小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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                 『会場に殴りこみ』




『負け、ちゃったなぁ……』

『気に病むことなど何一つとして無いぞ、奏者よ。全てあの愚物が悪い』

『はは、部長のこと、余り悪く言わないでくれよブレイズハート』

『言いたくもなるわ! あの愚物め、よくも奏者の勝利の邪魔を……今思い出しても腸が煮えくり返る!! 奏者、悪いことは言わぬからあの愚物から縁を切れ。あれは奏者の主となる器ではない』

『それは、俺が決めることだぜブレイズハート。それよりも頼みたいことがあるんだが』

『何だ? 何でも言うがよい』

『……と……、用意できるか?』

『ななななぁ!? そ、奏者よ! そなた、この期に及んでまだあの愚物のために命を懸けようというのか!?』

『俺はあの人に命を救われたんだ。それにもう一人の恩人である太陽にもこう言われた、リアのことを頼むって』

『……』

『頼む、ブレイズハート! 俺を恩義も返せないような情けない男にしないでくれ……!』

『……対価は大きいぞ』

『構わない』

『……分かった。その願い、確かに感じ入った。この英雄と謳われた龍(ブレイヴ・ドラゴン)に任せよ。今は休め、奏者……』














パチッと夜明はすっきりと目覚めた。視界の中には見知った天井が。自分の部屋だと理解するよりも早く夜明はベットの上で跳ね起きる。

(身体は……動く。『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』も……問題ねぇ!)

「お目覚めのようですね」

自分の状況を確認していると枕元に立っていた銀髪メイド、グレイフィアが話しかけてきた。グレイフィアに一瞥をくれ、夜明は視線を両手に戻して銀翼蒼星を創造する。

「グレイフィアさん。少し聞きたい事があるんですけど、答えてもらえますか?」

「許容範囲内ならば幾らでも」

「部長はあの焼き鳥野朗との婚約パーティーにいる」

「はい」

「そこに皆もいる」

「アーシア様を除いて皆さんはお嬢様に付き添いとして」

「貴方はそのパーティーが行われている場所に行くための方法を持っている」

「はい」

「行かせて下さい」

真っ直ぐ目を逸らさずに夜明はグレイフィアと視線を合わせる。僅かに眼光を鋭くしても怯む様子さえ見せない夜明をグレイフィアは興味深そうに見ていた。

「リアスお嬢様は御家の決定に従ったのですよ?」

「だから何です? 俺の主はリアス・グレモリーただ一人。それ以外の連中の決定なんざ鼠の糞ほどの価値もない」

何よりも気に入らなかった。リアスの意思を無視して親同士で決めた相手と結婚させるなんて。もしここで動かなかったら自分は血と糞尿が詰まった肉袋と成り果て、リアスの髪を靡かせる姿が永遠に見れなくなる。

「行かせて下さい!」

もう一度頼み込み、深々と頭を下げた。

「ふふふ」

不意にグレイフィアが笑った。淡々としたイメージしかなかった目の前の銀髪メイドが笑ったことに夜明は驚きを禁じえずに思わず顔を上げてしまう。

「己の主であるリアスお嬢様のお父上達の決定が鼠の糞ほどの価値もないと断言しますか。面白いですね、やはり面白い。長年、色々な者を見てきましたが、貴方のように折れずにひたすら真っ直ぐな方は初めて見ました」

そう、例えるなら決して折れる事のない強靭な翼。私の主であるサーゼクス様も貴方の事を面白いと言ってました、とグレイフィアは一枚の紙を取り出して夜明に差し出した。リアスが人間と契約するためのチラシと同じように魔法陣が描かれている。

「この魔方陣はお嬢様の婚約パーティー会場へ転移できるものです」

不思議そうな表情を浮かべる夜明にグレイフィアは己が主の言葉を伝える。

「『妹を助けたいなら会場に殴りこんできなさい』、だそうです」

裏に描かれている魔方陣はリアスを助け出した際に役立つそうだ。無言で紙をベットの上に置くと、一礼して部屋を後にしようとする。

「夜明さま、貴方の内に眠るドラゴンは神や魔王に匹敵すると言われた二天龍の喧嘩を止めた、英雄と謳われしドラゴンです。その力ならもしかしたら……」

独り言のようなものを残してグレイフィアは部屋から出て行った。その後ろ姿を少し唖然とした表情で見送り、夜明は改めて紙を見る。拳を握り締め、寝巻きであるシャツとジャージといういでたちから駒王学園の制服に着替えた。レーティングゲームでボロボロになったはずの制服が綺麗に残ってることに首を傾げていると、床に何かを落とすけたたましい音が。見れば、開いたドアに水の入った桶とタオルを落としたアーシアが立っていた。

「夜明さん、目が覚めたんですね!」

嬉し涙を流しながら夜明の胸に飛び込む。

「良かった。傷を治療しても二日間も眠ったままだったから、もう目を覚まさないんじゃないかって……」

「そんな寝とったんか俺……」

とりあえずアーシアを撫でて落ち着かせ、夜明はリアスとライザーの婚約パーティーに乗り込む旨を告げる。

「お祝いに行く、訳じゃありませんよね……」

「ちょっくら『卒業』と洒落込んでくらぁ」

にゃはは、と朗らかに笑って見せるが、笑い事じゃありません! とアーシアに怒鳴られる。ビックリした表情を浮かべる夜明はアーシアが悲しい表情で涙を流すのを止められなかった。

「夜明さんには分からないんです! 夜明さんがボロボロの血だらけになって、それでも立ち上がる姿を見て、私がどれだけ苦しかったか……部長さんだって同じ気持ちだったはずです!!」

再び胸の中で泣き始めたアーシアを抱き締める。言葉が出てこない。自分という存在が傷だらけになっていたことが、仲間を泣かせているとは夢にも思わなかった。夜明は何時もの飄々とした口調ではなく、真剣な声音でアーシアに謝罪した。

「でもな、アーシア。野朗には傷つくと分かってても、立ち上がらなきゃならない時ってのがあるんだ」

今がその時だ、と静かに力強く呟く夜明の前に片眼鏡の老執事が現れた。

「お見事。その覚悟、正に『男の子』ですな、夜明殿」

「ウォルターさん、何でここに?」

「お嬢様からの指示でして。眠りこけてる白馬の王子をさっさと連れて来いと。それともう一つ、お嬢様からの伝言でございます」

疑問符を浮かべる夜明。ニコニコと笑みを浮かべていたウォルターはきつく拳を握り締めると、夜明の頬に鋭く拳を振り抜いた。予想外の一撃に反応できず、夜明は壁へと叩きつけられる。

「よ、夜明さん! ウォルターさん、夜明さんはさっき起きたばかり」

「夜明殿が血塗れになりながらも戦っていく姿……祐斗殿は掌から血を滲ませていましたぞ」

ウォルターの一言は文句を言おうとした夜明だけでなく、アーシアをも黙らせた。

「朱乃嬢も小猫嬢も、貴方が傷ついていく姿を見て涙を流していました。お嬢様も苦しそうな表情を浮かべておりました。夜明殿、貴方に足りないのは仲間に無事な姿を見せようという気持ち。言い方は悪いですが、刺し違えてでも相手を倒すというのは貴方の自己満足に過ぎません。今のは皆に心配をかけた罰だ、そうです。努々、貴方が傷つく事で苦しむ者がいることをお忘れなさるな」

「……だとしても、俺は……!」

「無茶を止める心算はないと。貴方という人は……」

全く、とウォルターはため息を吐く。

「それでは、無茶をしに行くとしましょう」

はい、と頷きながら夜明は心の中へと呼びかけた。

(ブレイズハート、準備は出来てるな?)

『我が奏者の心のままに』














馬鹿でっかい広場である。駒王学園の校庭よりも広そうだ。そこでは着飾った多くの悪魔達が楽しげに談笑していた。その光景は社交界を連想させる。

「ところで知ってるか? このパーティーにあの『ヘルシング』が来ているそうだぞ」

「あの没落悪魔が? 上級悪魔の面汚しがどの面下げて」

「『同族殺し』のアーカード、その血族が同じ空間にいるかと思うと吐き気がしてくるな」

「なら手洗いにでも行ってきたらどうだ?」

額を寄せ合ってひそひそ話していた三人の若い悪魔が身体を竦ませる。恐る恐る振り返ると、男物の漆黒のスーツを纏った太陽がグラスを傾けていた。そそくさと足早に立ち去る三人組。

「ったく、言いたい事があるなら私の目の前で言えというに。みみっちい」

「全くだな」

横合いから巨漢と呼んで差し支えのない体躯の悪魔が出てきた。青年悪魔の姿を認めると、このパーティーに来てから終始不機嫌そうな表情を浮かべていた太陽の表情が綻んだ。

「サイラオーグ! 久しぶりだな。相変わらずでかい図体だ」

「はっはっは! そのでかい図体がお前の一撃でぶっ飛んだのはいい思い出だぞ、太陽」

互いに豪快な笑い声を上げながら二人は拳をぶつけ合わせる。サイラオーグ・バアル、大王バアル家の次期当主にして太陽に友人と認められた数少ない若手悪魔の一人だ。

「しかし、お前がこのパーティーに出てくるとは予想外だったな。お前、ライザーのことを毛嫌いしてたんじゃないのか?」

互いの近況を報告したり、他愛のない世間話をした後、サイラオーグは気になっている点を訊ねる。太陽とライザーの不仲は冥界でも周知の事実だからだ。祝う気なんて欠片もないさ、と太陽は肩を竦めて見せる。

「では、何故来たんだ」

そろそろだな、と太陽は異空間からあるものを取り出してサイラオーグに笑って見せた。

「そんなの、このパーティーをぶち壊すために決まってるだろ」

右手に握ったゴッドイーターの銃口を天井に向け、装弾されている全弾丸を放つ。場違いな銃声に会場はシンと静まり返った。

「ふむ、手助けは必要か『死神(デスサイズ)』?」

「いんや、必要ない。ってか、お前がここで暴れたらそれこそ大問題だろうが」

それよりも、と太陽は煙草を銜えてピコピコと上下に動かす。

「火ぃくれ、火」

サイラオーグに煙草に火をつけてもらい、太陽は紫煙を吐き出しながらパーティーの主催者であるグレモリー、フェニックス当主の下へと向かう。

「はいはい皆さ〜ん、怪我したくなかったらどいてくださ〜い。冥界一のDQN女、夕暮太陽のお通りですよ〜」

衛兵が止めようと飛びついてくるがそんなのお構いなし、無人の野を行くかの如く歩きっぷりで目的の場所まで歩いてきた。

「これはどういうことだ?」

「どうもこうもありませんよおっさん方。私はこの婚約パーティーをぶち壊したいんですよ。何が悲しくて親友を確実に不幸にすると分かってる男の婚約を祝にゃならんのだ……あ、これは私が独断で動いてるからリアは関係ないぞ」

そもそもだ、と太陽は煙草を左の人差し指と中指で挟んでリアスとライザーの父親に突きつける。

「リアの将来を出来レースで決めようってその根性が気に入らん。お前等はリアの意思を無視し踏み躙った。だから今度は私がお前等の意思を踏み躙らせてもらう。ってか、お宅らもう結構な数の純潔悪魔の孫いるだろ。これ以上望むのは贅沢ってもんだ。っつう訳で」

ジャキン! と照明から放たれる光を受けて輝いているゴッドイーターの銃口をキザったらしいタキシードを着たライザーに向ける。

「戦争、始めようや」

正に一触即発。と言うよりも会場にいる全員が太陽の気迫に呑まれて動けずにいた。約一名を除いて。

「戦争、とは穏かではないね。もう少し待ってくれないかな太陽君」

「サーゼクス……お前が最初の相手か?」

「いや、いかに魔王の私といえど、君とまともに相対して無事でいられる気はしない。そうではなくて、もう少し待っててもらえないかな。多分、もうすぐ私が用意した余興の準備が整うから」

「余興? ……っ! そういうことか。成る程、魔王様と考える事が同じとは、光栄だな」

サーゼクスと呼んだ紅髪の悪魔と一緒に太陽は可笑しそうに喉を鳴らす。何の前触れもなく、太陽の斜め後ろにウォルターが現れた。

「お嬢様」

「来たか」

ズガン!! と凄まじい衝撃が会場を揺らす。遥か高い天井を見上げれば、何か小さな点のようなものが落ちてくるのが見えた。

「部長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」

会場中に響くような声を上げながら夜明は大量の破片と共に着地した。衝撃で粉塵が吹き上がる。グレイフィアを使いに出して夜明を呼び出したサーゼクスもこれは予想外だったのか、唖然とした表情を浮かべている。粉塵の中から出てきた夜明を見て、リアスの頬を一筋の涙が伝い落ちる。派手な登場だな、と太陽は苦笑いを浮かべて夜明へと歩み寄った。

「状況の説明は?」

「必要ない」

「そうか。舞台はあのリアの兄ちゃんのサーゼクスが整えてくれている。一応、魔王だから敬意は払えよ。横槍は私が入れさせないから安心して戦え」

「分かった……太陽」

「ん?」

「ごめん、それとありがとう」

「……はっ、そんなことを私に言ってる暇があったらとっとと主人公やってこい、男の子」

太陽に背中を押され、夜明は胸一杯に息を吸い込んで、会場にいる全員に聞こえるように声を張り上げた。

「ここにいる上級悪魔の皆様、及び部長の身内の方々! 自分は駒王学園オカルト研究部所属の月光夜明です! 部長のリアス・グレモリーさまを取り戻しに来ました!!」

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