「え?シール?」
紬は俺の後ろに周り頭を触り『何か』が俺の髪から取れた感覚があった。それをじっ、と見てみると。
「・・・『チョココロネ』・・・」
弁当を作る時間が無かった為、購買部にて買った物の『チョココロネ -30% 170円』と書かれたシールがまさかの俺の頭に付いていたというのだ。
「どうしてそんな物を?お姉ちゃん」
「・・・私が聞きたいよ・・・恥ずかしいな・・・」
俺は落ち込む最中、ファンクラブの連中は
「他の会員の言った通りだー♪」
「本当だ〜♪可愛い〜♪」
きゃっきゃっとはしゃいでいる。可愛いってお前等な・・・
「ありがとうございました!」
「私達、すっごい満足です!」
どの辺が満足出来たのか不明だが、ファンクラブの二人は『練習頑張って下さい!』と元気に挨拶し、どこかへと消えていった。嵐のような連中だな。
「和は何か用があるのか?」
律は和がいる事が珍しいので、和の事情を聞く。
「ええ。軽音部のみんなでやって欲しい事があるの」
『やって欲しい事?』
俺達は声を揃えて質問をぶつける。以心伝心だな、と思う俺。
「そう。お茶会を開いて欲しいの。唯ファンクラブのお茶会をね」
まさかの俺のファンクラブのお茶会を開くとはな・・・澪の立場と逆転しているな。
「へ!?お茶会!?」
「そうよ。気が進まないかも知れないけど、唯。やってくれないかしら?」
和は申し訳なさそうに頬に手を当て困る表情をする。
「なんで和がそんな事を?」
律は状況が分からず和に説明を求める。そうか知らないのか。
「それは私が唯のファンクラブ会長だからよ」
『ええっ!?』
みんなは驚きの声だ。一人一人の声が大きすぎて部室が少し震えたぐらいだ。うるせぇな。
「な、なんで和ちゃ・・・和さんがお姉ちゃんのファンクラブを?」
「ま、まさか曽我部先輩から引き継いだのか!?」
憂、律は和に詰め寄るが、冷静に対処する。
「嫌です、と言っても無理やり押しつけたのよ」
苦笑いで俺を見ていた。すると、梓は曽我部先輩の存在を知らないので、おずおずと手を挙げ説明を求める。
「あれ?知らなかったっけ?まぁ、いいや。あれはいつ頃だっただろうかーー」
律は天井を見上げ大嘘を語るだろうなと思い、俺が話す。
「昨年度の生徒会長で私のファンクラブの創設者だよ。梓ちゃん」
「あー!唯!私が話すところだったのにー!」
「大袈裟(おおげさ)に話そうとしただろ?律」
「うっ!・・・」
どうやら図星らしいな。梓は納得してくれた。和は改めて俺達を見渡して
「結局、私は今まで曽我部先輩の意思を受け継ぐ事が出来ないまま時間だけが過ぎてしまったの・・・」
和はファンクラブの証である認定証カードを見て悲しそうに俯く。やめろ。そんな顔を見せるなよ。
「だから・・・せっかく曽我部先輩に頼んで貰ったのに申し訳無いな、て思って・・・責務を果たさなきゃ曽我部先輩に顔向けが出来ないわ」
「和ちゃん・・・」
和は大切な人の為に必死に頑張っている。俺はこんな事が出来るのだろうか?和は微笑みさらに言葉を続ける。
「だから私のワガママになるけど、軽音部でお茶会を開いて欲しいの」
和のワガママなんて初めてだ。俺は心よく引き受けよう。
「分かったよ和ちゃん!そのお茶会開くよ!みんなもいいよね?」
「唯・・・ありがとうね」
和は嬉しそうに笑顔になった。俺も大切な人が困っていたら俺へのリスクがあろうとも助けてやる。
「和には、いつも助け貰っているしな!」
「今度は私達が和ちゃんに恩返しの番だね!」
「私も協力します!和先輩!」
「私もやるよ!和さん!」
律、紬、梓、憂は賛成した。澪も挙手をし参加意思を見せる。
俺達軽音学部はお茶会を開く事を決意し、それぞれの準備へと取り掛かる。
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「とりあえず、私主催のお茶会の細かいところを決めていこう」
俺はホワイトボードの前に立ちマジックをトントンと『第二回唯ファンクラブ。ファンサービス会議』の書かれたボードを叩く。
「わぁ♪お姉ちゃん先生みたい♪」
憂は輝く目で俺を見る。照れるだろうが。
「唯ちゃん!衣装は私に任せて!」
『さわちゃん!?』
突然の山中先生の乱入だ。神出鬼没だな。俺は冷静に対処する。
「・・・いりません。制服でいいです。先生は豆腐の角に頭ぶつけて気絶でもしてください。」
「豆腐って・・・どれだけ私はひ弱なのよ・・・」
山中先生はガッカリし、ため息を吐く。俺がため息吐きたいぞ。
「お茶会の内容は軽音部で決めてくれないかしら?私は会場を押さえたり、告知したりするから」
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和はそれだけを言って忙しそうに部室を出た。
俺達は会議をしているのだが・・・
「唯ちゃん!私が作った衣装を着なさい!」
うるさい山中を摘み出す。よし、これで静かになった。
ようやく落ち着いて会議を始めるのだが・・・
「唯ちゃんの入場の時にBGMを流しましょ〜」
紬の、のほほんとした発言により俺は『はぁ・・・』とため息を吐く。前途多難の会議になるな、コレ。
で、 俺主催のお茶会を開く為、音楽室にて会議をする。大体内容の方は決まったのだか・・・
・グッズ配布
・握手会
・ケーキ(紬が用意)
・キャンドルサービス
・スライドショー
・質問コーナー
・写真撮影
・演奏
といったまるで俺が有名人みたいな行事がある。この学校では有名人らしいが、いかんせん俺は無自覚である。演奏する曲目を決め、練習に励むーーーー。
ーーーーーー
ある日の昼休み。俺達は昼飯をがっつきながらお茶会の話が盛り上がる。
「楽しみだね〜♪唯ちゃんのお茶会♪」
紬は弾ける笑顔で俺を見る。俺はそこまで楽しみでは無いが・・・
「なぁケーキカットもしようぜー」
「披露宴か!」
律、澪は俺の気持ちを知らずコントをやる。随分と偉くなったものだな。近くにいた和に助けを求めるが・・・
「和ちゃ〜ん・・・」
「でも、そういう事をファンの娘達が喜びそうだから我慢して。唯」
和は俺に同情するかのような目をする。でも、和の為だ。これくらい何でもない。
「あ、そうそう、今週の土曜日に音楽室ってお茶会が決まったから」
着々と準備が出来ているな。はぁ、めんどくさいなぁ。
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放課後。音楽室にて精神を安定させる為、紬が出してくれた茶を啜り、ぼけっとする。現実逃避だな。
和がやって来て、曽我部先輩がやって来れないという話を聞く。
「大学のサークルで忙しいから来れないというらしいのよ」
「そっか、それは残念だな。楽しみにしていた筈なのにな・・・」
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お茶会当日。
音楽室にて、ファンクラブの会員を呼びお茶会を開くのだが・・・
ファンクラブの連中は目が輝いている。そんな目で見るなよ。
「どうも。平沢唯です。本日はお集まり頂き誠にありがとうございます」
キャーと歓声が沸く。思いっきり俺がタレントみたいな扱いだな。
紬が用意してくれた茶とケーキを一人ずつに配り、俺はキャンドルサービスを行う。
「唯せんぱーい!こっちもー!」
「あ、はいはい」
せっせとキャンドルサービスに励む。
キャンドルサービスを終え、質問コーナーへと移るのだが・・・
「質問が終わったら、ろうそくの火を一つずつ消してくださいね!」
律の発言に俺は耳を疑う。百物語か。するとファンクラブの連中は『ハイハイ!』と元気よく挙手をし、
俺に質問をするのだが・・・
「お風呂の時、まず最初どこから洗いますか?」
「たい焼きはどこから食べますか?」
などなど、どーでもいい質問を浴びせる。他のましな質問は無いのだろうか。
質問コーナーがようやく終わり、スライドショーをするのだが、俺の小さいころの写真を次々に紹介するという拷問が始まった。ファンクラブの連中は・・・
「わぁ♪可愛い♪」
「こんなに大きくなったのね♪」
頬に朱を染め惚ける。はぁ、やれやれ。
ーーーーーーー
スライドショーが終わり、演奏へと向かう。
「では演奏に移りたいと思います。新曲『ぴゅあぴゅあハート』!」
律がカッカッとスティックでカウントを取り。
~~♪♪♪
律のドラム
澪のベース
紬のキーボード
俺、憂、梓のギターがファンクラブの心に届くように、俺達の『音』が鳴り響く。
~~♪♪♪
ーーーー
演奏が終わり、記念撮影をする。きゃっきゃっとはしゃぎながらも配置に着く。
「わぁ♪お姉ちゃんて本当に有名人だね♪」
憂もやたらと興奮し目を輝かせる。梓は携帯を構え、撮影する。
「どうして撮るの?梓」
「曽我部先輩に送る為です。メールアドレスは知らないので生徒会で調べてください」
梓よ。それは強引すぎるのでは無いのか?でも、先輩にちゃんと伝えたいという『想い』は分かる。
先輩。次は必ず来てくださいね。次はもっと盛り上がるはずですからーーーーーーー