小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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その後も色々な事を話しつつ車をいじっていたら、いつの間にか陽がとっぷりと沈んでしまっていた。


「お喋りが過ぎてしまいましたね……」

「へへっ、でも色々なことを知ることが出来て楽しかったですよ」


無邪気に笑う沖田さんを見ていたら、なんだか幕末に来てしまったという不安はいくらか解消されていた。


「それより勇作さんはこれからどうするんですか?」


沖田さんのその一言で、俺は一気に現実に戻された。
そうだよ……寝るとこも食べ物も服の代えもない、オマケに一番大切なお金も未来の物しかない。
俺が途方に暮れているのを知ってか知らずしてか、沖田さんが口を開いた。


「行く宛もないでしょうし、一先ず屯所に来てはどうてしょう?」


願ってもない救いの手!!
ん?でもちょっと待てよ?……そういや壬生浪士組と言えばあの鬼の副長、土方歳三がいるんじゃなかったか?
あの人が余所者、しかも未来から来たとかそんな話を信用してくれるとは思わない……。

折角沖田さんが提案してくれたけど、一番考慮せにゃならんことをすっかり忘れてた。


「いいんですか?でも……副長の土方さんが許してくれないのでは?」


心配そうに言うと、沖田さん はキョトンとした顔から腹を抱えてケラケラと笑い始めた。


「ぷくく……流石未来から来たってだけはありますね。土方さんか反対するのも予測できましたか。でもまぁ私には切り札がありますから大丈夫ですよ」


フフフと笑う沖田さんの周りになんだか黒いものが見えた気がする……。
ある意味鬼の副長よりも怖いんじゃないか?


「よし、そうと決まったら早速行きましょう」


よいしょと立ち上がった所でふと思った。……車どうしよう。まさかここに置きっぱなしってのはまずいしな……。


「沖田さん……すいません車どうしよう……」

「あぁ、屯所に持っていけば良いじゃないですか」


沖田さんしれっと言ったけど、それって大丈夫なの?明日大騒ぎになりそうなの火を見るより明らかな気がするが。
それに街中走ったら変な意味で注目浴びそう。


「大丈夫ですよ。それにここに置いとくと何されるかわかりませんよ?」


……よし乗っていこう。
まだローンが残ってるのに、壊されたらたまったもんじゃない。
あ、こっちにいたらローンもへったくもないわな。

さっきまでの心配は何のその。
俺は車に乗り込み、沖田さんに屯所まで案内してもらった。

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