小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

          『「英雄龍の羽(アンリミテッド・ブレイド・フェザー)」 失意の敗北』




「さて、奏者よ。今回の敵はあの真っ赤っ赤か?」

「あぁ。不死鳥、フェニックスなんだとよ」

「フェニックス。ということは不死が相手か……奏者よ、奴の再生能力は理解しているな?」

三対の翼を持った金髪の美少女、英雄龍ブレイズハートの問いに夜明は無言で首肯する。すぐににんまりとブレイズハートはいい笑顔を浮かべた。

「ならばどうする?」

「再生速度を超える速さで切りまくる……!」

力強く頷いた夜明の身体が光を帯び始める。光はぼろぼろになった駒王学園の制服と羽織を呑み込み、夜明の姿を完全に覆い隠した。皆が固唾を呑んで見守っていると、光の中から新たな力を得た夜明が現れる。

「狩、人?」

アーシアの形容は的を得ていると言って良いだろう。淡い赤色の軽装備に身を包み、右肩は犬の頭蓋と思われる骨で隠されていた。これで弓矢を持っていたら、夜明が狩人にジョブチェンジしたと言われても誰も疑わないだろう。

「『英雄龍の羽(アンリミテッド・ブレイド・フェザー)』。その能力は」

夜明の姿がリアス達の視界から消え失せる。ただ一人、夜明の動きを追っていたブレイズハートは誇らしそうな表情を浮かべて胸を張った。

「神器(セイグリッド・ギア)を鎧として纏い、能力を所有者に与える」

「ゴボ……!」

『女王(クイーン)』の口から血が溢れ出す。『女王(クイーン)』は信じられないといった表情を作って自分の胸から生えた銀翼の切っ先、それから背後に立っている夜明を見た。夜明は無言で『女王(クイーン)』の胸から銀翼を引き抜き、蹴り倒した。光に包まれ消えていく『女王(クイーン)』に一瞥もくれず、夜明はライザーを見据える。

「行きます、往きます部長!!」

左手と蒼星を同時に創造しながら夜明は高らかに声を上げる。己が身体を守る服に魔力を注ぎ込み、縦に細くなった瞳孔は揺ぎ無い。

「貴方に勝利を捧げるために往きます!!」

その瞳に妥協はない。

「貴方の『兵士(ポーン)』としての誇りを胸に往きます!!」

その心に恐れはない。

「ライザー・フェニックスを倒すために……往きます!!!!!!」

再び夜明の姿が消え、ライザーの右腕が切り飛ばされた。切られた箇所を炎で再生させながらライザーは何か言おうとするが、口を開くことすら許さない斬撃が襲い掛かってくる。

「おおおおおおおおっっっっ!!!!!!!!」

大気に赤い残光を描きながら夜明はライザーを切り裂き続けた。再生能力が追い付かないほどの速さ、この場に夜明の動きを捉えられるものは誰一人としていなかった。

「……夜明に何が起こったの?」

『女王(クイーン)』が消えたことで魔方陣から開放されたアーシアに傷を治してもらいつつ、リアスは両腕を組んで戦いを見守っているブレイズハートに視線を向ける。ブレイズハートはちらとリアスに一瞥をくれてから話し始めた。

「『赤原猟犬(フルンディング)』。それが奏者に鎧として纏われた神器(セイグリッド・ギア)の名だ」

「フルンディング……?」

「例え弾かれようとも射手が健在かつ狙い続けていれば標的を永遠に追い続ける矢のことよ。魔力を込めれば込めるほど、その威力は上がっていく……」

合点がいったリアスは心の中で手を打つ。夜明は身に纏った赤原猟犬(フルンディング)に魔力を込めることで、威力ではなく速度を上げているのだと。その速さは筆舌に尽くしがたく、切り刻まれ続けているライザーも反撃はおろか、夜明の動きを追うことさえできずにいた。

「……ちょっと待ってください。あんな速さで動いて夜明さんは大丈夫なんですか?」

ふと、頭の片隅を過ぎった疑問をブレイズハートにぶつけるアーシア。対し、ブレイズハートは振り返ることなく答える。

「大丈夫な訳無いだろうが。奏者の身体は無茶な速さで動いているせいでズタズタになっているだろうさ」

いや、ズタズタになっているなんてレベルではない。カーラマインを自爆に近い攻撃で倒し、さっきまで散々っぱらライザーに殴られた。その上、身体に大きく負担をかける『英雄龍の羽(アンリミテッド・ブレイド・フェザー)』を発動させ、自分に降りかかるダメージを全て無視して動いている。夜明の体内には動いているのが不思議なほどのダメージが蓄積されていた。

「夜明……」

思わず伸びたリアスの手に生暖かい何かがかかった。赤い、鉄の臭いを漂わせる夜明の血……。止めなきゃ。立ち上がろうとするリアスをブレイズハートが押し留めた。

「一応聞くぞ。そなた、何をする心算だ?」

「決まってるでしょ、夜明を止めるのよ。私はここであの子を失う心算は無いの!」

「戯けが! 奏者が不死鳥に負けて死んでしまうなどと考えるな! そなたはただただ奏者の勝利を信じて待っておればいいのだ!」

リアスを一喝した後、ブレイズハートは表情を和らげる。

「我が奏者を信じよ、『王(キング)』。眷属の勝利を信じ、座して待つのも主としての勤めぞ」

ブレイズハートの言葉にリアスは伸ばした腕を下ろすが、その表情は今だ陰っている。

(夜明……)














「ちっ、あの馬鹿が!」

忌々しそうに吐き捨てながら太陽はベットから飛び出した。ここは医療ルーム。今回のレーティングゲームで戦闘不能になった者達が転送され、治療を受ける場所だ。そして、室内にはレーティングゲームの現状を映し出すモニターがある。

「ど、どこに行くの太陽?」

「あの夜明(バカ)を止めに行く。あいつ、刺し違えてでもライザーを倒す心算だ!」

朱乃の問いに言葉短く答えながら医療ルームから飛び出し、足音も荒く太陽は廊下を歩いていく。

「ウォルター!!」

「ここに」

「ウォルター、私は今からゲームに乱入して夜明を止めてくる。お前はその旨を観戦しているサーゼクス共に伝えてきてくれ」

太陽の言葉にウォルターは片眉を持ち上げる。

「宜しいのですか? その様なことをすれば負けは必定。そうなればリアス嬢はあのフェニックスのくそ餓鬼と婚約を結ぶことに」

「婚約なんざ私が何度でもぶち壊してやる!! 今ここで夜明を失うことは絶対に避けなきゃならないんだ!!」

それ以上は何も言わず、ウォルターは軽く一礼してその場から消えた。太陽も歩を速め、ゲームのフィールドとなっている異空間へと飛び込む準備を始める。

(夜明。お前は自分が『兵士(ポーン)』だから替えが効くと思ってるんだろうが、それは大間違いだぞ。短い付き合いだが、皆がお前を大切な仲間だと思っているんだ)

木場は切磋琢磨できる仲間が出来たと喜んでいた。朱乃も可愛い後輩を迎えられて笑顔を見せている。ポーカーフェイスだった小猫も徐々にではあるが表情に変化を見せるようになった。太陽自身も夜明のことを気に入ってるし、アーシアとリアスは夜明を仲間以上の感情を持って見ている。

(お前も皆にとって無くてはならない存在になっているんだ。早まるなよ夜明。刺し違えても倒すなんて今時流行らない、散り際に見える徒花ほど悲しいものはないぞ……!)














「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)でも駄目か……!」

口の中で毒づきながら夜明は再び両手の短剣をライザーに突き刺し、自分が爆発の範囲にいるにも拘わらず短剣を爆破させた。衝撃と熱波が夜明とライザーを襲う。しかし、夜明は怯むことなく自分から逃れようとするライザーに追い縋り、その胸を創造した槍で貫き、爆破させた。

ひたすらにライザーを切り続けていたが、次の攻撃に移るよりもライザーの再生速度のほうが早く、夜明はライザーを倒し切れずにいた。そこで、夜明は攻撃を斬撃から爆発へとシフトさせる。

「げぼぁ!!」

夜明はさっきからこんな調子で何度も喀血を繰り返していた。武器を次々と創造し爆発させるのは想像以上に夜明の身体に負荷をかける。今までに蓄積されたダメージ、赤原猟犬(フルンディング)を纏っての超高速移動による内臓への負担も相まって、夜明の身体は当の昔に限界を超えていた。このまま戦い続ければ確実に夜明は死ぬだろう。薄々、夜明自身も自分の身体が断末魔を上げているのに気づいていた。

(だとしても!)

だとしても、

(俺はこいつを倒す! 刺し違えてでも倒す!!)

それがリアスへの報恩だと信じ、夜明は武器を創造していく。リアス・グレモリーはライザー・フェニックスとの結婚が嫌だと言った。そして月光夜明は己の主のためにも勝つと宣言した。命を懸ける理由はそれだけで十二分に過ぎる。

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!!!」

口端から血を垂らしながら叫ぶ。身体中から血を飛沫かせる。内臓を潰されるような、骨を削られていくような激痛が全身を苛んでいる。しかし、それでも月光夜明は止まろうとしない。血塗れになりながらも自分に向かってくる夜明に恐怖を浮かべるライザーに肉薄する。

(この一撃に全てを込める!!)

既にライザーの身体は三割方再生を止めていた。最後の一撃のために夜明は紅の魔槍、刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)を創造する。

(ここでくたばっても構わない、ここで終わってもそれでいい!! だからこいつを倒すだけの一撃を!!)

魔槍の穂先に魔力が揺らめく。不死鳥の心臓を食い破ろうと紅の魔槍が唸る。

(その一撃で決めろ、奏者!!)

不意に夜明の動きが止まる。ガクガクと震えだしたかと思えば、今までで一番の量の血反吐を足元にぶち撒けた。砂上の楼閣の如く崩れ落ちそうになる。

「「夜明(さん)!!」」

リアスとアーシアの悲鳴のような呼び声が届く。

(その程度の相手、容易に乗り越えて見せろ、奏者よ!!!!)

ブレイズハートの声が心の中で響く。まだだ。まだ、自分は終わっていない。この手には目の前の敵を倒すための力が握られている!!

「#$%&@*+<>!!!!!!!!!!!!!」

足底がめり込むほどに足を踏ん張る。最早、咆哮とも呼べないような声を振り絞り、夜明は刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)を突き出す。穂先から発せられている魔力は目が眩むほどの光を放っていた。

(あぁ……)

リアスにはそれが何故か、夜明の命の炎に見えた。その一撃を放てば夜明が死んでしまう。理論ではなく、直感でそれを感じ取ったリアスはある言葉を叫んだ。
























『リアス・グレモリーさまの投了(リザイン)を確認。勝者、ライザー・フェニックスさま』

最初、耳に飛び込んできた音声を夜明は理解出来なかった。正に紅の魔槍を突き出そうとする体勢のまま己が主を振り返る。視界に映ったのは憤怒の形相を浮かべるブレイズハート、泣き崩れているアーシア。そして力なく座り込んでいるリアス……。

「何、でですか?」

気づけば言葉が口をついて飛び出していた。

「何でですか、部長!!??」

「あれ以上やっていたら、貴方は死んでいた……夜明、私は貴方を失いたくないのよ」

頬に涙の痕を残し、リアスは囁く。何で、何でですか!? と口にしながら夜明は肝心なことを言えずにいた。

ー何で俺が勝利して凱旋すると信じてくれなかったんですか!?ー

叫ぼうとした時、ある事に気づき夜明は自嘲の笑みを浮かべる。

「そうだよなぁ……」

(太陽や朱乃さんならともかく、俺みたいな新参、信じられる訳ねぇよなぁ……)

「ち、きしょう……」

途端に身体から力が抜け、夜明はその場に崩れ落ちた。勝負に負けたこと、仲間を泣かせてしまったこと。何よりもリアスの信用を得ていなかったことに涙しながら夜明は意識を暗黒の中に放り込んだ。






「夜明……!」

崩れ落ちた夜明に駆け寄ろうと立ち上がった時、横合いから飛んできた拳がリアスの頬を捉える。横倒しになりながらリアスは自分を殴り倒したブレイズハートを見上げた。

「何を」

「奏者は、奏者は泣いていたぞ……お前の信頼を得ていなかったと、泣きながら失意の内に倒れたぞ!!」

ブレイズハートの言葉にリアスは目を見開く。怒りで肩を震わせ、白い肌を赤く染めてブレイズハートはリアスに指を突きつけた。

「貴様のような己の眷属を信じられぬ愚物が我が奏者の主を語るなぁ!!!!」

叩きつけるように叫び、ブレイズハートは夜明へと歩み寄った。

「よく頑張ったな、奏者よ」

愛おしそうに夜明を撫で、ブレイズハートは溶けるように消えていった。ブレイズハートの姿が夜明の中へと完全に消えると、空間に亀裂が生まれ中から誰かが出てきた。

「夜明! ……無茶しやがって。アーシア! 早く夜明を治療しろ!!」

アーシアに指示を飛ばし、太陽自身は尻餅をついた状態のリアスへと歩み寄る。リアスは太陽の姿を認めると、子供のように泣きじゃくり始めた。

「太陽ぉ、私、私……」

「リア、お前は何も間違ってない。あのまま続けていたら夜明は死んでいた。お前は『王(キング)』としても主としても正しい判断をしたんだ」

泣き震えるリアスを抱き締め、太陽は今後のことを考えた。これでリアスとライザーの結婚は確定した。しかし、太陽自身がライザーのことが大嫌いだし、何より親友のリアスがライザーとの結婚を望んでいない。

「ウォルター」

「ここに」

泣き疲れ、寝てしまったリアスをお姫様抱っこする太陽の横にウォルターが現れる。

「グレモリーとフェニックスのじじい共は?」

「すぐに婚約パーティーの準備に取り掛かるようです」

そうか、と頷き太陽はウォルターを見やる。

「準備しとけウォルター。その婚約パーティー、ぶち壊すぞ」

「お嬢様の心のままに」

(出来るだけの時間稼ぎはしてやる。だからお前がリアをライザーの手から奪ってみせろ、夜明!)

-18-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




「ハイスクールD×D」リアス・グレモリー 抱き枕カバー(スムースニット&セベリスライクラ本体改)セット
新品 \0
中古 \
(参考価格:\)