小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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                『レーティングゲーム』




「とうとうこの日が来たな」

「そうですね……」

マンションの自室で待ちきれない、と言った風にベットに腰掛けた夜明が呟く。その隣りには何故かアーシアの姿があった。時計の針は現在午後十時を指している。レーティングゲームの開始は深夜零時丁度。三十分前には部室に集まるということになっているので、もう一時間ほどもしたら部屋を出ねばならない。

「んで、なしてお前は俺の部屋におっと?」

シスター服のアーシアに問う。ちなみに夜明は駒王学園の制服の上に星空の刺繍が入った羽織を肩にかけている。

「いえ、その、何と言いますか。もうすぐレーティングゲームが始まると思うと落ち着かなくて、それで気がついたら……」

顔を真っ赤にさせ、人差し指をもじもじさせながらアーシアは上目遣いで夜明を見る。アロマオイルか何かか俺は、と夜明は頭を掻きながら嘆息する。

「俺に他人を落ちかせる能力なんて無いぞ、っと」

「ふにゃ?」

夜明は徐に手を伸ばし、アーシアの頬を摘んだ。ムニムニと頬の肉を引っ張りながらアーシアの翡翠色の瞳を覗き込む。

「よく聞けアーシア。緊張感を感じるのは分かる。実際、俺もそうだし。でも、だ。そいつに呑み込まれちゃあいけねぇ。出せる力も出せなくなっちまう。どんだけ身体が緊張してたとしても、心だけは落ち着かせておけ」

夜明は頬を離して額を軽く押す。あぅ〜、と赤くなった頬を両手で摩っているアーシアに真面目な表情を作って見せた。

「アーシア。俺達の恩人である部長の記念すべき初ゲームだ。絶対、部長に勝利を捧げよう」

さっきまで顔に浮かばせていた緊張と恐怖を幾分か和らげ、アーシアは元気に頷いた。ポンポン、と頭を撫でてやると、アーシアは顔を真っ赤にさせながらも気持ち良さそうに目を細める。

「夜明さん……」

アーシアは夜明の胸に身体を預けると、胸元をぎゅっと握ってきた。

「こうやって夜明さんと一緒にいると、何があっても大丈夫だ、って気がします」

「そうか?」

「はい……これからもずっと夜明さんの傍にいていいですか?」

答える代わりに夜明はアーシアを優しく撫でてやるのだった。














時間となった。部室へと集まった夜明達はレーティングゲームの戦闘フィールドとなる異空間へと飛ばされた。そこには駒王学園の精巧なレプリカがあった。その際、審判(アービター)役であるグレイフィアからルールの説明を受けたり、リアスの兄が冥界の魔王であることが分かって夜明とアーシアは心底驚いていた。

「んで、俺が別の駒にプロモーションするにはあっちの本陣にまで行かないといけないんですよね?」

夜明の問いにリアスが頷く。ちなみにこのフィールドにおけるこちら側の本陣は旧校舎にあるオカルト研究部の部室、敵側が新校舎の生徒会室だ。そうこうしている内にチャイムが鳴り響く。何も開始の合図までここに合わせなくても……と思いながら夜明はリアスと太陽の会話に注意を戻す。

「向こうはこっちと違って『兵士(ポーン)』が八人もいるから、速めに撃破(キャプチャー)しないとね」

「だな。流石に向こうの『兵士(ポーン)』全員が『女王(クイーン)』にプロモーションしたら厄介すぎる」

テーブルを挟んで話し合う二人に夜明とアーシアは驚きを隠せずにいられなかった。朱乃に至ってはお茶まで淹れてるし。

「あ〜、皆さん落ち着きすぎじゃね?」

「夜明、戦いはまだ始まったばかりよ? もともと、レーティングゲームは短時間で勝敗が決するものではないわ」

本物のチェスと一緒でね、というリアスの言葉に夜明は納得した表情を浮かべる。

「それに、ただ何もしないって訳でもないしね……祐斗」

リアスの指示を受け、木場がテーブルの上に紙の様なものを広げる。それは戦闘フィールドになっている駒王学園(レプリカ)の詳細な地図だった。マスで区切られ、縦や横に数字やら英字が書かれている。

「あ、これってチェスのボードに倣ってるんですか?」

アーシアの問いに太陽がExactly、と妙に発音の良い英語で答えた。全員で地図を囲んで作戦会議となった。




「それじゃ確認よ。太陽、小猫の二人は校庭で派手に暴れて相手の注意を可能な限り引きつける」

「任しときなさいっての。一丁ど派手に行くか、小猫」

「……はい」

突き出された太陽の拳に小猫は小さな手を合わせる。

「祐斗はこの本陣がある旧校舎周辺の森にトラップを仕掛ける。祐斗がトラップを仕掛け次第、朱乃はライザー達のみに発動する幻術をかける」

「はい」

「お任せください。うふふふ」

その名の『騎士(ナイト)』のように木場は一礼し、朱乃はサディスティックさを感じさせる笑みを浮かべていた。

「アーシアは私と一緒に行動。夜明は旧校舎寄りの体育館を占拠して新校舎までのルートを確保」

「は、はい!」

「はい!」

それぞれが己の役割を確認し、初めてのレーティングゲームに緊張感を抱き、想いを馳せていた。特に夜明の役目である体育館の占拠は相手へのけん制にも繋がるので、責任は重大である。

「それじゃ行くわよ皆。私、リアス・グレモリーとその眷属達に敗北はありえないわ」

リアスの号令の下、眷属達はそれぞれの役目を果たすために行動を開始した。














「さって、早速校庭にやって来た訳だが、流石に誰も来ないか」

ライザー本陣がある新校舎から丸見えの校庭ど真ん中。太陽と小猫は二人仲良く並んで新校舎のレプリカを見上げる。既に敵の領地ともいえる場所に足を踏み入れたのだから何かしらの反応があってもおかしくはないが、二人の周囲は不気味に静かだ。

「……ここまで堂々としてたら、相手も罠の可能性を疑うと思うんですけど」

そりゃそうだろうなぁ、と太陽はケタケタと笑いながら銜えた煙草を燻らせる。それなりに長い付き合いだが、太陽の考えていることは読めない、と思いながら小猫は漂ってくる紫煙に顔を顰める。

「ま、出てこないなら出てこないで上等。本陣から叩き出してやるまでだ」

「……どうやって?」

こうやって。悪戯っぽい笑みを浮かべながら太陽は右脚の太腿につけたホルスターから紅の魔銃、ゴッドイーターを引き抜いて照準を新校舎に合わせた。八発分の銃声が異空間に轟く。

「……」

「流石ウォルター、いい仕事をする♪」

唖然とする小猫の隣り、ゴッドイーターの弾倉を変えながら太陽は愉快そうに口元を吊り上げる。二人の視線の先、さっきまで何の傷も無かった新校舎の壁に大きなクレーターが七つ出来ていた。弾丸が掠った一角は見事に粉砕され、内壁を曝け出している。破壊された新校舎の破片が二人へと降り注いだ。

「こんだけ派手にノックしてもしもしをしてやったんだ。そろそろ来る筈だ」

太陽の予想は違わなかった。十秒と経たずに新校舎から敵影が次々に飛び出してくる。更に、別の場所へ向かっていただろう連中も出てきてくれた。あっという間に囲まれた二人。背中を預けた小猫が構えるのをちらっと確認し、太陽は自分達の思惑に乗ってくれた敵の数を確認する。

「七人か……半分近く誘い出せたんだから上々ってとこか。行けるな、小猫?」

「……その心算です」

上等、と小猫の返答に満足そうに頷きながら太陽はゴッドイーターを構えた。

「私の誘いにほいほい乗ってくれてありがとうよ、ライザーの眷属共。精々、制限時間の夜明けまでダンスナイトフィーバーと洒落込もうじゃないか」














「あっちはもう始まったのか。俺も急がないと」

新校舎から聞こえてくる派手な戦闘音に夜明は体育館へ向かうスピードを速めた。

「いい、夜明。いくら太陽と小猫が相手を陽動してくれるとは言え、体育館には確実に数人の眷属がいるはずよ。向こうも体育館の重要性は理解してるでしょうし」

本陣を出る前に聞いたリアスの言葉を思い出す。聞く分には厳しい言葉だが、そこに夜明一人を投入するという事は夜明なら大丈夫だという信頼の現われだ。

(必ずその信頼に応えてみせる)

決意と共に拳を握り締め、夜明は体育館へと急ぐ。裏側にある裏口から体育館へと侵入、演壇へと上って端から体育館内の様子を窺う。

「そこにいるのは分かってるわよ、グレモリーの下僕さん。貴方がここへ入ってくるのを監視してたのだから」

女性の声が体育館内に響く。ライザーの眷属達は女しかいなかったから、女性の声がするのは当たり前かと考えながら夜明は演壇の上に姿を現す。

「三対一、か」

双子の女の子とチャイナドレスの女の子が一人。計三人が演壇上の夜明を見ていた。

「それにしても貴方の主は何を考えているのかしら? ここに貴方みたいな弱い奴をたった一人だけ寄越すなんて……何かの作戦なの?」

「答える義理はねぇよ」

演壇から飛び降り、両手に銀翼蒼星を創造する。三対一でかかるまでもないと判断したのか、チャイナドレスの女の子は下がり、代わりに双子が小型のチェーンソーを取り出し夜明と対峙した。

「おいおい、チェーンソーって。そんなスプラッターのじゃなくてもうちょっとファンタジーな武器使えよ」

「「解体しまーす♪」」

実に楽しそうな双子の同時宣言。嘆息しつつ、夜明はそのまま突っ立って双子を迎え撃った。片方が上から、もう片方が下から。挟み込むようにチェーンソーを振るう。

「悪いな」

一言謝り、夜明は双子の視界の中から姿を消した。チェーンソーが空を斬るのと同時に夜明は双子の背後に現れた。

「お二人さん、弱すぎ」

バラバラになったチェーンソーが派手な音を立てて体育館の床へと落ちる。チェーンソーの破片の上に倒れこむように全身から血を流した双子は倒れこんだ。

『ライザー・フェニックスさまの『兵士(ポーン)』二名、戦闘不能!』

グレイフィアの声がフィールド内に響く。とんとん、と銀翼で肩を叩きながら夜明は驚愕を顔に浮かべているチャイナドレスと向き合った。

「んじゃ、第ニラウンドと行きますか」

「!?」

慌てて構えを取るチャイナドレス。中国拳法のような構えだ。

(さって、どうしたもんか。相手は無手、こっちは直剣二本。弓矢でも創造して遠距離からチクチクやるか? でもそれだと時間かかりそうだし……)

そこまで考えた時だ。言い表しようの無い悪寒が夜明を襲う。何か考えるよりも早く夜明はチャイナドレスに背を向け、抗いがたい欲求に従って体育館中央口へと走った。

「待て、逃げるのか!」

背後からチャイナドレスの罵声が聞こえるが、そんなものを無視して全速力で走る。中央口のガラスの扉へと肩から突っ込んだ刹那、

ドゴォォォォン!!!

文字通り、体育館が爆発した。衝撃に煽られ、夜明は強かに地面へと叩きつけられ、爆風で転がされていく。イヂヂ、と打った後頭部を押さえながら夜明は立ち上がる。

『ライザー・フェニックスさまの『戦車(ルーク)』一名、戦闘不能』

「あら、逃げちゃったの。仲間を三人も犠牲(サクリファイス)したっていうのに……まぁいいわ」

グレイフィアの声と一緒に聞こえる謎の声。見上げれば、翼を広げた、フードを被った魔導師のような格好をしたライザーの下僕。

「確か、『女王(クイーン)』だったか。おい、今の一撃、仲間諸共俺をぶっ飛ばそうとしたのか?」

「えぇ、そうよ。こちらは多少の駒を犠牲(サクリファイス)にしても貴方達の一人を狩れればそれで十分ただでさえメンバー不足なんだからそれだけで大打撃でしょう?」

どうせ私達を倒せても、ライザー様は倒せないんだからと饒舌に語っている『女王(クイーン)』。夜明は下種が、と口元を歪ませて周囲に二十挺の武具を創造させた。

「そこ動くんじゃねぇぞ。即行でぶちのめす」

『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』を広げ、『女王(クイーン)』へと突っ込もうと身構える。

「冷静さを欠いては駄目よ夜明くん。犠牲(サクリファイス)にされた相手のために怒るなんて、本当に優しいのね」

夜明と『女王(クイーン)』の間に割って入ってきた朱乃はウフフ、と微笑を浮かべる。

「ここは私に任せて。貴方には貴方のやるべき事があるでしょう?」

「朱乃さん……分かりました。ご武運を」

軽く一礼し、踵を返して走り出した。すぐに後ろから爆音と雷鳴が鳴り響いた。夜明は朱乃を信じ、振り返ることなく木場と合流する手筈になっている、新校舎裏の運動場へと向かった。














「う〜ん、流石に力を十兆分の一にされてる状態で何時も通り戦うのは無理だな」

ポリポリ頭を掻きながら太陽は空になった弾倉をゴッドイーターの中から吐き出させる。今の姿は満身創痍と呼ぶに相応しい状態だ。背中合わせになっている小猫も似たり寄ったりだ。

「小猫、敵って何人残ってる?」

「……『兵士(ポーン)』が四人、『戦車(ルーク)』が一人です」

「お前が『僧侶(ビショップ)』を潰して私が『騎士(ナイト)』をぶっ飛ばしたからな。このままじゃきっついかぁ」

ため息を吐きながら太陽は頭の中で素早く思考を巡らせた。今の自分達の状態、対峙している相手の状態、この後に予想できる戦闘……。

「小猫。少し考えてみたんだが、このまま行くと相手がニ、三体残して私とお前は戦闘不能にされてしまう」

「……そうですか」

口調こそ何時も通りだが、その表情は悔しさで少し歪んでいた。

「んで、考えたんだが……広範囲殲滅攻撃で連中を潰さないか?」

自分達を巻き込むほどの攻撃で。小猫はゆっくりと太陽の顔を見る。そして、小さくだがはっきりと頷いた。

「……それでいきましょう。相手を残したまま倒れるよりも何百倍マシです」

「分かった」

ゴッドイーターに新しい弾倉を叩き込み、顔の前に掲げるように構える。

「拘束制御術式第三号、解放」

太陽がその言葉を口にした瞬間、彼女を中心にどす黒い魔力が溢れ出して空間を浸食し始めた。空間が嫌な音を立てて軋み始め、クレーターが生まれる。

(本当だったら第二号まで解放してもいいんだが、それだと小猫が耐えられないからな)

苦しそうに顔を歪める小猫に心の中ですまないと謝り、太陽はゴッドイーターの銃口を地面へ向ける。ゴッドイーターを構える右腕には刺青のような紅の紋様が浮かび上がっていた。

「そんじゃフェニックスの眷属の皆々様。私と仲良く地獄に行こうぜ」

死の罰(デス・ペナルティ)。














『ライザー・フェニックスさまの『兵士(ポーン)』四名、『戦車(ルーク)』一名、戦闘不能!』

『リアス・グレモリーさまの『戦車(ルーク)』一名、『死神(デスサイズ)』一名、戦闘不能!』

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