小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第72話

俺のファンクラブの連中が俺達の演劇が終わって、格好いいだの、もう一回やれだのギャーギャー喚いていたのを軽く受け流す学園祭二日間の朝。
俺は眠り眼を擦りながらお手洗いに行く。
すると、憂とすれ違った。

「おはよ〜。お姉ちゃん」

「おはよ。憂」

朝の挨拶を交わし、憂と共に音楽室へと向かう。まだ、律達は寝ていた・・・憂は『寝顔可愛い〜♪』と、はしゃいでいた。
すると・・・

ガチャ
「みんな起きてるー!?」

山中先生が颯爽(さっそう)と登場。手には衣装らしき服があった。

「ちぇー。唯ちゃんと憂ちゃんしか起きてないのかー・・・」

山中先生は口を尖らせガッカリする。だから、年齢を考えろよ・・・キツいじゃないか。

「で?それは何ですか?」

俺の疑問に山中先生は『待ってました!』と言い、弾ける笑顔になり、衣装を俺達にヒラヒラと見せる。
Tシャツの胸のプリントに星のマークの中に『HTT』と書かれていた衣装を山中先生は胸を高らかに『えっへん!』と言う・・・や、何も感想は言ってないのだが・・・でも俺達は

『おおー』

感嘆の声を上げ、山中先生は『コレよ!この反応を待っていたのよ!』自分の両手を自分に巻きつけクネクネと蠢(うごめ)いていた・・・な、何だその動きは・・・

「うーん・・・ぉ?さわちゃん?」

律はようやく起きて山中先生に気づく。
澪、紬、梓も眠り眼を擦りながら山中先生に気づく。

『お!衣装だ!』

山中先生が持っている衣装に興味津々でまじまじと見つめる。

「すごいよ!さわ子先生!」

「もっと褒めて〜」

澪の褒め言葉によって山中先生はクネクネとまた動いていた。
俺達はその衣装を受け取り、練習へと力を入れる。

〜〜♪♪♪♪♪・・・・

ーーーーーーー

そして、本番。
山中先生から貰った衣装を着て、俺達は『最後の学園祭』の舞台である講堂へ歩を進める。
俺は、こいつらと最後の演奏になるだろうな・・・大学も別々だし・・・いや、前を見ろ平沢唯。
今は演奏だけに集中しろ。平沢唯。

「そろったわね。じゃ、幕を開けるわ」

和が講堂の幕を開けてくれて、ウィーンとだんだんと観客の顔が見えてくるが・・・観客達は俺達が着ている衣装を身に纏っていた。
なるほど、山中先生の仕業だな。生徒一人一人に配って、俺達の演奏を今か今か、と待っているようだ。

「『では、本日の目玉イベント。『放課後ティータイム』の演奏に移りたいと思います。

和がいらんことをアナウンスしてくるから、きりっと緊張感が増す。ハードルを上げるなよ和。
俺のファンクラブの奴等が俺を見てキラキラと目を輝かせているのを気にせず、まずは山中先生に感謝の言葉を言う。

「山中先生、ありがとうございます」
『ありがとうございますっ!』

俺は山中先生に頭を深々と下げ、律達も俺の真似をして頭を下げ、感謝する。たまには、いいことするじゃないか。山中先生。

「『皆さん、ありがとうございます。突然のサプライズに声がでません。こうして、私達が演奏が出来るのは、山中先生を始め、和ちゃんやここにいる『放課後ティータイム』のみんな、そして私達を応援して下さる皆さんのおかげです。では、最初の曲、『アナタのいるセカイ』。』」

この曲は俺が作った新曲。『ごはんはおかず』なんてのは発表しない。だが、憂や紬は、はしゃいで俺を褒めていた。いやー、照れるじゃんか。
閑話休題。律はスティックを高らかに上げ、大きく息を吸い込み・・・

「ワン・ツー・スリー・ワン・ツー!」

カッカッとスティックを鳴らし、澪のベース、紬のキーボード、俺のリードギター、憂、梓のサイドギターが鳴り響く・・・

〜〜〜♪♪♪

アナタはいったい何処にいるのでしょうか?
私はアナタの光を見て歩き続けたんだよ
アナタのセカイは闇の中、見えない。見えないんだよ
見つけるからね影になっててもアナタのいるセカイを

僕は早く見つけるよアナタのセカイを
アナタは輝く太陽だから、セカイは見つかる
僕のセカイはそこにあるから、キミのセカイにあるから
待ってて僕はアナタに伝えたい言葉があるんだ
「見つけた」と

僕のセカイを見つけてよ
アナタの心にあるからアナタさえいれば
僕達のセカイはきっと輝くよ
僕を見つけたら離さないで
ずっとずっとアナタの傍にいるから
こんなワガママな僕を嫌わないでこう伝えて
「愛している」と



〜〜〜♪

ワァァァっ!拍手喝采だ。
うーむ。歌詞は素人っぽいけど、学園祭は大いに盛り上がったな・・・
おっと、2曲目の前にMCだな。

「『改めまして『放課後ティータイム』です!』」
ワァァァとまたも歓声を浴びる俺達。戸惑ったが、俺は気合で踏みとどまる。

「『私達三年生のメンバーは同じクラスで劇をやることになりました。昨日の『ロミオとジュリエット』は、いかがでしたか?』」

すると、複数の女子から『何か、やってー!』と言われ戸惑う俺。何をやればいいのか分からないのだが。とある女子から『自分の名を名乗るシーンやってー』と言うので仕方なく乗ることに。

「『分かりました・・・『俺か?俺は大切なモノを護るたった一つの名のない剣(たましい)さ。』・・・』」

すると俺のファンクラブの連中が『キャーっ』と歓声を言ったのである。そして、紬や憂は自分の世界へトリップ。はぁ、やれやれ。澪や律にも、やって貰いたい事なのだが、時間が惜しい。
その後、『ふわふわタイム』をやり、自己紹介へと移る。

「『では、メンバー紹介です。まずはベースの澪ちゃんです』」

「『どうも。わざわざお越しくださってありがとうございます。私は、皆さんの応援のおかげで演奏が出来ます。本当にありがとうございます』」

「『次に、キーボードのムギちゃん』」

「『みなさん。こんにちわ。私達の演奏を聞いてくださってありがとうございます!』」

複数の女子から『ムギちゃーん』と呼ばれ、紬は弾ける笑顔になって『ありがとー!バンドって楽しいです!今も楽しいです!』と興奮していた。

「『次に、ギターの梓ちゃんです』」

「『え?私ですか?中野梓です。よろしくお願いします』」

おいおい。それだけかよ。まぁいいや。次は・・・

「『次、ギターの憂です』」

「『皆さんこんにちわ。平沢憂です。私はお姉ちゃんに影響されてギターをやり始めました。ギターは難しいですけど、それでも楽しいです!』」

憂は目をキラキラと輝かせて俺を見る。本当に幸せそうだな憂。

「『次、ドラムの律ちゃんです』」

「『えー・・・私達のライブを見てくださってありがとうございます・・・じゃ、次いこう』」

おいおい、部長だろうが。もっと何かを言えよ。ま、いいか。

「『私はボーカル兼ギターの平沢唯で『唯ちゃーーーん!!』わっ!』」

俺の言葉を遮ってファンクラブの連中は俺の名前を呼ぶ。ファンクラブでは無い奴もだ。うむ、俺って結構人気者なのか?すると・・・

「『唯は私達のリーダーで、部長である私よりもしっかりしてて』」

「律ちゃん・・・」

「『みんなに元気を送るエネルギーをくれて』」

「澪ちゃん・・・」

「『いつも全力で。いつも笑顔で』」

「ムギちゃん・・・」

「『私達に優しくして、いい思い出を作ってくれて』」

「憂・・・」

「『とっても頼れる先輩です』」

「梓ちゃん・・・」

俺は頬に雫を垂らした・・・俺はこれが最後の演奏になるのか?こいつらと別れて別の大学へとのんびりと過ごすつもりなのか?

(なぁ俺よ!こいつらと別れて『甘え』を捨てるんじゃねぇのか!)

俺は『俺』と戦っている。葛藤している。そうだ・・・それはそうなんだけど・・・でも、俺は・・・

(・・・こいつらと、もっと過ごしたくないのか?)

本当は過ごしたい・・・だが、俺は・・・・

(こいつらといて楽しいと思わなかったのか!?なぁ!俺よ!)

・・・楽しいさ。楽しいに決まっている・・・よく分からないまま赤ちゃんから始めさせられて、女の子になって、姉となって、優等生になって、和と親友になって、高校生になって、廃部寸前の軽音楽部に入部して、そこで律、澪、紬、梓と出会いギターを始め、楽しい合宿やその他もろもろ・・・数えられない程の楽しい思い出がたくさんだ。

(こいつらと別れるのは嫌だろうが!もっとこいつらとバカやって、笑って、泣いて、怒って、そしてまた笑って・・・こんな『絆』を自ら断ち切るつもりなのか!?もう一度聞く、こいつらともっと過ごしたくないのか!?なぁ!俺よ!)

・・・過ごしたい・・・

(あぁ!?聞こえねぇなぁ!)

過ごしたい!!!!
俺はこいつらと、まだ演奏がしたい!まだ『夢』を叶えていない!俺の・・・俺の『居場所』は・・・こいつらがいる軽音楽部だ!!!

パリン、と自分の中にある『何か』が砕け散った。ああ、何故か身体が軽い・・・そうか、俺は知らずに悩んでいたんだな・・・
俺は、ふっ、と笑いギターを構えマイクに顔を近づける。

「『・・・では、最後になりましたね。最後の曲、『U&I』!』」

ワァァァァ、と歓声が沸き、律はスティックを高らかに上げ、カウントを取り・・・

〜♪〜♪
俺達の『音』が見事に合い、見事なハーモニーと力強い演奏をみんなに届ける。

〜♪〜♪


キミがいないと何もできない
キミの笑顔が見たいだけだよ
もしキミが帰ってきたら
私はとびっきりの笑顔になるよ

キミがいないと私は一人になるよ
キミの声が聞きたいだけだよ
キミが傍にいるだけで幸せになるんだ

キミは私の為に頑張ってくれるね
キミはイヤな顔せず頑張っているんだ
いつまでもいたいよキミの傍に

キミがいないと道に迷うよ
キミはどこにいるの?どこにいけばいいの?
もしキミが輝き続ければ迷わず
キミの傍に行けるんだよ

そんなキミに伝えないとね『ありがとう』を

キミに届くかな?今は自信ないよ
でもどうか聴いて想いを唄に込めたから

たくさんの『ありがとう』を
唄に乗せてキミに届けたい
この想いはずっとずっと忘れられない

想いよ キミに届け

〜〜♪♪ジャー・・・ン・・・

ワアアアアアっ、と歓声を。
パチパチパチパチっ、と拍手喝采を俺達に向けてみんなは、笑顔でやってくれていた・・・

こうして、俺達三年生は軽音楽部の最後の
学園祭は幕を閉じたのであった・・・




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