小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第73話

「・・・大成功ですよね・・・」

俺達は演奏を終え、音楽室の隅で身体を休めていた。
脱力感がどっときて力が出ない。

「ちゃんと演奏出来てたよ。みんな」

梓の言葉に俺は宥(なだ)める。

「今までで最高のライブだったよな」

「そうだな澪。今年のライブは最高に盛り上がったな」

律、澪の天井を見上げ今回のライブを思い出す。紬は、疲れたのか寝ていた。

「くすっ。ムギさん寝顔可愛い〜」

「そうだね。憂」

梓、憂は紬の寝顔を見て笑顔になる。おっと、その前にだ。

「私、律ちゃん、澪ちゃん、ムギちゃんに言いたいことがあるんだけど・・・ムギちゃんには伝えとって」

俺の言葉に疑問を持った律、澪はこてん、と首を傾げる。

「私、律ちゃん達と同じ『私立翔南女子大学』に受けるよ」

『ええ!?』

俺の言葉にみんなは驚く。その声で紬は眠り眼を擦りながら起きた。よし、手間が省けたな。

「え?なんでまた急に」

俺は、律達と共に軽音楽部に入ってまた演奏がしたいという話を伝え、俺は深々と頭を下げながら

「私、律ちゃん達と一緒の大学に入って、一緒に軽音楽部に入って、そして『夢』を叶えたいから・・・だから、私に『私立翔南女子大学』を受けさせて!」

腰を90度に曲げ頭を下げ続ける俺を見かねた澪は『い、いいから、顔を上げろ』と、俺を宥める。

「ああ。いいぜ!唯がいない『放課後ティータイム』なんて、『放課後ティータイム』じゃないぜ!」

「律ちゃん・・・」

「私も賛成だ。唯だけ一人仲間はずれはさせないぞ」

「澪ちゃん・・・」

「私も賛成よ唯ちゃん。うふふ♪また唯ちゃんと一緒の学校かー。楽しみだな〜」

「ムギちゃん・・・みんな・・・ぐすっ・・・本当に・・・ひっく・・・ありがどお゛」

俺はたまらず泣いてしまった。律、澪、紬は俺に抱きついて俺をあやす。憂、梓はそれを見てもらい泣き。本当にありがとう・・・『放課後ティータイム』・・・

〜♪「『三年二組の平沢 唯さん。進路指導室まで来てください』」〜♪

学内放送で呼ばれたので、涙を拭き、きりっと心に迷いは無い清々しい表情になる。
みんなに『いってきます』と伝え、みんなは、きょとんとしていた。俺が大阪の大学に行く事はもちろん、学長が来る事すら教えていないからな。

音楽室を出て、進路指導室まで直行し、ノックを数回する。『どうぞ』と言うので、『失礼します』と言いながら部屋に入る。すると、進路指導の先生と紳士っぽい老人が立っていた。もしかして、この老人が?

「こちらが『国立雷鳴女子学院大学』の学長さんである、森川さんだ。で、こちらが平沢 唯さんです」

先生が俺を指しているので『どうも始めまして』とおどおどしながら、辞めると言う機会を窺(うかが)っていた。

「始めまして、森川です。早速ですが平沢さん、出来れば私の大学に入学してもらいませんか?」

いきなりの本題だ。俺は手をぐっと握り、森川さんの目を見て話す。

「あの、この話は無かったことにしてもらいませんか?」

『えっ!?』

お二人は驚いていたのだが、続けて俺は口を開く。

「私、やりたい『夢』が見つかったんです。ですので、他の大学に受験したいのです」

「え?それはウチの学校では叶えられない『夢』なのですか?」

森川さんは切なそうな顔をするが、そんな顔をしたって俺の決意は変わらない。

「ええ。絶対に叶いたい『夢』がありまして、ですので本当に申し訳ありません。わざわざ遠い所からお越しくださって」

「・・・後悔しないか?」

先生の顔を、先生の目を見て俺はハッキリと『絶対に後悔しません。後悔させるつもりも毛頭ありません』と伝え、森川さんは・・・

「ふふ。いい目をお持ちになられる・・・分かりました。それでは、先生お邪魔しましたね」

「あ、はい・・・すみません。願書は私で処理します」

森川さんは進路指導室を出て、がちゃと扉を閉める。本当に申し訳無いな・・・

「平沢・・・お前、いいのか?」

「はい。もう、迷いません。そう心に決めました」

俺は、ありったけの笑顔を自信満々な表情を先生に見せ、先生は何も言わずに笑顔になる。

「・・・分かった。で?どこに受験するんだ?この前書いた国立の大学か?」


「いいえ。『私立翔南女子大学』を受けたいと思います。まだ、大丈夫ですよね?」

ここで期限切れは無いだろう。受験日はまだまだ遠いからな。

「まだ大丈夫だが・・・私立・・・か。ま、平沢の学力なら余裕だな。とにかく頑張れよ平沢」

「はい。森川さんに本当に申し訳ありませんでしたと伝えてくださいね」


「ああ。分かった」

本当に物分かりがいい先生で良かったな、としみじみに思う俺。
こうして俺は律達が受験する大学に受験が出来るようになった。これで俺を含めみんなが合格する日を待つだけだな・・・

ーーーーーー

音楽室に戻り、今まで黙っていた事を全てみんなに伝える。もちろん、みんなは黙って聞いてくれていた。

「だから、私は軽音楽部の『夢』を叶いたい、叶えてあげたいんだ。だから、私は「唯!」」

俺の言葉を遮って律は涙目になりながらも俺の目を見つめる。

「そんなに私達の事を・・・ありがとう・・・唯」

そう言いながら俺を抱きしめる。澪も俺を抱きしめながら・・・

「唯。私も嬉しいよ。私達の事で本気で悩んでくれて。ありがとう唯」

紬も律、澪ごと俺を抱きしめる。紬も涙目だ。

「唯ちゃん。私も嬉しいわ。私達は唯ちゃんを歓迎するよ。だから、絶対にみんな揃って合格しようね」

ああ。絶対に・・・絶対に合格しような。みんな・・・


ーーーーーー

side 平沢 憂

学園祭が終わり、数日経ったある日の朝。

私は、早起きして洗面台へと向かい顔を洗おうとしたら、お姉ちゃんが鏡を見て笑っていたの。どうしてそんなに楽しそうなのかな?と思いお姉ちゃんに声をかけると・・・


「今日ね、卒業アルバムの個人撮影があるらしいから真顔の練習だよ」

卒業・・・そうなんだ・・・お姉ちゃん、もうすぐ卒業なんだ・・・ということは、軽音楽部を引退するのかな?寂しいな・・・ぁ、ううん!梓ちゃんがいるのに寂しがっちゃ、いけないよね。私は『ふんすっ』と気合いを入れて口を開く。


「髪型も変えて写るの?お姉ちゃん」

ヘアピンを取って髪をいじっているから、そうじゃないのかな?と私は疑問を持ったの。


「うん。でも、いつも通りの私でいいかなって思っているけど・・・ぁ、そうだ憂、モデルになって。客観的に見てみたいから」


お姉ちゃんはそう言って私のポニーテールを解き、お姉ちゃんがいつも使っている黄色いヘアピンを二つ私の髪に挿す。

「ゎー・・・見事に私だ・・・」

お姉ちゃんは私をまじまじと見つめてくるの。えへへ〜何だか照れるな〜。


「うん。ありがとうね憂。ぁ、時間だ!急いで朝ご飯の用意しないと」


「お姉ちゃん、私も手伝うよ」

お姉ちゃんと私は朝食をせっせと作って、朝食を食べ、食器を洗って、制服へと着替える。お姉ちゃんがいて、本当に助かるな〜料理も出来るし、勉強も出来るし、家事も出来るし、あとねあとね・・・


「おーい。憂、そろそろ学校行こうよ」



「え?あ、うん。行こうお姉ちゃん」


私はお姉ちゃんの事を考えていたらぼーとしちゃってた。だってお姉ちゃんは本当にすごいお姉ちゃんだもん。えへへ♪

お姉ちゃんとお喋りしながら学校へと着いて別れ離れになる。私は下駄箱へと向かい、ツインテールを解いた梓ちゃんがいた。どうしたんだろう?イメチェンかな?

「梓ちゃん、おはよ。髪、下ろしているね
。イメチェンしたの?」

「あー、憂。おはよ。私、ぼーとしちゃったから、結ぶの忘れてた」

「ええ!?大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。心配しないで、憂」

梓ちゃんと一緒に教室へと向かって近くにいた友達に髪留めを貸してもらい、梓ちゃんの髪型をツインテールへと変化させる私。

「うーん。私もイメチェンしようかな」

「や、イメチェンじゃないから。で?憂はどんな感じにイメチェンするの?」

私はポニーテールを解いて、朝から付けていたヘアピンで・・・

「じゃーん!どう?」

「え!?唯先輩!?」

私はお姉ちゃんの姿に早変わり♪えへへ〜梓ちゃん驚いているな〜。よし、もっと驚かせちゃえ!

「・・・コノヤロー♪・・・」

「や、憂。怒っている唯先輩のつもりかも知れないけど、微妙に嬉しがっているよ・・・」

え?そうなんだ・・・でも、お姉ちゃんの真似出来て良かった♪えへへ〜。
あ、このヘアピンお姉ちゃんに返さなきゃ。と思って梓ちゃんと共にお姉ちゃんがいる三年二組の教室へと向かうんだ♪



ーーーーーー
side 平沢 唯

俺はヘアピンを憂に渡したまま何だか落ち着かない。

教室で、髪をいじりそわそわしていたところ和が俺の異変に気づいたのか、俺の頭を指差し口を開く。

「唯。ヘアピンどうしたの?無くしたの?」


おお・・・僅かな俺の違いが分かるとは・・・やるな和。とりあえず、のほほんとした声で『憂に貸したまま忘れちゃったみたいで〜』と伝えて和は『どうして?何で憂にヘアピンを?』とまたも疑問があったので、俺は憂を俺の姿にさせ客観的に自分を見るためと伝え、和は、やっと納得したのかと思いきや、またも口を開く。


「じゃ、何でそんなにそわそわしてるの?」

うーむ。第三者から見ても俺は落ち着いて見えないのか?とりあえず、俺はのほほんとした声で話す。


「いやー。何だかさー。ヘアピンが無いと落ち着かないんだよ。こう、ピシッとしていたところがさ、ふにゃとなっているから落ち着かないんだよ」

本当に俺は落ち着かないのである。ヘアピンは俺の一部というか、何というか・・・あいつが俺で俺があいつみたいなアレだな。ヘアピン=俺みたいな感じだな。て、誰がヘアピンだ。
閑話休題。

和に何か髪を留める物を欲求。すると、和は机を漁り・・・何かを見つけて俺に手渡すが・・・

「・・・クリップだね」

ピンク色のクリップだ。これで髪をまとめている奴なんているのか?俺は苦笑いしながら、グリップを和に返す。

「唯ちゃん、髪まとめてあげようか?ちょうど髪留め持っているんだ〜」

なんと救世主の紬が登場。俺はありがたく紬に任せてもらい俺の髪をまとめる。

「んー。髪をまとめるのは短いかな」

紬はそう呟きながら俺の髪を一カ所にまとめて縛る。和から手鏡を貸してもらい手鏡をみると・・・

「わっ、でこだー。ひぇー!」


でこ丸出しの俺の姿にショックだ。あまりの幼い姿の俺は、ガバッと机に身体を休め『およよ』と泣いたふりをする。紬、和は苦笑いだ。すると、律、澪がやって来た。

「唯!でこ出すの恥ずかしいのか?どーんと見せてしまえ」

「えー・・・律ちゃんみたいには出来ないな」

「んー・・・じゃ、おでこが見えないようにこうやって・・・」

澪は、俺の髪をいじり俺の髪は・・・ツインテールみたいに結んでいたんだが、なんだ?この髪型。まるでモジャ団子髪の純みたいじゃないか。この髪型を『ツインテールモドキ』と命名しよう。

「あ、今の唯どっかで見た事があると思ったら近所の公園にいる犬にそっくりだわ」

「犬・・・」

和よ・・・犬って・・・ひどくね?
俺は困り果ててしまい、そして思考回路がショートしてしまい、何故かボケたくなった。

「わんわん♪」

「唯ちゃん可愛いわ〜♪お手っ」

「わん♪」

紬にまんまと乗せられ紬の右手に俺は右手をグーにして乗せる。そして、紬は『わぁ♪』と自分の世界にトリップ。はぁ、やれやれ。


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