小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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「巡察の報告なら土方君に言うのではないのかな?」


やんわりとした口調で喋る山南さん。
俺はつい先程の土方さんを思い出し、苦笑いを浮かべた。


「……実はついさっき土方さんに報告しに行ったのですが、報告中に寝てしまわれて……少々気にかかることがありましたので、早急に幹部の方に報告した方がいいと思って……」


そう言うと、近藤さんはガハハハハと豪快に笑い、山南さんもちょっと困ったように笑っていた。


「そうかそうか!!いやぁー、トシが報告中に寝るとは珍しいことがあるものなのだなぁ。して、その気にかかることは何だい?」


2人に釣られて笑ってしまったが、近藤さんにその事を聞かれたため表情を元に戻した。


「巡察から戻り屯所に入ろうとしましたら、不審な男が屯所の中の様子を伺っておりまして……」

「何っ!?それは本当かね!?」


近藤さんが厳つい顔を更に厳つく皺を深くしたため、俺は少し後退りしてしまった。


「それで……その男は?」

山南さんがいつになく真剣な顔付きで尋ねてきた。

「俺が話し掛けたら逃げられました……刀を持ってもおらず、何だか殺気も感じられなくて……俺個人の意見では長州の人間や、浪士組の敵であるような者とは思えないのですが」


フーム……と唸り、考えるポーズを取る2人。


「……人は見掛けによらない……」


一君が沈黙を破ってボソリとのたもうた。
まぁそうなんだけどさ。素人の俺が見ても害を為すような人間じゃない気がするんだよねぇ……。


「まぁ……取り敢えず鴫原君はその男の顔を覚えているのですよね?」

「はい。まぁ……一応は」


ならばいいでしょう……と山南さんは言う。結構楽観的だな……もっと警戒しろと言われるかと思った。


「でも何かまたすぐにでもやって来そうな雰囲気だったので、今晩烝と一緒に屯所の周りを見張ってみます……」

「……ならば私もやろう」


思わぬ助っ人!!烝と2人でやろうと思ってたけど、一君もやってくれるならたのもうかな。断る理由もないし。


「ではそうしてもらえるかね?」

「もちろんです」

「御意」


さて……なら烝にも話しておかないとな。呼びに行……パカッ「呼んだー?」

「!?」

いきなり烝の声がしたと思ったら、天井の一部が開いて烝が降りて来たではないか!!
あまりにビックリして一君に飛び付いてしまった……

どっから現れとんじゃお前は!!
つか開けた隠し扉閉めろよ!!

一君も烝の早い登場に目を見開いている。何か一君の表情が変わったの初めて見た気がする。

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