小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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           『加速する戦局 聖剣の統合』




夜明とリアスが帰路へとつく時、既に夕陽は落ちて夜になりかけていた。小猫とは道中で別れている。

「「ただいま」」

特に何か問題が起こるわけでもなく、二人は仲良くマンションに帰ってきた。

「お、お帰りなさい……」

先に帰ってきてたであろうアーシアが奥の方から顔を覗かせる。何故か声は蚊の鳴くようにか細く、顔は真っ赤だ。その理由はすぐに明らかとなる。

「ただいまアーシア……」

「どうしたの夜明……」

言葉を失う夜明。その後ろでリアスが怪訝そうに眉を寄せるが、夜明の肩越しに見えたものに黙ってしまった。そう、俗に裸エプロンという格好をしているアーシアに……。

「く、クラスのお友達から聞いたんです。日本では台所に立つ時はは、ははは裸にエプロンだって。恥ずかしいですけど私、頑張って日本の文化に溶け込もうと思って」

「アーシア。その情報は真っ赤な嘘だから脳内から削除しなさい。そして俺にそのことを教えた大馬鹿野朗の名前を教えなさい。まぁ予想はついてくぁwせdrftgyふじこl」

辛うじて保たれていた夜明の精神が音を立てて崩れ落ちる。アーシアの裸エプロンに完全にノックアウトされた夜明はその場に前のめりにぶっ倒れた。リアスに抱き起こされ、アーシアが慌てて駆け寄ってくる。薄れていく意識の中、夜明はアーシアに大嘘を吹き込んだであろう女クラスメイト、桐生に心の中で中指を立てた。














「やっと頭のグラグラが治まってきた……」

夜明が意識を取り戻した頃、既に時計の針は十二時を過ぎていた。気がつけばソファーに座ったリアスに膝枕され、私服に戻ったアーシアが涙目になりながらしょんぼりしている。

「アーシア、俺をショック死させたくなかったら今後あぁいう格好はしないでくれ」

「はい、ごめんなさい……」

しょんぼりと項垂れるアーシア。リアスもこればかりは口を挟まずに苦笑を浮かべている。が、その裏で、

(前から思ってたけれど、夜明ってば女性に対して免疫無さ過ぎね。アーシア、私たちで夜明を鍛えていきましょう)

(は、はい! 一緒に頑張りましょう!)

という会話があったことを夜明は知らなかった。ため息を吐きながら起き上がった夜明の瞳がすぅっと細くなる。アーシアも何かを感じたのか、不安そうに夜明に抱きついていた。リアスも表情を厳しくさせながら夜明に渡された延べ棒を取り出す。目を射潰さんばかりの蒼い光が延べ棒から放たれていた。夜明とリアスは頷き合い、アーシアを連れて外へと出て行った。






「やっほー、夜明くん、アーシアたん。ご機嫌麗しゅう?」

「現在進行形で最悪だよ若白髪」

相変わらずふざけた口調のフリードを睨みながら夜明は吐き捨てるように言い放つ。嘲るような笑みを浮かべて肩を竦めるフリードを無視し、夜明は周囲に視線を走らせた。夜明が目を細めた理由は別にある。それは空にいた。

「……」

無言で夜明たちを見下ろす装飾の凝った漆黒のローブを纏った男。その背に生えている翼は漆黒、そして数は。

「十……ってことはあいつが」

(コカビエルだ)

「御機嫌よう、グレモリー家の娘。麗しい紅髪だ。兄君を彷彿させる、吐き気を催す色だな」

あら、のっけから悪意全開、と呆れる夜明の横で負けじとリアスも冷たい笑みを浮かべる。

「御機嫌よう、堕ちた天使の幹部コカビエル。私はリアス・グレモリー、以後お見知りおきを。それと最初に言わせてもらうけど、この場で政治的なやり取りを望むのなら無駄よ」

グレモリー家と我らが魔王は最も近く、最も存在であるが故に。こういう時のリアスは見てて惚れ惚れするほど凛々しい。普段とのギャップに夜明は感心すら覚えた。リアスの言葉を受け、コカビエルは脇に抱えていた何かを夜明たちに投げてきた。

「こいつは土産だ」

「あら、ご親切にどうも」

軽口を叩きながら夜明は何かを受け止める。夜明の腕の中に収まった何かの正体は。

「……イリナか」

聖剣使いの片割れ、紫藤イリナは血塗れの状態で苦しそうに呻いていた。夜明はイリナの身体に致命的な傷があるかどうかだけを確認する。派手に出血しているが、幸い命に別状を及ぼす傷は無さそうだ。イリナをアーシアに任せ、夜明はコカビエルを睨み上げる。

「俺たちの根城に遊びに来たのでな。それなりに歓迎させてもらった。まぁ、二匹ほど逃がしたがな」

今のコカビエルの発言で少なくとも、木場とゼノヴィアが無事だということが分かった。リアスが睨んでいると、コカビエルは駄々っ子でも諭すような目でリアスに語りかける。

「魔王と交渉などと馬鹿げたことは一切考えていない。まぁ、お前をいびって魔王が出てくるというのなら万々歳だがな」

凄まじい上から目線だ。しかし、コカビエルがそうするだけの実力を持っているのも純然たる事実。内心の怒りを抑え、リアスはコカビエルに問うた。

「それで、私との接触の目的は何?」

「お前の根城、駒王学園で一暴れさせてもらおうと思ってな。そうすれば否が応でも魔王、サーゼクスが出てくるだろう?」

「ブレイズハート、あいつ馬鹿だ」

(奏者よ、何を分かりきった事を言っている)

コカビエルの言葉が余りにぶっ飛んでいたので、知らず夜明は己の胸中を包み隠さず吐露してしまった。夜明のストレート過ぎる発言にリアスは目を剥くが、咳払いして気を取り直し、再びコカビエルに訊ねる。

「正気? そんなことをすれば堕天使と神、悪魔の戦争が再び始まるわよ?」

「それこそ願ったり叶ったりだ! 聖剣を奪えば戦争の一つでも仕掛けてくると思ったがミカエルめ……寄越すのが雑魚のエクソシスト、そして聖剣使いの小娘二人……俺を舐めているのか!? あんな一緒の空気を吸うのも躊躇われる豚と手を組んでまでエクスカリバーを盗んだというのに」

言い掛かりもここまでくると笑い話にもならない。最強の聖剣、エクスカリバーを奪った理由がただ戦争をしたいだけ。しかも自分の思惑に相手が乗ってこなかったら関係の無い第三者まで巻き込む始末。二天を止め、伝説となった英雄龍をして『戦争狂』と言わしめるのも納得のイカれっぷりだ。

「戦狂いが」

「そうだとも! 俺はあの三つ巴の戦争が終わってから退屈で仕方が無かった! アザゼルとシェムハザも戦争に消極的な上に神器(セイグリッド・ギア)など退屈なものに没頭する始末。そんなものが戦争の何に役立つと言うのだ!!」

言葉を荒げるコカビエルだったが、そこで一旦言葉を切り、尤も、と視線を夜明へと向けた。

「お前が宿している神滅具(ロンギヌス)、『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』レベルのものなら話は別だろうがな」

「言っとくが、やらねぇぞ」

夜明の軽口にコカビエルもそんな物いらん、と応じる。夜明に向けられる目にリアスへと向けられていたような侮蔑のものはなく、好奇の色がかなり強かった。

「ふむ、神器(セイグリッド・ギア)に目覚めたばかりだと耳にしているが、中々どうして良い目をしている」

向けられる闘志も心地よい、とコカビエル。どうやら夜明は堕天使の幹部に気に入られてしまったらしい。それに気づいた夜明は心底嫌そうな顔を作る。

「まぁ、とにかくだ。私の言いたい事は一つ……戦争をしよう!」

シンプルで分かり易い、その分性質も悪い。二人が表情を歪ませていると、フリードが耳障りな声で笑いながら何かを取り出した。

「ヒャッハッハ! 最高っしょ俺のボス! このイカれ具合がたまらないよね!」

「あぁ。戦闘狂に戦争狂……実にお似合いだよお宅等は」

精一杯の嫌味を込めて言ってやるが、それすらフリードにとっては褒め言葉だったらしい。聞いてもいないのに聞きとして取り出したもの、エクスカリバーについて語り始めた。

「見てよこれ! 右のが『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』で左のが『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』。腰のは『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』でさぁ。ついでにそこのお嬢ちゃんからいただいた『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』も合わせて四つ! こんなにエクスカリバーを持ってるのも世の中広しと言えども俺っちだけだねぃ!」

しかも、バルパーが何かをしたらしく、フリードは所持している全てのエクスカリバーを使用することが出来るようだ。

「バルパーの聖剣研究、ここまでのものとはな。正直言って、そこまで期待はしてなかったんだがな」

バルパーとコカビエルが組んでいる事は確定的な事実のようだ。

「エクスカリバーをどうする気なの!?」

リアスの疑問には応じず、コカビエルはローブを翻しながら十の黒翼を羽ばたかせる。

「さぁ、戦争の開始だ、魔王の妹、リアス・グレモリーよ!」

ここで数時間前にフリードが使用していた目晦ましと同様のものが炸裂する。夜明達が視力を回復させた頃には既にコカビエルとフリードの姿は無かった。

「まぁ、どこ行ったかなんて想像つくけど」

「夜明、学園に急ぐわよ!」

アイサー、と能天気に応えながら夜明はアーシアとイリナを担ぎ上げる。

「ま、精々奴さんには後悔してもらいましょう」

走りながらリアスは夜明の言葉に頷く。そう、あの堕天使と聖剣に狂った連中に思い知らさせなければ。リアス・グレモリーとその眷属に手を出した事が間違いだったという事を。














「既に学園は結界に覆われていますってね。流石会長さん。仕事の速いこと速いこと」

リアスは移動しながら使い魔を用いてソーナに連絡を取り、協力を仰ぐ。自身が通っている学園の危機ということもあり、ソーナは二つ返事で協力の旨を承諾してくれた。そしてシトリー眷属が集まって作られたのが、駒王学園を覆っている結界というわけである。ちなみに事が事だけに、リアスの命令で集まった朱乃が既にサーゼクスに連絡をとったそうだ。その事に関して二人は少々揉めたが、そんな場合ではないとリアスのほうが折れた。更に余談だが、イリナは魔術でソーナの家へと送られていた。

「兄様が来るのが一時間後……皆、その間に決着をつけるわよ」

「私達もそれまでの間、結界を保ち続けて見せます」

シトリー眷属は結界を張り続ける作業があるので、オフェンス側には参加していない。

「月光、俺達の学校を頼むぜ!」

死戦に向かおうとする夜明に匙が檄を飛ばす。ニヒルに笑いながら夜明は黙って片手を上げる。

「さて、それじゃ行くかブレイズハート」

(あぁ! 相手はたかが堕天使の幹部、この程度軽く踏破してみせようぞ、奏者!!)














隠れる必要なんか皆無なわけで、グレモリー一行は堂々と校門から学園に乗り込んだ。既に夜明は『兵士(ポーン)』から『女王(クイーン)』にプロモーションしている。

「あらまぁ」

校庭まで歩を進めていた一行が言葉を失う。校庭のど真ん中で四本の聖剣が神々しく輝きながら浮いている。その下には校庭内を包むほど巨大な魔法陣が描かれていた。更にその中央にはバルパー・ガリレイの姿が。

「おいおっさん、何をおっ始めるつもりなんだ?」

「四本のエクスカリバーを一つにするのだよ」

夜明の質問にバルパーは面白おかしく答えた。

「バルパー、エクスカリバーの統合に後どれ程かかる?」

空中から聞こえてくる声に全員視線を持ち上げ、月光を浴びるコカビエルの姿を認める。宙に浮く椅子に腰かけ、余裕のつもりか足を組んでいる。

「宙に浮く椅子ね。そんなもん何処に売ってんだ? 良かったら今度紹介してくれよ」

「ふん、減らず口が無くならないな。今代の英雄龍は」

夜明の軽口にコカビエルは愉快そうに唇を歪ませた。コカビエルは夜明から一同の先頭に立つリアスへと視線を移す。

「さて、サーゼクスとセラフォルー、どちらが出てくる?」

「兄様とレヴィアタン様に代わって私達が」

リアスがそこまで言った時だ。風きり音の後に巨大な爆発音が周囲に木霊した。見れば、体育館の辺りから朦々と砂煙が舞い上がっている。その中にはコカビエルが放ったであろう巨大な光の柱が。

「つまらん。が、まぁいい。余興程度には……」

ここで初めてコカビエルの顔が驚愕に染まる。不審に思ったリアス達がコカビエルの視線を追うと、体育館へと辿り着いた。砂煙が薄れ、コカビエルの表情を変化させた原因が露となる。コカビエルが撃ち出した極太の光槍。それが桜色の光で出来た七枚の花弁で防がれているのだ。

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』」

光槍が消えたのを確認し、夜明はゆっくりと手を下ろす。若干の罅が走っていた花弁は儚い光の粒子となって消えていった。

「余興程度、か?」

「ふふ、ふふふ、やはり貴様は面白い。いくら投擲武器や使い手から離れた武器に対して無敵の概念を持つ『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』とはいえ、俺の光の槍を防ぐとはな……あぁ、悪かった。訂正しよう、英雄龍。少なくともお前は俺の敵になるに値する男だ」

そりゃどうも、と肩を竦めながらも、夜明は内心で冷や汗をかいていた。

(っぶね〜。ブレイズハートが支えてくれなきゃ意識が飛んでたぜ)

夜明に創造された武器は多少なりとも夜明の意識とリンクしている。夜明の意思で壊れなければ、少しちくっと感じる程度だが。その程度の意識のリンクなのに、『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』で光槍を防いだ時、夜明は意識を失いそうになっていた。

(まぁ、相手は仮にも聖書に名を連ねる堕天使だ。それくらいの力は持っているだろう)

(お前、そんな相手を軽く踏破してみせろって……軽く言ってくれるねぇ、ブレイズハート)

ブレイズハートと言葉の遣り取りを終え、夜明は両手に銀翼蒼星を創り出す。

「部長、ビビったら駄目ですよ」

にっ、と屈託の無い笑顔でリアスに微笑みかける。

「喧嘩は先に心で負けたほうが負けです! どんなに実力が離れていようとも、心で負けちゃ駄目ですよ」

夜明のマイペースさ、飄々とした物言いにコカビエルに呑まれかけていたグレモリー眷属は自分達のペースを取り戻す。圧倒的な力を見せ付けられても、再び戦意を涌き上がらせる夜明達にコカビエルは心の底から楽しそうに笑った。

「面白い。まずは地獄からつれてきた俺のペットと遊んでもらおうか」

コカビエルが指パッチンすると、闇の奥から地を揺らして何かが現れた。ぬっ、と出てきたその巨体に夜明はほぇ〜、と間抜けな声を上げてしまう。七、八メートルはあろうかという巨体に樹木のような四肢。そこから生える爪は短剣などの比ではない。血の様に輝く双眸をギラギラさせ、ずらりと並んだ牙は触れただけでも穴が開きそうだ。そして、そんな頭が一つの身体に三つ。

「ケルベロスかぁ、こいつ」

『『『ギャオオオオオオオォォォォォォンンンンン!!!!!!!』』』

夜明の呟きを肯定するように魔犬が吼える。三つの頭で同時に咆哮を上げるので、その音量は並の人間なら鼓膜を破壊されるほどのものだった。

「地獄の番犬の異名を持つ魔物……!」

「そりゃまた大層なもんが出てきましたねぇ」

牙を剥き出し、威嚇の唸り声を上げるケルベロス。

「相手が地獄の番犬だろうが、やるしかないわね。行くわよ皆!」

はい! と威勢よく返事をしたその時、夜明がはっとした表情であらぬ方向を見る。地が揺れ、横槍を入れるようにもう一頭のケルベロスが飛び出して夜明へと襲いかかった。

「夜明!!」

「……びっくりしたなおい。部長! こいつは俺がやりますんで部長達はそっちを!!」

ケルベロスの牙を銀翼蒼星で防ぎながら夜明は叫ぶ。夜明はケルベロスに噛み付かれたまま少し離れた場所へと運ばれていった。

「んぎぎ、にしても臭ぇなこいつの口! 普段、何喰ってやがんだ……ってやば!」

夜明を噛み裂こうとする真ん中の頭。その左右にある頭が夜明に向かって口を開いている。喉の奥からは灼熱の焔がせり上がってきている。夜明が左右に盾を創造すると同時にケルベロスの左右の頭が火球を吐き出した。火球は盾に直撃し、夜明とケルベロスは黒煙に包まれる。

「いい加減、放せや!!」

二つの盾を爆破させ、その衝撃でケルベロスを怯ませて牙から逃れる。夜明は三翼を展開させ、周囲に二十の長剣を創り出した。左右それぞれ十に分け、腕の振りに連動させて即席の巨大剣を顕現させる。ケルベロスが涎を撒き散らし、夜明を引き裂こうと爪を伸ばしてくる。夜明は巨大剣を振るってケルベロスを迎え撃った。爪牙と巨大剣が火花を散らせ合う。

「うざってぇ!!」

夜明はケルベロスを押し返しながら何十もの武具を創造し、ケルベロス目掛けて射出した。武具はケルベロスの皮膚に切っ先を食い込ませると同時に内側から爆ぜた。爆音がケルベロスを殴りつけ、黒煙が姿を覆い隠す。視界から逃すまい、と夜明は三翼を羽ばたかせて黒煙を吹き飛ばし、肉薄して巨大剣を振り下ろした。ケルベロスは夜明の斬撃を牙で受け止める。

「ちっ! そう簡単にはいかないか!」

夜明が短く毒づいたその時、横から助太刀に入る者がいた。

「加勢に来たぞ」

ゼノヴィアだった。ゼノヴィアは聖剣でケルベロスの首の一つを切り落とそうとしたが、寸前でかわされてしまった。

「ふむ。聖剣は魔物に無類のダメージを与える事を理解しているのか」

感慨深そうに呟くゼノヴィアに夜明が声を飛ばす。

「おい聖剣使い! あの犬っころを一撃で吹き飛ばすにはどれくらいの溜めが必要だ!?」

夜明の問いにゼノヴィアは疑問符を浮べるが、すぐに三十秒と答えた。上等! と夜明は巨大剣を形成させていた剣を全てケルベロスへと叩き付ける。

「俺が時間を稼ぐから、お前は犬っころを一撃でぶち殺すことだけ考えろ!」

「ふむ、意図は分からないがその言葉信じたぞ、英雄龍」

夜明は剣を爆発させてケルベロスを牽制しながら銀翼蒼星の切っ先を地面に突き立てた。少し離れた所ではゼノヴィアが『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』にオーラを集中させている。爆発の衝撃から立ち直ったケルベロスが黒煙を振り払って二人に爪を突き立てようとする。すると、地面から黒いラインのようなものが数十本飛び出し、ケルベロスを拘束した。ケルベロスは身を捩ってラインから逃れようとするが、ラインに力を抜かれて思うように動けずにいる。

「『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』。即興でやった割にはよく出来てるな……やれ、聖剣使い!!」

そんなこんなしている内に三十秒が経過していた。ゼノヴィアは『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』で身動きできないケルベロスの胸にオーラを集束させた聖剣を突き立てる。ケルベロスは一瞬、痙攣すると、傷口から煙を噴き出しながら霧散していった。

「うお、本当に効果絶大だな聖剣……おい聖剣使い。一つ聞きたいんだが、魔獣に天使や堕天使の光って効果あるのか?」

「ん? それはまぁ、悪魔ほどでないにしろ効果は大きいだろうな。仮にも冥界に住まう魔獣だしな」

「そうか……校庭の中央でバルパーがエクスカリバーを統合しようとしている。止めるなら今の内だ」

ゼノヴィアに状況を簡潔に説明し、夜明は三翼を羽ばたかせて飛翔する。少し舞い上がれば、もう一頭のケルベロスと戦っているリアス達の姿が見えた。

「部長、皆! 犬っころから離れてくれ!!」

両手両脚に光を放つ籠手と具足を創造しながら夜明は叫んだ。急降下してくる夜明の姿を認め、リアス達はケルベロスから離れる。

「吼えろ極光!!」

大きく引いた右拳に光が集まっていく。ケルベロスの背に右拳を叩き付けた刹那、コカビエルの光槍に負けず劣らずの巨大な光柱がケルベロスと夜明を呑み込んだ。目を射潰さんばかりの光にリアス達は両腕で顔を隠す。光が晴れると、巨大なクレーターが出来上がっていた。クレーターの中央には煙を放つ、毛皮の所々が焼け焦げたケルベロスと、首を捻り鳴らす夜明の姿があった。

「やっぱ予想通り、『光』は効果があったみたいだな」

呟きながらクレーターの中から出て、夜明は両手両脚に装備した神器(セイグリッド・ギア)、『猛き極光(べオウルフ)』を消した。

「冥界に住まう身でありながら光を宿した大悪魔『べオウルフ』の神器(セイグリッド・ギア)を創り出すなんて」

「ま、俺も見えないところで頑張ってるんですよ」

リアスに肩を竦めて見せていると、クレーターからケルベロスが唸り声を上げて夜明を睨み上げた。身体の至る所が光に焼かれているが、瞳は相変わらずギラギラと輝いて戦意を失っていない。

「後退のネジをどっかに置き忘れてきたのかお前は……」

ため息を吐きながら夜明は再び『猛き極光(べオウルフ)』を創造しようとするが、何を思ったのか顕現させるのを止め、腰に手を当てて口端を吊り上げた。

「遅いんだよ」

次の瞬間、地面から咲いた数多の魔剣がケルベロスを斬り裂き、刺し貫いた。消えていくケルベロスには一瞥もくれず、夜明は隣りに立つグレモリーの『騎士(ナイト)』を見る。

「ごめん」

素直に謝る木場。不意に校庭の中央にあったエクスカリバー四本がありえない輝きを放ち始める。

「完成だ」

バルパーが囁く。空中ではコカビエルが拍手を送っていた。

「四本のエクスカリバーが一つとなる」

神々しい輝きが校庭を満たしていく。しかし、それは破滅へのカウントダウン開始を告げる光だということを、夜明達は知っていた。

「地獄の番犬の次はエクスカリバーね」

忌々しそうに吐き捨てるリアス。眷属達と頷きあい、リアスは次なる戦いへと身を投じた。

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