小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第75話

時は流れ二月のある日の事。
俺達三年生は受験が近い。俺は第一志望の大学をみんなと一緒の大学にして、第二志望、第三志望は適当に決めた。

目標は第一志望の『私立翔南女子大学』しか眼中にないので、勉強を必死にこなす。
先生は余裕で受かると言っていたのだが、念の為だ。ちゃんと勉強しないと今まで培った知識が飛ぶという訳であるのだ。

律、澪、紬も第一志望の大学に合格したい為、必死に音楽室にて切磋琢磨している訳だ。

憂、梓は俺達に遠慮してギターを弾かない。俺達が勝手に音楽室に来ているから、じゃんじゃん弾いてくれと提案したのだが・・・

〜〜♪♪♪

「・・・ドラム叩きたくなったなー」

律はそわそわしてシャーペンを手で回し、苛立ちを隠せないでいた。


「じゃ、お茶にしましょうか」

紬が提案して俺達は賛成したのだが・・・澪はベースを持って梓、憂の近くに行きベースを構えていたのだ。はぁ、澪もベースが弾きたくてたまらないらしい。

「澪ー、お前も演奏したいのか?ん?」

「し、仕方ないだろ。弾かないと落ち着かないらしいんだ。私は」


頬に朱を浮かばせる澪。俺も少し休憩しようという事で、その場に立ち『ん〜・・・』と両手を上に上げ背伸びする俺。

「唯ちゃん、ミルクティーよ」

紬は全員に茶を渡し、全員は茶を啜りほっと一息。のんびりした空気だな。とても受験を控えた受験生とは思えないぞ。
はぁ、やれやれだな。


ーーーーーー

side 中野 梓

先輩達が受験勉強に力を入れ続けること数日がたったある日の事。
もうすぐバレンタインデーが始まるのでチョコを先輩達に差し入れしたいな、と思っていたけど・・・去年のバレンタインデーは、チョコを用意していたけどムギ先輩は・・・

『ベルギーから取り寄せたチョコだよ』


『『ベルギー!?』』

本当に高級そうなチョコの登場で私は持ってきたチョコを出すのを忘れたんだ。いや、出したくなかったかもしれない。だって、あんなに高級な物の後に安物っぽいチョコはみんなに少しだけ期待感を奪うだけだもん。

で、憂と純とで教室にて、バレンタインデーの話題を話していると

「あー。いいなー、私もベルギーチョコ食べたかったなー」


「えへへ〜。あ、今年は私もチョコ用意しようかな〜」


憂は照れながら今後の予定を話すけど・・・私、チョコ作った事無いからどうしよう?と考えていた。よし、私だって頑張るもん!

学校が終わり帰り道。とりあえず雑誌とかでレシピを見て、スーパーに買い物をする私。
すると、純を見つけた。


「お?梓、バレンタインデーの買い物?何か作るの?」


「うん。でも、材料とかは分かるけど作り方がややこしくて・・・」


純は『ふーん』と興味無さそうに言うもんだから少しむ、ときたけど・・・あ、そうだ。

「ねぇ、チョコケーキの作り方知ってる?」


「チョコケーキ?なら、この既製品のチョコと、黒砂糖はいるね。あとは・・・」



そう言いながら私が持っていた買い物カゴに次々と材料を入れるけど・・・純ってお菓子作れるんだ・・・意外だなー・・・

「ねぇ、梓。もしかして私は料理が出来ないって思っていたでしょ?」

「うっ!」

純は私が思っていた事をズバリと言い当てた。す、すごいな純。すると、憂と唯先輩もバレンタインデーの為に買い物に来たのか、買い物カゴを持ってその中には、たくさんの材料が入っていたけど・・・何人分作る気かな?それを聞くと・・・


「まずはお姉ちゃんの分でしょ?それから軽音楽部のみんなの分かな?」


「それから憂の分もだよ。憂」


「えへへ〜。ありがとうお姉ちゃん」 


憂は唯先輩にチョコが貰える事になったのが嬉しいのか、目をキラキラと輝かせて無邪気に笑っている・・・あ、そうだ憂達なら頼れるかも。

「ねぇ、憂。お菓子とか作れるよね?手伝ってもらえないかな?」


「うん、いいよ。お姉ちゃんもお菓子作れるからお姉ちゃんも手伝ってね」


「あいあいさ〜」

憂は唯先輩に頼み、唯先輩は敬礼で応える・・・何だか仲良い姉妹だなー、ととしみじみに思っていたら・・・

「わ、私もお願いします!」

純も参加意思を見せて唯先輩を見て目を輝かせていた。そういえば、純って唯先輩のファンだったような・・・どっちだったっけ?
まぁ、いいやということで私達は平沢家にお邪魔してチョコを作るけど・・・私は律先輩達に内緒でチョコを渡したいので唯先輩にこの事を黙っておいてください、と伝えて唯先輩は

「あ、なるほど。サプライズだね。私も知らなかったふりするから、みんな驚くと思うよ」


「わ、わざわざすみません唯先輩。絶対に内緒ですからね」


「あいあいさ〜」

唯先輩は、のほほんとした声で応えてながらチョコを作っていく・・・
バレンタインデーまであと少し、一踏ん張りしよう!と決意し、私もチョコを作っていたんだーーー。


ーーーーーー

時は流れて先輩達が受験日の為、それぞれの志望校へと向かったある日の事。
三年生のほとんどが部活を引退して寂しさで泣きながらクラスのみんなは話していた。
そうだよね・・・もうすぐで卒業しちゃうもんね・・・私、ちゃんと笑って先輩達を見送る事は出来ないかもしれないと不安になってしまう。
だって・・・先輩達と離ればなれになると思うと泣きそうになるし。
しっかりしろ私、と気合いを入れてもすぐに俯いて心が折れちゃうんだ・・・


「梓ちゃん。どうしたの?」



私が俯いていたのを気にしたのか憂は私に話しかける。本当に心優しい子だな、としみじみに思う私。でも、憂も何かとそわそわしていた。やっぱり、唯先輩の事を考えているからかな?それを聞くと


「えへへ〜。ちょっと心配しているかな?あ、そうだ。近くの神社に行かない?お姉ちゃん達が一緒の大学に合格出来ますように、て」

合格祈願か・・・私は、頷いて参加意思を見せる。すると憂は、ぱあぁと弾ける笑顔になり『うん♪』と私を見てキラキラと輝く。
そして、学校が終わり帰り道。
近くの神社に着いて境内に入り早速、賽銭箱に十円玉を放り込んで鈴をガランガラン、と鳴らし手を二回叩き手を合わせながら一礼する。
みんなが一緒の大学に合格が出来ますようにと願いを込めて、憂は笑顔で口を開く。

「私ね、この神社に百度参りしているんだー。でもね、一度に百は無理だから通っている度に十円玉を入れるんだー」


へぇ・・・ちゃんと続けているんだ・・・偉いな憂は。私も先輩達に出来る事なら何かをやりたいけど・・・私、決めた!
先輩達の為にやりたい事を思いついて、憂と別れ我が家へと着いて私の財布を探し、財布を持って我が家を出てさっきの神社へと向かう。そう・・・私がやりたい事は・・・

境内に入り、財布を開けて千円札を賽銭箱へと投入する。これで十かける百回になるから一度に百回通った事にする事で百度参りとなるだろうと私は勝手に納得してしまう。本当はダメかもしれないけど、これぐらいは許してください。神様。

鈴をこれでもか!というぐらいガランガランガランガランと鳴らし手を大きな音がするくらい叩いて大きく一礼。


「先輩達が、絶対に絶対に絶対にぜーーったいに一緒の大学に合格出来ますように!」


これが私のお願い。どうか叶えてください神様。


「そして、みんな笑って卒業出来ますように」



私の頬に雫が垂れる。本当は嫌だ、先輩達と別れたくないよ・・・でも、仕方ないもん。誰だって時が来たら卒業しちゃうから、私だって来年卒業するから。


「・・・帰ろ・・・」



私は涙を拭き、我が家へふわふわとした足取りで向かったーーー

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