小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『最強の二人 夜明の提案』




「それで、そのクレアさんはどうやって太陽の好敵手(ライバル)に認められたんですか?」

部室へと戻った夜明は銃剣(ベイオネット)、つまりクレア・サンドロについてリアスに訊ねていた。木場がいなくなって平常心を失っていたリアスだったが、太陽のチョップが効いたのか今はシャンとして夜明の質問に答えている。

「今から二年位前かしら。欧州でかなり性質の悪いはぐれ悪魔が出たのよ。そのはぐれ悪魔がSS級に指定されるほど危険だったから、依頼者のサーゼクス様、つまり私の兄様が大事をとって、直々に太陽に討伐を依頼したのよ」

そして、太陽の主であるリアスも一緒に欧州へと飛んだのだ。欧州に着いた当日に二人は早速はぐれ悪魔と遭遇した。魔王であるサーゼクスが大事を取るほどの相手というだけのことはあり、戦闘が始まって最初のほう、はぐれ悪魔は太陽を圧倒していた。

「まぁ、その次の瞬間には拘束制御術式第二号を解放させた太陽に瞬殺されたんだけどね」

太陽に拘束制御術式第二号を解放させたんだから相当強かったみたいね〜、とリアスは朱乃が淹れたお茶を一口含んで話を続ける。

「その時点で依頼は終わったんだけど流石に遠くまで来て、翌日にとんぼ返りは嫌だから暫く欧州に留まることにしたのよ」

欧州観光の予定を話し合っている時、彼女、クレア・サンドロは現れたのだ。後に本人から聞いた話だと、法王庁(ヴァチカン)から派遣されたらしい。

「あの時、クレアは太陽をはぐれ悪魔と勘違いしたらしくてね。問答無用で太陽に襲い掛かったのよ」

その時の光景を、リアスは今でも鮮明に覚えている。いや、脳に焼き付けられたと表現したほうが正しいかもしれない。何せ彼女の親友、夕暮太陽が、畏怖の念をこめて『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』と呼ばれた彼女が人間に圧倒されていたのだから。

「今でもあの時の光景は信じられないわね。幾ら力を幾重にも封印されているとはいえ、あの太陽を圧倒する人間なんて……化け物もいいとこだわ。その後、私は慌てて太陽に拘束制御術式第零号解放の許可を与えたの」

「ちなみに拘束制御術式第零号というのは太陽の力を抑えている封印を完全に解除させる術式のことなの」

その解除権は太陽の主である部長が持ってるんですよ、と朱乃の注釈に夜明とアーシアは成る程と頷く。

「完全に力を解放させた太陽は文字通り、全力全開でクレアに応戦したわ」

当時のリアスは確信していた。自分が瞬きする刹那の間に目の前のエクソシストは塵も残さず消滅すると。しかし、彼女の予想は悉く裏切られ、更に信じられない光景が眼前で繰り広げられた。

「拘束制御術式第零号を解放させた太陽と互角に渡り合ってたのよ」

満身創痍、それよりも酷い状態になりながらも、クレア・サンドロは太陽と互角の戦いを演じて見せた。字の通り地は割れ、天が裂け、空間が悲鳴を上げるような戦いは三日三晩続いた。

「そこまで来て、ようやく誤解が解けたのよ。あの時のクレアったら本当に慌ててて。何度も太陽に頭を下げてたわ」

その後、三人は十年来の友のように仲良くなったのだ。特に太陽は直接拳を交えたということもあり、別れる時には莫逆の友と呼べるほどにクレアと仲を深めていた。ちなみにその後も、クレアはお忍びでリアスと太陽の下に遊びに来ていたが、その物語はまた別の時に話すとしよう。

「そういう経緯があるのよ。私たちとクレアにはね」

「ふ〜ん……ちなみに部長。その、拘束制御何たらを解放させた太陽ってどんくらい強いんですか?」

「拘束制御術式第零号よ。そうね……魔王を含めた、冥界の全戦力を以ってしても互角に渡り合うのがやっとって感じかしら」

規模がでかすぎて今一ピンとせず、夜明とアーシアは揃って首を傾げる。二人に分かり易く説明するため、リアスはどうにかピッタリの表現を探し当てた。

「全ての能力をフルに発動させたン・ダクバ・ゼバね」

「成る程。文字通りの化け物ですね」

納得する夜明の横、更に頭上の疑問符を増やすアーシアには朱乃が優しく、噛み砕いて説明していた。

「あの、部長さん。一つ聞いても良いですか? 何で部長さんと太陽さんはシスタークレアとお友達になれたんですか?」

「そりゃ、そのクレアって人が部長たちと意気投合したからだろ?」

アーシアの質問の意図が分からず、夜明は微かに眉を顰める。夜明の表情の変化を敏感に察知した小猫がある本を持ってきた。表示には十三課(イスカリオテ)とある。

「……クレアさんが所属していた組織、十三課(イスカリオテ)はとにかく過激なことで有名なんです。掲げる思想は絶滅主義」

悪魔、化け物、異教は全て滅ぼせ、という危険極まりない思想。その思想を掲げるに足る戦力。パラパラと本の内容を読み流しただけで十三課(イスカリオテ)のぶっ飛びっぷりを理解した夜明はアーシアの疑問に頷く。そんな組織に所属している人間、それもエクソシストが悪魔である二人と友人になるなんてありえない。

「ところがどっこい。十三課(イスカリオテ)に所属しながらクレアは異端としか言い様のない思想を持っていたのよ」

悪魔だろうが、異教の者だろうが、友愛を以って手を取り合えば、種族信仰の関係なしに愛すべき隣人になることが出来る。同胞に殺されても不思議ではないような思想をクレアは持っていたのだ。

「博愛精神の塊みたいな人なんですね」

「それが原因で十三課(イスカリオテ)を追放されたのよ」

それを聞いた時は本気で眷属に迎え入れようと思ったわ。リアスの告白に一同苦笑い。

「まぁ、追放したは良いけど、クレアの存在を完全に無視することは出来ないみたいね、十三課(イスカリオテ)も。何か七面倒なことが起こる度にクレアに押し付けてるらしいわ」

それを請けるクレアもクレアだけど……。ぶつぶつと呟き始めたリアスを放置し、朱乃は夜明とアーシアに諭すように言い聞かせた。

「クレアさんが動いている。そして太陽に応援を頼むなんて余程のことだから二人とも。祐斗くんが心配なのは分かるけど、その問題が解決するまで不用意に動いちゃ駄目よ」

アーシアは素直にはい、と返事をしたが、夜明は納得してないのか難しい顔をしていた。朱乃に夜明くん、と少し強い口調で呼ばれ、渋々ながら返事をする。

(木場の奴。そんな状況の中で一人になって大丈夫なのか……?)

そんなことを考えながらも、夜明は朱乃の言葉に従おうと考えていた。この時点までは。





その後は解散となり、それぞれが自宅へと帰宅した。リアスだけは少し状況を整理したいといって部室に残っている。

「あ」

「どうしたんですか、夜明さん?」

「部室に携帯忘れてきちゃったみたいだ。アーシア、悪いけど先帰っててくれ」

アーシアにマンションの合鍵を渡し、夜明は急ぎ足で歩いてきた道を戻って旧校舎へと向かった。既に夕日も地平線へと沈んでいたので、周囲はかなり暗くなっていた。そしておんぼろな外観も相まって、旧校舎は不気味な雰囲気を放っている。

「早いとこ戻んないとな」

まぁ、そんなことを気にする月光夜明では無いが。アーシア、まぁだ時々道間違えるからな、と呟きながら旧校舎へと侵入し、迷いの無い足取りで部室へと向かう。一分もしない内に夜明は部室前へと来ていた。

「部長、まだいるのか……ん?」

扉に手をかけてさっさと開けようとするが、中から妙な音が聞こえてきたので夜明は手を止めた。妙な音の正体を探るため、夜明は扉に耳を押し当てて中の様子を探る。

『うっ、うぅ……祐斗。どうか無事でいて……』

「……部長」

夜明はリアスが木場の離反から既に立ち直ったものだと思っていた。だが実際は違った。すすり泣くほどに心配しているのだ。

(グレモリーは悪魔の中でも情愛に深いと聞く。気丈に振舞っていたが、心中ではやはりあの魔剣使いを心配していたのか)

そうか、と心の中で頷きながら夜明は扉から離れ、反対側の壁へと背中を預けた。ゆっくりと天井を仰ぎ、片手で双眸を覆いながら嘆息する。

「あのくそ馬鹿野朗……」

部長のこと泣かせやがって……。二回目の嘆息。夜明はゆっくりと壁から背を離し、部室内にいるリアスに気配を悟られぬよう静かにその場から離れていった。

(ブレイズハート)

(うむ、分かっているぞ。奏者よ)

呼びかける夜明にブレイズハートは嬉々として応じる。それは夜明の中に生まれたある決意を全力で応援するという意思の表れだった。

「あのくそ馬鹿野朗を殴り倒しに行くぞ。そのついでに」

(聖剣奪還、もしくは破壊だな! いくら複数に砕け散ったとはいえ、相手は万民の願いが鍛え上げた最強の幻想(ラスト・ファンタズム)。心が奮い立つなぁ、奏者よ!)

あぁ、と力強く頷きながら夜明は旧校舎を後にする。その時だ。

〔ふふ、精々頑張りなよ。コカビエルとその下っ端程度に苦戦するようじゃ英雄龍は名乗れないしね〕

「っ!?」

突如、聞こえた声に夜明は周囲を見回す。当然のことながら、人影は無い。周りを確認するでもなく、それは分かっていた。今の声は鼓膜を通して聞こえたものではなく、夜明の中で響いたものだからだ。

「何か言ったか、ブレイズハート?」

(……いや、余は何も言っていないぞ)

余はな、と念を押すように繰り返すブレイズハートを問いただすことはせず、夜明は目の前のことに集中しようと帰路につく歩を速めた。














それは月光夜明の中にいた。正確には彼の身に宿った神滅具(ロンギヌス)、『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』の中に。無数の歯車が宙に浮かぶ、異常という表現しか思いつかない世界。その中にそれはいた。

〔ふふふ、いくらコカビエル如きとはいえ、彼の成長を促すくらいはやってくれるだろ〕

それは端正な顔を楽しげに歪ませながら眼鏡のブリッジを押し上げる。その表情は実験のためのモルモットを見ているようで、それでいて戦友に微笑みかけるようなものだった。

〔今回の戦いで君がどこまで成長するか、見せてもらうよ、夜明〕














「……遅いな」

クレアに駅前へと呼び出された太陽は街灯に背中を預け、自分をここに呼び出した本人の到着を待っていた。待ち始めて既に三十分は経過している。その間に頭の悪い男共に何度か声をかけられたが、その度に太陽は眼光を鋭くさせて男共を追い払っていた。

(あいつってこんなに時間にルーズだったか?)

何度目かのナンパを退け、深々と息を吐き出す太陽の視界に近づいてくる人影が映る。美しい金髪と碧眼。神父服に隠された女性のボディライン。手を振りながら走り寄ってくる人影に太陽は微笑を口元に張りつけ、ゆっくりと姿勢を正した。

「遅ぇよ」

「ごめんねぇ〜。ちょっと複数の堕天使に襲われちゃって」

その後処理に時間がかかっちゃったのよ〜、と間延びした声で彼女、クレア・サンドロは太陽に謝罪する。堕天使に襲われ〜、の件に太陽は一切突っ込まなかった。大丈夫か? と問いさえしない。何故なら、彼女が堕天使如きに遅れを取らないと知っているからだ。

「ま、とりあえずどっか入るか」

「そうねぇ。私も歩きっぱなしだったから、少し休みたいわぁ」

二人は適当な喫茶店へと入り、それぞれコーヒーを注文した。

「それで、私に手伝って欲しいことって何だ?」

出されたコーヒーを啜りながら太陽は単刀直入に訊ねた。クレアは結構な量の砂糖とミルクを入れたコーヒーをスプーンで掻き混ぜながら太陽を見る。

「エクスカリバーが奪われた、っていうのは知ってるわよね?」

「あぁ。今日、ここに派遣された聖剣使いから聞かされたよ」

「じゃあ、奪ったのがコカビエル一行だってことも」

知ってる、と太陽は頷いた。それなら話が早いわ〜、とゆっくりと茶色に変色したコーヒーを飲み干し、クレアは切り出した。

「コカビエルのエクスカリバー強奪。これを手引きした組織を調べるのを手伝って欲しいのよ〜」

クレアのお願いに太陽は素では? と問い返した。そんだけ? と訊ねるもそんだけ、と普通に返されてしまう。困惑したような表情を浮べる太陽。とりあえず落ち着こうと、カップに半分ほど残っているコーヒーをゆっくりと口に含んだ。

「……そう、か。お前が手伝ってくれっていうくらいだから、もっと何か魔神級の何かが出てきたもんかと思ってたんだが」

「たかが組織の調査〜、って甘く見ないほうが良いわよぉ。私も少し調べてみたんだけど、そしたらとんでもないことが分かったんだからぁ」

とんでもないこと? 視線で問う太陽にクレアは声を小さくする。

「その組織に現赤龍帝が身を置いてるみたいなの」

思わず噴出しそうになったコーヒーを無理矢理飲み下し、太陽は盛大に咽た。心配して駆け寄ってきたウェイトレスに大丈夫だ、とジェスチャーで伝えながら太陽は涙目になった瞳をクレアへと向ける。

「ま、マジか?」

「まだ確定的な情報は掴んでないのだけれど、信憑性は高いと思うわぁ〜。それに、赤龍帝以外にもかなりやっかいそうなのがいるみたいだし」

「そうか。確かに現赤龍帝がいる組織ってなると調べるにもかなり戦力が必要だな……分かった、手伝わせてもらうよ」

「本当? ありがとう、太陽」

頼みを快諾してくれた太陽にクレアは花が咲いたような笑顔を浮かべた。手を取って感謝の念を伝えてくるクレアに若干照れ臭さを感じながら太陽は今後について考える。

「クレア。その組織の情報ってどれくらい出回ってるんだ?」

「多分、私以外誰も掴んでないと思うわよぉ」

そうか、と首肯し、太陽は立ち上がった。

「とりあえず、今はその組織ってのを調べるか。クレア、調べる方法は考えてるのか?」

「この町にコカビエルが来てるでしょ? 先ずはコカビエルの周りにいる人たちから情報を聞きだしていって」

「最終的にコカビエル本人に聞くのか」

今のところ、組織と直接接触してるのは彼らだけだから〜、と間延びした声を出しながらクレアも席を立った。

「んじゃ、行くか」

「そうねぇ、善は急げって言うし……あ」

「どうした?」

「お金、日本円に換えるの忘れてたぁ」

久方ぶりに会った友人のボケ具合に流石にずっ転けてしまう太陽だった。














「「「「「「……」」」」」」

全国チェーンされているとあるファミレスの一角を異様な集団が占領していた。駒王学園の学生服を着た四人と白いローブの二人。夜明、小猫、木場、匙。そして聖剣使い紫藤イリナとゼノヴィアだった。木場は相変わらず二人に殺気を飛ばしていて、匙は状況が飲み込めずに目を白黒させている。

「単刀直入に言うぞ」

視線で木場を抑えながら夜明は切り出した。

「聖剣エクスカリバーの奪還、もしくは破壊を手伝わせろ」

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