第56話
翌日。
進路指導の先生の言い付けにより、俺の進路の話をいろんな先生に相談してみるが・・・・
「平沢さんの学力なら行けるわよ」
「大丈夫だから。自分を信じなさい」
「ああ。平沢なら問題は無さそうだな。自信を持て」
と、俺が優秀みたいな言い方が少し気になるのだが、軽くスルー。
そして放課後になり律、澪、紬と共に勉学に励む為、図書室へと向かうのだが、山中先生に出会い山中先生は涙を流しながら
「なんでお茶しないのよー!いつも楽しみにしていたのにー!」
「え?でも規則だから仕方ないだろ?さわちゃん」
「規則と私。どっちが大切なのよー!」
『規則です』
俺、律、澪は声を揃えて発言。紬は微笑み、『私もお茶がしたいわ〜』と抜けた発言で『よく言ったわ!』と山中先生は吠える。憂、梓も呼び、音楽室へと直行する。職権濫用だな。
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「あー。幸せだわ〜」
山中先生はうっとりしながら茶を啜っている。良かったな幸せになれて。
〜♪『山中先生。至急職員室まで来て下さい』〜♪
校内放送により山中先生はため息を吐き、渋々音楽室を出た。怒られるだろうな。
「あ、あの。私達も出たほうが・・・」
「いいっていいってー。さわちゃんの所為って事で許されるから」
梓はおずおずとしていたが律、澪、紬は何事も無いようにしていた。慣れって怖いな。
紬が出してくれた茶や茶菓子を口に放り込み、憂は演芸大会の話を持ち掛け、最初は驚きだったのだが『おばあちゃんの恩返しの為』という理由で納得してくれた。
「で、おばあちゃんの為に私とお姉ちゃんとで演奏をするんです」
「おばあちゃん?」
「小さい時から私達のお世話をしてくれた人で、とっても優しい人なんです」
『へぇー・・・』
後は、練習をしたいのだが音楽室は使えない。ということで我が家にて練習をするという事を決めたのである。
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我が家に帰り早速、練習をやりたいのだが、演奏する曲目を決めていない。
「うーん。どうしよっか?」
憂は唸りながら上目遣いでこちらを見る。・・・照れるぞ。
「老人が多いらしいから演歌っぽい曲がいいんだけど・・・」
「私達は演歌の曲作らないからね〜」
どうしたもんかと悩んでいたが、今、原作の事を思い出した。
「そうだ!『放課後ティータイム』の曲を演歌風にしようよ」
「ええ!?そんな事出来るの?お姉ちゃん」
憂は驚きの表情だ。ギターを持ち、ゆっくり弾いてみると・・・
〜♪♪
「あっ!演歌っぽいかも!」
「で、演歌風にする曲は『ふでペン〜ボールペン』だからね。こっちの方が演歌風に出来そうだからね」
「わぁ♪・・・でも、私は曲作れないよ・・・でもでも私は頑張ってギター弾くからね!」
俺達は曲をいじって練習に励む。たまに長時間休んで憂に勉強をさせる。このままだとずっと練習して疲れて勉強が出来なくなるというハプニングを起こさない為だ。
「ぁ、ボーカルはお姉ちゃんに任せるね。私はギターでいっぱいいっぱいだから」
「あいあいさ〜」
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俺は一切勉強に手をつけずに猛練習する事、期末テスト当日。
朝から教科書をパラパラ捲りテスト範囲を見て頭にたたき込む。少しまずいな。満点は取れないかもな。すると先生がやって来て教科書はカバンにぶち込む。
解答用紙、問題用紙が配られ、先生は時計を見、『始め』と合図し『ばさぁぁ』と紙が擦れる音と共にシャーペンをせっせと動かす。
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期末テストが終わり俺は机に『べちゃっ』と身体を休ませる。律、澪、紬、和は何事かと俺の周りに集まる。
「ど、どうしたんだ?やけに疲れているっぽいんだけど」
「珍しいわね。唯がこんなにだらっとしているなんて」
律、和は俺の心配をしてくれた。俺はなんて優しい人達に囲まれているのだろうか。俺は幸せだ。だが、練習していた時に決意したのだ。俺の進むべき『道』を。
「いやー・・・練習しすぎて勉強が出来なかったんだよね・・・」
『ええ!?』
和もびっくりの発言だそうだ。俺が勉強しないだけでこんなに驚くなんて、よほど俺はがり勉かな。
「くすっ。唯らしいわね。明日の準備でそれだけ熱心だなんてね。おばあちゃんも喜ぶわ」
俺はずっとおばあちゃんに恩返ししたいと思っていた頃だ。こんなチャンスは逃がしてたまるかよ。
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放課後。ティータイムを優雅に過ごし練習はせず、ただただ雑談をし下校時刻になり、それぞれ帰路へと向かうが、俺は用があるとみんなに報告し、学校に残る。俺は何をしたいかというと・・・
コンコン
『どうぞー』
進路指導の先生がいるであろう、進路指導室のドアを叩き、先生がいる事を確認。
「失礼します」
「お、平沢か。・・・『答え』が出たようだな・・・」
俺の顔つきで何かを感じ取り、ズバリと俺の『今の心中』を見抜く。さすがだな。
「・・・はい。その大学院の細かな情報を下さい。出来ればパンフレットとかを・・・」
「ああ。そう言ってくれると思って、既に用意した。ほらっ」
先生が渡してくれたパンフレット。『国立雷鳴(らいめい)女子学院大学』と書かれた物を大切そうに受け取る。
「そこは大阪にある大学でな?寮もあって、一人暮らしになるけどそれに対して補助金とか貰える物がたくさんあるんだよ」
大阪・・・遠いな。憂に会いに行くのに、長期休暇しかに会えないな。でも、俺はそんな『甘え』を捨てる為にここに来ているんだ。引き下がらないぞ。
「大阪・・・大丈夫かな」
「平沢なら大丈夫だ。明るい性格だから、友達もたくさん出来る。その友達はお前の事は放っておかないだろう」
パンフレットに願書も付いており、俺の学力なら推薦で通れるだろうと先生が説明。願書の提出締め切り日は今年の学園祭までだそうだ。願書はその日に出すというのだ。
「分かりました。
では、失礼しました」
「ああ。頑張れ。平沢」
進路指導室を出て、ふわふわとした足取りで我が家に直行する。
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我が家に着いて部屋着に着替える。胸のプリントに『パラダイス』と書かれた変な洋服を違和感なく着こなせる俺。
ベッドにダイブし、自分の将来について深く考える。
律、澪、紬、梓、和とは離ればなれになるが一生会えない事は無い。憂も寂しがると思うから精一杯思い出を作ってあげる事に集中させる事にしよう。
俺は軽音楽部の『夢』を最後まで見届けそうには出来ない。俺は軽音楽部に依存し、甘える。軽音楽部のみんなはそれに応えるように甘やかす。それがダメだ。悪循環なんだ。
「・・・独立するんだ・・・しっかりしろ・・・平沢唯・・・」
俺はそう呟き自分に言い聞かせる。
明日は演芸大会なので早めに寝る事にし、俺は眠りについたーー。