小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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「どうしてかわからないって顔をしてるな。烝の親は医者でな、烝は小さい頃から両親に医者になるために朝から晩まで勉強させられていて、甘えたい盛りにも甘えることができなかったんだ。そのせいでいつしか心から笑うこともなくなり、笑顔を忘れ、いつも無表情でしかいなくてな……たまに笑っても面みたいな偽りの笑顔だった。
ここに来てもな……誰にも心を開こうとしなかった。俺や近藤さんに山崎が初めて甘えてきた時にも、忙しさに釜かけて構ってやれなくてな……。本当に心を開かなくなったんだ」


そこまで言うと、今度は近藤さんにバトンタッチした。


「だけど今こうして鴫原君にずっとくっついているのも、君が山崎君の甘えたいという僅かな変化に気づいて応えてあげたからだと思うんだ。
たださっきの様子を見ている限りだと、駄々捏ねられて渋々だったというのを感じられたが、我が儘を言ってもちゃんと受け入れてくれたのが嬉しかったんだよきっと。だから山崎君は君に懐いたんだろうなぁ……」


そっか……ただ甘えたかっただけだったんだな。
無意識の内に俺は烝の頭を撫でていた。烝はその温もりを感じるかの様に、目を細めてへへっと笑った。
ただの冗談か何かと思いきや……そんな事があったんだな。
じゃああの男色隊士達のも純粋に自分に構ってくれるってことが嬉しかったってだけなのか。
だからあの見え見えの下心にも気付かなかったわけだ。


……あれ?でも変だな……。
烝って沖田さん達より歳上じゃなかったか?俺と歳近いなら甘えるなんておかしくないか?


「土方さん」

「なんだ?」


俺が声を掛けると、いつもとは違う優しげな声で反応してくれた。
土方さんも直属の部下として烝のこと凄く気にかけていたってのがこれでよくわかったわ。

それよりも……だ。

「烝って歳俺と似たり寄ったりですよね?それなのに甘えるって変じゃないですか?」


俺の言葉に土方さんが眉を潜める。
何を言っているのかと言わんばかりに。


「は?何言ってるんだ?じゃあ聞くが鴫原、お前今いくつだ?」

「23です」

「なら全然違ぇよ。山崎は誠太よりも1つ下だぞ?でなきゃこんなにベッタリひっつかねぇだろうが」


なんだって!?誠太より1つ下!?じゃあ15歳なのか!?
えー!?全く信じられない!!
そんな子供が監察方なんかやってていいのか!?いや、むしろできるのか!?
俺が驚いていると、土方さんが呆れたように話しかけてきた。


「あのなぁ……お前はまだ甘ったれの山崎しか見たことがないだろうが、山崎はそこらの忍よりもずっと優秀だぞ?それに監察方は歳じゃないからな……適性だ」


はぁ、そうだったんですか。
やっぱり天才監察のことは本当みたいだな。こんなんが……ねぇ。


「それと山崎がこれからお前と一緒に仕事をする仲間だからな。結果を話す前に山崎と仲良くなってたみたいで安心したわ」

「え?一緒に仕事?」


俺は土方さんの思いがけない言葉に、身体も思考も停止した。
まさか俺の配属先は……?

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