小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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「ってことは誠太、お前俺達に嘘を言ってたってことになるなぁ?」


土方さんが片方の眉毛をあげ、眉間に皺を寄せると静かに言った。


「っ!?」


土方さんの静かな怒りを感じたのか、誠太の顔色が真っ青になった。
誠太のことだ、場の雰囲気で未来から来たなどと言えなかったのだろう。昔からピリピリさした空気の中だと、周りに流される奴だったし。


「だからってどうするんです?まさか土方さん、誠太君を斬るだなんて物騒な事言いませんよね?」


またしても沖田さんがこの場の雰囲気にそぐわない笑顔で言った。
斬る……?誠太を?
そんなっ……


「……」

「土方さん!!そりゃあ俺は反対するぜ?仮にも1年一緒に暮らしてたんだからな」

永倉さんがちょっと待ったと言わんかのように、土方さんの提案に口を挟み、それに続くように近藤さんも口を挟んだ。


「そうだぞトシ……それにまだ二瓶君は16……あの時はあまり話を聞かない内に住まわせることになったじゃないか。彼も事実を話そうとしたが話せなかったのではないか?それを何も聞かずに斬るだなんて俺も反対だトシ」


近藤さんの言う通りだったのか、土方さんは言葉に詰まった。


「そうだよー!!第一土方さんが道端で倒れてる誠太を血相変えて連れてきたのに、そりゃあないって!!」

「そうだよな!!オマケに身元のわからない誠太を引き取るって聞かなかったのも土方さんじゃん!!今だって自分の小姓にして、四番隊の組長にまでこの歳でやらせてる癖にー」


原田さんも藤堂さんも……誠太を庇ってくれてる……。その事に俺は涙が出そうになった。


「……無用な殺生は如何なものかと思われます……副長」


あの斉藤さんも土方さんに意見した。
珍しいのか皆斉藤さんを見てる。


「別に斬ると言った訳じゃぁねェんだがな?」


ブルブルと肩を震わせている土方さん。
どうやら永倉さんが先走ったことを言ってくれたお陰で、話が炎上し過ぎたようだ。


「人の話も聞かずに勝手に判断するんじゃねェェェっ!!そこへ直りやがれェェェっ!!」


本日一番の怒号を響かせると、近藤さん達を除く幹部達がそれを合図に一斉に部屋から逃げ出した。
俺は誠太に手を掴まれ、一緒に逃げた。


……別に俺は怒られる理由ないし、逃げる必要もないんだけど。


まぁ後でゆっくり話をしよう。誠太と……
色々と話したいことが山ほどある。


「待ちやがれェェ!!」

「あははははっ!!待てと言われて待つバカはいませんよ?豊玉さん?」

「だぁぁぁぁあっ!!総司!!てめェはぶっ殺す!!」

「ぎゃぁぁぁあっ!!そぉぉじぃぃっ!!頼むから!!土方さんを刺激しないでぇぇぇ!!」


後ろから追いかけてくる鬼の形相の土方さん。沖田さんは心なしか楽しそうに逃げてる。永倉さん達3人組は泣きながら走っていると言うのに……。

斉藤さんは縁側に座り、逃げずにどこから出したのかお茶を飲んでいる。隣に黒い服を着た人がいるのが気になるんだけど。


つか皆何で一緒に逃げてるの?
バラバラの方がいい気がする……。
でも、なんかこんなのも楽しいかもな。


先程までのシリアスな雰囲気はどこへやら。
月も高くなる中、壬生浪士組の屯所内には遅くまで怒号と悲鳴が絶えなかったという。

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