小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第90話

海外旅行三日目。
ようやく、題名が出来上がったところで安心して眠ってしまったのだが・・・

「ちぃ、しまったな・・・」

肝心の歌詞が出来上がっていないのだ。律達は題名が出来たことによる興奮で今も寝てしまっているのだ。

「これが、若さゆえの過ちなのだな・・・はぁ・・・」

かく言う俺も安心のあまりに寝てしまったのだ。何をやっているんだかね?俺は・・・。
反省を骨身に沁み渡るまでやり、歌詞作りを今回の旅行プランに合わせ思案していくことに決定。
律、澪、紬には曲作りを任せておくことにして、歌詞は俺一人で頑張ることにしたのだ。

「だ、大丈夫なのか?唯。歌詞はみんなで考えようよ」

「いや、大丈夫だよ澪ちゃん。澪ちゃんはベースラインとギターパートをしっかりとお願いね」

「お、おう・・・って、曲調とかどうするんだ?歌詞とかが無いと出来なさそうなんだ・・・」

「へ?そうなんだ。えへへ、大丈夫。頑張って早めに歌詞作るから」

「頑張ってね!唯ちゃん!私、曲作りやるから!」

若干、急ぎめで歌詞作りをしないといけないな・・・卒業式まであと少しなのにな。
それはそうと、今日の旅行プランはというと・・・

がちゃ
「「おはようございます!」」

さわやかな笑顔で俺達の部屋に入ってくる憂と梓。今日のプランをチェックしに来たのだ。

「えっと、今回は少し遠出しないとね!うふふ」

ーーーーーーーーーーーーー

朝食を素早く済ませ、紬は楽しそうに笑い、貴重品等を各自持つようにと指示をして、紬の別荘を別荘に鍵を閉めずに後にするのだが・・・

「ちょ、ちょっとまってください。別荘開いたままなんですけど!」

「大丈夫よ〜梓ちゃん。ね?斉藤」

「はい。私はこちらで留守にしております。」

いつの間にか紬の執事が現れている。フィンランドは治安がいいとはいえ、事件は無くはないから一応警備しといたほうがいいのだろうと、思っているそうで念の為に執事が留守番ということになっている。

「もし、お忘れ物がございましたら、いつでもご連絡ください。すぐに届けに参りますので」

それはないとは思うのだが、それも一応念の為の報告なのだそうだ。うーむ、この執事しっかりしてるな。

「うふふ。早く行きましょう。こっちよ」

ーーーーーーーーーー

ヘルシンキ近場の空港で飛行機に乗りオウルという町へと移動する。その旅行プランというのは・・・

「エアーギター大会か・・・楽しみだな〜」

1996年よりフィンランドで開催されている「エアギター世界選手権」。世界各地で予選が開催され注目度の高い大会で、予選を勝ち抜いた精鋭がボスニア湾岸のオウルに集結し、決勝戦が行われる。(※本当は8月末に開催されますが、本作ではこの時期に開催することとみなします。)

各国の予選優勝者は決勝にて、60秒にまとめた自分の好きな曲で行うフリー・パフォーマンスと、大会側が用意した60秒の曲を使った規定パフォーマンスの2つをこなす。大会の採点基準は、オリジナリティ、リズム感、カリスマ性、テクニック、芸術性とエアーな感じというなんとも曖昧な基準だ。

約1時間ほど空の旅を満喫し、オウルに到着。エアギター大会のチケットはだいたい10ユーロぐらいだったのですんなりと買えたのだ。(※10ユーロは2012年8月時点でだいたい970円程です。)

「たしか・・・あっ、あそこよ!」

会場は野球が出来るような大きさで、俺達は大きく口を開いてぽかん、としていた。
見た目も東京ドームのようなふんわりした屋根があり、どうも本物の野球ドームのような気もする。(※本来のエアギター会場もそのような印象ではないと思います。)

「わぁ、結構並んでますね・・・」

ゲート入口に大勢の老若男女が今か今かと待っていてその行列は数メートルまで長く続いている。

「さすが、世界大会だな・・・」

俺達が今から見るのは、世界大会のエアギターなのだ。当然、行列が多くなるのも必然なのだ。
俺達は係員の指示を得て、俺達も行列の一番後ろに並び、会場が開くのを待っているのだ。
始まるまであと2時間くらい待っていないといけないのだ。なぜそんなに待たないといけないのかというと・・・

「ごめんね、この大会って自由席だからいい場所取れないし、早く行かないとダメでしょ?近くで見てみたいし」

紬の言う通り、観客も選手も楽しみに来たので全ての者達に平等を、という主催者側の粋な計らいで、素早く並ばないと後ろ側のほうで見ないといけないのだ。それに我々日本人は背が低いし、外人はやたらと背が高いのだから、できるだけ楽しく見ようとする紬の提案に乗ったのだ。

「大丈夫だよ、ムギちゃん。それより、お茶くれない?」

「唯ちゃん・・・はい!お茶よ」

紬が用意してくれた魔法瓶の水筒にお茶が入っているので暖かい茶を淹れる事が出来るのだ。

「あ、私も少し飲もうかな?」

「私もです、ムギさん」

こうやってみんなと茶を分け合いつつ、時間が刻一刻(こくいっこく)と過ぎて、ようやく2時間が過ぎて観客達は係員の指示にしっかりと従って会場へと突入していく。

「わ、すごいですね。日本人なら我先に行くんですけどね」

「ああ〜・・・特におばちゃんとかね」

梓と日本人あるあると話し、俺達も観客達を見習い係員の指示を得て会場へと突入。
受付にチケットを見せ、俺達を奥の部屋に指をさして案内し歩を進め、重そうな扉がビニールテープ等で開いたままに固定されていたのでスムーズに入れることに成功。

『わ〜・・・』

入口らしき所を通過してようやくステージ前方向に移動することに成功。若干、背の高い外人がたくさん居るのだが、ステージが俺達の身長の胸元あたりぐらいの高さだったので出演者の演技を見るのには十分な高さだろう。ステージ隅には大きなスピーカーが置いてあり、そこから曲などが流れるであろうと予想される。

「おおっ!なんか興奮してきたっ!」

「ああ!私も!」

ステージの隅から金色のスーツを纏(まと)い、首元には大きな赤い蝶ネクタイ。アフロの髪型をしてきた司会者らしき人物がマイクを持って登場。な、なんなんだ?このやっすい芸人っぽい人は・・・

「『れでぃーーす、あーーんど!ジェントルマン!さぁ、今年もやって参りました、世界エアーギター大会!!』」

やたらとテンションが高いアフロ司会者の大声に耳をキーンとされることに若干腹が立つ俺。

「『今回は10組の偉大なバカ野郎が今大会の優勝を目指すのだっ!』」

ワァァァァ!と歓声が沸くのだが、参加者に向かって偉大なバカ野郎は失礼だろうが・・・。

「『優勝した者には、なんとっっ!フライング・フィンランドと呼ばれるカスタム仕様の透明ギターをプレゼント!さらにクイーンのギタリスト、ブライアン・メイから特製アンプが贈られるぞ!』」

司会者が景品を右手で指し、観客達はそれを見てさらにワァァァァ!と歓声を沸かせる。

「『しっかし、これ見てくださいよっっ!このカッコいいボデェー!!』」

お前はどっかの社長か。

「『ごほん、さぁ!お待たせいたしました!では第1組の方どうぞっ!』」

司会者はステージ隅へとそそくさと消失。代わりに髭面の老けたおっさんが登場した。

「『うぃぃーーーー!!』」

このおっさんは人差し指を挙げて観客に何らかのアピールを示すのだが、何に対するアピールなのかよく分からない。というか、憂に呼び捨てとは・・・こいつ気に食わん!(※もう気づいているとは思いますが、主人公は思いっきりシスコンです)

〜〜〜♪♪♪

スピーカーから、「Voodoo Chile(Slight Return)」というBGMが流れ、おっさんが何かに憑りつかれたかのように体をガタガタ震わせている。

「ひっ!白目むいてるっ!」

おっさんの突然の行動により、澪は怖さで震えてしまう。俺だって、若干トラウマになりかけたぞ・・・。

〜〜♪♪
イントロらしき曲調が流れ、ようやくギターを持っているかのように左手をネックの場所らしき所に、右手をサウンド・ホールの場所らしき所に添えて、チマチマ手を動かし・・・

「うわっ!ヘドバン(ヘッドバンギング)が激しすぎるっ!」

おっさんは頭を大きく上下させさり左右にブンブン頭を振ったりさせていて、かなり首に負担をかけていると思うのだが、おっさんは優勝の為に我慢しているっぽい。

「わ〜・・・楽しそう♪」

紬は少しズレているが、やっている本人は相当つらいものだろう・・・。俺はあれをやるのにはかなり遠慮しておくぞ。

〜〜♪♪ジャーー・・・ン〜〜♪♪

演技が終了して、おっさんはステージ隅へと消えて、またアフロの司会者がマイクを持って登場。

「『ありがとうございましたっ!!続いての偉大なバカ野郎!出てこいやっ!!』」

てか、お前・・・どんどんキャラが荒くなってるぞ・・・大丈夫なのか?
俺の心配はよそに、次々と参加者は演技を精一杯力を出し切るのを俺達は、楽しんで見ていたのであった・・・。

ーーーーーーーーーーー

全ての参加者の演技が終了し、残るは結果発表だ。
今まで気にしなかったが審査員がいないなーと思っていたが、俺達観客が見えない奥方で点数を出し合っているのだそうだ。

複数の観客達は帰っていくのだが、俺達は優勝者が気になるので最後まで見届けることにした。どれもこれもすばらしい演技だったので、だれが優勝しても文句はない。

数分過ぎて、アフロの司会者がステージに立ち、優勝者が決まったと報告。すると・・・
ワァァァァァ!!と今までない歓声が沸く。会場全体が揺れるような大きさだ。

「『さぁ!優勝した偉大なバカ野郎はいったい誰だ〜〜?』」

〜〜♪♪♪ドラムロール中〜♪♪♪ドン♪

「『日本から来た若きサムライ?モンチッチだぁぁ!』」

なんということだろう。この選手はサルの着ぐるみを着てエアーギターを挑戦していたのだ。演技中も結果発表時も正体を隠して動きにくそうだが、滑らかな指捌きやバク転や最後に弾いていた(?)ギターをぶっ壊すというパフォーマンスが審査員の心に印象が深かったという事で優勝の栄光を得ることが出来たのだそうだ。

「『これにて、世界エアーギター大会は終了だぁぁ!また来年も開催するぞぉぉ!はたしてどんな偉大なバカ野郎が来るのか楽しみだ!!みんな!!アディオス!!』」

こうして、世界エアーギター大会は幕を切ったのであったーーーー。



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