小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第97話

side 田井中 律 
海外旅行が終了し、しばらく時が過ぎ休日。これまでの疲れを取ろうとしていた私は、リビングにあるムギの別荘にあったフカフカには負けるが、ふわふわのソファーがあるのでそこでクダッとしていたのであった。

「あ〜・・・だる〜い・・・つかれた〜・・・聡〜、ジュース持ってきてくれぇ〜」

「なんでだよ。姉ちゃんが飲みたいなら自分で持ってきたらどうだよ・・・」

む、聡のやつ、この頃反抗期になったのか?忌々しい奴だ・・・ついさっき澪に電話して遊ばないか?と遊びに誘ってやったのに『まだ遊ぶ気か?!』というツッコミも受け、必要以上に脱力感を抱いてしまった・・・。

「う〜ん・・・この先は一体どうやって進むんだろう・・・」

聡はゲーム画面を睨み、所々分からないところがあるらしく、『う〜ん、う〜ん』と唸っていた。はぁ、こいつは気楽でいいなぁ〜ところでこいつは宿題とかしなくてもいいものだろうか?でも、私には関係ないし、聡には聡のやり方があるのだろうと暖かい目で見守ってやろう。

「・・・な、何見てるんだよ姉ちゃん・・・」

「いや〜。弟を暖かい目で見守っている姉ちゃんが居て聡は幸せ者だな〜、と」

「意味が分かんないよ・・・」

ますます姉の有難さを知らない聡はジト目で私を見て、これだから姉ちゃんは、と言いたげな聡に何だか情けなさを感じてしまう。はぁ・・・唯の時みたいに素直になってくれないのかね〜。お?いい事思いついたぞ?唯に頼んで何とかこの聡に素直さを取り戻してもらったらどうだ?ふふ、いい考えだっ!
早速私は、唯にメールで『遊びに来い。聡が寂しそーうにしてるぞ?』と送り、その数分後唯から返信が返ってきたので、そのメールをチェックすることにした。

『いいよ〜。この間約束したしね〜。今から来るっ!』

唯は昨日の約束をキチンと覚えていたようだ。さすがだ唯っ!私は携帯をパタンと閉め、わくわくした気持ちで唯を待っている。さぁ、早くこーい!待ち遠しいぞ!

ーーーー

数分後。『ピンポーン〜♪』という客人が来ているという合図を私達は耳にし、聡にお前が出ろと半ば無理やりに玄関へと押しやり、聡は渋々玄関の扉を開き・・・

「どちらさ・・・あっ!唯お姉さん!」
「おぃ〜す。約束通りに遊びに来たよ〜」
「お、覚えてくれたんだっ!上がって上がって!」

聡は大興奮で唯の腕を引っ張り唯は苦笑いで『わ〜、焦らない焦らない』と聡を落ち着かせながら、我が家にお邪魔し、私達はリビングへと進みとりあえずは適当に座らせてやることにした。

「今日は何する!?何する?!」
「おまかせでいいよ〜」
「じゃ、ゲームっ!」
「よし来た〜」

聡は唯と無我夢中で遊んで楽しいようだ・・・よし、ここだな。私は聡の視界に入らないように壁際に隠れ見つからないように唯にちょいちょいと手招きし、唯は『ジャンルは任せるから選んでてね〜』と聡に一言申し付け席を外し、私の近くへと近寄り『何?』と首を傾げ私の願いを聞いてもらうことにしたのだ。

「あのな、唯。この頃聡が私に対して少しナマイキだからさ。唯のほうから姉を大切にしてくれと頼んでくれないか?」

「へ?え、えっと・・・どゆこと?」

「ほら、聡のやつは唯にすごく懐いているだろ?」

「ま、まぁ・・・って、懐くってペットじゃあるまいし・・・」

「そんなことよりだっ。頼むっ、聡の今後の為にっ。あいつが・・・あいつがこれ以上悪化して不良にもなってみろっ。暴走族だとか作っちゃったりもするだろう?な?な?」

若干、大事(おおごと)にしちゃっているがもしものこともある。唯は『う〜ん・・・まぁ、いいけどね』と仕方なさそうに渋々聡のもとへ歩を進め、聡の隣に座り聡に笑顔を見せ『ジャンル決まった?』と行っていた。って、本当に大丈夫なんだろうか・・・

ーーーーーーー
side 平沢 唯

律が聡を不良の道から遠ざけて欲しいと救いを求めていたので渋々了解という返事を出してしまったので、やると言ったからにはやるしかないと自分の使命感にほとほと参りながら聡君の『クイズで勝負だっ』という顔を輝かせて俺に勝負を挑んでくるやつにそれほど悪を感じない。
が、思春期か反抗期のどちらかだろう。誰にもよくあった事だし、気にしないでもいいだろうに時が過ぎれば仲良くなれるものを・・・。
「クイズか〜、いいね〜」

「お?クイズするのか?なら私も混ぜろ」

「ね、姉ちゃんが?ま、まぁ・・・いいけど・・・」

「なんだその眼はーっ」

聡君は姉を『お前がクイズ?片腹痛いよ』みたいな顔をし、それにイラつく律。はぁ、一触即発だなこの姉弟は・・・。
とりあえず、聡君はクイズゲームをセットし、ゲーム機の電源を入れ画面上に『クイズ頭脳野郎!』という訳の分からんタイトルにセンスないな〜と呆れつつ、コントローラーをぎゅっと握りしめて画面をにらむ。
『第一問!次の法則性を見極めろっ!』
画面上に『おききQあ』と表示され、Qに入る言葉を埋めよという問題。早速、めんどくさそーな問題だな・・・

「な、なんだコレ?Qに入れる言葉?ヒントでないのか?」

「ううん。残り時間が20秒前になったらでるよ」

残り時間が画面上に表示されているが・・・あと90秒以上残っている。なんて良心的な設定なんだろうか?これは早押し問題で誰が一番早く的確に答えられるかというゲームなのに・・・

「う〜ん・・・唯分かるか?」

律は早くもお手上げでもう考えるのをやめたそうだ。飽きっぽいのな。だが・・・答えは簡単だ。少し考えればいける問題だ。俺はコントローラーのボタンをぽちっと押し『〜♪ピンポ〜ン』という音と共に回答権を得て、聡君と律は『もう分かったのか?!』と言いたげそうな顔をし、俺をマジマジと見つめていた。

『答えをどうぞっ!ユイ選手!』

画面上にひらがなの50音図が表示され、自分がこれだと思う答えにカーソルを持っていき答えを選択する形式らしい。俺は迷わず『あ』を選択し決定したら『大正解!』と表示され、俺はまぁこんなもんだろうとあまり喜ばなかった。

「す、すごいっ!な、なんで答えが『あ』だなんて・・・」

「私も気になるな・・・どうしてだ?唯」

この答えが納得できないのか俺に答えの解説を求めてくるので、すごく分かりやすく丁寧に解説をやることにしたのだ。

「これは、日付に関する事だね」

『日付?』

二人は揃って首を傾げていた。聡君はともかく律よ・・・お前だけはこれだけで分かってほしかった・・・なんて鈍感なんだ。

「おととい、きのう、きょう、あした、あさって。ほら、今言った全部の単語の最初の頭文字を取ると?」

「えー・・・お、き、き、あ、あ・・・あ!そうか!そういうことだったんだ!すごいっ唯お姉さん!」

聡君は憧れの眼差しで見てくる中、律は『??おききああ??あー・・・ハイハイ。そいうことね』とやっと分かってくれて、こんな感じでクイズゲームを三人で遊びつくしていたのであったーーー。

しばらくクイズで楽しんで、律が目でそろそろ聡を説得してくれとチラチラと見てくるので仕方なく話すことにしたのだ・・・むう、何の話を・・・いや、あの話をしよう・・・『俺が平沢唯に憑依してしまう前の悲惨な物語』を・・・かつて俺が『俺』だったという事を証言してくれる忘れられない思い出・・・

「聡君、この話はね・・・ある男の子が体験した話なんだけどね?」

「へ?いきなり何なの?唯お姉さん」

「いいから聞こうぜ。さ、話してみな。唯」

「あのねーーーー。」

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 side 平沢唯に憑依する前の主人公(回想)

小学二年生のころ俺には姉がいた。
その姉はいつも活発で、男勝りな姉は同性からも異性からも慕われる存在だった。
姉は成績もそれなりに良く、スポーツも万能。姉はその才能でソフトボール部に所属しキャプテンにもなりチームのエースになるという偉業も成しえていた。
その姉はいつもいつも俺と一緒にゲームで遊んでいて、その当時『ドラクエ』という世界的に有名なRPGを姉と面白おかしく楽しんでいたのだ。
ゲーム内での姉は勇者という職業。俺は魔法使いという職業に就き、それらの職業から出せる技を駆使してラスボスの大魔王を倒していく冒険という話で、俺達はダンジョン内にいる敵を一掃しながら地道にレベル上げをしていたのだ。
だが、当時の俺にはレベル上げに時間がかかり、姉が使っている勇者のレベルはいつも俺の使っている魔法使いのレベルの4〜5くらいは常に上回っていた。
そんなある日、姉はソフトボールの試合が近づくにつれ日に日に一緒にゲームをする時間が省かれていたんだ。だが、そんな姉は・・・
『私の分もレベル上げしててもいいぞ〜。ただストーリーは進めるなよっ。ストーリーは二人で頑張ろうなっ』
・・・これが姉の最期の言葉だとは知らずに必死にダンジョン内で地道にレベル上げをしていた・・・

それから葬式の日。俺は泣きじゃくりながらも姉の館おけに姉の大切にしていたグローブだとか姉のお気に入りの服だとかを入れて、母親は俺といつも一緒にやっていた『ドラクエ』を館おけにいれようとしたが、俺は入れて欲しくなかったので必死に止め『ドラクエ』だけは守りたかった。姉の『レベル上げ』の頼みを・・・姉の『ストーリーは二人で頑張ろう』という言葉を守って・・・時間を見つけてはレベル上げを・・・二人分だったけど、それでも頑張ったんだ。

でも、俺は信じていなかった。姉が死んだことを。
いや、信じたくなかったと言えば正しい。
実は生きていて、こっそり俺の前に現れていつもの優しい姉が来るのではないのかと。

でも、ゲームのストーリーを進めても、姉は帰ってこなかった・・・
しばらく二人分のゲームをやり続けて俺と姉のキャラクターはラスボスの大魔王にも匹敵するほどレベルが上がり、ストーリーも進みそしてラスボスも撃破してエンディング。俺と姉との約束はもう果たした・・・いや、果たしてしまった・・・

『ね、姉ちゃん・・・ううっ、くっ、ひっくっ・・・や、やったね・・・二人で・・・ラスボス倒せ・・・た・・・よ。ぅわあああぁぁああぁぁ!』

もう姉と一緒にゲームができなくなると思った瞬間、泣いた。泣いた。泣いた。一生分泣いた。
約束も。一緒にご飯食べれなくなった。一緒に笑いあうのも。喧嘩も。泣くのも。何もかも姉と一緒に出来ることが、無くなった。無くなってしまった。

『うわああぁぁぁあぁぁぁ!』

ーーそれから4カ月後、これまで起動していなかった『ドラクエ』を。久しぶりに俺と姉の分の『ドラクエ』を起動したが・・・俺と姉の分のデータが消えてしまった。俺達の思い出をかき消すようにーーーそして、また泣いた。涙が枯れるほど泣いた。泣いた。

『さ、さよう・・・なら・・・姉ちゃん・・・ぅわぁあぁぁあああぁ!』

ーーーー俺達の冒険の旅は、消失した。俺達が築き上げた冒険の旅が跡形も無く消えたーーー。勇者の姉と魔法使いの俺との冒険の思い出がーーーー。

ーーーーーーーーーー
side 平沢 唯 (現在)

「ーーーという話なんだ・・・」

「・・・ひっく・・・なかなか泣ける話だったぜ。ずぴーっ!」

律は心に響いたようだが、肝心な聡君は涙が止まらず嗚咽も止まらない。しまった、ちょっと重すぎたか?

「そ・・・ひっくっ。その男の人は・・・ひっく・・・今でも元気?ひっくっ」

「ぎくっ!」

まさかの後日談を聞きたがっている聡君は涙目になりながらも俺にすがり寄ってくる!本当の事を言ってはいけない気がする。それはそうだろう、その男というのは今の俺であり、『その男の人は私でーす』なんて言ってしまったら、さっきの話が霞んでどっか記憶の彼方へ飛んでしまうだろう・・・

「え、えっと・・・元気で暮らしていたんだってさ。姉は失ったけどね・・・」

代わりとは言ってはいけないが、この世界で俺と血が繋がっている妹が出来たんだ。そいつを絶対に失う訳にはいかないので、今まで散々愛してきたんだ。こんな事が無いように守ってやったんだ。

「だから聡君。家族を大切に想ってさ、『現在(いま)』という時間を楽しもうよ。姉と一緒にさ」

「う、うん!ね、姉ちゃん・・・」

「な、なんだ??」

「いろいろごめん。これからはちゃんとするから」

「お、おう。私も聡の事を・・・はっ!唯!何ニヤニヤしてんだ!」

「ふふん♪別に〜♪」






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