小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第88話

side 平沢 憂

(海外旅行の二日目)朝、目が覚めたらベッドに寝ていたの。

「あれ・・・?ここってムギ先輩の・・・なんで私こんなとこに・・・?」

お姉ちゃん達とムギ先輩が案内してくれたバーでいろいろ飲んだり食べたりしたことは覚えているんだけど・・・その先のことを全く覚えていないの。

「あ、おはよ。憂大丈夫?」

「・・・?梓ちゃん?何のこと?」

梓ちゃんは私の顔を見て心配そうな顔をしていることが分かったの。う〜ん・・・何か心配させることしちゃったのかな?

「へ?覚えてないの?」

「え?うん。何か心配させちゃった?ごめんね梓ちゃん」

「あ、いやいやっ!大丈夫だからっ!」

梓ちゃんは手を振り昨日起こった出来事を聞いてみることにしたの。

「え〜と・・・昨日はバーで飲んだり食べたりして・・・この後どうしたんだっけ?」

「ああ・・・そこまで覚えているんだ・・・」

梓ちゃんは昨日の事を苦笑いで話してくれたんだけど・・・そっか・・・私、酔っちゃってお姉ちゃんや律さん達に迷惑かけちゃったみたい。こんな貴重な海外旅行なのに雰囲気壊しちゃったね・・・。

「そ・・・そうなんだ・・・場酔いで・・・みんなに謝ろう・・・」

「いいや、いいよ憂。憂だけしか酔ったってことじゃないから。唯先輩や澪先輩だって酔っちゃったんだから」

「ええっ!?」

梓ちゃんの言葉に驚いちゃう私。澪さんやお姉ちゃんも酔っちゃったんだ!私、なんで酔っちゃったんだろう・・・見たかったな〜どんな感じだったのかな?お姉ちゃんの酔っ払いっ♪

「・・・憂、なんで嬉しそうなの?」

「・・・はっ!そ、それよりみんなのとこに行こうっ!ね?もうそろそろ起きている時間かもしれないしっ!」

「う、うん。そうだね」


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同時刻

side 平沢 唯

夢なのか夢じゃないのか訳の分からない夢を見て、深い眠りから覚めたと思う。俺はいつの間にか別荘の寝室にて寝ていたようだ。
まだ重たい瞼(まぶた)を仕方なく徐々に開くと・・・

「うふふふ♪唯ちゃん、おはよ〜」

目を開けた瞬間、紬の顔が現れた。

「のわっ?!」

俺は驚きすぎて大きな声を出してしまった・・・が、それもそうだろう起きた瞬間、人がぬっ、と出現したから恐れ戦(おのの)く。

「うふふ〜、寝起きドッキリをするのが夢だったの〜」

紬は朱に染まった頬に手を当てくねくねと動いて、夢だからやってみたかったと供述しやがった。なんで俺なんかにやるんだよ・・・。

「りっちゃんや澪ちゃんは私より早く起きたから出来なかったの〜」

紬は無邪気に笑って楽しそうにしているので、怒るのも野暮ってもんだ。

「お、おはよう唯・・・私達酔ってたみたいだな・・・はぁ・・・」

「ほえ?」

澪は落ち込みながら自分が不甲斐(ふがい)ないと反省しているようだが・・・はて?俺達が酔っていただと?アレはノンアルコールではなかったというのだろうか?
紬によると、場酔いという現象でアルコールを飲まなくてもその場の雰囲気で酔ってしまう人物がいなくもないという話だ。
もしアレが本物の酒だったらどうなったんだろうか?もっとはっちゃけたと思うんだがな・・・。

「唯ちゃん、男の子らしくてカッコよかったわ〜。」

「そうだぞ、唯。男口調でハジケてたぞ?」

紬、律は俺をちょいちょいイジるのだが・・・や、だがまて俺が男口調だと?いつも女口調だったからそれが自然体になったんだと思ったのだが・・・やはり心は男なのだ。俺の中の抑圧された何らかのストレスにより元の口調が出てしまったんだろうな。

がちゃ

俺達の寝室の扉が開き、憂と梓が現れて風呂に入ろうというのだ。
ああそうか、酔ってしまって風呂に入れずに寝てしまったから昨日の疲れは少々溜まっている。

「うん、お風呂は一階のフロアにあるからついてきて」

この別荘の間取りを知らない為、紬に案内してもらう。ちなみに一階フロアは三十畳以上の広さは超えていたのでどこに何があるか気になるのだが、探検は後だ。

ーーーーーーーーーーーーーー

「わ〜っ!銭湯みてぇ!!」

「す、すごいです・・・普通に日本の銭湯ですね・・・」

銭湯らしき風呂場に着いた・・・ご近所にある銭湯となんら変わらない広さを持つ湯船。そして富士山の絵が絵師によってか描かれている・・・。なんなんだよ・・・ここフィンランドだろうが。

「この別荘はフィンランドの知り合いが住んでいてね、その人が日本が大好きらしいからたのんじゃったんだって〜」

「ええっ?!ここ誰かが住んでたのか?!ここムギの別荘だろ?」

澪は驚きを隠せない声で紬に詰め寄るが、そのフィンランドの知り合いは仕事上の都合で寝床に困っていたらしく紬の親父や紬の案内により居候させているという話だ。

「じゃ、じゃあんまり散らかさないようにしないとね」

憂は両手をぐっと握り俺風に言うのならば『ふんすっ!』と言いたげなリアクションをとる。いいんだぞ〜ふんすっ!って言っていんだぞ〜憂よ。

「ううん、気にしなくていいよ。その人いつも別荘の掃除をしてるんだから〜」

「や、それはそれで気に掛けるというか・・・まぁいいか〜」

律は紬の、のほほんした性格が伝染したのか、のほほんとしてしまう。
紬の気にしなくていいからという言葉に甘えさせてもらい、脱いだ服を脱衣カゴに放り込み
とりあえず、湯船に入る前にボディスープで体を泡だらけにして隅々まで体を洗うのだが・・・
憂がやたら俺を見る・・・いや俺の体というべきだろうか、憂の目線は俺の顔より下を向いている。

「ねぇ、お姉ちゃん。胸、大きくなった?」

「へぁっ!!?いやいや、ないない。なってないから」

憂に指摘した自分の胸を眺めるが・・・待てよ・・・僅かに・・・いや・・・多少?大きくなってやがる・・・。3〜4日前まではぺったんこな胸だったのだ。Bカップという小ささだったのだ。
自分でもたまに胸のサイズを確かめているのだ・・・いや、これは自分の健康を気にしているからやっている行為で、決してヤラしい思いはしていないぞ?


閑話休題。なぜだ?仮にこの海外旅行中に2〜3cm育ったと仮定しよう。俺の胸にはブラというものがありやがる。そのブラはその2〜3cm育つ前の俺の胸に合わせて装着しているのだ。
そのブラで胸が2〜3cm育ったらどうなる?胸が若干苦しくなるものだろう。だが、一度もその苦しさを体験していない。

「な、なんだ?唯の奴、胸が大きくなったのか?」

「な、なんかずるいです」

「うふふっ♪」

憂の証言は風呂で響き渡るのでこの場いる全員に伝わり、律や澪、紬、梓が体を洗い終えたのか湯船につかって俺と憂とのやりとりをみてる。ちくしょう・・・なんなんだ俺が何したってんだ・・・。それから紬よ、お前は一体何に期待してるんだ。

「や、気のせいだから・・・はっ!遠近法だよ!」

「使い方違いますよ・・・でも、確かに大きくなったような・・・」

口から適当にでまかせを言ったのだが、すでに遅し。

「さ、さわっていい?お姉ちゃん。この前私の胸調べたから次は私に・・・」

「覚えてるんだ!?」

「次は私の番ね♪唯ちゃん♪」

「なんで!!?」

とりあえず、俺達は湯船に浸かり、憂はにこやかな表情をして手を俺の胸にそろりそろりと近づいていく。全員、俺と憂とのやりとりを温かい目で見守っている・・・や、助けろよ!

「じゃぁ・・・」

憂の手が俺の胸に・・・吸い付くようにぺたっ、と添えて若干揉むように手を動かしていた。

「・・・ぅ・・・も、もういいでしょ?あんまり大きくないでしょ?」

「あ、あとちょっと・・・」

だんだん憂の手の動きが怪しくなってきた。俺の胸を撫でまわすように手を動かしていく。

「ぅひゃぁっ?!ももも、いいでしょー!」

「や、やっぱり大きくなってるよ!お姉ちゃん!うんっ!」

何を根拠に言っているのか分からないのだが、めんどくさいのでもう大きくなったことにしておこう。

「次、私の番ねっ♪」

何をイキイキいているのか分からないのだが、目を輝かせている紬がいる。当然、俺の選択肢は断る一択
だったはずなのだが・・・紬は、俺の後ろに回り後ろから抱きつくように胸を撫でまわす。

「私ね、こんな風に友達の胸を確かめるのが夢だったの〜♪」

「それはよかったね〜!って、やっぱ無理だってぇ〜!」

紬のはっちゃけた行動は全くやめようとせず、ただただ時間のみが過ぎていたのであったーーーー。


ーーーーーーーーーーー

風呂から出て、俺の胸が若干赤くなり若干ヒリヒリしてしまった。これ以上大きくなったらどうしてくれんだコンチクショー。

とりあえず、着替えを着て湯冷めしないように暖かい暖炉らしき場所まで移動。ありとあらゆるものまで揃っている別荘に驚いたのだが、もう驚きすぎて悟ってしまった。

「だ、暖炉まであるのか・・・すげぇな」

「うふふ♪」

〜♪♪♪プルプル〜♪♪♪

突如、紬から携帯の着信音が鳴り響き、紬は『ごめんね』と一言謝り、その場を立ち去り奥で何らかの話をしているようだ。

「はぁ、ムギ先輩って一体何者なんですかね?」

梓は別荘の室内を物珍しく見渡し、そんな別荘を用意した紬の正体に疑問がついてしまうようだ。確かに、小さな夢がたくさんあってそれに金持ち・・・一体何をしたらそんな裕福な暮らしができるのだろうか・・・?

「はっ!ひょっとしたら石油王?!」

憂の的を得ているような得ていないような発言を俺は聞き流し、ソファーに座り紬が風呂上りに用意してくれたフルーツ牛乳をグビグビ飲んでいた。

すると、紬が話を終えたのか携帯を閉じ、俺達のもとに駆け寄り、あるモノが届いた事を報告してくれた。

「みんな、楽器が届いたよ」

なぜ楽器を俺達が持ってきていないかというと・・・まぁ、回想でどうぞ。

〜【回想】〜

時は海外旅行前日。俺達は楽器を持って海外で、『あること』の為に練習をしようと提案していた。
だが、梓や憂は

「え?その旅行ってもとは先輩達の卒業旅行ですから、先輩達がのんびりするはずじゃ・・・」

「そ、そうだよ。急すぎるよ・・・」

こいつらの言い分は分かる。だが、卒業まであと少しなのだ。だから・・・

「ううん。憂や梓ちゃんにもっともっと上手くなってもらって後輩ゲットしないとね」

これを理由として挙げさせてもらった。憂や梓の為だけじゃない。後々の後輩の為、軽音楽部の為だ。

「だから、私達は憂ちゃんや梓に協力するんだ。だから、何も言わずに・・・な?」

「「は、はいっ!」」

だが、この理由だけでは無い。憂や梓の為に新曲を作ろうと俺は決心いていたのだ。もちろん、憂や梓はこのことを知らない。
律、澪、紬だけにメールにて新曲を作る旨や同時に憂や梓にはサプライズで卒業式に新曲を演奏することを心にしまっておく事も用心深く伝えることが出来たーーー。

〜【回想終了】〜

という訳で、海外旅行に行ってまでその『あること』の為に練習することになったのだが、楽器等は紬の手伝いさん(?)によって手配してくれるそうなのだ。だが、楽器ぐらい自分で持ったほうがいいと思うのだが、楽器は重くて荷物になるから、行きも帰りも手配してくれるという紬の懐の深さに俺達は甘え、今至るということだ。

俺達全員、玄関先へと移動し紬が玄関のドアを開け、俺達の前には執事服をビシッと着ている初老風のおじさんが体を真っ直ぐにして手はお腹に添えて

「お待たせしました、紬お嬢様。皆様の楽器はこちらにございます」

執事は手を執事から見て右方向に指し、ギターやベース、キーボード、ドラムが台車に置かれていた。

「ご苦労様、斉藤(さいとう)。じゃ、運んでちょうだい」

「かしこまりました、紬お嬢様」

俺達は紬と執事のやりとりにポカーンと口を開きっぱなしだ・・・。
みんなは他の異次元にトリップしてしまっていて身動きが取れない状態でいた・・・。もちろん、俺も含めてだ。だが、そんな異次元からいち早く舞い降りた俺の意識がはっ、と気づき。

「え、えっと・・・手伝いましょうか?重いでしょう?」

俺の一言でみんなの意識も取り戻せたようだが、未だに頭の中が混乱しているようで何かをしたくてアタフタしていた。

「いいのよ、気にしなくて。ほら、あの部屋で練習やりましょうか」

紬がある部屋を指さし、執事はわずかに首を縦に振り、ドアを両手で鮮やかに開き、執事は俺達の邪魔にならないように通路を退けて、お先にどうぞと言わんばかりの笑顔で俺達に微笑み、若干焦りながらも室内へと歩を進め・・・。

「お〜・・・二年の時に行った合宿みたいな部屋だ〜・・・」

室内は高校二年時に行った合宿のような間取りで床がフローリングで出来ており、防音対策が施されているだろうと予想されるような壁が四面にあり、外の様子が眺める小窓がいくつものある。

「おお・・・エフェクターがいっぱいある。アンプも結構大きくて演奏の音もよくなるんじゃないか?」

澪は物珍しくエフェクターを眺めるのに必死だ。・・・しかし、なぜこんなものがあるんだ?
そんな疑問を紬に答えてもらうと・・・

「ここに住んでいる人も私達と一緒でバンドやってるわ。一回聞いた事あるけど、とっても上手なの」

まさかのご都合主義だ。まるで、前々から俺達がこの別荘に来てバンドの練習をするという行動を知っていたかのような・・・もういい・・・俺は、考えることをやめた・・・。

「配置終わりました。紬お嬢様」

『はやっ!?』

俺達がいろんなものを見ていて楽器の事はすでに忘れていた。だが、見ているのはものの数分だった。執事はそのものの数分でドラムやら何やらのセッティングを施したのだ。

「では、私はこれにて。皆様、フィンランドを心行くまでご堪能くださいませ」

「は、はいっ、わざわざありがとうございました!」

「な、なんだか申し訳ないですね・・・」

執事は深くお辞儀し、この部屋を出て、紬以外の全員は『はぁ〜・・・』と緊張の糸が解れて体に力が入らないのかだらっとしていた。

「き、緊張したーっ!」

「本物の執事って初めて見たな・・・」

執事を見た衝撃が大きくてしばらくは動けずじまいだったのだが、ようやく練習を始めるようになり、
休憩や昼食、夕食を交え、各部屋に各々別れ、今回の肝の話となる新曲作りをみんなと話し合うことにしたのだったーーーーー。












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