小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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         『恨み、計り知れず』





「二人が無事で良かった……」

そう言ってリアスは夜明とアーシアを抱き締めた。少し苦しく感じるほどの抱擁にアーシアは顔を赤くし、夜明も僅かに気恥ずかしそうな表情を作る。あの後、紫藤イリナとその連れである青髪の女性は談笑した後、リアスが帰ってくる前に出て行った。ちなみに何でこの二人が夜明の部屋にいたのかというと、大家さんに昔の友達だと説明したら普通に合鍵を渡してもらえたかららしい。

「大家さん……後で文句言いに行かないと」

「お、大家さんも悪気があってやったわけではないんですし」

アーシアは良い子だねぇ、と呟きながらいい加減息苦しく感じるリアスの腕から逃れた。

「それで部長。あの二人について何か分かってるんですか? こっちの正体を知ってて、その上で堂々と縄張りに侵入してくるなんて余程の馬鹿か、何かしらの目的を持ってるとしか思えないんですが」

「えぇ。太陽とウォルターのお説教が終わった後、ソーナから聞いたのだけれど、この町に教会の関係者が潜り込んできている……『聖剣』を手にしていると」

リアスの言葉を聞いて、そういやあの二人、おっかないオーラを放つもん持ってたな〜、と夜明は暢気に考えていた。アーシアに至っては二人が持っている包みを見ていただけで震えていたので、それが『聖剣』だということは容易に想像できる。

「んで、連中の目的は? まさか『聖剣』を使って嫌がらせをするためだけにここに来たなんて言わないですよね?」

「それに関してはソーナから聞いたわ。何でもあの二人はこの町を縄張りにしている悪魔、つまり私、リアス・グレモリーと交渉したいらしいのよ」

交渉ぉ? 思わず素っ頓狂な声を上げる夜明にリアスは肯いてみせる。はぇ〜、と顎に手を当てながら夜明は驚きを露にした。

「本来、敵対してるはずの悪魔にキリスト教徒が交渉とはね……部長、何か嫌な予感がしてきました」

「奇遇ね、私もよ夜明。明日の放課後、その二人と旧校舎の部室で話をするわ。それまでは何とも言えないわね」

何とも言えない、と言いつつもリアスの表情は険しい。キリスト教徒が悪魔に交渉を持ちかけてくるくらいなのだから、事態は相当切迫していて、尚且つかなりの厄介ごとであることは確かだ。こりゃ面倒なことになりそうだ、と夜明は内心で深々とため息を吐いた。














夜明達三人が眠れぬ夜を過ごした翌日、グレモリー眷属達は旧校舎部室へと集められていた。ちなみにウォルターは席を外している。ソファーにはリアスと朱乃、件の聖剣使い二人が向かい合って座っていた。それ以外の面子は部室の隅で交渉の行く末を見守ることになっている。

「……」

夜明はちらと視線だけを動かして隣りにいる木場を見た。怨恨に満ち満ちた目で二人を睨んでいる。太陽がゴッドイーターの銃口を突きつけてなかったら、今にも彼女達に切りかかりそうな危なっかしい雰囲気を放っていた。蒼星銀翼をすぐ創造出来るようにし、夜明は視線をリアス達のほうへと戻した。

「先日、カトリック教会本部及び、プロテスタント側、正教会側に管理、保管されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

最初に口を開いたのは紫藤イリナだった。ふと、夜明は複数の場所からエクスカリバーが奪われた事に疑問を持ったが、前にブレイズハートからエクスカリバーが複数に砕け散り、その後に破片を基に七本のエクスカリバーが作られた話を聞かされたことを思い出す。そんなことがあったなぁ〜、と思い出しているとブレイズハートの声が頭の中に響いた。

(奏者よ。この二人が持っているのもエクスカリバーのようだぞ)

(あ、やっぱそうなんだ)

頭の中でブレイズハートに答えながら夜明はイリナと青髪の女性が傍らに置いている、呪術的な文字が描かれた布で覆われた包みを見つめた。十中八九、エクスカリバーだろう。夜明の視線に気付いた青髪の女性は包みを手に取り、布を解いていった。

「これがエクスカリバーだ」

それを見た瞬間、夜明は微かに身体中の毛穴が開くのを感じた。身近に悪魔がいるのが当たり前、何て生活を送っているせいなのか、夜明は長剣から放たれるオーラで身が焼かれるような感覚を覚える。人間である夜明ですらこうなのだから、他の眷属達は皆、明らかに長剣から放たれるオーラに怯んでいた。ただ一人、太陽だけは面倒くさそうな表情を浮かべながら今にも魔剣を創造しそうな木場を抑えていた。

「『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。七つに分かれたエクスカリバーの一つさ」

カトリックが管理してる、と青髪の女性の話を聞き流しながら夜明は『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』に視線を注ぐ。名前の通り、破壊力に特化した聖剣だということは容易に理解できた。

(真っ向正面の勝負はかなり危なさそうだな)

(まぁ、やろうと思えば出来ぬことは無いだろうが……余はお勧めしないぞ)

(俺もしたいとは思わねぇよ……紫藤が持ってるのが『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』か。自由自在に形を変えることが出来る能力か……決定打にはならないだろうが、相手取る時は面倒そうだな)

(この二人と戦う事を前提として考えるのはどうかと思うぞ、奏者よ)

(まぁ、考えておくに越した事はないだろ。相手は悪魔の敵、キリスト教徒だしな)

その後、夜明は頭の中で二人が所持するエクスカリバーへの対策を考えながら話を頭の中で纏めていた。早い話、エクスカリバーを奪っていった連中がこの町に潜んでる。奪ったのは堕天使の組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』、その幹部のコカビエルと愉快な仲間達だそうだ。

(コカビエル……?)

(聖書にも名を連ねる、古の戦を生き抜いた堕天使の幹部だ。戦争狂と認識しておれば良い)

戦争狂って。夜明が苦笑いを浮かべていると、リアスの雰囲気が剣呑なものへと変わっていた。どうやらイリナの連れの女性、ゼノヴィアの言ったことが相当癇に障ったらしい。早い話、私達がエクスカリバーを奪還するのに干渉するな、もし、敵の組織と手を組んだら許さないんでそこんとこ夜露死苦! ということだそうだ。リアスの瞳に冷たいものが宿ったが、何時の間にか彼女の隣りに立っていた太陽が肩に手を置いて落ち着かせる。

「太陽……」

「落ち着け、リア。この青髪の物言いが頭にくるのは分かるが、今はこいつらの言う事に従っておいてやろう」

考えてもみろ、と太陽は底意地の悪い笑みを浮かべてイリナとゼノヴィアを見下ろした。

「私達が黙って何もしないだけで、天敵とも言える聖剣使い二人が勝手に死にに行ってくれるんだぞ? こっちとしては万々歳じゃないか」

「私達は死ぬつもりは無い」

ゼノヴィアが口調を強くし、視線を鋭くさせるが太陽は神経を逆撫でするような笑みを浮かべてクスクス笑うだけ。ま、何だっていいけど、とポリポリ頭を掻く。

「お前等がコカビエル達に殺されようが、無事にエクスカリバーを奪還しようがどうでもいいがな」

私、聖剣使い(お前等)の類、嫌いだし、と言いながら太陽はイリナへと視線を向けた。

「一つだけ質問に答えろ。銃剣(ベイオネット)は動いているのか?」

「シスタークレアのこと? あの人なら今回は別件で動いてるって話をちらっと耳にしたけど」

銃剣(ベイオネット)。聞き慣れない名前に夜明とアーシアは顔を見合わせた。視線でリアスに訊ねるが、後でね、と表情で返されとりあえず黙る事に。その後、場が荒れることも無く話し合いは終わり、二人はそのまま部室から出て行く……かと思いきや、二人の視線が一箇所に集まった。その先にいるのはアーシアだった。

「まさかとは思っていたが、こんな東洋の地で君に会えるとはな、『魔女』アーシア・アルジェント」

魔女。ゼノヴィアにそう呼ばれ、アーシアは身体をビクッと竦ませる。ゼノヴィアの隣りに立っているイリナも興味深そうにアーシアへと視線を注いでいた。

「貴方が『魔女』になった元『聖女』さん? 追放されてどこかに流れたっていう話は聞いていたけど、まさか悪魔になっているなんてね」

二人に言い寄られ、アーシアはあの、その、と対応に困っていた。

「大丈夫。あなたがここにいることは上層部にも誰にも言わないから安心して」

『聖女』であったアーシアの周囲にいた人たちに今の貴方の状況を教えたら悲しむでしょうからね、とイリナの言葉にアーシアは複雑そうな表情を浮かべる。

「しかし、かつて『聖女』と呼ばれた者が悪魔か。堕ちるところまで堕ちるものだな」

そこまで言った時点でゼノヴィアは言葉を止めるべきだった。そうすれば彼の怒りをこれ以上煽ることもなかったのだから。

「まだ、君は我らの神を信じているのか?」

「アーシアさん。貴方、悪魔になった今でも主を信じているのかしら?」

アーシアは悲しげな表情を浮べながら答える。

「捨てきれないだけです。今までずっと、信じてきたのですから……」

それを聞いて、ゼノヴィアは布に包まれたもの、エクスカリバーをアーシアに突きつけた。

「そうか。それなら私達に斬られるといい。今なら神の名の下に……」

刹那、閃光が奔る。閃光はゼノヴィアの頬を掠め、派手な音を立てて壁へと突き刺さった。それは直剣だった。壁に出来たクレーター、鍔元まで深々と壁に突き立った直剣が投擲の威力を物語っている。部室にいた全員が直剣が飛んできた方向を見る。三対の翼を広げた夜明が背筋が凍るような笑みを浮かべて二人の聖剣使いを見ていた。

「……どういうつもりだ?」

「死にたいんだったら続けろって警告のつもり。初撃は部長の顔立てて外してやったけど、次は確実に殺すぜ」

この男、顔には毛の先ほども出していないが、人生で上位三番に入るほどキレていた。夜明がどれ程怒ってるかは彼の右手に創造された魔槍、『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』に現れている。

「君は自分が何をしてるのか理解しているのか?」

「あぁ。言われなくたって分かってるさ。俺の大切な仲間、家族を斬ろうとする敵を殺そうとしている」

別段、不思議な話じゃないだろ? と夜明は紅の魔槍の穂先をゼノヴィアに突きつけた。向けられたゲイ・ボルグに臆する様子も無く、ゼノヴィアは真っ向から夜明の視線を受け止める。

「まさか、聖剣使い、ひいては教会にこうまで真っ向から喧嘩を売る馬鹿がいるとはな……教育不足ではないか、グレモリー?」

リアスが何か言おうとするが、夜明はそれを遮り視線をきつくさせる。

「良いことを教えてやるよ、聖剣使い。家族に手を出されたらな、もうそこに残ってるのは命懸けの闘争しかないんだよ。まさか、そんなことも知らないで他人の家族を斬ろうとしたのか? ……ふざけるのも大概にしろ」

夜明の怒気と殺意に呼応するように瞳孔は縦に切れ込み、背中の三翼が燐光を放ち始める。今や夜明は敵意を剥き出しにしてゼノヴィアを睨んでいた。対し、ゼノヴィアも包みの中から覗かせた柄を掴み、何時でも引き抜けるようにしている。緊迫した場面に油を注ぐように特大の殺気を放つ木場も加わる。

「僕も混ぜてくれないかな、夜明くん」

「誰だ君は?」

「君達の先輩、とでも言えばいいかな? 失敗作らしいけどね」

不敵な笑みを浮かべつつ、木場は部室内に無数の魔剣を咲かせた。














数日前、夜明達が球技大会に使っていた広場。そこで夜明と木場は聖剣使い二人と対峙していた。周辺には四人を囲むように紅の結界が張られている。一言で状況を表すなら、売られた喧嘩を言い値で買われた、だ。

「それでは始めようか」

夜明と向き合っているゼノヴィアは白いローブを取っ払い、ボンテージのような戦闘服に覆われた身体を露にする。男なら誰もが目を奪われるようなボディラインだが、夜明は下らなさそうに鼻を鳴らすだけだった。

「お〜い、夜明、祐斗。分かってると思うが、殺したら駄目だぞ。後がくそ面倒だから」

結界の外から太陽が注意してくるが、聞こえない振りをしているのか二人は反応を示さない。ガキじゃねぇんだからよ、とため息を吐きながら太陽は何時でも結界内に飛び込めるよう身体に力を込めた。

「笑ってるの?」

イリナが木場に訊ねる。イリナの言うとおり、木場は見る者の背筋に悪寒を走らせるような笑みを浮かべて周囲に数本の魔剣を創造していた。

「うん。壊したくて壊したくて仕方の無かった物が目の前にあると思うと嬉しくてね……自然と笑いがこみ上げてきちゃうんだ」

(復讐、か)

ブレイズハートから聞いた『聖剣計画』の話を思い出し、夜明は微かな同情が籠った視線を木場に注いでいた。が、すぐに同情など木場に失礼だと、視線を眼前のゼノヴィアに戻す。その僅かの間に夜明の目は刃のように鋭く冷たい殺意を浮べていた。

「いくぞ、ブレイズハート」

(うむ。奏者よ、奴の剣の腕が如何ほどかは分からないが、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』の破壊力は脅威ぞ。間違っても真正面から切り結ぶなどしてくれるなよ)

あぁ、と心の中で返事をしながら夜明は蒼星銀翼を創り出す。同時に三翼が展開され、三色の羽が周囲に舞い散る。夜明の神器(セイグリッド・ギア)を見て、ゼノヴィアとイリナは揃って驚きの表情を作った。

「神滅具(ロンギヌス)だと?」

「それは『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』? まさか、こんな極東の地で英雄と謳われた龍(ブレイヴ・ドラゴン)に魅入られた者と出会うなんて」

「始めていいか?」

言うや、夜明は三翼を羽ばたかせ、ゼノヴィアへ急接近した。X字に振り下ろされた双刃をゼノヴィアは破壊の聖剣で防ぐ。木場も創り出した魔剣を両手にイリナへと打ちかかっている。

「くっ……不意打ちとは、如何にも悪魔らしいな!」

「呆けてるそっちが悪いだろ?」

夜明の斬撃は止まらず、ゼノヴィアは防戦一方となっていた。手数でゼノヴィアにガードを固めさせ、夜明は強烈な蹴りをぶちかます。後ろに吹き飛ばされながらもゼノヴィアは体勢を立て直す。夜明はゼノヴィアを追おうとはせず、三翼を広げた。

「っ!?」

瞬時に創造された何十もの武具がドーム状にゼノヴィアを囲む。夜明が腕を振り上げると、全ての武具が剣呑な輝きを放ちながら切っ先をゼノヴィアへと向けた。行け、と夜明が囁きながら腕を振り下ろすのに呼応し、ゼノヴィアへと殺到していく。

「調子に、乗るなぁぁぁ!!!」

ゼノヴィアは破壊の聖剣の柄を逆手に持ち替え、地面へと突き立てる。瞬間、地面が激震し、大量の土砂が吹き上がる。夜明は咄嗟に上空へと逃げながら、発生した衝撃で全ての武具が破壊されるのを見た。土煙が晴れるのを待ち、夜明は馬鹿でかいクレーターが出来上がった地面へと降り立つ。

「『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』の名は伊達じゃないってとこか」

「有象無象の全てを破壊する。それが私のエクスカリバーだ」

(とか自慢げに言ってるが、七つに散らばる前と比べるとどうなんだ?)

(はっきり言って雲泥の差だな。かの黄金の斬撃なら、先の聖剣使いと同じ動作で結界ごと周囲一帯を消し飛ばすことが出来ただろうな)

それ程のものか、と呟きながら夜明は蒼星銀翼を消し、右手に魔力を集中させる。魔力が紅の雷を放ちながら形を作っていく。夜明の手に握られた紅の槍。刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)ではない。名を破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)。

(成る程、奏者の考えは分かった。しかし、紙一重の勝負となるぞ)

ブレイズハートは夜明がゲイ・ジャルグを創造しただけで何をするのか分かったらしい。ブレイズハートの警告に覚悟の上だ、と返しながら夜明はゲイ・ジャルグを構えた。

「何を創造したか知らないが、この『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』の前では塵芥に等しい」

「試してみるさ」

破壊の聖剣の威力は先の一撃で思い知らされた。ただの武具は勿論、創造したのが神器(セイグリッド・ギア)だとしても一撃で砕かれるだろう。しかし、この槍は話が別だ。夜明は無言で駆け出す。ゼノヴィアは破壊の聖剣を振り上げながら夜明を迎え撃った。

「砕けろ!!」

「破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!」

ゼノヴィアの振り下ろしに夜明は穂先から輝きを放つゲイ・ジャルグを繰り出す。ガギィン! と甲高い金属音を上げて聖剣と魔槍の刃がぶつかり合う。当然、ゼノヴィアは夜明の槍が砕け散ると思い込んでいた。が、聖剣と魔槍の刃はぶつかり合ったまま火花を散らしている。

「何っ!?」

紅の槍が破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の一撃で壊れない事に動揺するゼノヴィア。驚愕冷めやらぬゼノヴィアの手首に夜明はゲイ・ジャルグの柄を強かに叩き付けた。破壊の聖剣を落とすゼノヴィア。すぐに拾おうとするが、それよりも早く夜明にゲイ・ジャルグの穂先を首筋に突きつけられた。

「俺の勝ちだ」

ただ一言、夜明はそう宣言した。







「なぁ〜る、そういうことか」

地面の上に胡坐をかきながら太陽は顎を撫で、結界内でゼノヴィアにゲイ・ジャルグを突きつける夜明を見ていた。

「……太陽さん。何で夜明さんが持ってた槍は破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)で壊れなかったんですか?」

小猫の問い。隣りに立つアーシアも気になるのか、太陽の方を見ている。余波だけで夜明の創造した武具を破壊した光景を見ているだけにその疑問は当然といえた。ん〜、と太陽は夜明が握っているゲイ・ジャルグを指し示した。

「夜明の創造した紅の魔槍。あれ、『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』って言ってな。刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消す力を持っているんだ。確かにあの破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の威力は脅威だ。でも、それは破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)に秘められた魔力によるものだ」

あの聖剣使い自身の力ではない。と、太陽は地面の上にそれっぽい絵を描きながら二人に説明する。しかし途中で面倒になったのか、描いた絵を消して、

「ま、要するにだ。夜明は破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の力を無力化したのさ」

と、締め括った。そう言うことか、と二人が納得したその時、リアスの裂帛の声が周囲に響いた。

「祐斗、止めなさい!!」

反射的に全員が木場の方を見た。全員の視線の先では今まさに、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を弾き飛ばされたイリナに木場が魔剣を突き刺そうとしていた。














「イリナぁ!!」

ゼノヴィアが叫ぶ。それと同時に夜明はゲイ・ジャルグを逆手に持ち替え、木場に向かって投擲していた。飛来するゲイ・ジャルグに気付き、木場は魔剣でゲイ・ジャルグを打ち払う。跳躍し、空中へと打ち上げられたゲイ・ジャルグを掴み、夜明は穂先を木場へと向けて急降下した。後ろにステップし、木場は夜明の襲撃をかわす。

「……幾ら君でも邪魔するなら容赦しないよ、夜明くん」

「別にお前がこいつらを殺そうが何しようが勝手だが、それで部長に迷惑がかかるってんなら看過は出来ない」

地面から穂先を引き抜き木場へと突きつける。対して木場も殺意を押し隠そうともせずに魔剣を構えた。二人が本格的に切り結ぼうとしたその時、豪快な破砕音と共に結界が砕け散った。

「いい加減にしろ祐斗。これ以上やるなら、私が直々にお前を潰す」

長身から怒気を溢れ出させながら太陽はへたり込んでいるイリナへと歩み寄った。

「大丈夫か? 悪かったな、ウチの仲間が」

イリナを立たせ、太陽はゼノヴィアを見やる。

「悪いが、すぐここから離れてくれ。またウチの騎士(ナイト)が暴走するとも限らないし」

「分かった……英雄龍」

あ? と夜明は敵意を剥き出しにしながらゼノヴィアを睨む。ゼノヴィアは唇を一舐めし、次は負けないと宣言する。

「その次がないことを祈ってるよ。お前とは二度と顔を会わせたくないからな」

二人が去っていくのを見送り、夜明は英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)を引っ込めた。ふと、木場のことを思い出し、改めて諌めようとするが、既に木場の姿は無かった。あるのは悲しげな表情を浮べているリアスと、額に手を当てため息を吐く太陽。困ったような表情を浮べている朱乃だけだった。

「あんのくそ馬鹿……」

夜明が嘆息を漏らすと、その場の空気に似つかわしくない軽快な音楽が流れ始めた。太陽の携帯の着信音だ。太陽は渋面を作りながら携帯を取り出し、耳に押し付ける。

「もしもし、夕暮太陽だ。あぁ、お前か。何か用か? こっちは色々とごたついてて世間話をしてる暇は無いんだが……何? この町に来てる!? どういうことだ? お前は別件で動いてるはずなんじゃ……マジか」

暫く話し込んだ後、あぁ、分かったと太陽は通話を切った。ポケットに携帯を捻じ込みながらリアスを振り返る。

「おい、リア。私は少し単独で動くぞ」

「えぇ、どうして!?」

祐斗が離れていった今、太陽までいなくなったら……。リアスの心の内を見透かしたのか、太陽はアホ、とチョップをリアスの額に落とした。

「銃剣(ベイオネット)から仕事を手伝ってくれって頼まれたんだよ。今、この町に来てるみたいだ」

「銃剣(ベイオネット)が!? でも、彼女は今、別件で動いてるんじゃ」

「その別件と今回の一件が結構濃厚に絡んでるらしい。あいつが私に手伝ってくれって頼むくらいだから相当だな……とにかく私は少しお前達から離れるぞ。夜明!」

「ふあぁ!?」

突然名を呼ばれ、素っ頓狂な声を上げる夜明に太陽は片手を上げてみせる。

「祐斗のこと、頼んだぞ」

呼び止める間もなく、太陽はその場から消えた。勝手なことばかり言いやがって、と悪態をつきながら夜明はさっきから気になっていたことをリアスに訊ねる。

「部長。さっきから太陽が言ってた銃剣(ベイオネット)ってのは何なんですか?」

口ぶりからして知り合いみたいだけど、と首を傾げる夜明にリアスは向き直る。

「そう言えば、夜明とアーシアは彼女と面識が無かったわね。私達の言う銃剣(ベイオネット)とはある人物につけられた渾名。名をクレア・サンドロ。異端の使途と蔑まれながら、法王庁(ヴァチカン)が有する最高戦力、十三課(イスカリオテ)最強の称号、アレクサンドロ・アンデルセンを名乗る事を許された聖騎士(パラディン)。この世でただ一人、太陽に好敵手(ライバル)と認められた女傑よ」

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