小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第76話

side 平沢 唯

受験日当日になった。
第三志望の大学と第二志望の大学の受験を終わらせ、ようやく第一志望の大学『私立翔南女子大学』をみんなと一緒に受験する事になった。

外は雪がしんしんと降っていた。俺は制服に着替え、その上にコートとマフラーを着用。そして、受験票をしっかりと持っている事を確認。忘れ物は無いので『さぶっ!』と言いながら我が家を出る。

「ん?ちょっと積もってる・・・」


外は、少し雪が積もっており民家や道路など白色に染まっていたのだ。俺の家からは『私立翔南女子大学』は遠いので電車を使う事になっているのだが、走れない事は無いだろうな、と不安になってしまう。

「やれやれ」

俺はそう呟き、駅まで歩を進めていた・・・だが、駅前に何らかの異変に気づいた。
その異変とは駅前に何かが落ちていた。その何かとは、受験票と書かれその所有者である名前とその人物の顔写真が写っていたのだ。それは俺がよく知っている人物だ。その人物とは律だ。なんと律の受験票が落ちていたのだ。何やってんだかね、今頃どうしてんだよと呆れながら進むと律、澪、紬が集合していた。律は受験票を落としていた事に気づいていないのか、のほほんとしていた。はぁ、仕方ないな。

「律ちゃん。コレ落ちてたよ」

「ゆ、唯!落ちたは受験生には禁句だ!って私の受験票!?何で!?」

律は慌てて自分の懐を漁るが『やっぱり私のだ・・・』と青ざめて受験票を受け取った。

「しっかりしろ律・・・私も受験票落としていないか不安になったよ・・・」

澪も懐を漁り、『あったあった』と確認する。紬もそれに乗じ懐を漁る。おいおい、家に出る前から確認しとけよ。

「唯ちゃん、絶対に合格しようね。みんなと一緒に。みんなも絶対合格、しようね!」


『ああ!』

紬の喝により身が引き締まる俺達。これが俺達の試練だ。絶対に合格するぞ。


ーーーーーー

『私立翔南女子大学』に着いて、受付に向かい今日の受験する旨を伝え、座席票を受け取り、ある教室へと向かう。
そこには、この大学を受験するであろう受験生がずらっといた。ある者は未だに参考書を睨む人。ある者は目を閉じて精神を落ち着かせる人。ある者は友達と喋り心に余裕を持たせる人などなどたくさんいる訳だ。

「お、多いな」

「ぅ、この人数の中で私が残れるか心配だ・・・」

「だ、大丈夫よ。いつものように落ち着いていきましよう」


律、澪、紬は人の多さに怖じ気づく。俺も多少緊張する。やっぱり、こうでなくてはな!面白い、俺は絶対に合格してやるぞ。

受付に行った際、受け取った座席票を見て、机の上に番号が書かれた紙が貼っていたのでその座席票と机の番号が一致する席に座るという訳だ。

俺達は席に座り、先生を待つ。俺達の席は横一列に並んで座っていたのだ。どうやら席は学校名順で決めているらしい。

ガラッ
「おはようございます」

この受験の試験官らしき人物が現れたので俺達は。

『おはようございますっ!』

と元気一杯に挨拶を交わす。試験官の見た目は白髪頭でメガネをかけたスーツでびしっと決めている男性。
試験官はマイクを手に取り『あー、あー』とマイクのテストを施し、俺達を見渡す。この教室はとても広く受験生は百人は超えるので隅から隅へとびっしりと座っているから遠くて聞こえないかもしれないだろうと予期したのだろうマイクは必要となる訳だな。


「『では、試験の内容を説明しますね。まず、九時半から十時二十分は国語の試験です』」


今は九時ぐらいだから後三十分あるな。

「『その後、十分の休憩を挟み、十時三十分から十一時二十分まで数学の試験。また十分の休憩を挟み、十一時半から十二時二十分までを英語の試験となります。皆さん落ち着いて試験に挑んでくださいね』」

黒板に今言った事を事細かに記す。


「『なお、試験中は退出出来ません。ですので、御手洗い等は休憩時間で済ませてください。万が一に何らかの病気により退出しなければいけない場合は、一度退出し軽い症状なら別の教室に案内しますのでその教室で試験やってください。カンニング防止の為ですので。次の試験からはこの教室に戻ります。そして、試験に支障が出るようなひどい症状なら後日またの受験日を設けますのでその日にこの学校に来てくださいね』」


なんと、それはめんどくさい。じゃ、具合悪くならないように頑張ろう。


「『試験まで後、二十分ぐらいありますので今の内に御手洗い等を済ましてください。では』」


試験官は一度退出した。すると周りの受験生達は立ち上がり御手洗いへと向かう。俺も今のうちに済ましておこうと立ち上がった。

「ん?唯、トイレか?」

律は立ち上がった俺に気づいたのだが、普通にトイレか?なんて聞くなよ。俺だって女だぞ。少しはオブラートに包めて言え。

「あ、うん。今の内にね」

「わ、私も行く」

「私も。緊張しちゃって行きたくなっちゃった」


澪、紬は俺についていくように御手洗いへと向かうが・・・


「私もちょっとトイレだ」

律も、バタバタしながらついていく。や、だからもうちょっと恥じらえよ律。
というか俺はいつの間にか心までも女になってんだな・・・やれやれ。

御手洗いを済ませ、自分の席に座り試験の時間となった。

ガチャ
「『皆さん席につきましたか?携帯電話は電源を落としてください。机の上は筆記用具のみですよ。では、最初に解答用紙を配りますね』」

試験官が入って来た途端、解答用紙を配られた。いくらなんでも急すぎだろ。

ーーーーーーーーー


何とか受験が終わり、帰ろうとしたのだが・・・帰りの電車の時間が二時ぐらいなので途方に暮れていた。今は十二時四十分なので結構、待たなければならない。あー、腹減ったな。

「時間があるから飯でも食べようぜ。あのファミレスでいいよな?」

律は近くにあったファミレスを指差して俺達は頷く。どこでもいいから食べようと気が立っているのかね。

早速、ファミレスに入り禁煙席に案内してもらい、ちょうど四人座れる席へと座りメニュー表を見て全員、日替わり定食を注文。俺は憂に、昼食は今食べるから私の分の昼食は用意しないでねとメールで報告。
すると数分後、返信が来て憂は、分かったよ、受験の話は帰ってから詳しく話してねとお願いされたので俺は、分かったと返信。

「はぁ、やっと受験終わったな・・・」


「ああ。どっと疲れたよ。やっと肩の荷がおりたな」


「私も、終わったから気が抜けちゃった〜・・・」


律、澪、紬はだらっとしていたが、紬は年中のほほんとしているイメージがあるのであまり見た目が変わらずニコニコしていた。余裕だな紬よ。

「お待たせしました。日替わり定食です」


店員に飯を運んでもらったのでありがたく受け取り飯を口に放り込む。
俺達は、試験の内容を話題にし、あの問題はどうやって解いたのかとか難しい問題があったよな等の雑談を交わし、電車の時間までファミレスで時間を潰したのであった


ーーーーーー

受験が終わり、バレンタインデーとなった日。
俺は制服へと着替え、マフラーとコートで寒さを凌ぐ。今日はバレンタインデーなのでチョコを鞄に詰め込み、俺と憂は見つめ合って『えへへ〜』と笑う。うむ、渡したくてたまらないらしい。

「お姉ちゃん、学校行こっ」


「うん。そうだね」

鞄を持って憂と共に学校へ向かい、歩を進める。すると、雪がしんしんと降ってきた。

「あ、雪だね・・・」


「どうりで寒い訳だよ〜」

俺と憂は空を見上げ白い息を吐く。憂は急に『くすっ』と笑ったので気になりどうしたのか、と聞くと。

「お姉ちゃんがクリスマスの時、雪を降らせた事を思い出して、それで。くすっ」

なんと懐かしい話だな。かなり昔の事なのだが、憂ははっきりと覚えているらしい。

「お姉ちゃんがお父さんの枕を切って、綿だしてからそれを雪に見立てたのを思い出してね。それをお母さんが怒ってお姉ちゃんがしょんぼりした事まで覚えているよ」

へぇ、そこまで覚えていたのか。俺は、ぼんやりとしか覚えていないのだがな。
そんな他愛の無い世間話を続ける中、学校に着いた。律、澪、紬が校門の前で何やら話しているらしい。

「みんなー。おはよー」

「皆さんおはようございます」

『おはよ。唯、憂ちゃん』


俺達は朝の挨拶を交わし、早速バレンタインデーの話をする事にしたのだが。

「私ね、チョコを『唯せんぱーい!』ん?」

複数の女子が俺に向かって突進してきた。よく見ると俺のファンクラブの連中だったのだ。そのファンクラブは何やら大きなピンク色の袋を持っているが・・・もしかして・・・


「チョコです!受け取ってください!会員一同からのバレンタインチョコです」

「良かったら食べてください!」


ファンクラブは俺に頭を下げながらお願いするので、俺は弾ける笑顔で『ありがとうね』と言いファンクラブの連中も弾ける笑顔になった。ま、これもファンサービスの一環だな。


時は流れ昼休み。俺、律、澪、紬は山中先生に呼ばれ職員室へと向かう。話の内容は受験の結果だ。

「澪ちゃんとムギちゃんと唯ちゃんは第二志望まで合格。律ちゃんは第三志望まで合格ね。やっと受験が終わったから卒業までのんびりと過ごすといいわ」


『はいっ!』

俺達は元気よく返事をする。やはり、受験が終わったからテンションが上がっているのだろう。

「で?第一志望の『私立翔南女子大学』の合格発表はいつ?」


「明後日だそうです」


澪が代表して山中先生に伝え、山中先生は
『分かったわ』と言い、手元にメモ帳があったので書く。
すると紬は職員室の入り口を見て『梓ちゃんだ』と言うので俺達は『やっほー』と手を振り梓のもとへと集まる。
ん?憂と純もいるのだがどうしたんだろうか?


「憂も純ちゃんもどうしたの?」


「えへへ〜。ほら、純ちゃん」

「あ、あの唯先輩!チョコです!あ、皆さんにも」

純は俺達にチョコが入っているであろう袋を渡すが・・・俺だけ大きいのは気のせいだろうか?みんなより一回り大きい袋だが。

「あ、私もです。どうぞ、皆さん」

『ありがとう、憂ちゃん』

憂からもチョコを受け取り、お礼を言う律達。憂は、隣にいる梓に何やら話していたのだが・・・


「わ、私、ちょっと御手洗いに行きます」


『え?』

俺達はどこかへと立ち去る梓を見て硬直。
梓は俺達にチョコを渡すつもりだった筈なのだが渡さなかった。もちろん、律達には内緒にしていたので律達はキョトンとしていた。


「あ、私達、梓ちゃんを追いかけますので失礼します。行こっ、純ちゃん」



「う、うん」

憂、純は梓を追いかけ、とてとてと走る。
こら、廊下は走るなよ。

「まぁ、いいや。教室に戻ろうか」


律の提案により俺達は三年二組の教室に戻り、五時間目の授業の準備に取りかかったのであったーーー。











-77-
Copyright ©かがみいん All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える