小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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   『同居人、現る』





夢を見た。いや、夢というよりも己の中にある精神世界に飛び込んだという表現のほうが正しいのかもしれない。その中で夜明は何かと対峙していた。

(何なんだこいつは? いや、俺はこいつを知っている?)

『そうともさ! そなたほど余のことを知っているものは今世にはおるまい。余ほど奏者を知ってるものもおらぬだろうな』

目の前の存在、三対の翼を持った少女は実に楽しげだ。

「あぁ〜、どうでもいいがお前誰だ?」

『何だ、そんなに余の正体と名前を知りたいか? やれやれ、困った奏者だ』

軽くイラっとしながらも夜明は再び訊ねる。お前は何者だ、と。少女は嬉しそうに何度も何度も頷き、ようやっと夜明の方を向いて自分の胸に手を置いた。

『いいだろう。心して聞け、奏者よ! 誇り高き我が名を! 英雄龍と称された余の名を!』

そこまで言った時だ。不意に夜明の周囲が急速に霞み始めた。同時に少女の姿も掻き消えていく。

『ままま待てぃ! このタイミングで時間切れとは幾らなんでも空気を読まなさすg』

ステレオのコンセントを引っこ抜いたみたいに少女の声が唐突に途切れる。今度こそ何も無くなった空間の中、夜明は腕を組みながら漂っていた。考えることはさっきまで自分が対峙していた少女の正体。

(ま、大方の想像はついてるんだけどな)

視線を後ろに向ける。淡い燐光を放つ蒼、白、蒼銀の翼がそこにはあった。














「やっぱ夢か」

見慣れた天井を見上げながら夜明はベットの上で囁いた。上半身を起こしながら額に手をやる。勿論、考えるのは夢の中に出てきた少女のこと。いや、姿こそ少女だったが、果たしてあれは少女なんて呼べるような可愛らしい存在なのだろうか?

(英雄龍(おまえ)なのか?)

心の中で問いかけるも、答えは返ってこない。

「そりゃそうだな……って、そろそろ時間か」

時計の針が四時半を指しているのを確認し、夜明はベットから抜け出す。準備を終えてベランダから顔を覗かせると、マンションの駐車スペースに主、リアス・グレモリーが立っていた。碧眼が夜明を捉える。

「今、行きます!」

何か言われるよりも早く夜明は五階のベランダから飛び降りた。














「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

「この程度でへたばらないの。次はダッシュ十本いくわよ」

早朝の住宅街を走りながら夜明は後ろから自転車で気合を入れてくるリアスに返事をする。夜明の後を追っている彼女は人間ではない、悪魔だ。ついこの間、夜明がその身に宿した規格外の力を狙われて、殺されそうになった時に命を助けられたのだ。その恩義に報いるため、人の身でありながらリアスの眷属となった夜明はこうやって強くなろうとトレーニングをしている。

「部長、そういや太陽は? 部長と太陽って何時も一緒にいるイメージがあるんですけど……」

「太陽ならまだお寝んねしてるわ。あの子、冗談抜きで朝に弱いのよ。寝起きの一時間はまともに活動できないくらいにね」

脚を動かしながらリアスが言うとおりの寝起きの太陽を想像してみる。

「ちょっと想像つかないですね」

「普段が普段だからね、太陽は」

そんなこんな言ってる内にゴールの公園へと辿り着いた。少なくとも三十キロは走らされた。しかし、ここで終わりではない。まだ筋トレやその他諸々が残っている。

「お疲れ様。次はダッシュ五十本ね」

「おっす!」

増えてる、何て文句は言わない。何故なら、それは彼がトレーニングを怠る理由にはならないからだ。














「三百三十七、三百三十八、三百三十九、三百四十」

「頑張りなさい。後、百六十回よ」

背中の上に乗ったリアスの声で回数を確認し、夜明は片腕立て伏せを続ける。左はもう終わっているので、今は右手で身体を支えていた。

「部長! そろそろ右肩の先から感覚が無くなってきました!」

「そう。後、百回よ」

「部長! 重いとは言いません! でも、重量感を感じるので降りてくれるとたすか」

「後、五百回ね」

「リセットされたよちきしょう!!」

誰もが口を揃えてこう言うだろう、自業自得だと。その後、身体の一部じゃなくなったんじゃねぇかって位に感覚が無くなった右腕で腕立て伏せを終える。

「ぜぇ、ぜぇ。流石に右腕が伸び切ったまま動かなくなった時にはどうなることかと思ったぜ……部長、次は何をすればいいですか?」

「ちょっと待ってて。もうすぐ来ると思うんだけど」

誰が? と夜明が訊ねる前にリアスが口にした人物が公園の入り口から二人のところまで走ってきた。

「夜明さーん! 部長さーん! 遅れてごめんなはぅっ!」

堕天使との小競り合いの末、一度死んでしまい、リアスの眷属として転生した金髪のシスター、アーシアは二人の前で盛大にすっ転ぶのだった。














「んで、何でこうなったんだっけ?」

マンションの玄関脇に置かれたダンボールの一山を抱え、自分の部屋を目指しながら夜明はぼやく。ちなみに今抱えている荷物は全てアーシアのものだ。こうなった経緯をダイジェストで説明するとこんな感じになる。

晴れてアーシアが仲間になりました。
       ↓
あ、でも住む所が無いや。どうしよう?
       ↓
そうだ! 一人暮らしの夜明の所にいさせればいいんだ!
       ↓
それじゃ早速準備しよう。本人の許可は無いけど。

と言う訳である。

「倫理的に問題あるでしょうが一つ屋根の下に男子と女子が一緒に暮らすなんて!」

という訴えも、

「貴方みたいな純情少年にアーシアのような子を襲える? いいえ、襲えないわ」

と、反語を用いて一蹴されてしまう始末。こうして、夜明はマンションの自室にアーシアを住まわせる事になった。

「同棲じゃないわ。ルームシェアなんだから問題ないわよ」

「部長。それは物は言い様ってレベルを超えてますよ」

ため息を吐きつつ、夜明は最後のダンボールを部屋の中に運び込んだ。

「まぁ、確かに使ってない部屋は三、四室あるんで好きにしてもらって良いですけど……おい、アーシア! どの部屋使うか決めてくれ、ダンボール運んじゃうから!」

「あ、はい! ……あの、夜明さん。その前にお聞きしたいことがあるんですけど」

「何だ?」

「お父様とお母様はどうされてるんんですか?」

リアスも気になるのか、少し離れた所で耳をそばだてている。特に言い淀む訳でもなく、夜明は何でもないことを口にするようにすらっと答えた。

「あぁ、死んでるよ」

二人の表情が固まる。特にアーシアは涙目になりそうだ。

「ご、ごめんなさい。私、そんな事とは全然思ってなくて……」

「あぁ〜、泣かない泣かない。っていうか何で謝るんだよ」

アーシアの目尻を拭ってやる。作業は一旦中断し、二人にお茶を出しながら夜明はポツポツと離し始めた。

「親父とお袋が死んだのはもう十年以上も前ですかね……もう、面も覚えてねぇや。ま、親父とお袋が死んだ後、色々あって俺はじじいの所に引き取られたんだよ」

父方のな、と付け加える。

「じじいに中学三年まで世話になって、高校入学と同時に一人暮らしを始めた……みたいな感じですかね」

と、二人にここまで語ったところで夜明は感慨深そうに一人囁いた。


「そういや久しぶりだな。家に帰ってきた時にただいまを言う理由ができたのって」














かくして、夜明とアーシアは同棲することになった。学園長やらそっち方面は既にリアスが手を回しておいたらしく、一緒に住んでいることに何も言われなかった。しかし、級友たちはそういう訳にも行かず、

「死ねぇぇぇ、夜明ぇぇぇ!!!」

「貴様の血で俺達の喉を潤させろぉぉぉぉ!!!!」

悪友二人、松田と元浜を筆頭とした男子生徒たちの襲撃を返り討ちにする日々を送っていた。オマケに女子からも汚物を見られるような目で睨まれる始末。

「うわぁぁぁぁん! 俺、何にも悪い事なんてしてないのにぃぃぃぃ!!!!!」

「よしよし、私は分かってますよ。夜明くんがとても素敵な人だって」

と、旧校舎に飛び込んでは朱乃に慰められる日々を送っていた。また、どこから漏れたのか朱乃の胸に抱かれながら慰められている写真が出回り、学園生徒達の夜明への殺意は更に膨れ上がった……ついでに言うと、リアスはリアスで、

「何で私のところに来ないのよ!」

と無茶を言うし、アーシアは悲しそうだったり怒ったりと目まぐるしく表情を変化させていた。

「放してくれ木場ぁ!! 俺は、俺には生きる価値なんて欠片もありゃしないんだぁぁぁ!!!」

「早まっちゃダメだ夜明くん! 君が何にも悪くない事は僕達が知ってるし保証する! ね、小猫ちゃん!?」

「……はい。だから、落ち着いてください、夜明先輩」

先日の堕天使での一件後、二人は夜明のことを名前で呼ぶようになった。まぁ、そんなことはともかくとして、木場と小猫は二人掛かりで屋上から身を投げようとする夜明を必死に押し留めていた。朱乃はあらあらと困り顔、太陽に至っては腹を抱えて大笑いしている。

「ハッハッハッハ! 本当、お前が来てから退屈しないなぁ、夜明!! ギャッハッハッハ!!!」

今日もまた、太陽の豪快な笑い声が駒王学園に響き渡った。













そんなこんなで数日が経過した。名も無きマンションの夜明&アーシアが同棲している部屋。ダイニングキッチンでは正座した夜明とアーシアが向き合っていた。重苦しい沈黙が続くこと数分、深い深いため息を吐きながら夜明が口を開く。

「アーシア」

「は、はい」

「お前は本当に良い子だと思うよ。気は優しいし気立ても良い。俺なんかと違って悪魔の仕事もちゃんとしている。そういう点おいて、俺はお前に勝てないとも思っている」

「いえ、そんなことは……」

突如、自分を褒めちぎり始めた夜明にアーシアは赤面しながらも嬉しそうな表情を浮かべる。でも、だ! と夜明は力強く言い放った。

「だからと言って、食卓をダークマターの墓場にして良い理由にはならねぇ!!」

「ごめんなさいぃぃぃ!!!!」

夜明が指差すテーブルの上、そこは食材の墓場と化していた。

「何で野菜が真っ黒になるんだ!? 何で豚肉が鮮やかな虹色になるんだ!? 何で魚がショッキングピンクに染まってるんだ!? 家は不思議の玉手箱じゃねぇぞこらぁ!!」

「あうぅ、本の通りにキチンとお料理したんですけど……」

アーシアが取り出したのは日本語のレシピ本。夜明の額に更なる青筋が浮かび上がった。

「日本語を読めないのに何で日本語のレシピ本で料理を作ろうとするんだぁぁぁぁ!!!!」

「あわうーっ!!」

チョップやウメボシでアーシアをお仕置きすること数分、嘆息しながら夜明は涙目になっているアーシアの手を取った。

「ちょい見せてみろ……あぁ〜あぁ〜。やっぱり傷だらけだ」

ちょっと待ってろと言い残し、夜明はダイニングキッチンから出て行く。一分としない内に戻ってきた夜明の手には救急箱が握られていた。染みるけど我慢しろよー、と前置いてからアーシアの手に消毒液をかける。

「いきなり料理を作ろうとするからこうなるんだよ。ちょっとずつ覚えていけばいいんだ」

「は、はい……」

顔を赤くしながら夜明の為すがままのアーシア。数分後、夜明に絆創膏を貼ってもらった手を嬉しそうに見ていたアーシアがいきなりこんな事を言い出した。

「夜明さん。私、当分手は洗いません!」

「洗え馬鹿。傷口化膿させてぇのか」

当然、こういう反応が返ってくる。夢見心地で風呂場へと向かっていったアーシアとは反対に夜明は自室へと戻る。

「アーシアってあんなアホの子だったのか? いや、でも普段はしゃっきりしてるし……何かあったのか?」

それは君と一つ屋根の下で生活してるからだよ、何て突っ込みはどこからも入ってこない。ドアを開け、自室に入るとそこには、

「夜明。大至急、私を抱きなさい」

超次元的発言をする我らが主、リアス・グレモリーの姿があった。

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