小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第68話


side 平沢 唯


ある日の放課後。
俺達は部室に行こうとした。だが、山中先生は

「しばらく、部室は使えないわよ」

『え!?』

どうやら、隣のクラスが雨漏りになっている。
原因はどっかの配水管が壊れているらしい。

「でね、真夜中誰もいないのに教室から、ぽたりぽたりと雨音がしてね。なんだろーなって思ってね」

「ひぃっ!続けてください」

「わぁ♪」

澪は驚きの表情を、憂は嬉しそうな表情で山中先生の話を聞く。


「で、天井を見てみると・・・天井から雨漏りしてるんじゃない!!」

「ひぃぃ!」

「ほわぁぁ♪」

オチがつまらないのに憂は嬉しそうだ。何でだよ。澪は怖がっている・・・これしきで怖いのか?

「その教室から下の音楽室まで、配水管の交換をするらしいから立ち入り禁止ってわけ」


むぅ、まずいな。学園祭まで後、1ヶ月ぐらいなのに・・・部室を使えないのは痛いな。


「とりあえず、楽器と亀は移動したからね」

「スッポンモドキですよ。山中先生。や、どうでもいいかな?」

俺は別にどーでもいい反論する。見た目亀だし。

「あ、遅くなりました。って、あれ?トンちゃん!」

掃除当番の為に遅れたのか、梓が亀を心配して近寄る。

「あと十日間ぐらいまでかかるらしいから、練習をしたくても出来ないから、第2音楽室に交渉するわ。実は、私吹奏楽部の顧問でもあるの」


へぇー。そうなのか?知らなかったなー。とりあえず俺達は山中先生に頼んでみる。

『お、お願いします』

ーーーーー

山中先生は第2音楽室へと交渉している間、俺達は雑談を交わす。


「お姉ちゃん。先生大丈夫かな?」

「やってくれると信じてみようよ。憂」

「ねぇねぇ、りっちゃん。部室の中ってどうなっているのかな?開けてみない?」

「や、まずくないか?なぁ、澪」

「そうだな・・・立ち入り禁止なんだからダメじゃないか?なぁ、梓」

「そうですよね。でも、私も気になりますね・・・」


梓と紬はそわそわと部室のドアを見ていた。気になるのなら見ればいいじゃないか。
すると、山中先生は息を切らしながら、失敗の報告を聞く。やっぱり、学園祭の練習で開けさせて貰えないか。

「じゃ、三年二組の教室でやってみる?」


ーーーーーーーーーー

俺達は三年二組の教室に入り、憂と梓は『おじゃまします』とおずおずと入る。
とりあえず、各準備に取り掛かるのだが、クラスの連中が

「わー。ここでやるんだ」

「頑張ってー」

と応援していたので俺は『ふんすっ』と気合を入れ、ギターを構える。
律がそれぞれの準備をしたのを確認し、『じゃ、カレーからな。ワン・ツー・スリー!』とスティックでカウントを取り俺達は・・・

〜〜〜♪♪!!!

防音対策をしていない教室ではかなり響いてしまう。

「わー!すごっ!音大きいねー」

音波の所為で、窓がカタカタと震えてしまっている。共鳴だな。
すると、他のクラスが来て『今、私達学園祭の話をやっているんで、音を小さく出来ませんかね?』と苦情が来た。やはり、迷惑だよな。

「あ、す、すみません。では、場所を変えませんか?みなさん」

「うーん。そうだな。迷惑になるだろうからそうするか。いいよな?」


ーーーーーー


で、体育館でやることにしたのだが・・・

「ファイトー!」

『おおっ!』

バレー部や新体操部?などの運動部ばかりの連中が集まっていた。まぁ、体育館だし当たり前だけどな。
その辺の女子に声を掛けて、『この辺使わせてもらうね』と伝え、俺達は演奏をするのだが・・・

「じゃ、いくぞ、ワン・ツー・ワン・ツー・スリー・フォー!」

〜♪♪「あれ?澪ちゃん?」

本来、澪もベースを弾くパートなのだが、澪は弾かずにバレーの練習風景を見て、惚けていた。

「あ、ごめん。もう一回な。律、頼む」

「澪ってスポーツ見るの好きだからなー」

「え?そうなんですか?澪さん」

「あ、ああ。そうなんだ。じゃ、もう一回だ」

律はまたスティックでカウントを取る途中・・・

『ファイトォォォー!』

運動部員の気合いの声により、中断してしまった。

「うっ!やっぱり落ち着かないな・・・」


ーーーーーー

俺達は、屋上や理科室など様々な場所を見て回ったのだが、全部の教室が使えないらしい。


「やっぱり、無理だったわ。校長室まで交渉したんだけど・・・もう、下校時間になったから、ひとまず帰りなさい」


俺達は、渋々帰る事にした。
が、律はファーストフード店にて、学園祭の打ち合わせをしようという、提案に俺達は了承した。


「で、曲目はどうする?」


紬は自分が作った新曲をやりたいというのだが、歌詞が出来ていないらしい。


「私、歌詞考えていたけど、律がダメだって言うんだ・・・」

律は、『それがさ、コレ見てみろよ』と言いながら懐から歌詞を俺達に見せる。

「えーと・・・『私とあなたの恋を白黒つけましょう。パンダさんみたいに』・・・」

何だ?その動物シリーズは?律が言うには、澪は動物ネタに走ってしまうとスランプだと言う。スランプなのか?コレ。


「じゃあ、各自歌詞を考えるという方向で」

こうして、俺達は歌詞を考える方針で帰路へと向かう。


ーーーーーー

「お姉ちゃん。歌詞どうしょうか?私、考えるの苦手かも・・・」

憂と俺は我が家のリビングにのんびりと歌詞を考えている。しかし、憂が苦手なものがあるとはな。


「出来るだけ頑張ってみようよ。憂」

「うん。そうだね。私、頑張ってみるよ」


俺達は切磋琢磨しながら歌詞を作りあっていたのだが、憂はスラスラと歌詞を書いていたのでちら見したのだが、憂は『ダメ、まだ書いているから。ごめんね。お姉ちゃん』と厳しい言葉を受け、俺もせっせと筆を走らせる。さて、いい歌詞が出来るか心配なんだけどな。

次の日。俺達はまたも練習する場所が無く、困っていたところ山中先生が

「貸切スタジオでやってみる?」

ということで部費を使い、とある貸切スタジオに向かい・・・

『おお〜・・・』

みんな驚きの声を上げて、全身が映る鏡を見て・・・みんなは髪をいじっていた。まぁ、女の子だしな。身だしなみはちゃんとしないとな。

「みんなー。お茶用意したよ〜」

いつの間にか紬はお茶を淹れていた。どっかにあるコンセントを使い、ポットでお湯を沸かしたのか、湯気が出ていた。

「こほん。ありがとうございます。ムギさん」

「あ、どうもです。」

飲食いいのか?こういう所はダメだと思うのだが・・・

ガチャ
「あ、すみません、ここは飲食禁止となっていますので、ご遠慮くださいませ」

何と、スタッフが来ていきなりの叱り。呆気にとられた俺達は、『す、すみません』と謝り、仕方無くスタジオの外に出て近くにあった休憩所にて、茶を啜りながら歌詞を発表していくのだが・・・

「まず、私からよ!」

紬は自ら立候補。何だか、自信があるらしいみたいだ。

「身が凍える冬の季節」

『おおー・・・』

「犯人を断崖絶壁に追いつめた」

『は?』

最初のいい感じの歌詞はどこに行ったのやら、なんかのドラマみたいなセリフを言っているだけと思うのだが。

「よしえさん。あなたが犯人だったのね!」

「ち、ちょ、歌詞じゃないぞ。ムギ」


紬は『よく出来ていたんだけどなー』と渋々、歌詞?を発表するのを止めた。


「次、梓だな」

「あ、はい。で、では・・・私はキミの事を想っている・・・」

『おおー・・・』

ふむ、ラブソングか。俺は、梓のセンスを見極める為、真剣に聞いていく。

「キミは私の事をずっと、じっと見ているの。もうすぐあげるから、私が。私が・・・」

『おおー!』

「だから、待っていてね。トンちゃん」

「ずこーっ!って、トンちゃんに餌をやる歌詞か!?」


律はテーブルに頭を打ちつけ、ツッコミを入れる。って、リアクション古いな。

「だ、ダメだったんですか?」

梓は頬に朱を浮かばせ恥ずかしがる。
うーん、梓は得意じゃないのか?歌詞を作るのは大変なのは分かるのだがな。

「まー、トンちゃんを知らない人には分からないと思うから没かな。んじゃ、次、憂ちゃんで」

「はい。こほんこほん・・・キラキラと光るあなたがずっと見てみたいの」

「お、憂ちゃんもラブソングか?」

「こほん・・・私はそんなあなたの為に頑張っちゃうの。とっておきの笑顔であなたを振り向かせるの」

『お、おおー・・・』

「だからお願い。あなたを好きにいさせてね。届け、私の想い・・・って所まで書きました。こほん」

うーむ。憂の歌詞はなかなかの上出来で仕上がっていたなぁ。やはり、憂は何をやらせても、失敗しないんだな。


「いいね!じゃ、ひとまず保留で。次は唯だな」

やれやれ、俺の番か。しかし、俺はまだ『U&I』は発表しない。部室が使えるようになってからだ。何故ならば、大切なものの有り難さを律達と共に実感したいからだ。


「じゃあ、私だね・・・私は夢を見ていたんだ。あの時のキミとの約束」

「お、唯もなかなかやるな」

「すごいよ。お姉ちゃん♪こほん」

む、褒められている・・・すごく照れくさいのだが、何とか耐える。


「覚えている?あの時間あの場所で私とキミは先が見えない恋の道へと進んだんだよ。でも、キミという光が明るく輝くから心配ないんだよ」


『おおー!!』


「私とキミの距離はだんだんと近づき、やがてキミと私の世界の先が見え、私達は小さな一歩を歩めるんだよ・・・って、感じなんだけどね。どうかな?」


「うん!唯ちゃんも憂ちゃんもいい感じじゃない!」


『さわちゃん!?』

いきなりの山中先生の登場。俺も気がつかなかった・・・この人は有名な忍者の末裔なのか?


「うふふ。職員会議が早く終わったから、気になっちゃって、来ちゃった♪」


ま、どうでもいいのだが・・・

「次、澪ちゃんでしょ?早く、早くっ」


何故か発表順を知っている山中先生。


「じ、じゃ・・・一緒にキツネさんと歌おうコンコン」

また動物ネタだな。と、いうことはまだスランプなのか?紬は『わぁ♪』と興奮しているのだが、紬が考えている事を俺は分からない。

「き、却下で」


「ガーンッ!」

澪はまだ諦めずに歌詞を発表するのだが・・・


「私と白鳥さんが一緒にダンス・ダンスレボリューション!」

大スランプだな。澪は『私の歌詞ってダメなのか?』と涙目になりながら訴えかけるが、律は『あ、後で考えような!一曲と言わずに二曲も三曲も考えていいからな!』と澪をあやす。
引き続き、律は歌詞を書いた紙を見せるのだが・・・

「・・・いくらはいくら・・・土管がどっかーん・・・お爺さんが食べてもババロア・・・」

「どうだー!参ったか!」

律は胸を高らかに誇らしい表情をする。何にも参っていないのだがな。
どうやら、ちゃんとしていた歌詞は俺と憂の分だけだった。ま、二つだけでも
無いよりマシなんだけどな。で、歌詞発表会が終わってスタジオに入り・・・


「ん?何か光ってるよ、りっちゃん。あれ何なの?」

紬は天井付近にあるランプ?が気になり、説明を求めるが律は知らないようだ。

「あれはね、終了五分前の合図なのよ。だからみんなそろそろ帰る準備をしなさいね」


「へぇ・・・ごほん、けほん・・・そうだったんですか〜。知らなかったです」


憂は今得た知識を頭に叩き込み、俺達は渋々帰る事にした。

俺、律、澪、紬、梓、山中先生、憂の順でスタジオを出ようとするのだが・・・

ドサッ!


後ろから『何かが』倒れた音がしたので、そっと後ろを振り向くと・・・


「・・・!?憂!?」


顔を真っ赤にして憂は倒れていた。俺は駆け寄りそっと憂の身体を持ち上げ、でこに手を当て・・・

「・・・!?熱があるよ!憂!」


『ええ!?』

山中先生は『私の車で病院行くわよ!早く!』と俺と山中先生とで憂を抱きかかえ車に乗せ病院へと向かう。律達は人数が多いので乗せられないということで現地解散。俺は俺と憂のギターだけでも車に放り込む。


「しっかりして!憂!」

俺は憂を励ましつつ、早く着けと願いを込める。


ーーーーーー


万が一にの為に持っていた保険証を手に持ち、病院に着いて早速診察をやらせ、医者が言うには

「大丈夫ですよ。ただの風邪ですよ。お薬をこちらで用意しますから、ちゃんと服用させるんですよ」

俺は心の底からホッとした。良かった・・・本当に良かった・・・


薬を受け取り、薬代は山中先生が出してくれた。俺の手持ちでも出せる金額なのに・・・



「気にしないで。唯ちゃん。私はあなた達の先生だから」


なんとも心優しい先生なんだろう・・・俺は涙腺が爆発し次から次へと涙が溢れていく。

「あ・・・あり、ぐすっ・・・ありがとうございます・・・ヒック・・・山中先生」


俺はひたすら泣き続け、山中先生は『いいのよ。よしよし』と俺の頭を撫で、あやす。


本当に大切なモノ・・・キミの笑顔を見ていたい・・・あなたと私・・・ユーとアイ・・・『U&I』・・・か。俺も大切なモノの為に頑張れるのだろうか?

憂・・・俺は頑張ったのだろうか?憂に迷惑かけていないのだろうか?
憂・・・早く元気になって俺と一緒に演奏しよう・・・だから、ゆっくりして風邪を治せ。憂。


ーーーーーー


休日。俺は憂の看病を徹底的にこなす。憂がこんな状況でさえも両親は帰って来ないので、家事は全て俺の仕事となった。

憂は二階にある自分の部屋のベットに寝ているので、二階に行きそっとドアを開け憂に近づき、冷たい水にタオルをつけて絞り、憂のでこに当てる。憂はスヤスヤと気持ち良さそうに寝ていた。大分、熱は下がったので安心だ。

ブルブル・・・
俺の懐から携帯が震え、憂を起こさないようにそっと部屋を出る。
梓からの電話だ。憂の具合を気にしているのだろう。
携帯を耳に当て、梓の話を聞く事にする。


『もしもし。唯先輩、憂の様子はどうですか?』


「うん。大分、熱は下がったみたいで今は寝ているよ」

『ホッ・・・良かったです。急に倒れちゃったからビックリしましたよ』

梓も憂の様子がいいと聞いただけで安心したようだ。
憂、いい友達を持っているな。さすが俺の妹。



『で、今から律先輩達とお見舞いしようと考えていますが、いいですか?唯先輩』



うーむ。あまりの大人数でズカズカと部屋に入ってしまうと憂は無理してみんなを歓迎してしまうだろう。

「じゃ、何人かずつお見舞いに来てって律ちゃん達に伝えてね。梓ちゃん」



『あ、ですよね。全員が来ちゃうと、憂は無茶しますからね。分かりました。皆さんにそう伝えます。では、また』


パタンと携帯を閉じ、そろそろ憂の飯でも作るかと思い台所に立ちお粥を作る・・・


ーーーーーー

お粥が出来上がり、お盆にスプーンと薬、お粥を入れた皿を乗せ憂の部屋にそろりそろりと入り・・・


「・・・お姉ちゃん?」

憂は眠り眼を擦りながら、身体を起き上がらせた。

「あ、起こしちゃったね。お粥食べれる?」

「うん。食べるよ。早く治さないと学園祭の練習が出来ないよ」


そんなに気を使わなくてもいいのに。しっかり飯食べて、よく寝ていろ。

「フーフー。はい。あーん」

俺はお粥を息で冷ましながら憂の口元へと運ぶ。

「あ、あーん・・・うん♪美味しいよ。お姉ちゃん♪」

憂は頬に朱を浮かばせデレデレと照れる。



お粥を食べ終わり薬を飲んで憂は眠りについた。


布団を綺麗に憂にかけ直し、憂は『えへへ〜♪』と寝言?を言う。ものすごい幸せそうだな。憂。
俺は、ゆっくりと部屋を出てリビングへと向かうと・・・

ピンポーン♪
インターホンが鳴り、そそくさと玄関に向かう。

「「お邪魔します」」


律と澪だ。憂の様子を見させるため二階へ案内し、ドアを開け


「静かにしてね。さっき寝かしつけたから」

と注意し律と澪は憂の顔を見る。


「お、気持ち良さそうに寝ているな・・・」


「憂ちゃん。幸せそうな寝顔で何の夢見ているかな?」


二人とも憂を起こさないようにコソコソと話してくれる。うん、やはりいい人だな。

「くぅー。イタズラしたくなる顔だなっ」

「やめんか。律」

俺だってイタズラしたいさ、でも憂が困るからやらないと決めているんだ。

ピンポーン♪

またもインターホンが鳴り、静かに玄関へと向かいドアを開け

「あ、唯ちゃん。憂ちゃん大丈夫?」

「私はさっき聞きましたけど、憂はまだ風邪治っていませんか?」

紬と梓だ。うーむ、もうちょっと来る時間の間を開けて欲しいのだが、憂が心配で早く来たようだ。

「今、憂は寝ているよ。さ、上がって」


俺は紬と梓を二階へと案内し、律、澪をリビングに行って欲しいと俺は提案。大人数で入ってしまうと、音が大きくなる可能性が非常に高い。
それを律達に説明し、律達は『分かった』と納得。物分かりがよくて助かる。


「わぁ♪笑いながら寝てる〜」

「くすっ。子供みたいですね。ムギ先輩」



紬、梓は憂の様子が良いことを確認し、俺と共に律、澪が待つリビングへと向かい、憂にお大事にと伝えてくれと頼まれ律達はそれぞれ帰路へと向かった。

「みんな・・・本当にありがとね・・・」

ホロリと頬に雫を垂らし、家事をいそいそとこなしていくのであった・・・


















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