小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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ここでもし山崎さんを殴り飛ばしたりでもしたら、評判悪くなりそうだな……。
俺は拳をゆっくりと下ろし、深呼吸した。悪口をコソコソと言っていた平隊士は、何故か笑顔になって手を振っている。

ん?いや、俺にではになく山崎さんにどうやら手を振っているみたいだ。
何故に?


俺がそれについて山崎さんに聞こうと思って見下ろすと、猫をまだ抱えたまま呑気に手を振り返している。
……何してるんですか?


「まさか今の隊士達……山崎さんが用意したとか……?」

「なっ!?ちゃうちゃう!!そんなんやない!!第一あんさんに殴られるのを予測しとるわけないやないのっ!!」


疑いの眼差しを向けると、山崎さんは必死になって訴えかけてくる。どうやらさっきのが余程おっかなかったらしい。まだビクビクと俺の様子を伺っている。
まぁ確かに前もって用意できるわけないしな。

「ですよね……でも何で手なんか振ってたんでしょうね?」

「知らんけどいつも見かけるたびに手ェ振ってくれるで?しかもたまに飴玉とかくれんねん♪」


そう言うと、キャッキャッとはしゃぐ山崎さん。
ちょっとあんたいくつ?
飴玉ごときに喜ぶ人が監察方なんてやってて大丈夫なのか?オイ。
いつか町で知らない人にお菓子あげるからついておいでって言われたら、任務放ったらかしてホイホイついて行きそうで心配になってきたぞ。


「でもな?でもな?たまに一緒に風呂入ろうって誘われて入んねんけど、舐めるようにわいの身体見てくんのや。しかもグヘヘって笑いながら涎まで滴しよってん……なんでなんやろなぁ〜。なぁ?」


そう言うと、山崎さんは腕の中にいる猫に話しかけた。
猫はにゃーっと可愛らしく鳴いただけだった。


……山崎さん、それって狙われてるんじゃないですか?ゲイに。いや、この時代なら衆道・男色と言ったか?
しかもそれに対して本人が警戒心が全くないときた……。
だからさっき山崎さんに拳を振り上げたら悪口言われたワケだ。納得。

ってことで今度から山崎さんと一緒にいて守ってあげよう……なんか純真無垢な山崎さんが汚ならしい野郎供に汚されるとか嫌だし。


さっきはイラっとしたけど、なんかこうして見ていると山崎さんって何か弟みたい。 誠太と仲良くなったら大変だろうな……。うまい具合に母性本能くすぐるというか……あ、俺男だから母性本能じゃないや。親心みたいなのか?


そんな俺のそんな心配はなんのその。
ゆったりとくつろいでいる猫を突っついたり撫でたりして、猫と無邪気にじゃれあう山崎さん。
ていうかまだその猫いたんですか?

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