第70話
ある日の放課後。
ようやく部室が使えるようになった。
俺達は笑顔になり、『ああ。やっぱここだわ』と心が安らかになった。
律達は部室の有り難さを実感出来ただろう。よし、ここだな。『U&I』を発表しよう。俺は鞄を漁り、歌詞を書いた紙を取り出し・・・
「みんな。私、歌詞考えたから見て」
『ええ!?』
みんなは驚きの声を上げる。それはそうだろうな。この前、発表したばかりなのに、また出来たと聞いたら俺も驚くな。
「すごいね♪唯ちゃん」
「わぁ♪」
紬と憂は俺を見て目を輝かせる・・・律、澪、梓は呆気にとられ、無言。何なんだよ。
「じゃ、見て。これが新しい歌詞だよ」
律達は『どれどれ?』と俺の周りに集まり歌詞を見る。
【歌詞 U&I】
キミがいないと何も出来ない
キミの笑顔が見たいだけだよ
もしキミが帰ってきたら
とびっきりの笑顔になるよ
ーーー以下省略。
『おお・・・』
律達は感嘆の声を上げ、俺の歌詞『U&I
』は見事に採用された。
「部室と憂ちゃんが作ってくれた歌詞だな」
「そうだね。憂と部室の有り難さを実感して、一言一言、魂を込めました!」
「えへへ〜。すごいね。お姉ちゃん」
澪と憂による褒め言葉を受け流し、俺は更に図に乗るかのように胸を張って
「いやー!才能が開花したねー!」
「わ・・・天狗になってるなー・・・」
「自分で才能があるなんて・・・よっぽど嬉しいんでしょうねー・・・」
律、梓はジト目で睨んでくる・・・紬はというと・・・
「ぽぉ〜・・・」
自分の世界へトリップ。だから、何を考えているんだ。紬。
「よし、じゃっ、早速「お茶だね〜」て、ムギ・・・」
紬の、のほほんとしたのが俺達は感化され、俺達はまったりとしたティータイムを過ごすのであった・・・
ーーーーーー
ある日の授業。
俺達は学園祭でクラスの出し物を決める為、代表である和が黒板の前に立ち、チョークでカッカッと文字を書く。
俺達のクラスでやるのは、『ロミオとジュリエット』。劇だ。
で、役を決める際、ロミオやジュリエットの役をやる人を挙手で決定しようと和は提案したのだが、いかんせん主役をやりたい人はいなかったのだ。
で、投票により決めていこうと提案し、各自、白紙にロミオやジュリエットの役に推薦したい人の名前を書いていく。
もちろん俺は、ロミオに澪を。ジュリエットに律を。と書いた。悪く思うなよ。
で、投票の結果は・・・たまに俺の名前が多々あったが、気にしない。閑話休題。澪にロミオ。律にジュリエットとなった。
澪はというと・・・気絶していた。律は澪を揺さぶって澪は『はっ!』と目覚めて反論を言う。
「主役を投票で決定するのは、ダメじゃないのか?もっとみんなと話し合おうよ」
「そうだぞー!あ、いちごちゃん。お姫様やりたいって言ってたよな!」
「ヤダ」
「即答!?」
律は近くにいた縦長ロールの髪型をした女子にジュリエット役をなすりつける事に失敗した。
「みんなが秋山さんや田井中さんを推薦したから、みんなあなた達を期待していると思うんだ。だから、ちょっとだけ頑張ってくれない?」
『和・・・』
うーむ。和は人を納得させるのが得意だな。いいぞ、もっとやれ。あわよくば俺に裏方に回せ。
閑話休題。こうして、律、澪は渋々納得し、主役をやることにした。紬は脚本担当に自ら志願。俺はというと・・・
騎士だ。しかも、男の役だそうだ。紬は目を輝かせ『うふふ♪唯ちゃんが男の子の役だから私、頑張っちゃお♪』と、何を頑張るかいまいち分からないが、とてつもなく嫌な予感がするな。
ーーーーーー
放課後。
俺達は音楽室に行き、澪は・・・
「私、トンちゃんになりたい・・・」
亀をじっと見て現実逃避。憂、梓は澪の状況に混乱し、律に説明を求める。
「私達のクラスは『ロミオとジュリエット』やることになってな。澪は見事にロミオ役になった訳だな」
『へぇー・・・』
憂、梓は澪を見ながら苦笑い。梓は『律先輩は?』と首を傾げ尋ねる。律は『うっ!』と澪をいじろうとしたがまさかの自分がいじられるとは思いもしなかっただろう。だらだらと汗を流しながら口ごもり、律は
「・・・ジュリエットだよ・・・」
「え?律先輩がジュリエットを?ぷっ!」
梓はとてつもなく失礼な事をするな。確かに律にはジュリエットが向かない事は分かるのだが、笑うことは無いだろう。
「あ、梓ー!今、笑っただろー!?」
「す、すみませ・・・ぷっ」
「なぁー!?また笑いやがったな!?」
律は梓の首を軽く絞めながらちょっかいをだす。憂はそれを見て苦笑い。助けてやれよ。
「あ、私、教室に戻って早速、みんなと脚本の内容を変えないと・・・」
紬は俺達にそう伝え、律、澪も練習するようで教室に行く。軽音楽部の練習も必要なのだが、主役なので台詞が長い為長い時間をかけなければならない。
俺は少ししか出演しない為、楽なのだが紬が俺を見てニコニコしやがる。はぁ、本当に何考えているのか分からない。
俺も渋々、教室へ移動。律、澪は台本を持ち練習するのだが・・・
「え、えーと・・・あなたを見るだけで・・・ぶつぶつ・・・だあー!甘ったるい台詞だ!」
「カット!りっちゃん、もっとジュリエットっぽく心を込めて!次、澪ちゃん!」
「え、えーと・・・ジュリエット、あなたを・・・ぶつぶつ」
「カット!声が小さいよ!」
「なあ、ムギ「カット!」え?まさかムギ。カットって言いたいだけじゃ・・・」
紬の監督魂に火が吹いたのか、ダメ出し連発。紬はいかにも監督っぽくしようとした結果がコレだ。俺は小さくため息を吐き台本を睨み続けていた。
ーーーーーー
side 秋山 澪
『ロミオとジュリエット』の練習が終わり、帰り道。
律と共に下校してたんだけど・・・やっぱり、主役は恥ずかしいな。
私は和を何とか説得出来ないものかと思案していて、律と一緒に和を説得しようと決意。
「なぁ、律。やっぱり、和に頼んで貰って主役を・・・「ダメだー!」え?」
私の言葉を遮って反論を言うけど何でだよ。律だって、ジュリエット嫌がってたじゃないか。
「澪!このままみんなに笑われていいのか!」
「や、私はいいけど・・・」
「よくなーい!よし!私の家で特訓だー!」
え、えええ!?
こうして私は律の家で特訓する事になったんだーーー
私は律の家で『ロミオとジュリエット』の練習をすることにしたんだけど、律のジュリエットが・・・
「ーーーもう、夜は明けるーー」
「ぷっ!あははははっ!」
「わ、笑うなーっ!」
台詞はなんとか覚えたけど、律のジュリエットが似合わない。ぷっふふっ。
「笑うなよー!どうせ澪のジュリエットなんか『ロミオ。どうしてあなたは君はロミオなの?』だぜ!」
律は私の真似?をやっていたっぽいけど、私はそんなんじゃない。仕返しに私も律の真似をやってみる。
「律なんか『ああジュリエット。君はどうして美しいんだい?』だぞ」
「ロミオってそんなキャラだったっけ?」
「けど、仕方ないだろ?ジュリエットより向いているから『ああ。君の為ならばー』ってな」
あ・・・え?今、私と律の演技が・・・
『出来てるー!』
こうして私は律がやるような演技のロミオを。律は私がやるような演技のジュリエットをやることにより、演技が出来るようになった。よし、このまま練習に励める!
ーーーーー
練習の日。
私達は、教室で『ロミオとジュリエット』の練習に力を入れている。まずは、律の演技から見てみる事に。
「よし。私だな。『まぁ。嬉しい。私はーーーー』」
『おおー。』
す、すごい・・・昨日よりも演技が上手くなっていた・・・やっぱり、この私達のアイデアでいける!
「じゃぁ、次、澪さん」
「あ、うん。『例え。どんな・・・』ごにょごにょ」
『声小さいよっ!』
私は多くの人に見られるのが恥ずかしくてつい、小声で話してしまった・・・ああ、やっぱり主役は恥ずかしい・・・
「なぁ、澪。あんなに出来ていたのに何で?」
「うん・・・人前に立つと・・・やっぱり、恥ずかしいんだ」
唯は教室の隅っこで複数の女子の前で演技しているんだけど・・・すごいな唯。恥ずかしくないのかな?
「澪。人前で緊張するのをなんとか克服できないのかしら?」
人差し指でメガネをくいっとする和に私は答えられない・・・そんな事が出来たら真っ先にやっているんだけどな・・・
「あ、澪ちゃん。今度の日曜日空いている?」
ムギの突然の言葉に私は、『どうして?』と尋ねる。ムギがいうには人前でも緊張しない特訓をするんだそうだ。何をやるんだよ・・・
「なぁ、ムギ。私だけにちょっと教えてくれよー」
律はムギに顔を寄せ、ムギは律だけに囁く・・・律はニヤァと笑って『なるほどー』と言ってたけど・・・ものすごく嫌な予感がする・・・よし、逃げよう!
「あ、私、日曜日予定がー『秋山さん!』ひぃっ!」
クラスのみんなが私に一喝。唯は私の近づく。何だろう?唯も私をやる気にさせるのかな?
「澪ちゃん。諦めちゃーいかん。諦めたらそこで試合終了だよ」
な、何の試合だ?唯は名言?を言った後、ドヤ顔をしてそそくさと持ち場に移動。何がしたかったんだ・・・唯。
ーーーーーーーーー
で、日曜日。
軽音楽部のみんなでムギの特訓の場である、洋風な別荘?が目の前にある。ガーデニングも華やかに施されて、どっかのお嬢様が住みそうな館っぽい外見だ。
「ここは喫茶店で、バイトをするの。澪ちゃんの人見知りを克服する為に」
『喫茶店!?』
みんなは驚きの声を上げてまじまじと目の前にある建物を睨む。ここが喫茶店なんて、何ておしゃれな場所なんだ。
「さぁ、みんな行きましょ〜♪」
ムギの先導の元、私達は喫茶店に入り『STAFF ONLY』の部屋に入ってウエイトレスの衣装へと着替える。黒と白を基調としたウエイトレス衣装。
そんな衣装を律が着ているのを梓は『ぷっ!』と笑っていたんだけど、私も律のウエイトレス姿は何だか違和感を感じる。律が律ではない感じだな。
ん?・・・この衣装、ちょっとキツいな。ムギが言うには、ちゃんとサイズを私に合わせていた筈だったけど、成長期らしいのでキツくなったらしい。おまけに唯もキツいそうだ。
「澪ちゃん。唯ちゃん。どこがキツいの?」
「私は、ウエストが少し・・・」
「私は胸が、すんごーくキツイ」
私はそんな唯の発言を聞いてショックだ。私って太っているのかな?唯って意外と胸があるんだ・・・
閑話休題。
この喫茶店の店長?である市川さんが私達にアドバイスで接客のやり方を教えてもらう事に。
「大切なのはお客様を迎える笑顔なのです。戸惑いもあると思いますが、落ち着いて接客に励んでくださいね」
早速、憂ちゃん、梓、唯は笑顔になって『いらっしゃいませー♪』と言ってるけど、早くも慣れたのか?いいな・・・
「はいはい。可愛い可愛い」
律はぶっきらぼうに拍手で褒める。唯は『じゃ、律ちゃんの番ね』と急に言うもので律は戸惑ったけど、何とか笑顔になり『い、いらっしゃいませー。こちらがアップルティーでーす』とあまりにも律らしくない行動で梓は『ぷっ!』と笑っていた。
「では、開店しますので、準備をお願いしますね」
店長の市川さんの指導のもと、ようやく開店して早速、律達は接客に励んでいた・・・私はというと、隅っこで震えていた・・・恥ずかしくないのか?こんな衣装で人前に立っていられるなんて・・・こんな私を見かねたのか、律は私に近づいて私を説得している。
「なぁ。澪の為にやっているからさ、ちょっとだけやってみないか?」
「で、でも・・・」
私は恥ずかしくてぐずっていた。律は『唯を見てみろ』と唯のいる方向に指を指して、私はじっと見る。
唯の前に40代ぐらいの女性客が3人もいる。うう・・・こっちまでも恥ずかしい!
「いらっしゃいませ。お嬢様方」
「あらまっ!うまい事を言うわね!私達は40代なのよ!」
「おや、奥様方でしたか。私は奥様方があまりにも若々しいものでつい、お嬢様とお呼びしました」
「きゃーっ!じゃ、メニューはコレとコレと・・・ついでにコレっ!」
唯・・・かなりノリノリだなー・・・そんな最中、お客さんが『すみませーん!』と呼んでいたので、律が私の背中をとん、と押し、私はお客さんの前に立つ・・・うっ!やっぱり恥ずかしい!
「あ、あの・・・いってらっしゃいませ!」
『へ?』
ああ!しまった!落ち着け私!お客さんは『注文いいですか?』と言ってくるものでメニュー表とペンを取り出そうとしたけど・・・ペンが無い!
「あ、あの落ち着いて?」
「も、申し訳ありません!少々お待ちをっ!」
私は頭を下げてたまたま近くにいた唯にペンを借りる事にし、唯は『深呼吸して落ち着いて』と優しい声で言ってくるので私は深く深呼吸。
「すぅー・・・はぁ・・・」
少しは落ち着けたかな?まだ不安はあるけど、お客さんに『申し訳ありません』と伝え、メニューを聞き、商品を渡す。
「お待たせしました」
「くすっ。落ち着けたかな?」
「あ、はい。すみません・・・」
私はとぼとぼとSTAFF ONLYの部屋の前まで歩き、壁に寄り添う。はぁ、ものすごく緊張した・・・
市川さんは『そろそろ、休憩時間です。ゆっくりくつろいでくださいね』と私達は言葉に甘えて休憩したかったけど、律が・・・
「澪は休憩時間は無しで!澪は特訓する為にここでバイトするんだから」
「え!?それは酷くないですか?律さん」
「そうですよ!いくらなんでもそこまでは・・・」
いいぞ梓、憂ちゃん。でも、律は梓達に耳打ちし梓達は『あ〜・・・』と私を見て苦笑いし、STAFF ONLYの部屋へ。え!?助けてくれないのか?私は渋々接客する事になった・・・もう、どうにでもなれー!
ーーーーーーー
次の日、学校にて。
「おー。澪ちゃん。すごい笑顔だね」
私は顔が固まって笑顔だ。律の提案は私を追い込む事により、上手くできるのではないのか?という私を一人にする作戦となり、見事に接客に対する笑顔だけは習得した。
「後、昨日から笑顔が固まったんだ。助けてくれ♪」
『ええ!?』
律は『うーん。追い込み過ぎたかー・・・』と言いながら私の頬を抓(つね)っていく。
すると、私は笑顔が取れて自由に顔が動かせるようになった。よし、助かった。
「なら、演劇もやれるな」
「それは無理だ」
『え!?』
私の発言でみんなは驚く。だって仕方ないだろ?接客と演劇は違うんだから。
「特訓の意味無いじゃないかー!じゃ、練習を2倍にするぞ!」
こうして私達は練習に励んでいく事にしていく・・・すると、ムギは唯に台本を渡したんだけど・・・ムギがいうには少し唯の役をいじったそうだ。
「ん〜?・・・え?コレって・・・」
「うふふ♪唯ちゃんは男の子の口調の方がカッコいいですもの♪」
「・・・これは、とんでもない方向だね・・・ムギちゃん・・・」
唯は『はぁ』とため息を吐いたけど・・・すごく気になるな・・・ムギは、いつにも増して目がキラキラ輝いていた。唯・・・まぁ・・・頑張れ・・・