小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

                『修行の成果』




別荘での夜。寝付けずに夜明は目を覚ました。隣りのベットでは木場が穏かな寝息を立てている。とりあえず、この数日で分かった事がある。

夜明には木場のような剣の技術は無い。小猫のような格闘技の技術は無い。朱乃のような魔力操作の技術も無い。アーシアのように誰かを回復させる事はできない。太陽のような相手を怯ませる凄みを持っていない。

(無い無い尽くしだなこんちきしょう)

いや、それはまだいい。自分よりもリアスと一緒にいる時間が長い彼らに勝てるとは最初から思っていない。それ以上に許せないのが……。

「……水、飲も」

ベットから抜け出し、流しがあるキッチンへと向かう。コップに注いだ水を一気飲みして一息。

「あら、夜明じゃない」

「あり、部長?」

リビングの方から声が聞こえた。見れば、ソファーに腰を下ろしたリアスが手招きしていた。よくよく見れば、眼鏡をかけている。

「部長って目ぇ悪いんですか? 普段は眼鏡なんてつけないのに」

「気分の問題よ。考え事をする時、眼鏡をかけると何時もより頭が回るような気がするのよ」

何事も形から入るタイプのようだ。たはは、と夜明が何ともいえない笑みを浮かべていると、リアスは向かいの席を指し示す。座れということらしい。

「何見てるんですか? 地図やらフォーメーションやら書き込んだ紙……レーティングゲーム関連ですか?」

「えぇ……こんなのを読んでも気休めにしかならないんだけどね」

「そんなに強いんですか、あのライザーってのは?」

「ライザー本人は大した事無いんでしょうけど、彼の能力が規格外なのよ。フェニックスについては知ってる?」

リアスの問いに頷く。フェニックス。燃え盛る炎を纏う火の鳥、その涙はどんな傷をも癒し、血には飲んだ者を不老不死にするという力があるという。そして最も有名な力が、

「不死身」

「そう、彼は文字通り不死身よ。傷は瞬く間に再生し、その業火は骨まで焼き尽くす。レーティングゲームにおいて、フェニックスは最強の一角なの」

それが今回の敵、か。と夜明は改めて相手の存在を再確認する。ふと、ここである疑問が頭の片隅を駆け抜けていった。

「部長。何であの焼き鳥との婚約を嫌がってるんですか?」

単に相性が合わない、好みじゃないという些細な事情なのかもしれない。しかし、夜明にはそうは思えなかった。リアスはそんな生易しいレベルじゃない息でライザー・フェニックスとの婚約を拒否している。

「……私は『グレモリー』なのよ」

「知ってます」

「改めて名乗った訳じゃないわよ。私はグレモリー家の人間で、それがどこに行ってもついてくるってこと」

あぁ、と夜明はリアスが言わんとすることを理解した。

「嫌なんですか? リアス・グレモリーの個を殺されるのが?」

「誇りに感じているわ。でも、夜明の言うとおり私という個を殺されるのは堪らなく嫌だわ」

(名前かぁ……)

どこか寂しさを瞳に乗せるリアスの気持ちが夜明には分からなかった。別段、自分の名前に誇りを持ったことは無い。同様に嫌だと思ったことも。俺は月光夜明だ、と特に気負いも無く言えるが、彼女の場合そうはいかない。今この時もリアスはグレモリーの看板を背負っているのだ。これからも、ずっと。

「私はグレモリーを抜きにして私を、リアスを愛してくれる人と一緒になりたいの。それが私の小さな夢」

確かにライザー・フェニックスがリアスのことをグレモリーのことを抜きにして愛してるとは思えない。グレモリーとしての誇りを感じている、しかし、グレモリーに個を殺されるのも嫌だ。

「矛盾してるでしょ? でも、それでも私はこの小さな夢を持っていたいわ」

「矛盾してて良いんじゃないですか?」

ソファーから立ち上がり、え? と疑問符を頭上に作るリアスの傍らへと移動し、例の如く床に片手片膝を突く。

「部長、俺の主は貴方だ、リアス・グレモリーだ。その貴方が抱いている願いというのなら矛盾してるとかそんな些細な事は関係ない。グレモリー家も悪魔の社会も関係なしに、俺はリアス・グレモリーの願いを最優先します」

グレモリーも何も関係ない。この人は紅の髪を靡かせ、威風堂々としている姿こそが相応しい。想いを瞳に乗せ、夜明は顔を上げて目を丸くしているリアスを見る。

「それに、俺は人間ですからね。グレモリーも悪魔の社会も知ったこっちゃ無いですし、そんなの関係無しに俺の主は貴方だけですからね。それに俺、部長が威風堂々と立ってる姿、結構好きですよ」

夜明が茶目っ気を込めて言うと、リアスの頬が真っ赤に染まっていった。ん? と首を傾げた夜明から隠すようにリアスは何でもないわ! と顔を背ける。

「何だか貴方と話していると悩んでる事が馬鹿馬鹿しくなってくるわ……そうね。勝てば何の問題も無いのよね。戦う以上は勝つ、勝つしかないのよ」

あぁ、俺の主は強い。自分とリアスを比べ、夜明は表情を曇らせた。

「強いですねぇ、部長は。それに比べて俺ぁ……」

「……」

「俺には木場みたいな剣の技術が無い、小猫みたいな格闘技の心得が無い、朱乃さんみたいに魔力を自在に操れる訳じゃない、アーシアみたいに仲間を回復させる事もできない、太陽みたいな凄みを持っている訳でもない。それでも良いんですよ。俺は皆に出来ない事をやれるから……ただ、何よりも許せないのがそのやれる事さえ出来ない自分……」

リアスは口を挟むことなく、夜明の独白に耳を傾け続けた。

「俺もウォルターさんにフェニックスの能力を聞いて自分なりに対策を立てようと思ったんですよ。不死殺しと吸魔の属性を持った武器を創ろうって」

見てくださいよ、と自嘲気味な笑みを浮かべながら夜明は右手に一本の直剣を創り出す。しかし、その直剣は数秒と経たずに粉々に砕け散ってしまった。

「不死殺しの属性を与えた武器は数秒しか維持できません。吸魔に至っては形すら出来ずに蜃気楼みたいな魔力が出てくるだけなんですよ」

一頻り力の籠っていない笑い声をリビングに響かせ、夜明はゆっくりと顔を片手で覆う。

「俺だけが何も出来ないんです。仲間内で一番弱い上に自分にやれる事さえ出来ない、本物の役立たずですよ。それだけじゃないんです! 修行を始めてから何の成長も感じないんです! 皆やウォルターさんみたいな凄い人に鍛えてもらってるのに、全然。部長の前であんだけの啖呵を切ったってのに……情けなさ過ぎて泣いちまいそうですよ、俺」

実際に夜明の頬を涙が伝っていた。泣き顔なんて情けないものをリアスに見せて堪るかと夜明はすぐにリアスの傍から離れようとするが、それよりも速く伸びてきた腕に抱き寄せられる。

「夜明。私の眷属、私の『兵士(ポーン)』。自分のことを役立たずなんて呼ぶのは止めなさい。貴方は役立たずなどでは無いわ。修行の最終日にそれが分かる。だから今は自分を、私を信じて修行に励みなさい」

「……はい!」

優しい温かさに抱かれながら夜明は力強く頷いた。














そして迎えた修行最終日。最後の締め括りとして、夜明はウォルターと模擬戦を行う事になった。

「夜明、錘を外してウォルターと戦ってみなさい」

リアスが腕を一振りすると、夜明の四肢に装着されていた錘が音も無く消えた。久しぶりに感じる自由な手足の感覚に夜明は戸惑った風にリアスを見る。

「あの、部長。俺に何が起こったんですか?」

夜明の意味不明な問いに皆が首を傾げた。太陽だけはリアスのやったことを理解してるらしく、一人クスクス笑っている。

「すぐに分かるわ。太陽」

あいよ、と返事をして太陽はゴッドイーターを取り出し、銃口を天へと向ける。

「そんじゃ始めるぞ〜。悪魔ファイト、レディーゴー」

腹の底に響く銃声が山中に轟いた。刹那、構えたウォルターの視界から夜明の姿が消え失せる。ほぉ、と感嘆の声を上げるウォルターの背後で動く気配。夜明の斬撃とウォルターの裏拳がぶつかり合った。衝撃で吹き飛ぶ夜明、一歩後ずさるウォルター。

「部長。夜明くんに何をしたんですか? 昨日までと動きが違いすぎる」

木場の疑問にリアスは悪戯が成功した子供のような笑顔を作った。

「別に何もしてないわよ。夜明が両手足首につけていた錘があるでしょ? あれの重量を日が経つに連れて重くしてったのよ。夜明の力を封印する術式のオマケ付きにね」

夜明は今まで気付かなかったみたいだけど。とリアスは小悪魔チックな笑みを浮かべる。

「……つまり、あれが夜明先輩の本来の力ということですか?」

「いや、本来の力なんかじゃない。あれは夜明がこの修行で積み上げてきた努力の集大成だ。ウォルター、本気になれ。夜明も隠し玉をさっさと使え」

太陽が指を鳴らすと、ウォルターの動きが見違えるほどに速くなった。見切り損ねたウォルターの拳が夜明の顔面へと突き刺さる。夜明は木々をへし折りながら吹っ飛んでいった。

「夜明さん!!」

「大丈夫よ、アーシアちゃん」

舞い上がった砂煙の中に打ち込まれた夜明にアーシアが駆け寄ろうとするが、朱乃がアーシアの肩を抑えて押し留める。朱乃の言葉を肯定するように砂塵を吹き飛ばし、周囲に二十以上もの武具を従えた夜明がウォルターへと突っ込んでいく。

(やれる……俺は、やれる!!)

右手の銀翼を振り上げる。夜明の周囲を旋回していた武具の矛先全てがウォルターに狙いを定めた。ウォルターが拳を握り締めると、二十以上の武具が一斉発射される。全ての武具を拳で叩き落しながらウォルターは滑り込むように間合いへと踏み込んできた夜明に蹴りを合わせた。紙一重でウォルターの脚をかわして夜明は二本の直剣を身体の下に構える。夜明の切り上げ、ウォルターの踵落しがぶつかり合う。

「ほぉ」

「まだまだぁ!!」

切り上げの威力に感嘆の声を上げるウォルターに息つく暇を与えず再び二十挺以上の剣群を創り出す。銀翼、蒼星の斬撃に合わせて剣群を頭上から降り注がせる。無駄の無い動きで剣群全て、銀翼蒼星の刀身を避け、ウォルターはカウンターのストレートを放つ。再びウォルターの一撃を顔で受け止めた夜明は後方へ吹っ飛んだ。

「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」

夜明が小さく口を動かすと、ウォルターは周囲に魔力が膨張する動きを察知する。発生源はさっき夜明が創り出した武具。

「これは」

轟音と爆炎がウォルターを呑み込む。

「どうだ!?」

口元の血を拭いながら夜明は黒煙を吐き出しながら燃え上がる火柱を見る。

「ほっほっほ、これは驚きましたな」

ゆっくりと炎の中からウォルターが歩み出てきた。服こそ所々に焼けた跡があるが、目立ったダメージは無さそうだ。

「これでもダメなのかよ!」

盛大にため息を吐きながら夜明は大の字になって寝転がる。やっぱ駄目駄目じゃん俺、と頭を掻いていると、上下逆さまになったウォルターの姿が視界に映った。

「何を申されます。このウォルター、服を汚された事などここ数千年で初めてですぞ」

「え、そうなのか?」

本当だよ、と近くの木に凭れ掛かっていた太陽が口を挟む。

「言ってなかったが、ウォルターは冥界最強の執事(バトラー)なんて呼ばれてるんだ。魔王に匹敵すると言われてるくらいの実力者だぞ」

「そんな凄い人だったんだウォルターさん」

驚きとも畏怖ともつかない目でマジマジと見てくる夜明にウォルターはただ穏かな笑みを浮かべるだけだった。上半身を起こした夜明にリアスが歩み寄る。

「それで気分はどう、夜明?」

「部長……何て言うかその、霧が晴れたって感じです……ってかちらっと聞こえましたけど、錘に細工してたって本当ですか!?」

本当よ、と間髪入れずに頷くリアス。道理でどんだけ修行しても軽くならないはずだ、と夜明はその場に頭を抱えて蹲った。

「何の成長も感じてなかった時の俺の悩みって何だったんだろ?」

「まぁ、そのことはもう忘れなさい。夜明、確かに貴方には祐斗のような剣の技術も無いし、小猫のような格闘技術がある訳でもない。朱乃みたいに魔力操作が上手い訳でもないし、アーシアのように仲間を回復させる事もできない。太陽のように相手を怯ませる凄みも無い。でも、総合能力でいえば眷族の中で一番よ」

え? と夜明は固まる。

「リアの言ったことは本当だよ。実際、今の状態(・・・・)の私を含めて、この場にいる皆が本気になったウォルターに汚れをつけるなんて出来ないからな」

「夜明、確かに貴方は悪魔ではなく人間よ。身体面においてはこの場にいる全員に劣ってるかもしれない。でも、貴方の真価は身体能力でも『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』でもなくて決して屈する事の無い不屈の闘志でしょ」

とん、と胸を軽く突かれる。

「自信を持ちなさい、私の『兵士(ポーン)』。私、リアス・グレモリーの切り札(ジョーカー)は貴方よ」

「それに、レーティングゲームは個人戦じゃなくてチーム戦だからな。味方がいるんだ。お前に出来ない事を他の奴がやる。だからお前は私達に出来ない事をやれ」

一人は皆のために、皆は一人のためにってな、と茶目っ気のある笑みを浮かべる太陽。その周りでは仲間達が力強い表情を作っていた。

「そうだな。皆で勝つんだ」

「えぇ、勝ちに行くわよ」














そして彼らは当日を迎えた。

-15-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D リアス・グレモリー (1/4.5スケール ポリレジン製塗装済み完成品)
新品 \0
中古 \
(参考価格:\16590)