小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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土方さんの部屋の前に立ち、障子戸に手をかけたところでふと思い出した。
やべ、声かけないで入るところだった……危ない危ない。
危うく総司や平助の二の舞になる寸前で気付き、障子戸から一旦手を離した。


「……失礼します。鴫原です」

「……お〜う……入れェ〜」


土方さんにしては珍しい間延びした声。
しかもちょっとカスカスだ。もしかして寝てた感じ?

土方さんからの返事は若干時間がかかったが、取り敢えず返事も貰ったのでゆっくりと障子戸を開いた。


「巡察の報告に参りました」

「……んぉ?……お〜……どうだった?」


昼寝していたの確定。目が開ききってないし、口許には涎の跡……それといつもと全然違う覇気のない声。
まぁ土方さんここ最近夜遅くまで仕事してたみたいだし、仕方ないよな……なんかここで昼寝をしていたのを指摘すると逆ギレされそうな気がするし。


「市中は普段通りで特に変な箇所はありませんでした。ただ……」

「……」

「あの……土方さん?」

「……zzzZ」


人が報告に来たのに寝ちゃったよこの人。流石に報告しない訳にもいかないし、取り敢えず肩を揺らしてみるが反応ナシ。
それはおろか、揺らした振動でそのまま畳の上にドサッと横になってしまった。

ホント……どうしよう?報告……。

まぁ疲れてるみたいだし、これはいくら揺さぶっても当分起きなそうだ。
俺は諦めて部屋の奥の押し入れから薄い布団を取りだし、畳の上で直に寝る土方さんの上に静かに掛けた。

仕方ない、近藤さんのところにでも代わりに行こう。

ゆっくりと部屋を出て、2つほど隣の近藤さんの部屋へと向かった。


「近藤さんすいません、鴫原です」

「おぉ、鴫原君か。入りたまえ」

「はい。失礼します」


ゆっくりと障子戸を開けると、近藤さんの他に山南さんと一君がいた。
何か呼び捨てで皆を呼ぶようにはなったけども、一君だけどうもしっくり来なかったから君づけになった。
俺よりも4つ下だが、何かこう妙に落ち着いてる所が年下とは思えないんだよね。


ずっと入口に突っ立っている訳にもいかず、俺はさっさと部屋の中に入ると近藤さんの前に座った。


「珍しいなぁ……鴫原君が私の部屋に来るなんて。どうかしたのかい?」


いつもと同じくニコニコと優しい笑顔で用を聞いてきた。
最初は顔が厳ついから少し恐かったけど、それ以上にとても優しくて浪士組の隊士達のことをいつも気にかけるいい人だと感じた。


「はい、先刻の市中見廻りのご報告に上がりました」


俺の一言に、近藤さんの代わりに山南さんが目を見開いてビックリした様に反応した。

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