小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『一人目の最強』




バルパーが右手に五本のエクスカリバーを統合させたものを、左手にデュランダルを握る。夜明と祐斗は聖魔剣を構え、バルパーへ突撃した。祐斗は『騎士(ナイト)』の特性であるスピードを爆発させ、夜明は三翼を力の限り羽ばたかせ、二人は凄まじい速さでバルパーへと斬りかかる。

ガギィン!!

けたたましい金属音を上げて二振りの聖魔剣が受け止められる。バルパーは祐斗の一撃をエクスカリバーで、夜明の一撃をデュランダルで防いでいた。

「ほぉ、大したものだな、その聖魔剣は。幾ら私が完全に扱いきれないとはいえ、五本を統合したエクスカリバー、そしてデュランダルと打ち合えるとは」

だが、とバルパーは二刀を振り抜く。祐斗は後ろへと弾き飛ばされるに留まったが、夜明はデュランダルで聖魔剣を溶けかけたバターのようにあっさりと切り裂かれた。軽く舌打ちし、夜明は真っ二つにされた聖魔剣を目晦ましに小さく爆発させる。

「夜明!」

「俺は大丈夫だ! それよりもバルパーに集中しろ!」

黒煙の中から飛び出した夜明の姿を認め、息を吐く祐斗にバルパーが打ちかかってきた。祐斗の聖魔剣もそのままバルパーの一撃で砕かれるかに思えたがそこは御本家、エクスカリバーとデュランダルの一撃に見事耐えてみせる。

「流石は聖と魔を内包した剣。そう簡単には砕けないか」

「祐斗、離れろぉ!!」

紅の魔槍、ゲイ・ボルグを創造しながら夜明は叫んだ。祐斗がバルパーから離れたのを確認し、夜明はゲイ・ボルグの投擲体勢に入る。穂先から不吉な魔力を揺らめかせるゲイ・ボルグを構え、夜明は力強く一歩を踏みしめた。

「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』!!!!」

夜明の手から放たれた魔槍は紅の雷となってバルパーへと喰らいつく。バルパーは二振りの聖剣を交差させ、音すら置いて飛んできたゲイ・ボルグを辛うじて受け止めた。『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』の恩恵だろう。

「防がれた!」

「いや、あれで良い」

叫ぶ祐斗に夜明は口角を持ち上げて見せる。疑問の表情を浮べる祐斗に、応えは数秒と経たずに示された。敵を撃ち貫かん、と唸りを上げていたゲイ・ボルグが炸裂弾よろしく爆発したのだ。紅い煙に覆われバルパーの姿は見えなくなる。夜明は再び聖魔剣を創造し、油断無く煙の中央を見据えながら祐斗の隣りに並んだ。

「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』。確か今のが本来の使い方だったな。失念していたよ」

煙の中から現れたバルパーは無傷とは言い難いが、致命傷を負っているという訳でもなかった。

「咄嗟に聖剣のオーラで身を護ったのか」

だろうな、と祐斗の呟きに夜明は相槌を打つ。二人に睨まれながらバルパーは聖剣二本を頭上に振り上げた。

「さて。では今度はこちらの力を見せるとしよう」

聖剣の刀身がオーラで覆われる。無造作に振り下ろされると、バルパーの足下にあった地面がそっくり吹き飛んだ。飛んでくる衝撃の余波から腕で顔を庇いながら夜明は引き攣った笑みを浮かべる。

「威力だけはとんでもねぇなおい」

「何時までそんな軽口を叩いていられるかね?」

バルパーがデュランダルを振るう。校庭をごっそりと吹き飛ばしたあの一撃が閃光となって夜明に迫ってくる。咄嗟に夜明は目の前に『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』を張ったが、デュランダルの一撃は一瞬で七枚の花弁を粉砕した。

「ぐぉ!!」

辛うじて聖魔剣で防いだが、夜明は大きく後ろへと吹き飛ばされた。ゴロゴロと転がっていく夜明を見て、バルパーは大口を開いて哄笑する。

「はっはっは!! この程度か英雄龍!? 所詮はただの空飛びトカゲか。貴様など私の、聖剣の前では無力よ!!」

「がたがたうるせぇんだよ!!」

祐斗ぉ!! と夜明は聖魔剣を祐斗に投げ渡した。既にバルパーへと肉薄していた祐斗は一撃を叩き込んでから、後ろを見ずに夜明が投げた聖魔剣を受け取る。そこから祐斗の怒涛の攻撃が始まった。祐斗は髪が振り乱れるのも構わず、聖魔剣二刀流でバルパーを追い詰めていく。最初は余裕の表情を浮べていたバルパーだが、エクスカリバー、そしてデュランダルと対等に打ち合う祐斗に焦りの色を強くしていく。

「何故だ、何故聖魔剣は砕けない!?」

「決まってるでしょう。貴方が騎士ではないからだ!!」

自身が聖剣を使えるようになるために研究、実験を繰り返してきたバルパー。対し、祐斗は悪魔に転生してからの期間、リアスの『騎士(ナイト)』として今までを戦い抜いてきた。剣の技量はどちらが上かなんて、論ずるまでも無いだろう。

「くっ……失敗作風情がぁぁぁぁ!!!!」

バルパーの叫びに呼応するように聖剣がオーラを増す。危機を感じた祐斗は後ろへと下がるが、バルパーが追いすがってきた。祐斗を兇刃にかけようとするが、間に割り込んできた夜明が聖剣を片腕で防いだ。

「なっ!? がふぅ!!」

驚きで動きを止めたバルパーの腹部に夜明の痛烈な蹴りが打ち込まれた。吹き飛び、地面の上で苦しそうに呻いているバルパーから目を離さずに夜明は具足に包まれた右足を下ろす。

「思ったとおり、聖なるオーラに近しい属性を持っている武具ならある程度は防げるみたいだな……祐斗」

『猛き極光(べオウルフ)』を装備させた拳をぶつけ合わせながら夜明は祐斗を振り返る。

「何だい?」

「俺が『猛き極光(べオウルフ)』で光の壁を作って目晦ましする。その瞬間を狙え」

夜明の提案に祐斗は僅かに驚きの声を上げる。それもそのはず、そんなことをすれば転生悪魔である祐斗は光に焼かれて大怪我、最悪消滅してしまうかもしれない。そんなことは夜明も承知している。その上で、彼は祐斗に言った。

「俺を信じろ」

「……分かった。ここまで付き合ってくれたんだ、君を信じるよ、相棒」

二人は軽く拳をぶつけ合わせる。祐斗が背後に控えたのを確認し、夜明は右拳を地面に打ち付けるように構えた。二人の視線の先でバルパーが立ち上がる。

「行くぞ、祐斗ぉ!!」

「あぁ!!」

夜明は眩い輝きを放つ『猛き極光(べオウルフ)』を地面に叩き付けた。刹那、彼の周囲に莫大な光の壁が生まれ、バルパーの視界を奪った。そして祐斗は目の前に立ち上がった光の壁へ、躊躇無く飛び込む。

「……イド・フェザー」

光の中へと飛び込む直前、祐斗は夜明の声を聞いた気がした。同時に全身を何かに覆われるような感覚を味わう。目も眩むような輝きに刺激され、目から涙が滲み出てくる。しかし、光に焼かれる痛みは感じない。祐斗はそのまま光を突っ切り、バルパーの前へと躍り出た。

「っ!?」

「これで終わりだ、バルパー・ガリレイ!!」

固まるバルパーの手に握られたエクスカリバーの刀身に聖魔剣が食い込む。そして、

バギィン……。

儚い金属音と共にエクスカリバーは砕け散った。信じられない、と表情に浮べるバルパー。

「見ててくれたかい? 僕達の力はエクスカリバーを超えたよ」

全身を包む漆黒の甲冑が霧散していくのを意に介さず、祐斗は聖魔剣でバルパーの首を斬り飛ばした。














どちゃっ、と倒れたバルパー。頭を失っても聖剣への執念は尽きないのか、両手は砕けたエクスカリバー、そしてデュランダルの柄をしっかりと握っている。

「その執念、もそっと別のもんに向けられなかったのかねぇ」

そうすりゃ、追放なんてされずに済んだろうに、と呆れの中に憐憫のようなものを含ませながら夜明はバルパーの手からデュランダルをもぎ取った。すたすたと歩いていき、アーシアに回復してもらったゼノヴィアへ、ほれとデュランダルを手渡す。

「す、すまない」

「気にすんな。さって、後は……」

あいつだけだ、と全員の視線が夜空に浮かぶコカビエルへと集まった。コカビエルは賞賛するかのような視線を夜明に向けている。他の者など眼中にない、と言わんばかりに。

「今のは英雄龍の力の一つ、『英雄龍の羽(アンリミテッド・ブレイド・フェザー)』だな? その力を以って『猛き極光(べオウルフ)』を鎧化させ、聖魔剣使いに与えた……そんな使い方もできるのか」

面白い、面白い、とコカビエルは何度も呟く。そしてにんまりと笑みを浮かべ、夜明を指差した。

「よし、英雄龍。俺と一対一で戦え」

コカビエルの言葉に全員が驚愕した。当の本人である夜明もこんなことを言われると思ってなかったようで、面食らった顔を作っている。全員の驚きに構わずにコカビエルは言葉を続けた。

「ルシファーの妹、聖魔剣使いにデュランダル。中々錚錚たる面子だが、如何せん俺と戦うには弱すぎる。そんな雑魚相手にちまちまと戦っているよりも、お前とじっくり戦ったほうが面白そう」

「ふざけないで!!」

「私達を無視して話を進めないで下さい!」

コカビエルが話している途中だが、激昂したリアスと朱乃がそれぞれ滅びの魔力と雷を放つ。コカビエルは面倒そうに翼を羽ばたかせると、両名の攻撃はいとも容易く掻き消された。

「邪魔をしてくれるなよ魔王の妹にバラキエルの血を引く者よ」

「……私をあの者と一緒にするな!」

静かだが、確かな怒りを込めて朱乃は言い放つ。そんなことはどうでもいい、とコカビエルは再び夜明に向き直った。

「どうだ、英雄龍? もしお前が俺と一対一で戦うというなら、俺はお前以外の奴を手にかけないことを約束しよう」

「信用できるわけが無いだろ!!」

夜明の心中を代弁して祐斗が前へ飛び出す。ゼノヴィアもデュランダルを握り締め、コカビエルへと切りかかった。しかし、放たれた衝撃波でなす術なく二人は吹き飛ばされた。

「鬱陶しいなぁ。羽虫だってもう少し煩わしくないぞ」

しかし、とコカビエルは嘲りとも感心ともつかない笑みを浮かべて一行を見下ろす。

「仕えるべき主を失ってまでお前達信者、悪魔はよく戦う」














〜原作と同じなので割愛するよ!〜














「成る程、祐斗が聖魔剣を創れたのも、神と魔王のバランスが崩れたからか」

コカビエルの話を聞き、それぞれが絶望の表情を浮べる中、夜明は納得顔で頷く。特に取り乱すでもない夜明を、コカビエルはやはり興味深そうに見ていた。

「その通りだ。しかし意外だな英雄龍。お前はそこまで驚いてないようだな? もしや貴様、神の死すら予見していたか?」

コカビエルの問いに夜明はまさか、と鼻で笑いながら返した。

「んなこと知ってる訳ねぇだろ。こちとら、ちょっと前まではただの人間だったんだぜ? ま、強いて言うなら、俺にとっちゃ神なんてそこらに転がってる石ころよりも価値が無い存在だからだろうな」

月光夜明は神を信仰した事が無い。まして縋った事も無い。前四大魔王に関しては既にリアス、太陽から話を聞かされている。

「神も魔王も関係ない。俺がお前に刃を向ける理由はただ一つ。お前は俺の仲間を傷つけようとしている」

月光夜明が剣を取る理由はそれで十二分だ。夜明の言葉にコカビエルは嬉々とした表情を作った。

「それは俺との一対一での戦いを了承したと受け取っていいんだな?」

「あぁ。部長、こいつとは一対一(サシ)でやらして下さい。つうか、下手に大勢で戦うよりもそっちの方がいけます」

眷属達が口々に無理だ、早まるなと夜明を諌める。その言葉は届いておらぬようで、夜明は無言でリアスの反応を待った。長い長い沈黙(実際は十秒程度だろうが)の後、リアスは一言だけ訊ねる。

「……やれるのね?」

「リアス・グレモリー眷属の誇りにかけて」

夜明の返答を聞き、リアスは無言でGOサインを出した。リアス! と朱乃に名前を呼ばれたが、リアスは片手を上げてそれを制する。思い出すのはかつてブレイズハートに言われた『王(キング)』の勤め。

『眷族を信じる』

『誰よりも気高くある』

月光夜明は勝つと言った。ならば主であるリアス・グレモリーは彼の凱旋を信じるのみ。リアス、仲間達、ゼノヴィアの視線を背に感じながら夜明は三翼を広げる。

(奏者よ。グレモリーに大見得切ったはいいが、どうするつもりなのだ? 正直言って、一対一では些か厳しいぞ)

(分かってるよんなこたぁ)

でも、と夜明は続ける。

(俺の中でお前とくっちゃべってる奴の協力があれば話は別だろ、ブレイズハート?)

〔……驚いたなぁ、何時から私に気付いてたのさ?〕

(二、三日位前だな。時々、ブレイズハートが押し黙ることがあったからな。その時から妙な感じはしてたんだ)

ブレイズハートはかなりのお喋りだ。それも、極度の構ってちゃん。そんなブレイズハートが黙る理由など、少ししか思いつかない。

(消去法で行きついたのが、俺以前の歴代英雄龍と話しこんでる、だったんだが……ドンピシャだったみたいだな)

んで、力貸してくれんのか? 夜明の問いに内なる謎の声はう〜んと悩んだ末、

〔オッケィ。本当はコカビエルを倒したら力を貸してあげるつもりだったけど、お試しキャンペーンとして力を貸してあげるよん。そう言う訳でちょっとごめんよブレイズハート〕

(ぬぉぉ!? 余を押し退けるな〜……)

フェードアウトしていくブレイズハートの声。代わりに今まで見たことの無い人物が夜明の傍らに現れた。ちみっこであるブレイズハートとは対照的にスラっとした長身に長髪。美少女と呼んで差し支えの無い顔立ちだ。驚いている仲間達を尻目に夜明は問う。

「んで、名前は?」

「アトラス・I(イリス)・エジソン。エジソンで良いよん♪」

そう言って彼女、歴代英雄龍最強の一人、エジソンはにっと悪戯っぽく笑いながら眼鏡のブリッジを押し上げた。



















アトラス・I(イリス)・エジソン。分かっていると思いますが、オリジナルキャラです。イメージ的には『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』に出てくる真希波・マリ・イラストリアスですかね。

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