小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

          『涙を止めるために』




「……一体どういう風の吹き回しだ、英雄龍?」

夜明の申し出で凍り付いていた時を再び動かしたのはゼノヴィアだった。ゼノヴィア以外も、どういうつもりだと視線で夜明に問うが、本人は涼しい表情を浮べている。匙は未だに事情が飲み込めず、ん、ん? と首を傾げていた。

「と言うと?」

「不思議でならないんだよ、君が私たちに協力を申し出てくるなんて。君は私たちを蛇蝎の如く嫌っているのだろう?」

「あぁ、嫌いだな。正直言って、お前らが目の前で堕天使に殺されかけていようが、笑顔で手を振る自信がある」

ならば、何故? 問われ、夜明は木場を指差す。

「俺たちの利害が一致してるからだよ。お前らは奪われたエクスカリバーをぶち壊してでも奪還したい。そこのくそ馬鹿野郎はとにかくエクスカリバーを破壊したい。俺と小猫はそこのくそ馬鹿野郎に戻ってきて欲しい。見事に利害が一致してるだろ?」

木場が何かを言おうとするが、夜明に凄まじい怒気を叩きつけられて黙らざるをえなかった。

「色々と思うところはあるだろうが、手前に何かを言う権利はねぇぞ木場。お前のせいで部長は泣いたんだ」

月光夜明が行動を起こすには十分すぎる理由だ。

「そ、それで月光。俺は何でこの場に呼び出されたんだ?」

口を噤んだ木場を一瞥する夜明に匙は自分をここに呼んだ理由を訊ねた。飯を奢ってやるから来い、という夜明の言に乗っかったのがそもそもの間違いだった、と匙は痛くなってきた胃がある辺りを擦りながら後悔する。そんな匙の心中を知ってか知らずか、夜明はただ一言、用件を告げた。

「今回の一件、手伝え」

バッ! ある程度想像がついていたのか匙は席から飛び上がり、その場から脱兎の如く逃げ出そうとする。が、匙が逃走することは予想済みだったらしく、夜明の行動に迷いはなかった。無言で匙の首根っこを引っ掴み、強引に席へと叩き戻す。その細腕のどこに人一人ぶん回す力があるだ、と周りにいる一般客はビックリ仰天していた。

「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!! 放せ! 放しやがれ月光ぉぉぉぉぉ!!!!!」

「うるせぇぞ匙。公共の場で騒ぐな」

少なくとも、彼を騒がしている主な原因が言えた台詞ではない。

「というかそれはグレモリー眷属の問題だろ!? 何でシトリー眷属の俺を巻き込むんだよ!?」

「協力してくれそう、尚且つ実力で俺の制御下におけそうな悪魔の知り合いがお前しかいなかったからだ」

この男、外道である。悪魔にとっての天敵とも呼べる聖剣のごたごたに巻き込まれ、その上遠回しにお前弱いだろ、と言われる。余りに踏んだり蹴ったりの状況に匙はさめざめと涙を流した。

「まぁ、安心しろ。この件でお前が会長に怒られることがあったら、そん時は俺も一緒に土下座してやるから」

「そういう問題じゃねぇんだよ……お前んとこのリアス先輩は厳しくて優しいかもしれねぇけど、ウチの会長は厳しくて厳しいんだぞ……」

魂が抜けてしまったかのように項垂れる匙を小猫に任せ、夜明は聖剣使い二人に向き直った。

「それで、返答は?」

「……一本くらいなら任せても良いかもしれないな。ただ、協力してくれるというのなら、君たちの正体がばれない様にしてくれ。敵にも、上にもこのことが露見したら色々と面倒なことになる」

意外にもすんなりと許可が下り、夜明は僅かに眉根を曇らせる。何か裏があるのか? と勘繰りそうになったが、その時はその下らない裏ごと叩き潰せばいい、と夜明は交渉成立の証として手を差し出した。ゼノヴィアが応じようとするが、横に座っているイリナが異を唱える。

「ちょっとゼノヴィア。相手は夜明くん、それも人間だけど悪魔の眷属なのよ」

「そして、ドラゴンでもある」

しかも英雄と謳われたな、とゼノヴィアは夜明に目を向ける。その視線が自分ではなく、己が内に眠る彼女に向けられたものだということは容易に理解できた。

「イリナ、私たちは何が何でもエクスカリバーを奪還、最悪破壊しなくてはならない。そしてそれは限りなく無理に等しい。奥の手を使ったとしても、私たちが生きて任務を成功できる確率は三割が良いところだろう」

任務成功の確率を少しでも上げるため、ゼノヴィアは夜明と、悪魔の眷属である彼とその仲間たちと手を組むことを辞さない覚悟のようだ。

「それに上もドラゴンと協力してはいけない、なんて一言も言っていなかったからな」

物は言い様、を越えた壮絶屁理屈に流石の夜明も開いた口が塞がらなかった。

「そんなの屁理屈すぎるわ! やっぱりあなたの信仰心ってどこか変よ!」

「変で結構。私の信仰心は常にベストな形で、柔軟に動くんだ」

それは柔軟ではなくその場の勢いと言うんだ。そんな言葉が出てきそうになったが、睨み合っている二人の矛先をこちらに向けられては堪らない、と夜明は無言で苦笑いを浮かべるだけだった。

「喧嘩するなら俺たちと別れてからにしてくれよ。とりあえず、契約完了ってことで良いんだな?」

「あぁ。英雄と謳われたその力、貸してもらうぞ」

今度こそ、二人は契約完了の証として互いの手を握り合った。それから夜明は無言の木場に視線を向けた。

「そういうことだ木場。俺たちはこれからこいつらと協力してエクスカリバーに当たる。言っとくが、手前に拒否権はねぇ」

「……夜明くん。君ってこんなに強引なキャラだったっけ? まぁ、分かったよ。聖剣使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね」

「随分な言い様だね。そちらが『はぐれ』なら、さっさと斬り捨てているころだ」

睨み合うゼノヴィア。火花を散らせる二人にため息を吐く小猫、不意に夜明の方からブチリと何かが切れる音が。小猫が夜明を見た瞬間、高々と持ち上げられた夜明の脚でテーブルは派手な音と破片を撒き散らして真っ二つと化す。まだ注文した料理が来てなかったことがせめてもの救いだ。

「……お前等いい加減にしろ。そろそろ俺もキレるぞ」 

「お、お客様!? な、何をしているのですか!?」

血相を変えて店長と思わしき人物がすっ飛んでくる。夜明は人当たりの良い笑顔を浮べながらすいませんと謝り、店長にばれないようテーブルを素早く創造して直した。

「と、まぁこんな具合に俺は壊れたものを創造して、創り直すことが出来る。人間の身体も例外じゃない。いや、まぁ今の言葉に深い意味はないけどな」

嘘だ。この男は暗にこう言っている。これ以上、面倒を起こすならぶった切って黙らせると。大丈夫、斬られた箇所を創り直せば何の問題も無いのだから。にっと、薄氷の如き笑みを浮かべる夜明にその場の全員が戦慄を覚えた。その後は夜明の脅し……もとい諭しのお陰か、話は円滑に進んだ。ゼノヴィアとイリナはかつて『聖剣計画』の責任者、皆殺しの大司教の異名を持つバルパー・ガリレイが異端として追放され、今は堕天使側に身を置いている事。木場はエクスカリバーを持った神父、フリードに襲われたことを話す。

「フリードってぇと……」

「……アーシアさんを助ける時、レイナーレ側についていたはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)です」

あぁ、いたなそんなの、と手を打つ夜明を小猫は呆れ切った表情で見ていた。しかし、とそこで夜明の表情が難しいものになる。

「なぁ、おい。フリードの野朗に聖剣を扱える素養ってあったのか?」

夜明の問いにイリナが否と答える。まだはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)になる前のフリードは戦闘技術こそ凄まじいものがあったが、聖剣に関する素養に関しては一切無かったはずだ。それを聞いて、夜明の顔は更に難しいものとなる。頭の中ではかなり嫌な絵が描かれていた。

「追放された『聖剣計画』の責任者、バルパー・ガリレイ。エクスカリバーを扱えるようになったフリード……成る程ね」

胸糞悪ぃ、と夜明は吐き捨てた。

「……あの、どういうことですか、夜明先輩」

及び腰気味で小猫が問いかける。他の面子の視線も、何時の間にか夜明へと集中していた。頬杖を突きながら夜明は一瞬、木場を一瞥してからゆっくりと口を開いた。

「今回の一件、そのバルパーってのが絡んでる。そいつがフリードにエクスカリバーを扱えるようにさせたんだろ……『聖剣計画』の研究結果か何かを使って」

バキィッ!! 木場の手に握られていた、ガラスのコップが中身の水と共に弾け飛ぶ。血が混ざった水滴が手から滴り落ちる。細かいガラス片が深く食い込んでいくのも構わず、木場は力の限り手を握り締めた。

「……俺のメールアドレスと携帯の番号だ。後でいいからかけてきてくれ」

今は木場を落ち着かせたい。夜明が言外に込めた思いを理解したのか、二人は無言で渡された紙を受け取って夜明達と別れた。少しして、夜明達もファミレスから出た。木場は小猫と匙に支えられるように立っていた。

「……夜明くん。僕は、僕の仲間は何のために産まれてきたんだろう?」

「……さぁな」

唐突な木場の問い。疑問を発する彼の目には涙が光っていた。夜明は感情の籠ってない返事で応じる。何のために産まれたのか? そんな小難しい事は哲学者にでもやらせておけ、と前置いてから夜明は木場に向き直った。

「でも、少なくとも一つだけ確かなことがある。お前とその仲間は、ただ研究されて、バルパー・ガリレイに利用されるために産まれた訳ではないんだ」

「……うん」

「きっと、バルパー・ガリレイはフリードのことも研究対象としか見てないだろうな。この一件が終われば、野朗は更に研究を進めるかもしれない」

「……だろうね」

目元を拭う木場。さっきまで支えられるように立っていた彼だが、今は己の脚でしゃんと大地の上に立っていた。

「木場。俺にはお前がどれ程聖剣を恨んでいるかは分からない」

でもだ、と続けながら夜明は腰に手を当て、木場と視線を合わせた。

「聖剣が、エクスカリバーが万民にとっての願いであることはブレイズハートから教わった……これ以上、聖剣エクスカリバーが原因の悲劇を起こす訳にはいかない」

終わらせよう、この悲劇を。

「憎しみの刃でも良い、復讐のための剣でも良い。お前が終わらせるんだ、お前の魔剣で」

「……うん、終わらせるよ」

悲劇の連鎖も、自分自身の復讐も。木場はおずおずといった感じで夜明に手を差し出す。

「今更言えたことではないかもしれないけど、協力してくれないかな?」

木場の手を無言で見下ろしてゆっくりと、だが力強く手を握った。手を離し、ふと木場は気になっていた事を訊ねる。

「夜明くん。どうしてこんなことを?」

木場にしてみれば不思議としか言い様が無いだろう。個人的な怨恨による復讐、それに力を貸してくれるというのだから。木場の問いに夜明は面倒そうに頭を掻いた。

「ん〜、エクスカリバーに興味が涌いてたってのもあるが……一番でかい理由は部長が泣いてたからだな。お前が戻ってくれば部長も泣かないで済むからな」

「……それだけ?」

それだけ、と夜明は特に照れるでもなく、また誤魔化す素振りも見せずに言い切った。あぁ、こいつは本気だと、木場は理屈抜きで理解できた。リアス・グレモリーが泣いていた、だからその涙を止める。本当にそれだけの理由で木場に協力しているのだ。

「……前から思ってたんだけど、夜明くんって相当の馬鹿でしょ?」

「ほっとけ。大切な人の涙を止めるために命を懸けることは別に不思議でも何でもないだろ」

肩を竦める夜明の隣り、小猫がゆっくりと口を開く。

「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのが嫌です」

何時もは無表情な顔に少しだけ寂しさを含ませ、小猫は木場の服を掴む。普段が普段なだけに、その表情の変化はこの場にいる全員に驚きを与えた。

「お手伝いします。だから……一緒にいてください」

「……可愛い後輩にこんな表情させるもんじゃねぇぞ、木場」

「……そうだね。僕は随分と酷い先輩になっちゃったものだな」

夜明は小猫の頭に手を置き、木場は申し訳無さそうに微笑む。

「ま、聖剣破壊の許可も取ったし、後は頑張るだけだ」

気合い入れていくか、と夜明が掌に拳を打ち込んでいると、その場でただ一人蚊帳の外だった匙が遠慮がちに手を挙げる。

「いや、今までの流れ的にその頑張るのとこに俺も含まれてるんだよな? つか、木場とエクスカリバーにどんな関係があるんだ?」

匙の尤もな疑問。夜明はちらっと木場を見やる。夜明の意図に気付いたのか、木場はゆっくりと語り始めた。カトリック教会が秘密裏に進めさせていた『聖剣計画』。それはブレイズハートからある程度話を聞いていた夜明ですら顔を顰めるほど酷いものだった。

人として扱われず、自由、生きるという当然の権利をも奪われ、繰り返される非人道的な実験の毎日。そして『処分』という名目で切り捨てられた。こりゃ復讐したくもなるわ、と夜明は胸中で納得しながら木場の話を聞き続けた。

「同志たちの無念を晴らす、同志たちの死が無駄じゃない事を照明する。だからこそ僕はエクスカリバーを超える」

「……文字通り茨、いや、最早鉄槍の道だな」

「覚悟は出来てるよ」

僕は戦う、と木場が強い意思を込めた声で呟くと、何処からともなくすすり泣きが。三人は音の発生源である、鼻水を垂れ流して号泣している匙に視線を注ぐ。どうたらこの男、相当に情に篤いらしい。木場の話を聞いただけで夜明達に協力する決心をするほどだ。

「相手はクサレ外道、そして伝説の聖剣だ」

派手に行こうぜ、と改めて意思を固め、四人は解散した。

-26-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D 13【BD付限定版】 イッセーSOS (単行本)
新品 \0
中古 \9915
(参考価格:\4725)