小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第71話

side 平沢 唯

学園祭当日。
いよいよ本番という事だ。軽音楽部の練習はほんの少ししか練習していない。
俺達のクラスは最終確認だ。小道具や衣装、背景画など様々な物を確認しあうのだが・・・

「あれ?短剣は?」
「衣装が無いよー」
「絵の具が無くなったよ」

もうてんやわんやである。本番も近いのにこの落ち着きようの無い空気はいつまでも続く。で、最終確認を済ませ、俺達は衣装へと着替える。

「わー。澪ちゃん。ロミオ似合っているね♪」

「ぅぅ。恥ずかしい・・・」

澪は真っ赤な顔で俯いていた。おいおい、主役がそれでどうするよ。律もジュリエット姿へと早変わり。
律のジュリエット姿もなかなか・・・や、なんか違和感を感じるのだが・・・
で、講堂へ向かい、舞台袖から客数を見て律は。

「よーし。本番だ!気合入れてこーぜ!」

『おおっ!』「お、おー・・・」

クラスは一致団結で拳を高らかに上げる。澪はまだ顔を真っ赤にして、小さく拳を上げる。
ウィーン・・・と幕を上げ、観客達の顔が見え、これから俺達のクラスの出し物『ロミオとジュリエット』の始まりとなるのだ。

最初は澪が出る場面。あんなに緊張していたのだが、ハキハキとロミオを演じていた。

「『人が傷ついた者を笑ったのは、人の傷を知らない者だ。笑いたければ笑え。僕は痛みを知っている。人の傷ついた姿を。僕は決して人を傷つけない。何故なら僕は人と分かり合える時が来るだろうと信じているからだ』」

人が変わったように演技をしていた澪。いや、ロミオだな。ロミオはジュリエットの屋敷へと侵入し、兵士に見つかりそうになったのだが、どうにか木陰に隠れて撒いた。

「『今、物音がしなかったか?』」

「『不届き者だな。キャピレットの屋敷に進入するとは。急ごう』」

兵士はどこかへと行き、ロミオはほっとする。ロミオはジュリエットの屋敷へと向かい、何とかジュリエットと会う。

「『ロミオなの?ああ、何故あなたはロミオなの?』」

「『あの天使のような声は、ジュリエット。君なのか』」

「『何故ここに?屋敷の石垣は高くて登れないのに』」

「『登れるさ。恋の翼で。いつまでも、どこへでも。君の所へと向かう事が出来る』」

ロミオ、ジュリエットは手をつなぎ、目を合わせじっと見つめる。すると、複数の兵士達に見つかったのだ。

「『見つけたぞ!』」

「『侵入者だ!』」

ロミオ、ジュリエットは大慌てする。ここで俺の登場だ。ロミオとジュリエットの仲をひそかに応援していた者で、ずっと見張りをしていた騎士だそうだ。それってストーカーか?と思う事もあるのだが、自衛任務により派遣された騎士という設定だそうだ。

「『待て、俺が相手だ』」

「『あなたは誰ですの?』」

「『俺の事はいいです。あなた達はどこかへ逃げてください』」

「『『は、はいっ!』』」

ロミオ、ジュリエットはどこかへと逃げているのを相手の兵士は見逃さずに追うのだが、俺は腰に携えていた剣を右手に持ち、ひゅっと振る。

「『てめぇらの相手は俺だ。』」

ものすごい口調が悪いのだが、紬による脚本の改ざんで口調が変な風になってしまったのだ。

「『き、貴様っ!この人数でたった一人で勝てると思うなよ!』」

兵士の数はいつの間にか10人まで増えていた。俺は剣を上段に構え兵士達を睨み

「『腹に括った一本の剣は折れねぇ。だから、かかって来い。斬ってやんよ』」

「『その脆そうな剣を打ち砕いてくれるわっ!』」

兵士達は『うおーー』と俺に立ち向かうが俺の剣技により、ばっさばっさと斬っていく。すると、奥に一人だけ見ていた人がいたので手をくいっくいっと手招きして挑発を試みる。

「『くくく。面白い。その勝負受けて立つ』」

相手は剣を中段に構え、俺に向かって突進。相手は剣を振るい、相手も剣を俺に向けて振る。

がきん、とBGMがなり、鍔迫(つばぜ)り合いを交わし、俺は『おらぁ!』と相手を蹴り飛ばす。

「『ふ、なかなか強いな。しかし、これならどうだ?者共!今だ!』」

兵士がまた増えた。キャスティングは前に倒した面子なのだが、これはご愛嬌ってことで。
閑話休題。集まった兵士達は雄叫びをあげながら俺に剣を振るう。

「『ちっ、数が多いな』」

俺は苦情を言いながら次々に兵士達を倒すが大将は微動だにしない。

「『ここだ!』」

大将に目を行き過ぎて隙を作ってしまった。

「『しまっ!』」

がきん、と何者かが兵士の剣を剣で止めていた。そいつは俺の役である騎士の仲間でやむを得ない事情により任務に遅れた設定の女騎士だ。

「『遅れました。私は、アンリ・ティアと申します。騎士様の助太刀に参りました』」

アンリは長身と身体の柔らかさを駆使して、軽々と兵士達を倒していく。その姿はまさしく白鳥の如く美しい。

「『くくく。今宵はでっけぇ満月の夜でどっかのお姫様が降りてくると思ったら、とんだじゃじゃ馬姫様が降りて来たようだな』」

大将は剣を峰の部分で肩をトントンと叩きながら薄ら笑いを浮かべていた。兵士達は全滅させ、敵は奴、一人だけだ。

「『さぁ、共に戦いましょう』」

「『ああ。無茶すんじゃねぇぞ』」

「『くくく。かかってこいよ』」

俺達は大将に向かい、俺が斬りかかり相手と剣を交え、アンリは『ここだっ!』と斬りかかる。
大将は、ニヤリと笑い懐に手をやり、隠していた小太刀でアンリに斬りかかる。

「『あぶねぇ!』」

俺は咄嗟にアンリの方へ走り跳ぶ。だが、大将は

「『これを待っていた!』」

ザシュッ!と俺の右肩から左側の腹まで一直線に剣は移動し、俺はドサッと倒れた。

「『き、貴様ぁー!よくも騎士様を!』」

アンリは我を忘れ剣を振り回し、大将はわざと紙一重でかわしていく。

「『もうヤメだ。これで・・・おしまいだ』」

「『お前がおしまいだぁー!』」

無い力を何とか振り絞り俺は立って、大将の左腕を斬る。

「『な!?貴様、まだ生きていたか。ならばこの小娘から命を・・・』」


「『やらせるかよ』」

大将が持っていた小太刀を力いっぱい叩っ斬り小太刀は、ぱきんと折れ大将は仕方無く小太刀を捨てた。

「『くっ!ならば・・・二刀流だ!』」

近くに転がっていた剣を拾い上げ、大将は雄叫びを上げながら俺達に立ち向かう。

「『アンリとかいったな。ここは、俺に任せろ』」

「『え!?騎士様はお怪我でボロボロじゃないですか!ここは、二人で・・・』」

「『大丈夫だ。相手は完全にキレている。だから俺一人で十分だ』」


「『話は終わったか!ならば、しねぇー!』」

ザシュッ!俺は大将の胸に一突き。相手は俺の右側の腹を斬っていた。俺は痛みで動けずに立ち止まっていたのだ。

「『ぐぶっ!・・・貴様の名を教えてくれないか?貴様に興味が湧いた・・・』」

「『俺か?俺は大切なモノを護る
たった一つの名のない剣(たましい)さ』」

「『・・・見事・・・』」

ドサッ!
大将は倒れ、俺も相当ダメージを受けたので俺も倒れる。

「『き、騎士様ぁ!』」


アンリは俺のもとに駆け寄り俺を優しく身体を起こさせる。

「『・・・ああ。俺はダメだわ。ぐっ!』」

痛々そうに俺がそういうと、アンリは自分が持っていた小太刀を自分に向け

「『騎士様が私を護ろうと必死に戦ってましたね・・・私は未熟者で護られているばかり・・・騎士として失格です。私は、騎士らしく騎士様のもとについて行きます』」

小太刀を腹に近づけようとするアンリ。
俺は弱々しく両手首を掴み、目でやめろと訴え、俺は口を開く。

「『・・・いいか。最期を美しく飾る暇があるなら、最期まで美しく生きろ・・・』」


「『は、はいっ!す、すみません!せっかく騎士様がお助けになった命をムダにするのは、ダメですよね?でも、私の言葉を聞いてください・・・騎士様は、花のようなお方でした・・・』」

「『・・・花?はっ。俺はそんな大層なもんじゃねぇよ・・・』」


「『いいえ。戦っている騎士様を見て私は、そう感じさせられたのです。大人数の前でも、挫けない心の強さ。それが花に似ているんです』」


「『・・・どういう事だ・・・?』」

「『花は日の当たらない所でも、他人に踏まれても強く生きようとする。あなたの持っている花はとても小さいかも知れないけど、それでも美しく、儚く、強く、太陽に向かってキラキラと輝くあなたの花。そんな花を咲かせているあなたの庭が。
あなたの持っている太陽が、私は好きになりました・・・』」

こんな所で告白か?俺はふっ、と笑い永遠の眠りについたのであった・・・


ーーーーーー



ということで俺の出番は終了。
しかし、『ロミオとジュリエット』の内容ってこんな感じだったっけ?と思う方は紬に文句を言え。俺は知らんし知りたくもない。
閑話休題。
最後に使うジュリエットの墓の小道具が見つからないそうだ。今から作っては時間が無いし、どこからか探して代用を持って行こうというのだ。

 
「あ、オカルト研に墓石に似た物があったから、私行ってくるね。私、オカルト研に友達いるから」


クラスの一員の女子が場を離れようとするのだが、その女子はすぐに出演するので俺が変わりに頼む事を俺が志願。
で、走ってオカルト研に入り、墓石に似た物を発見し、俺は『貸してくれない!?それが必要で・・・私のクラス劇で使うんだ!』と必死に頭を下げ、オカルト研は『いいよ。困ったらお互い様だよ』と快く引き受けてくれた。
はて、本物のジュリエットの墓の小道具はどこだっけ?とのほほん、と考える時間も無く、走り続けてみんなのもとに到着。
墓石(仮)を早速舞台に置き場面はクライマックスへと向かい、ジュリエットは倒れたロミオを見て懐に入れていた毒が入った小瓶をくいっと飲み、ばたっと倒れる。


「『何故だ!ジュリエット。僕の分の毒が無いでは無いか!ならば、この短剣で僕はジュリエットのもとへ行くよ。待っていろジュリエット。君を一人にはさせない!』」


ロミオは短剣で自分の腹を斬り、ジュリエットの上に重なり、幕は降りた。

ワアアアアっ!パチパチ!
歓声と拍手喝采で俺達の『ロミオとジュリエット』は終わったのだ。


ーーーーーーーーー


俺達の劇が終わり、夜となった。
俺達は学校に泊まり込み、紬によるお菓子の差し入れを口に頬張る。

『国立雷鳴女子学院大学』の学長は二日間での学園祭に訪問するようだ。その日までなら、断る事が出来るらしいけど・・・俺はどうしたいのだろうか?いや、絶対に断らないぞ。と、決心するが、何かが俺を引っ張り出すような感覚がする。何だ?断っては、いけないと言うのか?
俺は頭を震わせ、音楽室に入る。

「お、唯。さっきさわちゃんが寝袋用意してくれたぞ」

「唯、お疲れ様。まさか、ムギが台本をあんなにいじったなんて・・・まぁ、とにかく頑張ったな」

「うふふ♪本当に格好良かったわ〜♪」

「本当だよ〜♪お姉ちゃん格好良くって、うっとりしちゃった〜♪」

「あはは。あ、唯先輩。ここ空いてますよ」

寝袋を指差しながら俺を見る律、同情するかのように俺を見る澪、俺の演技を思い出して自分の世界にトリップする憂、紬、そんな憂達を見て苦笑いして自分の左横の場所を左手でぽんぽんと叩く梓。
俺がいる事が当たり前のようなリアクションをとる。
俺は少し戸惑いながら梓の隣に、ちょこんと座る。


「よし!寝るぞ!」


律の提案により、俺達は寝袋に入り、眠りについたのであった・・・ていうか、練習は?

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