第95話
side 田井中 律
本末転倒の唯ドッキリ大作戦は失敗に終わった・・・が、いつの日か唯のギャフンと言わせてやる!と心に決め、夕食をみんなで作り、それらを各々胃袋に大量の食糧を貯え、最後の締めくくりの花火をする為、手持ち花火を持ち別荘を出る私達。だが一番乗りは誰にも渡さんよ・・・
「さぶっ!!」
外は身が凍える程の寒さになっていて、本当にこの寒さでやるつもりなのか、と言いたくなるんだけど・・・言いだしっぺの私達が止めようだなんて言ってしまったらこれまでの旅行が台無しになりかねなかったので心の底へ置いておくことにした・・・ふ、部長とは大変だな・・・
「冷えるな〜、外は」
「ですね〜」
後からぞろぞろと分厚そうなジャケットなどを着ている澪達一同。さらには手袋や耳あてなど完璧な装備を施していやがった!わ、私はそこまで準備してないぞっ!
「わっ、さぶっ!キンキンに冷えているね〜」
「ほんとだね〜お姉ちゃん。ここでなら冷蔵庫いらずだね〜」
「冷蔵庫は外じゃ使えないから〜」
唯、憂ちゃん、紬ののほほんとした会話になんだか脱力感を覚えてしまうが、それはさておき花火だ。せっかく花火を用意してくれたのでバケツに水を入れる準備や火の準備を整え、後は花火を楽しむって訳だ!
「さぁ、皆の者。選ぶがよい!」
「何様のつもりなんだ、律・・・。最初は・・・何がいいかな?」
「ヘビ玉」
「うわ、微妙なチョイスしてるな・・・唯・・・」
「私もヘビ玉っ♪」
「憂までもっ?!」
ええっと・・・ヘビ玉って確かアレだよな?円筒状の固形物で、火をつけるとニョキニョキとヘビのように残滓(ざんし)っていうのが出るヤツ。とりあえずそのヘビ玉っていうヤツがあるのでそれに火をつけてみよう。
「よーし、つけるぞ〜」
ヘビ玉を幾つか取り出し、それに火をつけてみると・・・煙が出て・・・
『お〜・・・』
みんなは感嘆の声を上げるが・・・モクモクと煙が上がって次第には残滓(ざんし)が切れずに長々と伸び、煙や残滓が出尽くしたところでヘビ玉をチョイスした唯と憂ちゃんはというと・・・
「・・・で?だからなに?」
「お前がチョイスしたんだろうが!」
「でも、これが面白いんだよね〜」
「・・・?どこが??」
唯・・・そして憂ちゃんよ・・・はっきり言って私にはヘビ玉の魅力っていうものを知らないんだ・・・ごめんよ・・・。そしてなぜ謝ってしまうんだ・・・私。澪や梓もリアクションをとるのに途方に暮れていたけどそれはそうだろうな。
「ほら、まだたくさんあるから〜」
紬はこの静まり返った空気を何とか盛り上げようと花火を指さし他にもまだまだあるから遊ぼうと必死になっている。よし、とりあえずこの状況を打破できる花火は・・・
私はゴソゴソと花火を選びいいモノを見つけた。それは手筒だ!これにはいい音を出しながら花火が出るんだよな〜。
「よし、次はコレだ!」
「あ〜、手に持つやつね〜」
早速、手筒に火をつけ空に向けて手筒を構え・・・
ぽんという音と共に花火が天に向かい美しい夜空へと消え去ってしまった・・・
ぽん、ぽん、ぽぽん♪と最初はリズムよく打ちあがったが最後はリズム感覚が縮まり連続で上がってしまった!これあるある♪
私は楽しくなってどうでもよくなった♪なるようになれだ!
「よっしゃ〜!これでもくらえ〜!花車、花環!」
足場に複数の火のついた花車、花環を散らせる私。
「うぉっ?!必殺技っぽいよ!ならばスモークボールだ!」
花車、花環付近にスモークボールを投げつける唯。
「また煙モノか?!好きなんだな!」
得意のツッコミを披露してくれる澪。
「私もやるわ〜♪くらいなさい!線香花火!」
のほほんと参加するムギ。
「どうやって対抗するんですかムギ先輩!って憂は何してるの?!」
最近、先輩に対して厳しくなっている感じの梓。
「へ?手持ちナイアガラでお姉ちゃんの援護を・・・えへへ〜。でも梓ちゃんも笛ロケット持ってるよ?」
なんでもできるよくできた憂ちゃん・・・そしてなぜそのチョイスをするんだ二人とも。
「うっ!そ、それはその・・・私も・・・私も遊ぶもんっ」
みんなで海外旅行に行けて良かったと思う。私はこのメンバーに合わなかったら海外なんて行くことなんでなかったんだから・・・一応言っておくけど、もちろん海外旅行の為にこいつらと友達になったわけじゃないからな!
私達はいつも以上にふざけ合いながら花火を心行くまで遊び、こうして海外旅行4日目が終了してしまったのであった・・・
「まだまだぁ!ネズミ花火だ!くらえーっ!」
地面に大量の火のついたネズミ花火を放る私。
「ふふ、読めていたっ律ちゃんよ!噴き出し(噴水)だっ!あ、しまった!」
地面に火のついた噴き出し(噴水)を数個置き、ネズミ花火によって倒れて大慌てする唯。
「二人とも甘いわ♪人工衛星〜♪」
何故か天空に花火を打ち上げてしまうムギ。
「あ、危な〜い♪なら、すすきだよ〜」
普通に手持ち花火で楽しんでいる憂ちゃん・・・本当に楽しそうでなによりだ!
「・・・もう何が何だか分かりませんね・・・澪先輩・・・」
「・・・そっとしておこう・・・」
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side 秋山 澪
良い子は絶対にマネはしてはいけない方法で花火を遊びつくした唯達をみて途方に暮れた私と梓を置き去りにし、花火はあっという間に終了し、ようやく風呂に入ろうということで大浴場かと思えるくらいの大きさがある風呂へ入る為に脱衣所へと移動していた。
「いや〜楽しかったな〜まさかここまでハジけることができたなんてな〜」
「でも、ああいう遊び方は危険だぞ。遊ぶなら程々に遊べ」
「でも、たまにはいいわね〜」
私達はかつてない体験に興奮しつつ、服を脱いでいくことにしたんだけど・・・私の体を見てなんだかだらしないお腹が見えそっと『はぁ・・・』と溜め息を吐いてしまう。
「なんだ〜?澪〜。少し太ったか〜?」
「う、うるさいっ!」
なんで私の気持ちを寸分狂わせずズバリと言い当ててしまうんだろうか・・・そしてなぜわざわざ言いふらすんだ恥ずかしい。
「くんくん・・・若干煙くさっ!でも、クセになる!」
「それはそうでしょ〜花火やったばかりだから〜。って、クセになっちゃったの?」
唯は自分の身体の匂いを気にしていて何度も何度も自分の身体の匂いを確認していく。それをぼのぼのと
諭す憂ちゃん。
「早く入りましょう」
「なにを〜っ?部長を置いて一番乗りに入るなんていいご身分だな!梓!」
そんなやりとりを気にせず、梓は早く風呂に入りたいのか服を脱いでしまい風呂に直行したがっているが、律はしょうもないことで張り合っている・・・
「私も一番乗りがいいわっ!みんな競争よ〜」
「はっ?!早く行こうよっ梓ちゃん♪」
「ちょっ、私もなの?てか全員一緒に入っちゃえば全員一番乗りになるんじゃ・・・」
「みんなズルいぞっ!私はそんな子に育てた覚えはないっ!」
「育てられた覚えないけどな」
みんなは最後の最後まではっちゃけてしまう。そんな力をまだまだ持っていていたのか?と思うぐらいにだ。私はクタクタなのにな・・・。
「・・・やれやれ・・・」
唯はみんなの、はしゃぎっぷりに愛想を尽かしたのか『やれやれ』と呟いていた。ホントにあいつらときたら・・・まぁ、気持ちは分からないでもないが。
「いいじゃないか?たまには」
「ふぉ?!!いたの?!び、びっくりした〜」
「いた。てか驚きの声が奇妙だな」
「・・・聞かなかったことにしておくれ・・・」
ずん、と気落ちした唯だがこれまでの会話中でも服を脱ぐ作業を行い、唯と私は風呂に入る準備を完璧に済ませていた。
「ふふっ。さぁ、早く入ろうか」
「うん。・・・(ブツブツ)女子と一緒に平気で風呂に入るのに慣れている自分が恐ろしい(ブツブツ)・・・」
「・・・?何か言ったか?」