小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第89話

海外旅行二日目の夜。俺達は新曲を作ろうとしているのだが・・・

「ラブリー☆ラブリー!」

「なんでそんなにファンシーなんだよっ!」

「犯人はヤスっ!」

「何の犯人なんだよっ!ってかヤスって何だ?!」

こんな感じにグダグダである。ボケ2人に一人のツッコミの漫才を聞き流し、俺も何か案があるものかと思案しているところだ。

「じゃ、律はどうなんだよ」

「へ!?え、えーと・・・アルミ缶の上にあるミカン!」

だが、いきなり歌詞作りともなると急には、いい歌詞が浮かび上がらない。律に至ってはただのダジャレだ。

「くっ!!頼みの綱は唯だ!唯ー!なんかないのか!」


律は俺に何かを期待している目で見つめてくる・・・はぁ、やれやれ。

「うーん・・・まだ何も浮かびこないよ?」

「ずこーっ!!」

律は古臭いリアクションをとるのだが、それをやらないと気が済まないのか?律よ。


「うーん、さすがにいきなり考えるとなるとな・・・頼む!澪!唯!何とかしてくれぇーっ!」

なんともみっともない部長であるが、人には得意、不得意があるのだ。俺達は足りない部分を補って支え合っているのだ。だからこの『放課後ティータイム』が成り立っている。


「とりあえず、外に出るよ。何か浮かぶかもしれないしね」

俺はベランダへと歩を進め、クソ寒いであろう外に出たのであったーーー。


ーーーーーーーー

外は星が煌めいていて澄んだ空気と寒い冷気がそよそよと流れていく。

「ふむ、歌詞ね〜・・・」

ベランダの鉄製の手すりに身体を預け、何かいい歌詞が浮かびこばないのかと思案していくのだが・・・

「・・・はぁ、なーんにも思いつかん・・・才能ないのかね?」

憂や梓、そして今後の新入部員の為に頭を捻るが、ぱっぱっと思いつく筈も無く、自分が不甲斐ない。

「うわっ!?寒いー!でも、ここでなら頭冴える気がするぜー!」

後ろから律の声がすると思ったら律も俺と同じで歌詞を作ろうとしていた。

「おお・・・頼むよ〜律ちゃんや。」

「おうっ!任せとけ!」

「律だけじゃないぞ、唯」

「私達も頑張るわっ!」

クソ寒いベランダに澪、紬の登場。俺の気まぐれな思いつきに付き合ってくれるこいつらに大感謝だ。ふふ、さてもう一踏ん張りいきますかね。

「よしっ!頑張っていこーっ!」

『おうっ!』

一致団結。お互いがお互いの為に、一人は皆の為に皆は一人の為に、幾つもの絆が絡み合い太く一つに纏まっている。これが、『放課後ティータイム』なのだ。


「あっ、あっち!見て見ろよっ!」

澪は空を指差し、俺達は指差した方向へと視線を移すと・・・

『オーロラだっ!』

天には、神秘的な衣がゆらゆらと動いて、多彩な色が動いている衣に合わせて色彩が変わり、まるで散髪屋の前にあるグルグル回る奴のように・・・ってあんなものと比べる俺って、全然感動しないのな・・・。


「おおっ・・・なんだかいい詞が浮かび上がるっ!・・・そうだなぁ、白鳥さんDEダンスダンスとかっ!」

横で訳の分からない澪の呟きはほっといて、見事な景色だ・・・憂や梓はこの景色を見ているのだろうか

ふ、と横を見てみると・・・

「あっ、お姉ちゃ〜ん!」

隣のベランダから憂や梓の姿が見えたのだ。俺達は歌詞作りで気まぐれで外に出たのだが、憂達は何をしに来たのだろうか?

「あ、先輩達何をやってるんですか?もしかして眠れないのですか?」

梓よ、それはこっちのセリフだろうが・・・。まぁいいか。俺達の目論見がばれないように適当に『そうだ』と答え、『へぇ〜・・・』と軽い返事を返される。憂達の様子を見ても、何も気づいていないと分かって、空のオーロラを鑑賞していたのだ。

「綺麗だね〜・・・」

「うん・・・」

そのオーロラはまさしく天にいる天使からの贈り物のように見え、その天使は俺達にがんばれと背中を押しているように感じたのだーーーー。

ーーーーーーーーーーーーーーー

しばらくの間、オーロラを満喫して自分達の部屋に戻り、俺達は歌詞作りに挑むのだが・・・

「やっぱ、難しいよな〜・・・」

律、澪、紬は頭を抱えてうんうん唸っているのだが・・・俺はあと少しで・・・何か思いつきそうな気がするのだ。先ほどのオーロラを見て俺は『天使の贈り物』だと感じた。ふむ、俺にとって憂や梓は天使そのものだから題名に『天使』という単語を入れたい・・・。

「・・・天使・・・う〜ん・・・」

「え?!な、何か思いついたの?唯ちゃん?」

俺は無意識に言葉を発し、何かを期待している目で俺を見るのだが・・・

「へっ?!」

俺は何を言っているのかわからない状況にいる。紬の発言により、律や澪が『なに!?なに!?』と目を輝かせて、ずいっと俺に顔を近づかせて、ただならぬプレッシャーを送りつける。

「え?えっと・・・何か言ったっけ?」

「さっき天使って言ったじゃない!それって題名?歌詞?」

「でも、天使ってだけじゃ、ダメだと思うな。私なら『天使のうさちゃん』とか」

「なんなんだ!その『天使のうさちゃん』って!ファンシーすぎるわっ!」

放課後ティータイム特有の漫談を聞き流しさらに頭を絞ってもうあと一押しの題名を作り上げる・・・。本来、歌詞を作ってから題名を考えるのだが、今回は憂や梓の為のテーマなので、題名を考えたほうが、スラスラと歌詞を書けるような気がする。

「むむむ・・・」

『ごくり・・・』

俺は腕を組み、集中力を高め『天使』という単語の前後に当てはまりそうな単語を考えるのだが・・・
  ?『天使の微笑』?       ?『天使の晩餐』?
?『天使の口笛』?   ?『天使の音色』?       ?『かけがえのない天使』?

頭の中にグルグルと単語が渦巻き切羽詰っている状態だ。だが、どれもしっくりくるようでしっくりこない・・・。

(もう一度考えてみろ!俺よ!てめぇの後輩想いはそんなもんか!)

ここでもうひとりの自分と葛藤している・・・。俺は一生懸命こうやって後輩の事をだな・・・

(んなもん、てめぇの自己満足だろうが!一生懸命考えてるだぁ?そんなもん、毎日思って当然だろうがぁ!)

・・・やれやれ。もう一人の俺ってのはかなり俺に厳しいな。後輩を一生懸命考えて、想って、笑って・・・。そんな大切な事をいつの間にか『当たり前』だと無意識に自分の中に隠していたのだ・・・。
姉想いの優しい憂。なんだかんだでティータイムに依存している優しい梓。そいつらに会えて良かった。

こんな俺達に付いてくれて『ありがとう』と伝えたい。そして、憂や梓に『触れ合って』楽しかったと伝えたい。俺は、思考の海から、ある単語が浮かび上がった・・・!

『ふれたよ』

俺は、部長だけどリーダーには向いてなくて、でも時折リーダーとしての才能を開花してくれる律。
怖がりで寂しがりで人見知りでファンシーな歌詞を作ってくれる澪。
金持ちで何を考えているのかよくわからない紬。
俺達の一番最初の後輩のやたらギターが上手い梓。
そして、悪い点なんてないのではないのか?と感じる我が妹の憂。

改めてこの連中がいる部活に、この『放課後ティータイム』に入れてよかったと思うような題名を、後輩に伝えるために、俺の口から発する。その題名とは・・・

「・・・『天使にふれたよ』・・・っ!うん、『天使にふれたよ』だ!」

『おおっ!』

こうして『天使にふれたよ』が誕生したのである。(※劇場版ではこのような誕生秘話では無いと思います。この作品のオリジナルの誕生秘話として扱います。ご注意を)

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