小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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                『合宿前日』




「ん、この暑くて胸糞の悪くなる魔力は……やっぱりお前か、フェニックス」

右腕の肘でライザー眷属の一刀を、人差し指で夜明の斬撃を受け止めながら太陽はライザーの姿を認め、不快そのものの表情を作る。

「と、トワイライト=ヘルシング……」

「その名は当の昔に剥奪されたよ。と言っても、自分から捨てたと言ったほうが正しいがな。今の私はリアス・グレモリーが眷属、『死神(デスサイズ)』夕暮太陽だ」

夜明とライザー眷属の剣を受け止めた右腕を一振り。それだけで二人は互いの主の方に弾き飛ばされた。

「おっと、すまん夜明。力加減を間違えた。それにしても随分と狡い手を使ってくるじゃないかフェニックス。ウォルターの名を語って私を冥界に誘き出すなんて。まぁ、ウォルターも私に用があったらしいから構わないが……そんなに私と面を合わせるのが嫌か? それとも怖いか?」

腑抜けが、と吐き捨てるように呟いてから太陽はグレイフィアに目を向ける。

「グレイフィア。これはリアスの婚約の件での話し合いと見て間違いないな?」

「はい。しかし、話し合いでは解決しないので、レーティングゲームでの勝敗で話をつけることと相成りました」

グレイフィアの返答に頷きながら太陽はレーティングゲームかよと頭を掻く。

「あれ嫌なんだよなぁ。私の場合、何十にも能力に封印がかけられるみたいだし……この場でフェニックスを殺しちゃダメか?」

試したい奴があるんだ、と太陽はある物を手に取る。太陽の髪同様、燃えるような紅の拳銃。クルクルと手の中で回転させながら太陽は背後の執事、ウォルターを振り返る。

「まだ説明してもらって無かったな、ウォルター」

「畏まりましたお嬢様。対悪魔戦闘用二十五ミリ拳銃『ゴッドイーター』。全長三十九センチ、重量三十八キロ、装弾数八発。人間は勿論、悪魔ですら扱えないような代物に仕上がっています」

ウォルターは懐に手を入れると、素早く弾倉を取り出して太陽に差し出した。

「専用弾二十五ミリ爆裂弾」

「弾殻は?」

「純製オリハルコン加工弾殻」

「装薬は?」

「イフリート魔力薬筒SCDE」

「弾頭は?」

「術式済み水銀弾頭でございます」

一通りの説明を受け、太陽は満足そうに頷きながらゴッドイーターを回すのを止め、ウォルターに賛辞を送った。

「パーフェクトだ、ウォルター」

「感謝の極み」

深々と頭を下げる老執事から視線を外し、顔を青ざめさせながら自分とウォルターに視線を向けているライザーにゴッドイーターの銃口を突きつける。

「お〜や〜? こんな所に丁度良さそうな的があるじゃないか。どうでも良いが、こいつの引き金は羽よりも軽いぞ。いや、深い意味は無いがな」

ニヤニヤ笑っていた太陽だが、すぐに冗談だよとゴッドイーターを引っ込めた。

「それで、レーティングゲームで決着をつける方向で決まったんだろ? ならさっさと消えろ。お前の面を見てるだけで吐き気が込み上げてくる」

「お待ちください太陽様。まだ、レーティングゲームの日取りが」

「十日後だ。良いな?」

コクコクと頷くライザー。まぁ、ゴッドイーターを突き付けながら言われたので仕方がないと言えば仕方ないが。

「これで決まりだ。それじゃあ失せろさっさと失せろ。私に消し飛ばされる前にな」

「急かすなよ……リアス、レーティングゲーム、楽しみにしているからな。それとそこの人間。お前はこの俺が直々に倒してやる」

ライザーの宣言。それに対し、夜明は無言で親指を立てて喉を掻っ切るジェスチャーを送る。魔法陣が輝き、ライザーは眷属達と共に消えた。その後、主達に詳しいことを報告するためにグレイフィアもどこかへジャンプしていった。

「ったく。帰ってそうそう不快なもん見ちまったな……ウォルター、別の部屋に台所があるから適当に使って何か軽めの物作ってくれ。それと紅茶もな」

「畏まりましたお嬢様」

深々と一礼し、ウォルターは部室から出て行く。部員のみの状態となった部室の中で、太陽はソファーの上にどっかりと座り込み、一同を見渡す。

「それじゃ、作戦会議といこうか」














「相変わらずウォルターの淹れる紅茶は美味しいわね」

「恐悦にございます、リアス嬢」

リアスに軽く頭を下げる老執事を夜明とアーシアの二人は疑問符を浮かべながら見ていた。周りの仲間達の反応から察するに、知り合いなのだろう。

「あの、太陽さん。そちらの方は……」

やがて、遠慮がちにアーシアが訊ねる。老執事が作ったパイに齧り付いていた太陽がここでしまった、という表情を作った。急いでパイを食べ終え、指を舐めながら老執事を示す。

「んぐんぐ……悪い、紹介するのすっかり忘れてた。ウォルター」

「お初お目にかかります。私、ライトお嬢様の執事を務めさせていただいておりますウォルター・C・ドルネーズと申します。以後、お見知りおきを、月光夜明殿、アーシア・アルジェント嬢」

執事? と首を捻る二人に太陽は面倒そうに説明を始めた。

「かなり昔なんだが、私の家、ヘルシング家は悪魔の中でもそれなりの地位にあったんだ。でも、あることが原因で爵位を剥奪された。んで、仕えてくれていた連中を全員、信用出来る知り合いの悪魔に頼んだんだけど、こいつだけ私の下に残るって聞かなくてな……それとウォルター、お嬢様っての止めてくれ。何かこう、背中がむずむずしてくる」

「お断りします。例え家が無くなろうが、お嬢様がご成長なさろうが私にとってお嬢様はお嬢様ですから」

直立不動の体勢でウォルターは朗らかな笑みを浮かべる。しかし、その瞳にはどんな事があっても太陽、トワイライト=ヘルシングに仕え続けると言う鋼の意志がある。若干、顔を赤くしながら太陽は好きにしろ、とそっぽを向いた。

「信じられねぇ。あの何があっても自分を曲げない太陽が自分から折れただと!?」

「あの、太陽さんってウォルターさんに弱みでも握られてるんですか?」

「い、いえそう言う訳では。ただ、ウォルターさんは太陽さんが生まれた時から仕えていて、育ての親のようなものなんです。それで流石の太陽さんもウォルターさんには頭が上がらないんです」

「「へぇ〜」」

朱乃の説明に二人はニヤニヤしながら太陽を見る。二人の視線に太陽は不機嫌そうに顔を顰めるが、わざとらしく咳払いをして部室内の空気を変えた。

「私とウォルターのことはどうでもいいだろうが。それよりも、話し合わないといけないことがあるんじゃないか、リア?」

そうね、と頷きながらリアスは紅茶のカップを置き、太陽の傍らに立っているウォルターを見た。

「えぇ、そうね。ウォルター、第三者の視線から見て、私とライザーの『レーティングゲーム』においての戦力差はどの程度ある?」

「はっきり言いましょう、絶望的の一言に尽きますな。リアス嬢の眷属の数は六人。対し、ライザー・フェニックスの眷属はフルメンバーの十五人。さらにこちらには『レーティングゲーム』の経験が皆無な上に悪魔との戦闘経験が無い夜明殿とアーシア嬢がいる。これだけでも目も当てられないような状態です」

申し訳無さそうに萎縮する夜明とアーシア。

「(フォローは後回しにしましょう)そう。じゃあウォルター、率直に聞くわ。私達はライザーに負ける」

リアスの問い。ウォルターから返ってきたのは、

「否(ノー)!」

力強い否定だった。

「数の差はあります。戦闘経験の差も絶望的。しかし、それがどうなさいました? 戦場に必要なもの、それ即ち相手に勝とうという鋼の意思! あの才能の上に胡坐をかいたクソ餓鬼にはそれがない。その上、完全にこちらを舐めている。その慢心を突けば必ずや勝機を掴む事が出来ましょうぞ」

ウォルターの言葉にアーシアが嬉しそうに表情を輝かせる。しかし、アーシアと太陽以外の面子は暗い顔をしていた。ウォルターの慢心を突けば必ず勝てると言う台詞。それ即ち、ライザーの慢心を突かねば勝てないという事だ。

「あの、皆さん、どうしたんですか? 太陽さん以外浮かない顔をしてますけど……」

「フフ、アーシア嬢。皆様はこう思いになっておられるのですよ。『ライザー・フェニックスの慢心を突かなければ自分達に勝ち目は無いと』。……戦いが始まる前からそんな弱気でどうするのですか皆様?」

特にリアス嬢、とウォルターは誰も反応できないような速さでリアスの目の前に移動し、その鼻先に指を突きつけた。

「貴方は『王(キング)』なのです。『王(キング)』とは眷属を束ね、眷属にその威風堂々たる姿を焼き付ける者を指す……その『王(キング)』たる貴方がそんな弱気でどうする! グレモリー家の次期当主だと言うのなら、ライトお嬢様の友人だと言うのなら戦力の差、フェニックスの能力全てを押し潰し粉砕し勝利を収め、このゲームを仕組んだ連中の目の前で凱旋して見せなさい!」

厳しい表情のウォルターに怯むリアス。リアスの額から汗が一筋流れたのを見ると、ウォルターはニッコリと表情を崩した。

「何、ご心配召されますな。『レーティングゲーム』が行われるのは十日後。僭越ながら、この老兵(ロートル)が皆様を鍛えて差し上げましょう」

よろしいいですね、お嬢様? と確認を取るウォルターに太陽は肯いてみせる。

「その為に十日後なんて先に日取りを決めさせたんだ。リア、とりあえず夜明とアーシアを使い物になるレベルまで上げるぞ」

「そうね。それに私達自身もレベルアップしなくちゃ……よし、皆!」

リアスはソファーから立ち上がり、大声で一同に宣言した。

「明日から強化合宿よ!!」














ザバッ! と頭からお湯を被り、夜明は髪についたシャンプーの泡を落とした。

「……」

無言で温水が滴り落ちる髪を掻き上げる。その顔は限りなく無表情に近いが、どこか思い詰めたような印象を他者に与えるだろう。

「俺とアーシアには実戦経験がない……か」

部室で聞いたウォルターの話を思い出す。アーシアはまだいい。彼女には『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』という傷を癒す貴重な神器(セイグリッド・ギア)をその身に宿している。例え彼女が足を引っ張るとしても、守るだけの価値はあるだろう。しかし自分はどうなのか?

「俺じゃ味方を回復させるなんて真似出来ないからなぁ〜」

『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』で『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の能力を創造することが出来ればいいのだが、生憎と今の夜明にそこまでの技量はなかった。

「せめて、皆の足を引っ張らないようにしなくちゃ……って、何弱気なこと考えてんだ俺は」

タイル張りの壁に額を押し付ける。

「部長の目の前であんだけの啖呵を切ったんだ。最低でも勝利するのに一役買うぞ」

そのためにも強くなろうと改めて決心を固め、額を壁に押し付けたまま身体を洗おうとドアにかけてあるタオルへと手を伸ばした。のだが、夜明の伸びた手は見事に空を切ることになる。夜明がタオルの代わりに握ったものは……。

フニン。

(……何だろう、この酷く柔らかくて人肌の温もりを持ったお椀状のものは……)

まさかとは思いつつ、壊れたブリキ人形よろしくギギギと首を軋ませながら振り返る。

「あ、あの、お背中流しに来たんですけど……」

そこには夜明に胸を触られ、顔を真っ赤にさせているアーシアの姿があった。普通なら叫ぶなり頬を張るなりする場面だが、そこは今までこんな事態に遭遇したことのないアーシア。どうすればいいか分からず、夜明の顔と自分の胸に触れている手を交互に見やる。

「えっと……もっと触りますか?」

そして、混乱の末の一言である。一瞬、夜明の手がピクリと動いたが、ゆっくりとアーシアの胸から離れていく。夜明、無言のまま立ち上がって徐に浴槽へと向き直った。

「あの、夜明さん。何で無言で浴槽を? 何してるんですか夜明さん!? 頭から浴槽に突っ込むなんて!? 夜明さん、夜明さーん!!!!」














「とりあえずアーシア、最初に謝っておく。マジですんまっせんしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「よ、夜明さん。そんなに頭を下げないでください。私も気にしてませんし。そ、それに……」

後半、口をモゴモゴさせるアーシアだったが、絶賛土下座中の夜明には聞こえなかった。ちなみに謝罪として夜明は焼き土下座を敢行しようとしたが、アーシアと協力してくれた近所の人たちのお陰で夜明はウェルダンにならずに済んだ。

「いや本当にマジですみません。お詫びと言っちゃ難だが、俺の胸を触るか……って何言ってんだ俺は」

「良いんですか!?」

「え? 何その反応、予想外なんですけど」

冗談だから、と言う夜明に何故か非常にがっかりしたアーシアに申し訳ないと思いつつ、夜明は咳払いする。

「それでアーシア。男が入浴中の風呂場に突撃ラブハートした理由を教えてもらおうか」

「とつげきらぶはーと? えっと、今日、部活から帰る寸前に太陽さんに言われたんです。女の子の居候は男の背中を洗うことで恩義を返すって太陽さんから聞いたので……って、夜明さん。何で携帯を取り出してるんですか?」

「ちょっとな」

返事をしつつ携帯を操作、かけた相手は、

『はい、もしもし。この老執事に何用ですかな夜明殿?』

ウォルターだ。

「いえですね、ちょっと太陽に言っておいて欲しいんですよ。純粋な女の子に嘘を吹き込むのは止めろって」

『ふむ、成る程。大体の事情は察しました。お嬢様には私から言っておきましょう』

「お願いします……アーシア。幾ら事故だったとはいえ、お前の胸を触ってしまったのは覆しようのない事実だ。お詫びとは言わないがお前の言うことを一つ、俺の出来る範囲で何でもしよう」

何でもですか!? 俺の出来る範囲内ならな。というやり取りの後、アーシアはおずおずと夜明へのお願いを口にした。

「き、今日一緒に寝てもらえますか?」














その夜、夜明のベットの中では、

「くー、くー。よあけさ〜ん」

安心しきった、何もかもを預けきった表情を浮かべて夜明を抱き枕に寝ているアーシアと、

「……(何で女の子ってこんないい香りがするんだ? 何で女の子ってこんな柔らかいんだ? ってか何でこんな状況になってんだぁぁぁぁぁ!!!!!)

心の中で絶叫する夜明がいた。ちなみに夜明が一睡も出来なかったことは言うまでもない。












台本形式オマケ

リアス「そう言えば夜明。貴方、ライザーの眷属、もといハーレムを見て何にも反応しなかったけどもしかして枯れてるの?」

夜明「いえ、そう言う訳では……ただ、誰一人として俺好みの子がいなかっただけです」

木場「ふぅん。じゃあ、夜明君の好みの女性ってどんなタイプなんだい?」

夜明「そうさな……年上かな。自分の年齢+一、二歳くらいが理想的かな〜」

アーシア「年上……あうぅ〜」

夜明「後、お淑やかな人が良いな。活発的な女性もそれはそれで魅力的だが、アクティブすぎるのも考えもんだ」

リアス「……へぇ」

夜明「更に言うなら包容力があると嬉しいよなぁ〜。一緒にいて安心できる人とか。膝枕とか耳掃除してくれたりすると最高だ」

太陽「ふぅん……」

夜明「最後に我侭言うなら髪の長い人が好み、ん、どした小猫?」

小猫「……(ビシッ)」

朱乃「……(ニコニコ)」

夜明「木場きゅん木場きゅん。何ゆえ朱乃さんは俺のことをあんな素敵な笑みを浮かべながら見てるのかな?」

木場「自分が言った好みの女性の特徴を順に挙げていけば答えは見つかるよ」

夜明「(えっと、自分の年齢よりも一、二歳上。お淑やか、包容力、髪が長い……朱乃さん、全部当てはまっとるぅぅぅ!!!!)。ま、まぁ、その人のことを本気で好きになったら好みとか関係ないですよ。あはは!!!!」

その日以降、朱乃の夜明を見る目が妙に色っぽかったとか何とか……

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