小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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                 『悪魔の初仕事 人間だけどね』






「うぅぅぅひゃっほぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」

深夜零時。近所迷惑の塊となった夜明はバイクのアクセルを捻っていた。しかも何処から持ってきたのか、あのパラリラパラリラと鳴るラッパをハンドル部分につけている。

「窃盗バイクで走り出す〜♪ 行き先は、地獄さ〜♪」

念のために言っておくが、夜明が乗っているバイクは自前のものだ。夜明はバイクをドリフトさせ、けたたましい音を上げながら一軒の家の前に停車してポストに一枚のチラシを投函する。これは『貴方の願いを叶えます!』という胡散臭い謳い文句が特徴の悪魔召喚のための紙である。裏には簡易的な魔法陣が描かれていて、願い事をするとそっからリアス・グレモリーの愉快な眷属たちが現れ、願いを叶えてくれるという寸法だ。

「一番下っ端の俺はひたすら爆走するずぇぇぇぇ!!!!!!」

ちなみに夜明はリアスの眷族の中で一番の新参なので、こうやってチラシを配るという雑用を引き受けていた。

「月光夜明の速度は世界一ぃ!! WRYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!」

七面倒な雑用とはいえ、本人はとても楽しそうにやっているので良しとしよう。














さて、そんなこんなで一週間ほど経過した。夜明の爆走のせいで、近隣住民の方々は例外なく睡眠不足になっていた。そのことで夜明はリアスや朱乃にこっ酷く叱られたが、後悔はしてなさそうだ。

「それで部長。俺に何の用でしょうか?」

「夜明、今日で貴方のチラシ配りの日々も終わりよ。本格的に悪魔の仕事を始めt……って、何でそんな複雑そうな表情を浮かべてるのよ?」

「いや。雑用をしないですむって事に関しては素直に嬉しいんですが、もう深夜の爆走が出来ないかと思うと悲しくて」

「爆走はもう忘れなさい! 全く、貴方って本当に変ってるわね……まぁいいわ。話は戻すけど、貴方に本格的に悪魔の仕事を始めてもらうわ」

俺、眷属といっても人間ですよ? そのことを夜明が訊ねると、太陽が「大丈夫だ、問題ない」と言ったので、それ以上は何も突っ込まなかった。

「それじゃ夜明さん、魔法陣の中央に来てください」

朱乃に言われるがまま、夜明は部室の真ん中に描かれている魔法陣の真ん中に立った。

「それで俺はどうすれば?」

「朱乃が今、貴方の刻印を魔法陣に読み込ませているから少し待っててちょうだい」

はぁ、と何ともいえない返事をする。今、夜明が立っている魔法陣はグレモリー家を表すらしく、夜明のような眷属にとっての家紋のようなものだと教えられた。やることもないので、夜明は朱乃の作業が終わるまでぼへ〜っとしていた。

「夜明。ちょっとこっちに手を出してちょうだい」

少しして、リアスからそんな指示が出る。言われるがまま、夜明が左の掌を差し出すと、リアスは指で掌をなぞった。すると、掌が青白く輝き出したではないか。注意してみると、それが魔法陣だということが分かった。

「それは転移用の魔法陣を通って依頼者の下へ瞬間移動するためのものよ」

「契約が果たされると、自動的にここに戻ってこれるというオマケ付き。便利なもんだ」

茶化すような口調の太陽。準備が終わったのか、朱乃が魔法陣から離れる。すると、さっきまで薄っすらと弱々しい光を放っていた魔法陣が一際強く輝き始めた。

「魔法陣が依頼者に反応してるわ。これから依頼者の場所に飛ぶの。到着後のことは分かってるわよね?」

「大丈夫っす!」

元気良く返事をする。リアスは満足そうに頷きながら行ってらっしゃいと手を振る。光が加速度的に強くなっていく中、夜明は瞬間移動した後のことを考えていた。

(俺みたいな奴が出てきて、悪魔だって信じてくれるか? いや、俺悪魔じゃねぇし。契約を果たせるだけの力はあるってことを証明しないとな……よし!)

最大級の光が夜明を包み、依頼者の下へと瞬間移動させた。

「「「「「……」」」」」

さっきまで夜明が立っていた魔法陣の中央をリアス達は何ともいえない表情で見ていた。徐にリアスが額に手をあて、小さなため息を吐く。

「ねぇ、皆。私の気のせいかしら? 夜明ってば、あの翼を展開させて依頼者の下へ向かったように見えたんだけど」

「奇遇だな、私もそう見えた」

「私もです」

太陽に続き、朱乃が賛同する。困ったような笑みを浮かべながら木場は顎に手を当てた。

「あの状態なら確かに尋常ならざる力を持ってるって簡単に証明できるでしょうけど……」

「……悪魔の仲間だとは、思われないと思います……」

小猫の言葉に首を振れる者はこの場にいなかった。














「(人間だけど)悪魔グレモリー様の使い、ここに参上。俺を召喚したのはお前か?」

身体を包んでいる三対の翼を広げ、腕組みをしながら夜明は自分の召喚したであろう人物に声をかけた。痩躯の不健康そうな顔色の同い年くらいの男。男は本当に悪魔(実際は人間)が召喚されるとは思ってなかったらしく、腰を抜かしていた。己を見ながらあぅあぅ言ってる男が回復するのを待ちがてら夜明は周囲を見回す。場所は目の前にいる男の部屋と思われる。

(俗に言うヒッキーかこいつ?)

部屋が異常に暗い事や、窓に暗幕が垂れ下がっているのを見て夜明はそう判断した。視線を男に戻すと、男はようやく言葉を発した。

「て、天使?」

「いんや。正真正銘、悪魔の手先さ(人間だけどな)。んで、お前名前は? そこまで深い付き合いする心算なんざ欠片もないから苗字でいいぞ」

「こ、琴吹です」

「ん、了解。それじゃ琴吹、お前の願いを言ってくれ。代価はもらうが、必ず叶えて見せよう」

背中に展開させた翼を引っ込め、夜明はしゃがんで腰を抜かしている琴吹と視線の高さを合わせる。

「こ、この写真に写ってる連中を痛めつけて欲しいんだ」

ん〜、と唸りながら差し出された写真を受け取る。写真は三枚、写ってる奴はどれも髪を派手に染め、ピアスなどをつけていた。

「お〜お〜、如何にも背伸びしてますって感じの連中だな〜。どうでもいいけど、ピアスって痛くないのかね? 手前の身体に穴開けてわざわざ装飾具つける意味が分からん。ネックレスやブレスレッドで十分だろうが。そこん所どう思う?」

「……知らないよ。カツアゲなんてするような屑の考えなんて」

琴吹の一言で夜明は凡そ事情を把握した。頭をバリバリ掻きながら空いている手で悪魔専用の携帯機器を取り出し、ポチポチ操作する。

「ん〜。こいつらを痛めつけるんだろ……あぁ〜、可能っちゃ可能だ」

「本当!? そ、それで代価に何を差し出せば良いんですか!?」

余程、状況が切迫しているのか、琴吹は藁にも縋る勢いで夜明に顔を寄せる。携帯機器をしまいながら夜明は琴吹の目を真っ直ぐ見つめて答えた。

「お前の勇気」

今一ピンと来てないのか、琴吹が浮かべる表情は微妙だ。

「ま、つまりだ。俺がこの写真に写ってる、お前をカツアゲしている連中をボコボコにするのは至って簡単だ。お前の問題も今回(・・)だけは解決する」

でもな、と声を落として夜明は琴吹に顔を近づける。

「契約が果たされると同時にお前は勇気を失う。決断する勇気、何かを成し遂げるための一歩を踏み出す時、背中を押してくれるものをお前は永遠に失うってことだ」

「それってどういう……?」

「まぁ、表現するとこんな感じか。オメデトウッ! 一人じゃ何にも決められない、することができない人間の皮を被った操り人形(マリオネット)の誕生だよ! ハッピバースデェーッ!!!」

どこから取り出したのか、素早く着込んだ派手な色のジャケットを脱ぎ捨てる。

「ま、冗談はさてとしてだ。もうぶっちゃけるとお前はこれから先の人生、盆暗として生きるか生きないかの瀬戸際に立ってるってことだ」

未来を捨てて現状を打破するのか? それとも自力でどうにかするのか? 琴吹はそれを問われていた。項垂れる琴吹を夜明は無言で見下ろす。

「自力でどうにかしようとは思わなかったのか?」

「無理だよ。だってそいつ等、ボクシングやってるんだよ? 少しでも逆らったら殴られるに決まってる」

ま、こいつ等なら殴るだろうな、と夜明は写真を見て改めて納得する。

「殴られるのは怖いよな。それに痛いのだって嫌なはずだ。それは分かる……でも、だ!」

琴吹の胸倉を掴み、ゆっくりと持ち上げる。

「それはお前がこいつ等にカツアゲを許す理由にはならないはずだ。俺を呼び出したってことは相当の覚悟をしてたんだよな?」

夜明の問いに琴吹は無言で頷いた。どんだけ胡散臭くても、悪魔を呼ぶのだ。どんな要求をされるか分からない、それに契約をキチンと果たしてくれるのかも保証もない。それでも彼は悪魔を、夜明を呼び出したのだ。

「だったらその勇気を悪魔召喚にじゃなくてこの連中に向けてやれ。呼び出してこう言ってやれ。もうお前等に金を払う心算なんか無いってな。そして金輪際自分に拘わるなとも」

「でも、そんなこと言ったら」

「殴られるだろうな。じゃ、悪魔に勇気を渡してこれからの人生、ずっとビクビクして生きるか? それも嫌だろ。安心しろ、俺がケツ持ってやる」














結果だけ言うと、夜明の目論見は成功した。公園に三人を呼び出した琴吹はもうこれ以上金を渡さないと告げる。激昂した不良の一人にニ、三発殴られるも、不良達は去っていった。

「やれば出来るじゃねぇか」

近くで隠れて見てた夜明は尻餅をついている琴吹の頭をグリグリと撫でる。口元を流れる血を手の甲で拭いながら琴吹は不思議そうな顔をしていた。

「変だな。前はあんなに怖かったのに、さっきは全然怖くなかった。それに殴られたけどあんまり痛くなかったし」

「あんな連中の拳なんてそんなもんさ。これで問題は解決。俺は帰るぞ」

契約出来なかったよちっきしょ〜、とぼやく夜明を琴吹が呼び止める。何でぇ、と振り返る夜明に琴吹は恥ずかしそうにしながらもはっきりと伝えた。

「えっと、その、僕と契約して友達になってくれないかな?」

対し、夜明の返答は。

「契約なんかで友達なんか作るんじゃねぇよバッカ野朗。今日、あの三人と向かい合った時の勇気を思い出せ。その十分の一でも出して、部屋から出れば友達なんかすぐに出来るさ」

デコピン一発残し、夜明は振り返ることなく琴吹の前から去っていった。公園から十分離れたのを確認し、夜明は軽い準備運動を始める。

「さって。それじゃアフターサービスとでも洒落こむか」

翌日の朝。琴吹をカツアゲしていた不良三人が裸に剥かれ、電柱に吊るされた状態で見つかった。














「……」

翌日、夜明を呼び出したリアスは怒っていた。無言でも伝わってくる怒気。それを前にして、夜明は特に青ざめるでもなく欠伸を噛み殺した。

「それで夜明。契約はどうしたの?」

「別に悪魔と契約して果たすほどの内容でも無かったんで依頼者本人に解決させました」

バリバリ頭を掻きながらシャアシャアと言ってのける夜明。一瞬、リアスは目の前の銀髪銀眼を殴りたい衝動に駆られたが、そんなことをしても無駄だろうということは短い付き合いでながらも分かっていたので何もしなかった。

「はぁ……契約後、例のチラシに裏にアンケートを書いてもらうことになっているの。依頼者との方に『悪魔との契約はどうでしたか?』というのを聞くためにね」

そして、そのアンケート結果を表示される紙を夜明に見せるリアス。

「……『本当に感謝しています。彼のお陰で少しずつですが外に出られるようになりました。両親も喜んでいます。次は頑張って友達を作ろうと思います。彼には何度礼を言っても足りません。ありがとうございました』……だそうよ」

「……ど阿呆が」

恥ずかしそうに顔を染める夜明。顔を見せないように顔を背ける夜明を、リアス含め皆微笑ましく見ている。

「契約を取れなかったのは確かだけど、依頼者は喜んでくれた……夜明、貴方って本当に面白いわね。一緒にいて飽きないわ」

「褒め言葉として受け取っときまさぁ」

「でも、基本は守ってね。依頼者と契約を結び、願いを叶え、そして代価をもらう」

「うぃ〜っす。こんな駄目下僕ですが、今後ともよろしくお願いしますよ、我が主」

きっと今度もこの男は無償で依頼者の願いを叶えるんだろうな、と頭の片隅で思いながらリアスは仰々しくお辞儀する夜明を撫でるのだった。

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