小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第83話

パスポートを申請した翌日。
その日は休日なので、俺達軽音楽部は海外旅行に備えるためトラベル用品を買うためにデパートに集合という律からの連絡があり、俺と憂はうきうきしながらも身支度をして我が家を出る。


「海外旅行か〜・・・夢みたいだね〜」

憂は今でも信じられないという顔をしていた。確かに海外に行こうだなんて言う筈無いと思うからな。

「本当に楽しみだね〜。憂」


「うん!!」

そんな他愛のない世間話をしつつ、律を始め軽音楽部の面子が揃っていた。


「おー!やっと来たな!さぁ、行こうぜ!」

律はかなり興奮していた。海外に行ける事の楽しみさが半端なく伝わっている。澪や梓もも何かと落ち着かずにそわそわしていた程だ。


「みんな揃ったわね〜。確かトラベル用品は二階にあるから二階ね〜」

紬はデパートの案内地図を見つけたのか、のほほんとした声で俺達に伝え、デパートへと突入する。

ーーーーー

さて、トラベル用品を扱うコーナーに立ち寄った俺達なのだが・・・


「うーむ、何を買うべきなのだろうか・・・」

フィンランドでの旅行という事が決まったのだが、フィンランドに役立つ物は何があるのかと疑問が浮かぶ。とりあえずは洋服とかを入れるバックとかお土産用もバックも必要なのでは?
そんな俺達を紬は何かを察知したのか、にこやかな表情をして


「そんなに深く考えないでいいわよ〜。必要な分だけでいいから。別荘は前より少しは広いから♪」

『なっ!!?』

紬以外全員驚きの声を上げる。それはそうだろう、合宿時の別荘よりも大きいなんてな・・・どんだけブルジョアなんだよ・・・

そんな紬の仰天告白を受けて適当にトラベル用品を買い、一旦帰る事にする俺達。
さて、まだ見ぬ紬のフィンランド別荘に期待しましょうかね。


ーーーーー 

それから数日経ってある日の平日の朝。またも学校に登校しないといけないという日だ。


「ふぁぁ・・・眠っ・・・」


眠り眼を擦りながらも洗面所へだらだらとした足取りで移動。そして、鏡を見て今の自分の姿を見る。寝癖があちこちに跳ねとんで顔はまだ眠くてたまらないという感情が伝わっている。
そんな情けない自分を払拭させる為、顔を洗い、櫛で寝癖を直す。これらの行動は前から昔からやっていたので自然と出来てしまう。

「はぁ・・・」

前世が男だとは思えない行動にため息。
ヘアピンもしっかりと付けていつも通りの平沢唯の完成である。

「あ、お姉ちゃんおはよー」

憂は俺より早起きなのだろうかポニーテールを完成させていて制服に着替えていた。

「おー、憂、早起きだねぇ」


「えへへ〜」

いつも通りのゆるやかな会話も自然とこなしている自分に若干戸惑いながらも俺も制服を着こなし朝食を済ませ、行ってきますと声をかけ学校へと足を運ぶだけなのだが。

「あ、そうだ。この本貸してあげるよ」

憂が本を俺に渡したのだ。その本は護身術・・・何故だよ!


「ほら、外国って何が起こるか分からないし・・・」

憂よ・・・優しすぎだ・・・憂の優しさが
五臓六腑に染み渡るよ・・・

憂から貰った本を鞄に放り込み、我が家を出て学校へと足を運んだーー。


ーーーーーーーーーー

時は流れ放課後。
俺達軽音楽部三年生は、部室へと足を運ぶ。他の部の三年生は全員引退。俺達だけがのほほんと軽音楽部にいつまでも居る訳だ。だからといって先生に見つかって怒られるという訳では無い。

何故ならば・・・

「んー♪美味しいわ〜」

のんびりとした声で山中先生は優雅にティーカップを口に運び紬が淹れた茶を小指を立てて啜っている。

「ほらみんなの分もあるわよ〜」

紬は俺達の分まで茶を用意してくれる。
そんな紬に感謝の労(ねぎら)いの言葉をかけて、みんなは茶を啜る。

『はぁ〜・・・』

「って、落ち着き過ぎだろ!!」

なんとなんと澪は立ち上がりツッコミの声を上げる。いつも通りといえばいつも通りなのだがな。

「はっ・・・!そうですよ。そうだ憂、練習しようよ」

「はぁい」

紬の茶による副作用なのか、のほほんした声を上げる憂。山中先生は職員会議があるらしいから適当に練習しとけのこと。

俺はやる事が見つからないので鞄を漁り、ある本を見つけた。その本は護身術の本だ。そういえば、憂が渡してくれた本だったな・・・。

「あっ、そういえばね、憂が外国危ないかもしれないからって・・・コレどう?」

「護身術・・・?楽しそう♪」

紬は目を輝かせて賛成の意を示している。律、澪はそんな紬を見て仕方ないなと護身術を覚えることに。

「うーん、なになに?相手が自分の手首を掴まれたら思いっきり引っ張ってみる、と。澪〜やってみようぜー」

梓や憂はこちらの様子が気になりそわそわしていた。それもその筈だろう、海外旅行に向けての話なのだから気にならない事は無いだろう。

「あ、あの私もいいですか?」

「わ、私もっ!」

ということで、俺達は軽音楽部の練習は護身術の身に着ける方法を頭に叩き込む練習へと変わっていた。

「まずは、唯ちゃんが犯人役で憂ちゃんが犯人をやっつけるからやりましょう!」

紬はワクワクしているのが一目瞭然なほどに目が輝いている。澪や律はそんな紬を見て苦笑いを浮かべる。

「じゃ、唯ちゃんが憂ちゃんに後ろから抱きついてね。あ、悪者っぽくなにかセリフ言ってみて♪」

ずい、と顔を俺に近づけ俺は驚きながらも憂を後ろからそっと抱きしめる。

「あっ・・・♪」

憂は甘い声を出して、やや顔を火照らせた。俺以外全員頬を朱に染めていた。な、なんだか晒(さら)し者みたいだな。

「ぽ〜・・・♪あ、唯ちゃん、犯人だから何か脅して♪」

我が妹を脅す者がいたならば何者であろうと容赦はしないのだが、これはあくまで予行練習なのだから仕方なく少しだけ脅してみることに。

「ふふふ〜。お嬢ちゃん、金くれ〜。さもないと擽(くすぐ)るぞ〜」

「「それ脅迫かっ!!?」」

律と澪のダブルツッコミを受けてながらも憂を脅していく。

「え、えっと・・・いいよ?」

「良くないよっ!?えっと、本では相手の脛(すね)を蹴るか、足を踏むかだよ!軽くでいいからっ」

梓は憂に指摘しているが、憂は俺が犯人役だからか素直に蹴れない。

これでは埒(らち)が明かないので抱きしめるのを辞めようとして憂から離れようとすると、憂は何故か切なそうな表情を俺に見せた。

「あっ・・・」

消えそうな声でもっとやって欲しかったみたいな表情をしている。仕方ないと思い、憂を前からそっと抱きしめる。

「あっ♪」

「このように前から抱きしめられたらどうするって書いてあるの?」

俺の咄嗟の判断により憂の小さな幸せが願う事を俺は望んでいた。澪達は俺の行動に驚きながらも護身術の本をぺらぺらと捲っていく。探すまでの間は抱きしめたままなのだから憂はというと・・・

「ぽけぇ〜・・・」

なんとも幸せそうな表情をしている。こんな姉想いのいい娘を幸せに出来るのであれば何だってしてあげれる気持ちになれる。そんな気持ちになっている自分は重度のシスコンだなと呆れてしまっている。

「あ、あった。まず、おもいっきり両手をあげながら身をかがめて走って逃げる、だってさ」

「・・・はっ、そ、そっか!」

憂はさっきまで自分の世界へトリップしていたところを律の教えにより、言われた通りにやって難なく俺の抱き着きから解放された。

そんなこんなで律、澪、紬、梓もそれなりに練習して大体のことは覚えた。うーむ、結構みんな運動神経いいのな。

ーーーーーーーーーーー

「はぁ〜・・・護身術って結構難しいよなー」

護身術を終えて紬が淹れてくれた茶を啜り、ほっと一息つく。大学への進学が決まってかなり余裕を持っている為、のほほんとしている俺達。すると紬がいつも以上にニコニコして話があると言って、紬は自分の席に着席して茶を啜り笑顔を絶やさずに続ける。

「あのね、海外旅行の日程なんだけど、期末試験が1週間後にあるじゃない?その後の5連休があって、全学年休みになるから、憂ちゃんや梓ちゃんも同行できるし・・・その5連休の日でいいかな?」

『大賛成!!!』

誰も反対の声を上げず、腕を高らかに上げ賛成の意を表した。それはそのはずだろう、海外に行ける事が決まり、大騒ぎするに決まっているだろう。修学旅行以上の興奮が俺達に襲い掛かったが、紬はいらない事を言ってしまう。

「だから期末試験頑張りましょうね!」

「うっ、そ、そうか・・・試験があったのか・・・」

律は顔を引き付けてがっかりする。澪や梓も緊張しているのか震える声で

「だ、大丈夫。間違えなければいいんだ。うん!そうだ満点取ればいいんだよ!」

「そ、そうですよ。澪先輩の言うとおりですよ。間違えなけば・・・間違えなければ・・・」

律、澪、梓は体が震えて目が泳ぎまくっている。間違えなければいいという事は正しいと思うが、満点を取る事は難しいだろう。紬、憂、俺はというと・・・

「今回の別荘はこの前より少し大きめだから、おもいっきり寛(くつろ)げるわよ〜」

「へぇ!!?そうなんですか!!?すごいです!楽しみだよね!お姉ちゃん!」

「楽しみだね〜。憂〜」

相変わらずのほほんした俺達を見た律、澪、梓は『余裕の表情っ!!?』とショックを受けていたのであった・・・

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