第55話
俺主催お茶会が終わり、ある日の授業。
「みんな。進路希望用紙を書いて1週間以内に提出しなさいね。これはあくまでも『希望』であって、『決定』では無いから、慌てないで頂戴ね」
俺達は三年生なので進路を決めるという行事がある。俺は大学に行きたいと思っているし国立でも受けようかな、と思ったのだが。
「へぇ。唯も国立を狙っているんだ」
「え?和ちゃんも国立に行くの?」
「うん。無謀かもしれないけどね。唯は・・・簡単では無いかも知れないけど、学力はすごいからね」
まさかの褒めにより俺は『でへへ〜』と照れる。ていうか、学力『は』の『は』の意味が分からないのだが。紬、澪も進学校を決めているそうだ。未来が見えているのな。
律はというと・・・
「こんな紙キレに私の進むべき『道』を!私の『未来』は決められないぜー!」
紬は参考書を持っていたらしいので、見せてもらう。
「ほら。国語も英語もあるよ」
「貸しな!えーと、次の助動詞が・・・ふむふむ」
律は参考書を紬から奪い取り、問題を睨む。
「これ全然分からん!まだ習っていないからだ!」
「いやコレ、一年の時の範囲だぞ」
「な、なんだってー!!?」
律はオーバーリアクションする。芸人でもなりやがれ。
ーーーーーー
数日後。放課後になり、律はまだ進路が未定のままだったので山中先生に呼び出された。
「じゃー、行ってくるから。みんなは音楽室に集合なー」
それだけを伝え澪、紬と共に音楽室へと向かうのだが、和は一緒に雑談をしよう、という事で
和も音楽室へと足を運ぶ。
がちゃ
音楽室の扉を開き梓、憂は亀に餌をやっていたのを目にする。
「ねぇお姉ちゃん。律さんは何で先生に呼ばれたの?」
「あ、進路希望についての呼び出しだよ」
憂はそうなんだと納得したのだが、梓はまだ決めていなかったんですか、と呆れている。
「そういえば期末テストが始まるわね。音楽室が使え無くなるからみんなどこで勉強をやるの?」
和は紬が出してくれた茶を啜りながら雑談を交わしていく。
「あ、そっか。じゃ、図書室でやろうか」
澪は、はっとして答える。澪はこの部室が気に入っているからか、少し残念そうだ。
ガチャ
律がガッカリしながら部室に入ってくる。あの様子じゃ・・・
「うーん。大学に進学、て決めたけど学校がなー・・・」
なかなか志望校が決まらずに落ち込んでいる。まぁ、決まらない事はしょうがないよな。
律にも図書館にて勉強をしようと提案し、憂、梓は純と勉強するようだ。
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数日後に控えた期末テストの為に俺、律、澪、紬は図書館にてテスト対策をしていた。
ふ、と紬の書き込んでいるノートを見てみると、要所要所に赤ペンや解説など細かに記されていた。
「わー・・・ムギちゃんのノート分かりやすくまとめてあるね」
「うふふ。そう?でも、唯ちゃんの上手なまとめ方も、分かりやすいわ〜」
紬は照れながらも俺を褒める。澪のノートも気になったので見てみるが・・・
「・・・澪ちゃんのノートって、何だか可愛いね」
「そ、そうかな?」
澪のノートにはウサギのイラストならケーキのイラストやら記されているファンシーなノートだ。書いていて何とも思わないのか。
続いて律のノートを見るが・・・
「・・・律ちゃん・・・寝ながら書いているね・・・」
「そうだー!どうだ参ったか!」
律は胸を高らかに言い張るのだが、字がミミズみたいにふにゃふにゃになっている。集中力が欠けているな・・・
〜♪『生徒の呼出しをします。三年二組の平沢唯さん。職員室まで来て下さい』〜♪
校内放送で呼ばれて、仕方なく職員室へと向かう。何事だろうか。
職員室に入り、『失礼します』と言いながら先生を探す。俺を呼んだのは進路指導の先生だ。
「あ、平沢。こっちに来い」
この先生の見た目はポッチャリ体型で坊主姿という何だか怖そうな先生である。
「あの、何ですか?」
俺は校則違反なんてしない人物なのだ。故に悪さをした訳でも無いのに緊張する。
「この前出した進路希望用紙で、国立大学って書いただろ?」
何だ、そんな事か。でも、なんでそんな事を聞くのだろうか・・・
「は、はい・・・そうですが・・・」
「平沢の学力ならもっと上に行ける筈だ。だから同じ国立だけど、お前が書いた国立大学より上の大学院があるんだ。それに興味があるか?」
先生は俺の表情を伺う。もっと上か・・・澪達と別れ離れになると思うと何だか寂しく感じる。
だが、俺はそんな連中に依存している。ここは思い切って頑張ると言いたかったのだが・・・
「・・・あの・・・すみません・・・少しだけ時間を頂けないのでしょうか?何せ私の進路ですし・・・」
「ああ。ゆっくりでもいいから考えろ。いつでも相談に乗るから、俺や他の先生にも話してみろ。きっと、『何か』が見えてくるからな」
何で引き受けれなかっただろうか?自分が情けないな・・・
『失礼しました』と言いながら職員室を出ていく。俺は今、何をしたいのだろうか・・・
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図書室に戻り、律に『何で呼ばれたんだ?』と聞いてくるので、さっきの話をする事に。
「へぇー・・・唯がだんだん遠く見えて感じるよ・・・」
「唯の学力は、先生も頭が上がらない程だからな」
「わぁ♪唯ちゃんはすごいんだね♪」
俺はこの三人や梓にも依存をしている。このままでは自分に甘えているばかりじゃないか。解放しろ。俺を。ダメだろうが。独立しろ。俺は自分に言い聞かせるが、なかなか納得してくれない。何故だ。
「・・・うん。でも、考えている途中だから・・・真剣に考えなきゃ。自分の『人生』だから」
「「唯・・・」」「唯ちゃん・・・」
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図書室での勉強が済み、我が家に帰宅するのだが、一文字と書かれた表札の前に立ったおばあちゃんが見えた。
「あら唯ちゃん。学校の帰り?ちょうど良かった。コレ肉じゃが作ったから食べてね」
おばあちゃんからタッパーを受け取り、ほのかにいい匂いがする。かなり美味しそうだ。
「わぁ♪ありがとう。おばあちゃん」
「いえいえ。あ、そうだ。今度ね演芸大会が開催されるんだけど、唯ちゃんも参加してくれない?若い娘が参加してくれたら、盛り上がるんだけどねぇ」
おばあちゃんは俺の目を見て頼み事をする。俺は笑顔でもちろん
「うん!いいよ!で、いつなの?」
おばあちゃんは懐を漁り、演芸大会のビラを見せる。が、期日を見ると期末テストの翌日なのだ。
でもそれがどうした?おばあちゃんの為なら全教科0点になってでも、頑張ってやるさ。
「うん!この日は大丈夫だよ!私はギターで演奏しか出来ないけど、頑張るよ。おばあちゃん」
「うふふ。ありがとね唯ちゃん。じゃ、楽しみにしているね」
おばあちゃんと別れ、我が家へと直行する。この事を憂に言っても憂は参加するのだろうか?憂もテスト対策で忙しいかもしれないしな。でも、伝えておくとしよう。
「へぇ〜。演芸大会に出るんだ。でも、テスト勉強はどうするの?」
「いらないよ。おばあちゃんの為なら0点取ってでも、喜ばせたいもん」
俺の真剣な目を見て『わぁ♪』と目を輝かせる。すると憂は
「私にもやらせて!私もおばあちゃんに恩返しをしてあげたいから!」
「ぇ・・・でも、憂のテスト対策が・・・」
憂は必死に俺を説得している。俺も負けずとして反論したのだが
「大丈夫だよ!勉強と両立しながらでも、頑張れるから!お願いお姉ちゃん!」
憂は両手を合わせ、頭を下げる。憂もまた大切な人の為に頑張れるか。やはり姉妹は似ているな。
「うん。分かったよ・・・でも、ちゃんと勉強するんだよ?憂」
「わぁ♪うん!」
弾ける笑顔で俺を見る。本当に俺と共に行動をするのが好きなんだな。ユニット名は『ゆいうい』という事に決めようかーーーー