小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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「……てめェは俺をおちょくってるのか?少しは反省の態度見せやが、れっ!!」


言うや否や藤堂さんの脇に置いてあった木刀を瞬時ひっつかみ、沖田さんに降り下ろした。
それをまるで闘牛士の様に華麗にヒラリと躱したが、それをふざけていると認識した土方さんの額から角が生え、顔色も真っ赤に変わった。


「今日という今日はぜってェェェ許さねェェェェェ!!待ちやがれェェェ!!」

「あはははは!!待ちませんよ!!ほら、鬼さんこちら手の鳴るほうへ~♪」


怒り狂った土方さんを更に煽る沖田さん。
仕舞いには歌いながら、鬼さんこちら…と手をパンパン叩き始めた。

もう土方さんは噴火どころの話ではなさそうだ。
このまま道場にとどまっていたら、命がいくつあっても足りなさそう……。

ふと道場の入口を見ると、幹部達が近藤さんと山南さんを連れてコソコソと避難を始めているのが視界に入った。
彼らと一緒にいる誠太も俺に向かって真っ青な顔で手招きしている。

俺もここにいたらマズイ気がするので、取り敢えず気付かれないように抜け足差し足で地獄と化した道場をあとにした。

……


あれから二刻程経っただろうか。
未だに聞こえてくる土方さんの怒号と、それを嘲笑うかの様な清々しいほどの沖田さん笑い声。
まだやってたんですね……。


取り敢えず俺は昨日着ていた服と靴を持って車へと向かっていた。うかつに未来の物をそこら辺に放ったらかして置くわけにもいかない。
俺が未来から来たってことは幹部のみが知っていること。平隊士には話してないからバレると厄介……って屯所内に車があったら即バレるか……。

取り敢えず車に着いたので、持っていた服と靴を後部座席の上に置いた。


「あ〜っ……大事なこと忘れてたよなぁ……車上手く隠す方法考えないと……ってあれ?」


今気付いたけど、やけに車の上に木の枝や葉が乗ってるのは何故?昨日も今日もそんな風強くなかったよな?

不思議に思ってると、どこからか関西弁の男の声が聞こえてきた。


「それ、昨日わいが土方さんに頼まれてやっといたんや。感謝しぃや〜」

「あ、そうだったんですかぁ……どうもありがとうございま……じゃねぇよ!!え!?今の声どっから!?」


ハッとして周りを見るが誰もいない。まさか幽霊?
思わずお礼言っちゃったけど誰かいんのか!?
なんて思いながらキョロキョロしていると、頭上からさっきの声で「ここや」と聞こえてきた。


「上!?」

「せや!!」


驚いた顔で見上げると、黒装束に身を包んだ男が木の枝に座ってニコニコしながら俺に手を振り、「やっほー」などとのたもうた。


「あ、あんたいつの間に!!」

「あんさんがここ来るちょっと前からおったで。
よっ……っと!!」


驚く俺をスルーして、その関西弁男はよいしょと腰を上げると、俺の前にシュタっと降りてきた。

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