小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

…第壱話 出会いと混乱のお話…


どこからか鳥の囀りが聞こえてくる……あ、これは鳶の声だ……。
何故かのほほんとした感じで意識が戻ったが、さっきの迫り来る電柱のダイジェストを思いだし、バッと頭を寄り掛からせていたハンドルから顔を起こした。


良かった……エアバッグが作動していないということはぶつかってなかったんだな。
俺は車をぶつけなかったと言うことにホッとしただけで、まだ周囲の変化に気付いていなかった。


「そーいやさっきのあの光は……ってここどこだよ」


ふと我に返りよくよく周りを見ると、先ほどまでいた街は姿を消し、土手と川、そして山があるだけの田舎のような風景に変わってしまっていた。

いきなり置かれた状況が変わり、俺の頭は混乱し始めた。


「え?さっきまで街中にいたのになんでこんな所にいるんだ?」


とりあえずかかったままのエンジンを切ると、車から降りた。
今どきそうないコンクリート護岸ではない河辺、そして少し離れた所を目を凝らして見ると、木製の小さな橋。


こんなところ日本にあるのか?
それよりもまず、あの状況下だったはずなのに何故自分がこんなところにいるのか、まさか無意識に運転したなんてことは有り得ない。


焦る気持ちを抑え、俺は土手を登り周囲を見渡した。そしてそこから見える光景に、唖然とするしかなかった。


「な、なんだよこれ……」


俺の目に映ったのは、結構大きな街。ただビルや電柱等は一切なく、全てが瓦屋根の木造住宅。
更に綺麗に区画された街の間を縫うように造られた道も、黒いアスファルトではなくただの土。


そして遠目でも判るのが、生活している人々全てが着物だということ。
まるで時代劇のセットの中に放り込まれた気分だ。全員が髷を結い、男は刀みたいなものを差している。

-6-
Copyright ©真田尚孝 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える