第69話
休日の次の日。
祝日なのでまた休みの日だ。
憂は風邪が治り、元気いっぱいで弾ける笑顔になり
「お姉ちゃんが看病してくれたからもう治ったよ!ありがとね、お姉ちゃん♪」
もう治ったのか、早いな。俺は何日か、かかってから治るのだが、やはり体質なのか?とりあえず、良かった。
で、軽音楽部全員に憂が元気になった事をメールにて報告。すると、みんなは『良かった。これでみんなで演奏出来るな』と嬉しがって返信。
「うーん。皆さんに迷惑かけたから何か埋め合わせしなきゃなー・・・」
憂は本当にいい娘だ。憂はうーんと唸りながら何か恩返しは出来ないのだろうかと思案しているらしい。
「だ、大丈夫だよ。変に気を回しすぎるとまた体調悪くなるよ」
俺は反論し憂は『わ、分かったよ。お姉ちゃん』と渋々折れる。
ブルブル・・・
俺の懐から携帯が震え、携帯を持ち確認すると律からの電話だ。一体、何だろうか?
「もしもし、律ちゃん?どうしたの?」
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side 田井中 律
憂ちゃんが倒れた次の日。
この日は祝日でのんびりと日を過ごそうと思い、聡とソファーでくつろいでいるところ・・・
〜♪ユーガッターメール
私の携帯がメールを来たことを伝え、携帯を開き・・・
「お、唯からか。」
聡はぴくっと身を震わしたけど気にしないでメールを確認する。どうやら憂ちゃんは元気になったようだ。良かったな唯。憂ちゃん。
私は返信を送り、パタンと携帯を閉じ、ソファーでだらーとしていたんだけど・・・聡は何故か私を見てそわそわしていた。
もしかしたら・・・
「聡。トイレなら行って来い。我慢はよくないぞー」
「な、違うよ!」
聡は顔を真っ赤にして反論しているけど、全然説得力が無いな。
「じゃ、なんだよ。聡」
「あ、あの。『唯』っていう人ってこの前姉ちゃんが連れて来た茶髪でヘアピンしていた人だよね?」
何で唯の事を気にするんだ?
あ・・・はっはーん。なるほどね。
「さては唯の事が好きなんだな!」
「い、いやっ!ちがっ!」
両手をブンブンと振りながら顔をさらに真っ赤させる。本当に説得力が無いぞ。
「じゃ、何で唯の事を聞くんだよ」
「・・・またあのお姉さんとゲームがしたいんだ・・・だから姉ちゃんに頼んであのお姉さんを呼んで欲しいんだ」
「はぁ?ゲーム?私もたまに一緒にするじゃんか」
「姉ちゃんはゲーム弱いし、詳しくないし・・・でも、あのお姉さんはゲーム強いし詳しいし・・・」
な、何を〜!私だってたまに勝つじゃんかよー!む、むかつくな。
とりあえず、いったん落ち着いて私は口を開き
「・・・はぁ、じゃ、今から呼ぼうか?」
「え!?本当!?」
聡は目を輝かせ、無邪気な笑顔を私に見せる・・・私は最近そんな顔の聡を見ていなかったのでたじろぐ。聡は今、思春期だからな。
「でも、忙しそうならまた今度って事で約束出来るな?」
「うんうん!絶対するからー!」
絶対にしないパターンだなコレ。まぁ、いいやっていう事で唯に電話をする。
『もしもし、律ちゃん?どうしたの?』
「あ、唯。今日、暇か?」
聡はずっと目をキラキラさせ私を見る。うっ!話しにくい。
『あー。時間は有り余って暇過ぎるんだよね』
「え?どういう事だ?唯」
聡は切なそうな表情で私を見る。だから、話しにくいって!
『憂がね。風邪が治って張りきって掃除とか料理とかいろいろと仕事をするんだよ。私も手伝う、て言ったら『いいから、いいから』って私は何もしなくていいだって』
憂ちゃん・・・出来た娘だ・・・
『で、暇なんだけど遊びに行くの?』
や、受験生だから暇って事は無いだろ・・・でも、唯はこの休日をのんびりと過ごすと決めているのか?なら、ちょうどいいな。
「私の家に来ないか?聡が唯に来て欲しいってワガママ言うんだ」
「ちょっ!姉ちゃん!」
聡はまた顔を真っ赤にして私に怒鳴る。やっぱり思春期は手が掛かるな。
『え?聡君が?まぁ、いいや。じゃ、今からそっちに行くから』
「おお。そうか。待ってるぞ。またな」
『ん。またね。律ちゃん』
私は携帯を閉じ、聡の顔を見ると・・・眩しいくらいの笑顔で私にずいっと近づく。それを見た私はまたたじろぐ。
「え!?来てくれるの!?やったー!!」
聡は大声を出し興奮する・・・本当に嬉しそうだな。聡。
「聡。唯にあまり迷惑かけるなよ」
「うん!約束するよ!」
いつもは反抗するけど唯の事になると無邪気になるんだな・・・やっぱり、唯の事が好きなのか?
「聡、やっぱり唯の事を・・・」
「ち、違うってば!」
「え?何が違うんだ?聡」
私はニヤニヤしながら聡の墓穴を掘ろうとしたんだけど、なかなか白状しない。
ぷぷ。なかなか可愛いところもあるじゃないか。
「と、とにかく唯お姉さんが来るから準備しないとっ!」
「え?『唯お姉さん』?」
「もぉーっ!知らないっ!」
聡は赤面になり、しかも少し泣いていた。ちょっといじりすぎたかな。
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side 平沢 唯
「ーーということで、律ちゃんの家に遊びに行くから。憂、ほどほどにしてね」
「うん。分かったよ。お姉ちゃんいってらっしゃい♪」
俺は律の家に行く前に憂に報告。憂はリビングにてくつろいでいた。
にしても、家がピカピカだな。憂は掃除とか徹底的にやっていたもんな。
俺は家を出て、律の家へと向かい、しばらく時間が経ち、ようやく律の家に着いた。
インターホンを鳴らし、しばらくすると・・・
ガチャ
「お、唯。入れ入れ。聡がお待ちかねだぞ」
俺は『お邪魔します』と言いながら律の家へと入る。はて、何故俺は聡君に懐かれた?んだろうか。もしかしてアレで懐かれたのか
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【回想】
律が家庭科の宿題であるスカートをみんなで協力しようということで、律の家にてやることにした。
律の部屋にて俺達は集まり、澪が代表してスカートをミシンで縫っていく。すごく上手くてスイスイと滑らかに動かしていた。
俺以上に上手い。俺の必要性が皆無なのでリビングへ直行した。ま、アレは澪に任せれば問題ないしな、と軽い気持ちで思った。
「ああっ!」
ん?律の弟である聡君だっけか?がリビングにてQS3の格闘ゲーム『スーパーストリータファイト(よん)』。通称『スパヨン』を悪戦苦闘ながらもやっていた。
「ああっ!また負けちゃった・・・」
聡君は1P側で操作しているっぽいので,1P側の画面を見ると・・・
9連敗だ・・・また、挑戦するのだが・・・
『ドカッ! うわっ!』
「こ、このっ!」
『覇道・・・ズカッ! ぐあっ!』
「え!?何で!?」
聡君はキャラの必殺技を繰り出しているのだが、見事に動きを敵に読まれ次々と体力ゲージを失い・・・
『KO!』
「はぁ、10連敗だ・・・」
うーむ、ただひたすらに必殺技を発動しているだけで敵の動きをまるで見えていない。それを見かねた俺は聡君に傍に近づき・・・
「ちょっと私に貸してくれない?」
「え?あ、わっ!!」
聡君は驚きの声を出しながらもコントローラーを渡し、俺は『ありがとう』といい画面を睨む。
『ラウンドワン!ファイト!』
俺が使用するキャラは初心者でも熟練者でも愛されている女性キャラ『チュン・ルー』を選択した。このキャラはいろんな技があり、いろいろとキャラ対策が打てる。
それにこのキャラで教えることにより、他のキャラでも『チュン・ルー』のキャラ対策が対応出来る。ようするに基本が教えられるキャラって事だな。
「いいかい?相手がしゃがみガードしてきたら中段攻撃。中パンチか中キックをするといいんだよ」
「あ、そうなんだ・・・」
【回想終了】
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と、いう感じで『スパヨン』の極意?を教えたのだ。
で聡君は目を輝かせ『唯お姉さん!』と俺に近づく。そんな聡君を見て、たじろぐ。
「は、早く早くっ」
聡君は俺の腕を引っ張りながらリビングへと直行。律はそれを見て苦笑い。てか、もう頭が混乱してきたんだけど・・・
「ん?『スパヨン』だね。って、オンライン対戦だ!」
リビングにあるテレビに『スパヨン』のオンライン対戦の為の待ち受け画面が表示されていた。
オンライン対戦とは、QS3をネットに繋ぐことで世界中の人達と対戦が可能になるシステムだ。
すごいな・・・我が家はネット環境が無いので、オンラインは不可能なのだ。
いつもはコンピューターや、たまに一緒にやる憂しかやらないのだ。
「唯お姉さん。やりながら説明してくださいっ!」
うーむ。俗に言う実況プレイか?やれるかな・・・中にはプロのゲーマもいるとクラスの誰が言っていたような気がする・・・ま、なんとかなるだろう。
で、待ち受け画面を睨む事数秒後、いきなり対戦者が現れた。早っ!
キャラ選択画面に行き俺は『チュン・ルー』を選択。対する敵は・・・
「おっ!相手、『サンキ・エル』だ!」
見た目は筋肉馬鹿の男性キャラ、威力が高い投げが特徴のプロレスラーだ。
相手の強さを表すランクを見ていると・・・
「相手Aランクの強さだ・・・大丈夫?唯お姉さん」
この強さを示すランクはSとD〜Aまであり、Dが初心者レベルの相手でC、Bは中級者。Aは上級者。Sはプロ並みレベルの強さである。つまりAランクはなかなかの猛者というわけである。
「いいかい?この『サンキ・エル』の弱い所はね。弱パンチか弱キックで牽制すると、近づけずに投げが出来にくくなるからここがポイントだよ」
『なるほどー』
律も俺の説明を受けていた・・・まぁ、いいやっていう事で説明を続けていく。
「で、わざと隙を見せてから・・・一気に攻撃!」
『KO! You WIN!』
『おおー!すげぇ!』
「いやー。でへへ〜」
二人の歓声を受けて照れる俺。
またも数秒後に対戦者が現れ、次々とキャラ対策を聡君、律に教えていく。
「で、このキャラの対策はーー」
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10戦程戦い、勝利数は8勝だ。2戦はプロ並みの対戦者が現れて何もする事も出来なく、惨敗。
うーむ。プロは本当にすごいな。でも、そんなに上手くならなくてもいいのだがな。
で、俺は帰る準備をするのだが、聡君は少し寂しそうな表情で俺を見てくる。なるほど、また来て欲しいのか。
「じゃ、また今度遊びに行くね。律ちゃん。聡君」
「ああ。また来いよ、唯」
「・・・!うん!また来てね!唯お姉さん!」
聡君は俺に懐き、敬語を止めていた。ま、いいけどな。俺は我が家へと歩を進めるのであった・・・