小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第87話

紬による案内によりヘルシンキ市街を歩き回りやたら背の高い外国人を珍しい眼差しで見つめたり、ヘルシンキの有名な市場らしきカウパットリ(マーケット広場)を見たり、野生のリスが現れ癒されたりと各種様々珍しいものを一気に見られた訳である。うーむ、やはり外国はいいなぁ。

「『へぃ、お嬢さん達。ご機嫌麗しゅう。どっから来たの?ここには観光に来たの?』」

なんと突然背の高くてサングラスを装着し黒色のジャケットにGパン姿のフィンランド人の男性が現れ、急に英語らしき言葉で話しかけたのだ。(※私は英語が苦手なので和訳済みのセリフにしたいと思います。『』の記号が英語を喋っていると理解していただきたいです)

「え、英語ですよっ?!む、ムギ先輩っ!」

「へ?えーと、日常的な言葉しか喋らないけど・・・こほん、『私達は日本から来ました』・・・でいいかな?」

「えらく簡単な会話だな、ムギ」

律は紬にジト目で睨む。それはそうだろう、今のはいくらなんでも中学生でも言えることだろう。
はぁ、仕方ない・・・俺がひと肌脱ぎますかね。

「『この子の言う通りで私達は日本から来ました。で、このフィンランドに来た理由なのですが・・・まぁ、観光に来ました』」

観光の為来日したという理由は若干あっているから別に否定することはないだろうだから適当に話す。

「わ、お姉ちゃん英語喋れたんだ・・・やっぱりお姉ちゃんすごいっ!」

「いや〜でへへへへ」

憂からのべた褒めで照れ笑いをしてしまう俺・・・やはり褒められたら恥ずかしくなるのは性格のせいだからなのだろうか・・・?

「『おおぅ!君、英語が喋れるのかい!時間があるなら私がフィンランドの観光名所案内してあげるよっ』」

うーむ、ナンパのつもりなのだろうか・・・男はニヤニヤしている・・・。だが、フィンランドを体験している紬のほうが安全性はある。今さっき男が喋っている事をいまいち分かっていない律達に通訳してあげ、紬はどうしても案内したいところがあるらしいので断って欲しいのこと。

「あ、そうなんだ・・・『あの、ごめんない。せっかくのお誘いですが、お断りします』」

「『ん・・・そうか、じゃフィンランドを楽しんでねっ!お嬢さん達!』」

男は落ち込んだ表情をして俺達に手を振り別れを告げる・・・だが、ここはまだ市街なので周りに人、人、人だらけでヒソヒソ話が聞こえてしまう。

「『ん?ちょっとあの子達、外国人かな?可愛いな〜・・・どっから来たのかな?』」

「『お、お前・・・あの子達はまだ子供だぞ・・・お前・・・ひょっとしてロリコンか・・・?』」

「『断じてちがうっ!フェミニストだっ!』」

やはり男達の視線が気になりだしてしまう。この場から早く立ち去りたいので紬に早く案内して、と急かして急ぎ足で紬の案内をただただ着いていくことに専念する。

       ーーーーーーーーーーーーーーー

「ここよ〜」

歩くこと十数分、目の前には大人が立ち寄りそうな酒場・・・バーが目の前にある。水色の看板に『hope』と書かれている。(※hopeとは英語で希望という意味。ちなみに実際にある酒場ではありません。空想の名前です)

バーの外装の見た目はベージュ一色のみのシンプルな見た目であり、店内を覗ける窓が数枚あり、その中の様子を見てみるとフローリング、木で作ってあるイスやテーブル。植木なども店内にちらほらと散りばめられて自然を感じさせるものであった。

「私の知り合いのバーなんだけど予約制みたいで今日の日になんとか予約できたの。他の日も予約できたかもしれないけど、たまに有名な芸能人とかが来ちゃうからその予約が先延ばしになっちゃうかもしれないから・・・急にごめんね?」

紬はおずおずと反省の言葉をぽつりぽつりと言うのだが・・・

「ムギ、まだ私達は未成年だぞ?お酒なんて・・・」

澪は心配の声を上げるが、律や梓、憂も心配そうな顔をしている。日本は二十歳からと定められているし、なにより酒を飲もうだなんて思わない。まさか・・・フィンランドでは十八歳からでもいけるのだろうか?(※フィンランドでもお酒は二十歳からです)

「大丈夫よ、ノンアルコールのドリンクもあるから」

紬は弾ける笑顔で俺達に不安を掻き消してくれた。それはそうだろうな、友達に酒勧めるような奴では無い・・・

「バー・・・楽しみかもっ!ね?お姉ちゃんっ」

憂は、テンションが上がりつつ店内の扉を開き俺達も店内へと突入。

「『いらっしゃいませ。おお、これはこれは紬お嬢様。お待ちしておりました。どうぞVIP席へ・・・』」

「へ?む、ムギちゃん?VIP席って・・・どういうことなの?」

紬、俺以外のみんなはぽかんとしている。他のみんなはいらっしゃいませぐらいは聞き取れたらしいのだが、VIP席以降の言葉は通じていないらしい。

「え?私、ここに来る度にVIP席だから・・・あ、クセでつい。うふふっ♪」

おいおい・・・ここに来る度にVIPだと?どんだけすげーんだよ・・・このおとぼけお嬢様は・・・。
まぁ、VIP席という言葉は惹かれるな。

閑話休題。さて、紬の手配してくれたVIP席に店員は案内してくれるそうだ。どうやらこの酒場は二階建てで二階のフロアにはVIP専用というように区分しているようだ。一階フロアにいる客は結構ちらほらと居たのでこの酒場は結構、繁盛(はんじょう)しているなと理解できた・・・

だが、二階に続く階段があり、その階段が一階フロアの客全員に見える配置にあり、俺達が二階へと進むのを目を点にして驚いているのが手に取るように分かってしまう・・・。

「あのね、この店は前まで民家だったらしんだけど、その家主がとてもお酒が好きで、このBerを開店したんだって」

そして繁盛して今至る・・・か。うーむ、その家主とやらが酒好きだからといってここまで成長するのかね・・・少し尊敬するではないか・・・。

「『こちらでございます』」

やっとVIP席への入り口なのか俺達の目の前に木製のドアが待ち構えている。店員は軽やかな仕草でドアを開け、俺達はVIP席の中を見て・・・

「わーっ?!すげー!」

中はピンク一色の壁、フワフワのピンク色のソファー、半透明の机、壁にはダーツ。カラオケもできるのかマイクとテレビとタッチパネル。フローリングの上にフカフカの絨毯(じゅうたん)。六人の客が入ってもまだまだ人が入る部屋の広さ・・・

「『ごゆっくりどうぞ』」

店員は用が済んだからか、スタッフルームの奥へと消えていく。これは、長旅の疲れも一気に取れそうだな・・・

「じゃ、好きなの頼んでいいよ。メニューはこっちで注文するのは壁にある電話ね」

配置的にはカラオケルームを連想して欲しい。今俺達がいるのはもっと豪華なカラオケルームだ。いや、こんな場所をカラオケルームと総称していいものかと思うのだが、まぁそんな感じだ。

「と、とりあえず飲み物を頼もうかな・・・いろいろ驚きすぎて喉が乾いたよ」

澪はメニューを睨むのだが・・・澪は『アルコール入ってないの何か分からん・・・』と呟いてしまう。俺と紬とでメニューを見てノンアルコールの欄を見つけ各自このノンアルコール欄に記載されているドリンクを注文し、ものの数分後店員は頼んだ商品を乗せた盆を持ち颯爽(さっそう)と登場。

「早いですね・・・やっぱりこの部屋だからですか?」

梓は首を傾げ、ワイングラスを持ち興味津々に眺める。俺も自分が頼んだベリージュースのアイスが入ったグラスを持ち、まるでワインを飲むかのようにとりあえず軽く回す。

「わぁ、淡い桃色の透き通った液体・・・なんだか神秘的だ・・・」

とりあえず口に運び、こくりと軽く一口。む、こ、これはっ!!
ごく薄い蜂蜜水のような甘さに、これも風味の強いワイルドな感じのストロベリー水のような風合い・・・適度な甘味と酸味があって、とても美味しい・・・。

「わ、このkahvi(カハヴィ)だっけ?濃いな〜」

律が頼んだkahvi(カハヴィ)とはフィンランドのコーヒーだ。律の言う通りフィンランドのコーヒーは濃いめでスタバ系に近いそうだ。(※スタバ系とはスターバックスというコーヒーのチェーン店名です。
イタリア式コーヒーのエスプレッソを主体としてます)

みんなで飲みつづけ、俺の意識がだんだん消えていく・・・みんなの顔がいくつも見える・・・
それを見たのが海外旅行初日で見た記憶だったのだ・・・ーーーー

   −−−−−−−−−−−−−−

side 中野 梓

「ぅひっくぅ!」

私はフィンランドのクッキーであるジンジャークッキーをみんなと分け与え、頬張っていているところ・・

「ぅひっくぅ!」

唯先輩は顔を真っ赤にさせながらシャックリを出していた。この時私は、ただのシャックリだと思って唯先輩のもとに駆け寄り、背中をさすってあげたんだけど・・・

「ぅひっく・・・お?なんだぁ?」

「へ?や、シャックリ出ているんで、止めさせようと・・・」

私は再び唯先輩の背中をさすっているけどなかなか唯先輩のシャックリが止まらない・・・。

「ん〜?なんだぁ〜?ひっく、唯の奴どうしたんだ〜?」

澪先輩もシャックリを出しつつ、唯先輩を心配してくれているんだけど・・・私は唯先輩をさすっているので澪先輩のことを律先輩に頼んでみることに。

「あ、あの律先輩、澪先輩のシャックリを止めさせてください」

「おう。大丈夫か〜?澪ちゅわ〜ん?」

「ん・・・えへへ、もっと♪」

澪先輩は律先輩の体に手を回し、体を密着させたっ?!なんで?!こんなことは澪先輩しないはずっ!

「お、おい・・・??澪?」

「んふふふ〜♪なぁに?り〜つぅ〜」

「なっ?!!」

澪先輩は律先輩の体にしがみつくように抱き着いていた・・・こ、こんなにはっちゃけた澪先輩を見たことない・・・。とりあえず、ムギ先輩に助けを求めたいんだけど・・・

「ぽぉ〜・・・」

相変わらず自分の世界にトリップしてしまう。こうなったら唯先輩しか頼りになる人が無いから、唯先輩に何とかさせたい一心で助けを求めてみることに。

「あ、あの、唯先輩・・・澪先輩いったいどうしたんでしょうね?」

「へ?んなもん、知らん〜、うりゃっ!」

唯先輩は私に抱き着いてきたっ?!ホントのホントにどうなってんの!!?

「えへへ〜お姉ちゃんっ♪梓ちゃんっ♪」

憂は私に抱き着いている唯先輩ごと抱き着いてきた?!

「お、おいおい・・・まさか・・・酔ってんのか??」

「え?全部ノンアルコールの飲み物だったはずなんだけど・・・はっ!!もしかしてっ」

ムギ先輩は何か思い当たる節があるそうで、私と律先輩は怪訝そうな表情でムギ先輩の話を聞くことにした。

「きっと、場酔いね!」

「「場酔い?」」

場酔い・・・それってお酒を飲まなくても酔っちゃうってこと?!じゃぁ・・・澪先輩や唯先輩、憂までも場酔いってことなの?!

「ぜ〜んぜん酔ってねぇっての!コノヤロー!」

「や、酔ってんじゃん・・・てか、唯・・・口調が荒々しいんだけど・・・」

「えへへ〜、お姉ちゃん酔っちゃったの?しょーがないな〜・・・」

憂は唯先輩を酔いを醒ませようと背中をさすっているんだけど、それで酔いが醒めるわけがないので唯先輩はドリンクを次々と頼み飲み干して、顔を赤らめている・・・オヤジですか・・・

「り〜つ〜、飲めよ〜。ムギもほれ〜」

「や、私は・・・えーいっ!私はもう知らーん!」

「りっちゃん、やけ飲みねっ!」

「意味が分かりませんよ!ムギ先輩っ!」

こんな感じのばか騒ぎは数分続き、ムギ先輩や律先輩は唯先輩達を心配し肩を貸して、なんとか歩かせてムギ先輩の別荘に着き、唯先輩達をベッドに寝かせ酔いを醒めるのを祈り、こうして海外旅行初日の過程は過ぎたーーーー。


-88-
Copyright ©かがみいん All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える