小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第86話

side 琴吹 紬

飛行機に乗り、数時間がたった頃・・・

「すぅ・・・すぅ・・・」

私の隣で寝息を立てているりっちゃんを私はそれを見て微笑ましく見つめていたの。

「ふふ、梓ちゃんも寝ているのかしら?」

私は梓ちゃんの事が気になり梓ちゃんの様子を見てみると・・・

「・・・高い・・・」

窓で外を見つめて何かを呟いていたの♪ふふ、みんな本当に楽しそうに待ち侘びているのねっ♪

唯ちゃんや憂ちゃん、澪ちゃんの様子も見てみたいんだけど、あまり移動とかしないほうがいいと思うの。急に飛行機が気圧か何かに煽(あお)られて動いちゃうときもあるからね。

「ふぅ。私も一眠りね」

自分の席を軽く倒して、目を閉じて、私の意識はだんだんと夢の世界へと旅立ってしまったのーーー。


ーーーーーーー
side 平沢 唯

眠りについたはずなのだが、今自分の居場所が飛行機から訳の分からない真っ白な世界に居る。ああ、これ夢だな、とはっきりと断言できるな。

「『お久しぶりですねぇ。お元気にしてましたか?』」

今度は頭の中に直接誰かが話している?!な、なんなんだよ!貴様はニュータイプかっ?!

「『にゅーたいぷ?なんですか?それ。まぁ、それより私のこと覚えていらっしゃらないのですか?』」

覚えている・・・?前にあった事があったっけ?うーむ、これは夢だから覚えているも何も答える義理が無いな。

「『えー?!ひどいじゃないですかっ!私です、あなたを平沢唯に憑依させた死神ですよっ!』」

なん・・・だと・・・?

「『なん・・・だと・・・?ではありませんよっ!?はぁ、あなたが初めてですよ。神と名乗る人物にここまで虚仮(こけ)にするお人は・・・』」

へぇへぇ。悪ぅござんした。んで?なんなの?何かの警告か?つか、飛行機に居る俺・・・いや『平沢唯』と言った方がいいのか?そいつはどうなっている?

「『あなたも平沢唯でしょーが・・・。現在お眠りになられています。わたしがこの世界にお呼びしたのですよ。あと、お呼びした理由なのですが・・・』」

ふむ、理由とは??

「『私、つまーんないからっ。むぅっ!』」

・・・イラついた・・・もう帰っていいか?つか、どうやって帰んの?

「『わぁーっ?!わぁーっ?!すみませんでしたっ・・・!もういいです。あなたにいいものを差し上げます。うふふ・・・♪女の子には、とーぉっても大事なもの・・・いいえステータスと言えばよろしいでしょうか・・・。では、また会う日までごきげんよう・・・うふふふふ』」

ちょっ・・・!待たんかい、と言う暇が無く、じわりじわりと真っ白な世界に居る俺の意識は遠のき・・・

               ーーーー

「『まもなく、ヘルシンキ。ヘルシンキです。シートベルトをご着用願います』」(※ヘルシンキとはフィンランドの首都のことです。)

目が覚めてアナウンスが流れ、もうそんな時間かと慌てふためき、シートベルトを締めようとし、さりげなく横を見ると・・・

「・・・ん。あ〜、お姉ちゃんおはよ〜。今何時?」

ようやく起きたのか眠り眼を擦る憂。だが、今はフィンランドの上空にいるのだ。俺が答えるべきなのは日本時間なのか・・・それともフィンランドの時間なのか・・・う〜む、分からん・・・。

「そ、それより、もうすぐ着くからシートベルトねっ!」

「へっ?あ、そうみたいだね。」

ちなみに日本とフィンランドの時間差は約7時間程なのだそうだ。後者のほうが日付変更線を通るのが遅いので、日本でいうとまだ昨日の深夜あたりの時間なのだ。

「『まもなく、着陸します。着陸の態勢を整えてください』」

またもアナウンスが流れ、そのアナウンスの指示通りに心の準備を整えていく。

飛行機は滑走路へと向かい、高度やスピードを下げつつ着陸。ようやくフィンランドの首都であるヘルシンキのとある国際空港へ着けたのだ。

「お、そろそろ出る準備をしようか」

澪はこちらを振り向き、全員立ち上がりヘルシンキの国際空港のエントラスへと直行し、係員に預けてもらった荷物等はベルトコンベアにて各自取ってようやく国際空港を出るが・・・

「外、さむっ!」

思ったよりとても寒い。俺達は持ってきた冬着を着込み再度外へと足を運ぶのだが・・・

「こ、これだけ着てもまだ寒いってのか?!」

日本の気候よりも厳しい寒さだろうな多分・・・と思えるくらいに猛烈な寒さが襲ってくる。まだ国際空港の出入り口にて足を留めてしまう。ふ、と目を国際空港近くに向けると、電光掲示板を見つけ温度が記されていた。その温度は・・・

「わ、9℃だってさ」

「へ?日本の気候とあんまり変わらないんですか?かなり寒く感じるんですけど・・・」

フィンランドは寒いと思うイメージが頭にあるからその暗示的に寒く感じるのではないだろうか??

「よし、みんなっ、とりあえずこっちよ〜」

紬は、はりきって俺達を紬の別荘へと案内するようだ。まずは荷物邪魔だから別荘に置いとくそうなので俺達は二つ返事で了承した。

「まずは、バスを何回か乗り換えして、そして電車で何回か乗ったらすぐよ〜」

「おうっ!って、大雑把(おおざっぱ)だな!」

律のツッコミを苦笑いで聞き流し、紬による案内にただただ俺達は着いて行ったーーー。

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    ーーーーーーー


ヘルシンキから離れていないが、ようやくヘルシンキのとある場所に行き着いて目の前にあるのはどっかのお嬢様が住んでいるのではないか?という疑問が出てくる・・・。

見た目は・・・そう、城に近い雰囲気で白をベースにした色彩で周りには赤・黄・白のバラのガーデニングがきちんと手入れていて・・・

「ここは童話の国か?!!」

律のツッコミは空を突きつける。なんともメルヘンな世界が目の前にどん!と現れているのでツッコミをせざるを得ないのだろうか・・・?

「な、なんか・・・ここでならいい歌詞が浮かびそう・・・うさぎさんぴょこぴょこ・・・うんっ、いい出来だっ!」

澪は、訳の分からないことを口走ってしまうが、気にもしない。

「す、すごい乙女チックな場所ですね・・・。昔、こうゆうの憧れてたかも・・・」

梓も惚けて頬に朱を浮かべていた。憂も同じような表情で惚けて辺りをキョロキョロと見渡しぱぁ、と弾ける笑顔で『えへへ〜』と笑みを浮かべている。
が、俺はこの夢見る乙女達と思っている事が真逆なのだ・・・見るだけでも身体がかゆくてたまらない・・・。メルヘンすぎんだろっ!

とはいえ、せっかく紬が用意してくれた別荘なのだ。嫌なことを言ってしまったらこの旅行が楽しくなくなってしまう・・・。俺も笑顔作り紬に感謝の言葉を贈ることにする。

「あ、ありがとうね。こんなすごい別荘用意してくれて。私、うれしいよ。憂もうれしいでしょ?」

「うんっ!ありがとうございますっ!ムギ先輩!」

紬は笑顔を浮かべ、俺と憂に『気にしなくいいから』と気を使っている。うむ、ならば紬の言葉に甘えさせてもらおうか。

「じゃぁ、ごあんなーい」

紬が颯爽(さっそう)と玄関の扉を軽々と開き、室内の眩(まばゆ)い光に目を奪われる。
若干RPG風なエフェクトを出していた別荘の室内が徐々に姿を形成していく。

『おおっ!』

全員室内を見てか、驚愕(きょうがく)な声を上げて室内をキョロキョロと見渡すが・・・
天井にはでっかいシャンデリア。壁のいたるところに絵が飾っていたり、玄関先付近に高価そうな花瓶やら壺(つぼ)やらアンティークっぽいクマのぬいぐるみ。

リビングらしき所にはふっかふかのソファーやこれもまたふっかふかしてそうなイス・・・その下には豹(ひょう)の姿をしている絨毯(じゅうたん)らしきもの・・・

そしてこの別荘は2階建てなのだろうか螺旋(らせん)階段らしきものがあったり・・・他にも珍しいものがあるのだがいちいち言ってはキリが無い。

「す、すげー!見ろよ!壁から鹿みたいなのが生えている!」

「ひぃっ!」

なんということだろうか・・・鹿の頭が堂々と壁から出ている・・・こんなものまであるのかよ。。。
澪ほど怖がりではないが、妙に恐ろしい。

「みんな、荷物は部屋に置いておこうか」

この別荘の主である紬は慣れているからかテキパキとした指示を与えている。どうやら寝室は二階にあるのだそうで、各自二階のフロアに足を運ぶと・・・

「この階はね、寝室とビリヤードとダーツの部屋しかないの。ごめんね」

見事にフローリングと部屋に入るドアしか見当たらないが・・・ドアの数が五つある・・・ということは・・・

「え・・・と寝室の数足らないんじゃないんですか?私達六人ですし・・・」

そう、梓の疑問は当然である。だが、一部屋の寝室に一つだけしかベッドが無いと思っている我々凡人の考えが紬の一言で覆(くつがえ)られる。

「大丈夫よ。一部屋四つずつベッドあるから」

『ええ?!』

ということで俺、律、澪、紬が一緒の部屋に。梓、憂が一緒の部屋にと学年ごとに別れさせる。

「ほら、一緒の学年のほうが落ち着くかな、って思って」

紬による説明は憂や梓の為に伝えるが、俺達はそういった理由では無い。梓や憂の為に新しく歌詞を作るのだ。そんな俺達の思惑を知らない梓や憂は首を立てに振り肯定の意を表す。

「今、フィンランドの時間で一七時だから・・・あっ、そうだみんなに案内したいところがあるの♪」

「案内したいところ・・・?」

俺達は衣類等が入った荷物を部屋に置き、ユーロ等の貴重品だけは持ち、紬の案内のもと俺達はせっせと足を運ばせていくのであったーーーー・・・。


















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