小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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「っ!?」


話終えてすぐ、沖田さんは俺に再び打ち込んできた。
スレスレで躱すと勢い余って竹刀は道場の床に当たり……バキャッという音と供に大穴が開いた。
それと同時に何かがその穴から飛び出して、勢いよく俺の右頬を掠り後方の壁をも突き破った。


「……は?」


あまりの出来事に道場中が固まる。
竹刀で床板を破壊したのだ……しかも当たったその周りの床板にもヒビが入り、大きく波打っている。

俺はゆっくりと右頬を触ると、切れていたらしく血が付いていた。……ついでに後ろの壁も見ると、見事に細く小さい棒と同じ形で穴が空いていた。
まるで型抜きをしたみたいに……綺麗に、だ……。


「あーあ……竹刀折れちゃった。土方さぁ~ん、新しい竹刀頂けます?」


つまんないなぁ……と先端部分20センチほどが綺麗に消えた竹刀を持った沖田さんは、無邪気に新しい竹刀を求めた。

……なるほど。俺の頬を掠めたのは、沖田さんの持っていた竹刀の折れた先端部分だったんですね……。
堅くて強固な壁を突き破ったのが、たかが竹刀の破片……沖田さん、あなたどれだけの力を込めて竹刀を振ったんですか?

避けなかったら俺確実に死んでましたよね?
避けていなかったらと思うと、俺はチビりそうになった。いい歳こいて。


「まさか沖田さん俺を殺す気でした?」


ガクガクと震える俺なんて何のその、沖田さんはキラースマイルで答えた。


「まさかぁ……あの程度の打撃で死ぬ人はいませんよ~大袈裟だなぁ」

「……」


無自覚ですか。一番タチが悪いですよ……。
既に戦意喪失していた俺は、ふと道場の奥から不穏な気配を察知した。
これは……殺気……。


その発生源に心当たりがあり、止せば良いものを怖いもの見たさでついつい見てしまった。
渦巻くどす黒いオーラ、そして中心には土方さん……。心なしか後ろに般若が見えますが……これは一嵐吹きそうだ。

どこぞの戦闘民族のように髪の毛を逆立てた土方さん。周りのオーラは今にもゴゴゴゴゴと音を立てそうだ。

そしてゆっくりと立ち上がり、目を開いた……ギラリと光る真っ赤な目を!!(幻覚)


「鴫ぃ原ぁ……お前の試験は中止だ……後で俺の部屋に来い……」

「は、はひっ!!」


俺は別に悪くはないんだけど、土方さんの地を這うような低い声に思わず声が裏返ってしまった。
ズンズンと足を進めるその先には沖田さんただ1人。ターゲットロックオン。


「総司……てめェ道場の床壊すのこれで何度目だ……?言ってみやがれ……あぁ\"!?しかも壁まで……」


凄い凄みを効かせて迫る土方さんをもろともせず、ずっとニコニコしている沖田さんは図太い神経の持ち主だ。
更にその笑顔が土方さんの神経を逆撫でするということを理解していないのだろうか。

それよりも床壊したのこれが初めてではないのか!?
なんちゅうヤツだ。


「これを含めて10回目ですね!!いやー今回のは新記録ですね!!壁までやっちゃいましたしね!!あ、勇作さん!!後でけいたいでんわで記念のほとがら撮ってくださいね」


23年生きてきてこれ程までにハラハラしたことは未だかつてない。沖田さん、今は写真どころじゃあありませんよ……。
なんかもう土方さんの殺気が凄すぎて生きてるのが嫌になってきた……。

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