小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第94話

「犯人はーーー、ていうかそろそろ起きたらどう?律ちゃん。気を失ったフリをしないでさ」

『!!?』

みんなはハトが豆鉄砲が食らったような顔をしていた。いや、俺にはもうバレていると観念しているような顔をしているのも見受けられる。が、執事だけニコニコしていた。

「え?え・・・えと、まだりっちゃんは気絶しているわよ?」

紬は数メートル先の律の姿をちらっと見て、すぐにまだ気絶しているという答えが何の証拠も無いのにパッと出てしまうあたりに、『やはりか』と自分の答えに確信を持つことに成功できたのだ。

「み、澪さん。やっぱり・・・」

「ああ。そうみたいだな・・・」

「でも、気になりますよね。唯先輩がどうやって気づいたのか・・・」

三人は俺の目の前でヒソヒソと話すのだが、本人の目の前でヒソヒソ話はやめなさい。だが、紬はまだ納得していないからか少し頬を膨らませ不貞腐れている。なんなんだよ・・・。

「律ちゃ〜ん、起きてよ〜」

「唯ちゃん。なんで?だからりっちゃんはまだ気絶しているって・・・」

「そんな遠目で確認できるの?すごいね」

「あっ!で、でも、まだ寝てるし・・・」

「ムギ、もういいだろ?唯、お前の推理を私達に聞かせてくれないか?」

澪はムギを落ち着かせながらも、俺の推理を聞かせてくれと頼んでくるので仕方なく話すことにしたのだ。でも、まぁこんな事もたまにはいいかもしれないしな。

「では、まず一つ。私が起きた瞬間に事件が起きた」

「え?まぁ、唯を脅かせようとしたんだからな。でも、そんなの偶然な時もあるんじゃないか?」

澪はすかさず反論に出たのだが、なんで澪が驚くんだ?まさか、澪が首謀者なのだろうか?いや、別にこの際、首謀者は誰でもかまわないが。

「おかしすぎる。まるで、私が起きるのを待っていたかのようにね。そんなの漫画やゲームや小説じゃあるまいし」

「うーん、そうですよね。他に何か気づいたことは無いんですか?唯先輩」

梓は右手を顎に乗せていかにも推理していますよアピールを見せるのだが、それにはあんまり推理力には意味がないと思うんだがな。
おっと、梓の疑問にも答えないといけないしな。まだまだ疑問があるぞ。

「執事さんが律ちゃんの状態の報告についてだね。これがおかしいんだよ」

「え?私には普通だと思ったんだけど・・・なんでだ?」

澪は首を傾げ、もっと説明を求めて欲しそうだ。

「頭の状態しか言わなかった事。身体の怪我の状態を調べなかったことだね」

「む?それが一体どこがおかしいと仰るのですか?私にもお聞かせいただきたいですな。私が女性の身体を確認するのを躊躇ってお身体を調べなかった、という事もあり得るでしょう」

「頭は調べられたのに?まぁ、それもあるかもしれないけど、代わりに誰かを指名してでも身体を調べるべきだったね」

「で、でも、なんでなの?身体を調べても実際には外傷は無いし・・・あっ!そうか!頭だけしか調べてないし、それでか!さすがお姉ちゃん!」

我が妹の憂は俺の言っている事が分かっているようだ。さすがだ妹よ、俺は今猛烈に感動しているぞ。
が、澪と梓は『?』と言いたげそうな顔をしているぞ。おいおい・・・お前らは頭いいはずだったんだろうが・・・

「え、えっと・・・憂?説明してくれないかな?」

「それはね♪」

憂は俺と同じ事を考えているから嬉しいんだろうか、弾ける笑顔でみんなに俺が言いたい事を言ってくれるようだ。ま、これもたまにはいいだろう。

「執事さんが言ってたよね、律さんの外傷は後頭部だけのたんこぶだって。で、お姉ちゃんが言っていたように他のみんなで律さんの身体を調べるべきだったんだけど、それをしなかった事で疑問を持ったの」

「っ!!」

「う〜ん・・・っ!そ、そうか!なるほどな!だからか!」

「へ?へ?何がです?」

梓はまだ分からずじまい。はぁ、やれやれ・・・分かったのは澪と憂だけなのか・・・。執事も全てを理解できたようでニコニコと笑顔を俺に向けてくる。が、紬だけはしまった!とミスをしてしまったとたらり冷や汗を流していたのだ。


「ということは私達は大きなミスを犯したってわけなんだね・・・唯ちゃん」

「そう・・・。律ちゃんの頭部だけしか注目されなかったこと。他に気になる外傷の情報を与えないようにね。だだ、外傷なんてあったら警察沙汰になりかねないし、身体以外に大きな情報を作るために、実際に密室という空間を作りその情報を深く印象付ける為にね・・・違う?」

「私はそこまでのことを考えてなかったわ・・・完璧よ・・・も、もうお手上げだわ・・・」

「それともう一つ。大きな欠点があったんだよ。ムギちゃんや」

「え?!」

まだ欠点があるとは思えなかったのか、紬は大驚きの表情をしていまう。この、のほほん女は自分が言っていた事を忘れていたんだろうかね。まぁ、基本のんびりしているからな〜。

「ムギちゃん言ってたよね? 『りっちゃんの頭を殴って気絶させた犯人はこの中にいるのです!』
ってね」

「え、ええ。それが・・・あ」

紬はしまった!と自らが掘った墓穴を思い出せたようだ・・・そしてこの全員は気づいたようだ・・・律はというと・・・まだまだ気絶しているフリをしていた。本当に往生際が悪いのだな。さて、答合わせをしようかね。

「ふふ、みんな分かったようだね。じゃ、せーので答えて。せーのっ」

『犯人しか知らない情報を知っていた!』

「そのとーり。何で頭を殴られて気絶したって事が分かったんだろうかってね。本当はスタンガンのような物で気絶させその後、殴ったのかもしれないのにね」

この場にいる全員の答えはごもっともであるのだ。これが本来の事件ならば紬が犯人だと自らボロを出しているので、事件は解決なのだ。まぁ、俺が第一声に放った疑問は律が持っていた鍵のことについてを聞いてしまっているからどうしてそんなに落ち着いていられるのだろうか?という疑問を彼女達に聞いてしまっているから俺も十分怪しいものだな。だが、律は気絶しているだけで他に事件が無いという安心感が出てしまった、ということをみんなにも分かっているようだったで楽なのだな。

「以上の点を踏まえて、この事件は『ドッキリ』だね。違うかね?律ちゃんや!!犯人はお前だ!!」

『おおっ・・・』

律のいる方向に指をさし、ビシッと探偵っぽくキリリとした表情をして、それを見た澪達一同は感嘆の声を上げてしまっている。

「・・・ふ、ふふふ。確かに、この事件は『ドッキリ』だ・・・。すごいな・・・お前はいったい何者なんだ?」

急にキャラを変えてくる律の変化に恐(おそ)れ戦(おのの)く俺は冷や汗を流し、緊張のあまり口が乾いているような気がしてたまらない・・・後でリップクリームでも塗っておこう。
しかし、いつまでこの茶番劇は続くんだろうか?仕方なくこの茶番劇に乗ってやることにした。

「平沢唯、探偵さ」

「ノリノリだー!しかも探偵なんですか!?違いますよね?!」

梓は持ち味のいいツッコミを発動してくれる。うむ、いい心がけだ。

「でもな犯人は・・・私じゃないんだよ。この『ドッキリ』の考案者の・・・黒幕はな・・・」

律は勿体を付けるように一言一言区切って話し、ベッドからジャンプしてドスン、という音と共に着地し、般若のような恐ろしい顔をし俺の元へとすたすた歩いていく。いかにも悪役を演じているようだが・・・まだ続いてんのかこの茶番劇。

「黒幕は・・・ムギなんだっ!」

「なっ、なんだってー!」

「ムギなんだっ!」

「もう一回言って、の意味じゃないっ!て、ムギちゃんが黒幕!?」

訳の分からないやりとりを交わしつつ、紬が黒幕という事を明かしてくれるのだが・・・冗談だろ?
そっと紬の様子を見てみると・・・

「♪うふふ♪私ね、ドッキリを仕掛けることが夢だったの〜♪」

朱に染まった頬に手を当て、目にキラキラと輝かせて自分の世界へとトリップしていていながらも、くねくねと蠢(うごめ)いている・・・やつの様子を察するには・・・元凶はこいつだったのか・・・畜生、腹立つ。

「はぁ・・・次々と犠牲が出てまた一人、また一人と気絶させて最後には唯だけ残して、恐怖感を与えまくってからのドッキリでした〜ていう予定だったのに。ちぇ」

「それでもお姉ちゃんにバレる可能性は高かったんじゃないでしょうか?律さん」

「確かに憂ちゃんの言う通りだったんだけどな。でも、こんなに早く真相を見破る唯も唯だ。見事だ唯」

まだこんな茶番劇が後々続いていたのか・・・まぁ少しは内容が気になるがとっとと終わらせてよかった。全員気絶させるということは憂までも魔の手に襲われ、俺の理性がぶっとび、すごい男口調で別荘内を怒鳴り散らかしながら犯人を捕まえようとするだろうし推理するなんて皆無だろう。はぁ、早く解けてよかったな、いろんな意味で。

「でも、執事さんも演技やるとは想像外だったよ」

「ええ。それについては貴女を騙すような行為を行い誠に申し訳ありません。が、お楽しみになられたでしょう。」

「まぁ、なんだかんだで面白かったけどね。ふふふっ」

このドッキリは俺も含め全員楽しめることができ、いい思い出もできたし本当に貴重な日々を過ごせたものだな。

「しっかし、唯もなかなか探偵っぽくて格好良かったよ。一瞬、本物の探偵さんかと思っていたよ」

「ほんとっ!格好良かったよ!お姉ちゃん♪」

澪と憂の褒め言葉によってかなり照れる俺だがここでニヤニヤしてしまうとさっきの推理ショーが霞んでしまうので喜びの舞は心の底で十分に踊るとしよう。だが・・・一つだけ引っかかるのがあるんだな・・・

「でもさ、なんでみんな知らないの?みんな仕掛け人でしょ?なのになんでみんなが情報を供給してないの?」

そう、さっきまで推理ショーを披露したのだが、所々一部の人間が『なに言ってんだコイツ?』状態になっていたのだ。まさかとは思うが即興で考え出したとか・・・まぁ、そんなところだろうか・・・。

「それはね、全部私の頭の中でシュミレーションして他のみんなにはアドリブで任せるようにしていたの。で、気絶していく順番も決めていたんだけど・・・まさか一人目でバレちゃうなんてね・・・」

紬がこのドッキリの脚本担当らしく、まずは演技が下手そうな順番で気絶していくという決めつけを行っていたのだ。演技が棒だとすぐにバレてしまう恐れがあるのでまずは律ということだったらしい。

「いやー・・・ホントは私も探偵側やりたかったんだけどなー・・・」

「へぇ〜・・・まぁ、それはさて置いて・・・」

「なんだとっ?!」

律は怒って俺に一睨み・・・ほかの連中は『楽しかった〜』だとか『唯先輩ってホント頭良いですね〜』だとか『お姉ちゃんすご〜い』だとかぼのぼの雑談を交わしていたのだ。こいつらは紬考案のドッキリを共に仕掛けたのに一言も詫びていない件について俺は堪忍袋が切れ、徐々に理性が飛んでいき・・・すげぇムカついた・・・

「・・・何がキッカケか知らんが、よくも騙しやがったなコノヤロー・・・ただし執事は許す」

『?!ごめんなさいっ!「って、なんで執事さんだけ許すんだよっ!」』

「ありがとうございます」

「・・・ついでにこの後続く筈だったミステリーモドキのドッキリも見せろ・・・それも軽く解いてやんよコノヤロー・・・」

「♪ふふふ♪勝負よ!唯ちゃん!」

波乱万丈なバレバレドッキリ第二部も執行し、次々と穴だらけのトリックも見破り全員分の早々と解いていき、ドッキリの過程を全て終わらせることに成功したのであった・・・

「・・・もうやるんじゃねぇぞコノヤロー・・・」

『・・・はい・・・』


-95-
Copyright ©かがみいん All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える