小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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いきなり現れた烝に近藤さん達はさして驚いてはいなかった。
……慣れてるのかな?


「まだ呼んでもないのに……烝ってエスパー人間か?」

「えすぱぁ?そろそろわいがお呼ばれされるなと思って出てきたんやけどなぁ」


ニヘラッと笑い、タタっと俺に近寄ってくると、「へへっ……ここの場所もーらいっ!!」と言って図々しくもまた俺の脚の上に腰掛けた。ここはお前の指定席かっつーの。
別に怒らないけれどもさ、少しは遠慮がちに座れよ。


「つか烝、お前いつから近藤さんの部屋の上にいた?」


取り敢えず気になったから聞いてみた。
それよりも脚の上で跳ねるな。地味に痛いぞ。


「いつからって……勇作と同じ時に来たんやけど。それに今日はずっと勇作の近くにいたんに……気付いてなかったん?」


ちょっと何だって?ずっと近くにいただと?
じゃあ何だ?巡察中に感じた視線はお前かっ!!ストーカーか己は。


「いや、俺の近くに何でいたんだよ。自分の仕事しろっつの」

「今日は非番やも〜ん。それにわいは勇作のいるとこにいつも有りきや!!わい、変装していつも勇作の後ろ着いてっとんもん」

「……さいですか……」


ふんぞり返って自信満々に言う烝には、呆れ返って何も言えないわ。ピク○ンみたいな奴だなコイツは。その熱の入り様を、仕事に全部回しなさい。

近藤さんはずっと笑ってるし……あれ?山南さんいつのまにか居なくなってるし。
一君は甘ったれてる烝を見たことがないのか、物珍しそうに俺達を見てる。

そして何を思ったか烝に手を伸ばして頭を撫で始めたではないか。

烝は最初意外な人からの意外な行動に驚いていたが、撫でられるのは嫌ではないらしく、目を細めて気持ち良さそうにしている。

俺の隣にいたが、撫でづらいのか正面に移動してきた一君。


「こ……これは……なんとも愛で甲斐があるものだ……フフフ……」


一君がぶっ壊れた。烝を撫でたまま地獄の底から響いてくるような声で不気味に笑い始めた。
多分烝の動物みたいなオーラにやられたのかな……一君意外にも動物大好きみたいだし。
本人は動物好きなことバレてないと思ってるみたいだけど、組中が周知してる事だ。


「き……今日の斉藤さんなんや知らん……めっちゃ恐ろしいわぁ……勇作!!どうにかしてくれやっ!!」


流石に不穏な空気になったのを察したのか、俺の前でしゃがんでいる一君から逃げて俺の背中に隠れた。

お、おおお俺に言わないでくれ!!

烝がいなくなったのに気付くと、撫でていた手をそのままピタリと止め、更にあの不気味な笑い声も止めた。
動かなくなった一君を、俺と烝はハラハラしながら見つめていた。

そしてギギギッという擬音が似合う首の動きをさせて、こちらを見た。

何?夏でもないのにこのホラー展開。
なんか俺も怖くなってきたんだけど……。
冷や汗が流れ、既に背中はビッショリ。にも関わらず烝は俺にピタリとくっついて、一君の出方を伺っている。
むっちゃブルブル震えてる。携帯のバイブみたい……。


「……何故……」

「へ?」


ボソリと一君が何かを言ったが、よく聞こえなかったため思わず反応してしまった。


「……何故……何故私から逃げるのだ……?」


今度はハッキリと聞こえ、伸ばしたまま止まっていた手が俺の方へと伸びてきた。
一君の前髪は目を隠しているのだが……見間違いであって欲しい……一君の目が妖しく光っていることが。

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