小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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             『動き出した世界』




「……手前、どういうつもりだ? いきなり戦闘に介入してきてよぉ。そいつの仲間か?」

実際はそうでもないが、多少不機嫌になりながら夜明は白い龍(バニシング・ドラゴン)の背後にいるコカビエルをエクスカリバーの切っ先で示した。

「……」

何の返事もせず、白い龍(バニシング・ドラゴン)はコカビエルへと向き直った。全身鎧(プレートアーマー)姿の白い龍(バニシング・ドラゴン)にコカビエルは忌々しそうに舌打ちする。

「『神滅具(ロンギヌス)』の一つ、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイング)』……鎧と化しているということは、既に禁手(バランス・ブレイカー)の『白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイング・スケイルメイル)』か。『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』同様、忌々しい限りだ」

禁手(バランス・ブレイカー)を発動させた白い龍(バニシング・ドラゴン)。夜明は無言で白龍皇の後ろ姿を見ていた。

「英雄に惹かれて現れたか『白い龍(バニシング・ドラゴン)』。邪魔立ては」

言い終える前にコカビエルの翼の一枚が消えていた。刹那、傷口から鮮血が噴き出す。

「薄汚いな。まるでカラスの羽だ。アザゼルの翼はもっと薄暗い、常闇のような黒だったぞ?」

引き裂いたコカビエルの翼を放り投げ、白龍皇は小さく笑みを零した。翼をもがれた事にコカビエルが血相を変えて怒り狂うが、白龍皇はただ全身から余裕のオーラを漂わせるだけ。激昂したコカビエルはさっき夜明にそうしたように無数の光の槍を生み出して、その全ての穂先を白龍皇ヘと向ける。

「我が名はアルビオン」

『Divide!!』

音声が聞こえると同時にコカビエルから放たれていたオーラが一気に半減した。光の槍も数を半分にまで減らしている。

「我が神器(セイグリッド・ギア)、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイング)』の能力の一つ。触れた者の力を十秒ごとに半減させ、我が力の糧とする。時間が無いぞ、コカビエル。このまま時間が過ぎていけば、お前は俺は勿論英雄龍、そしてそこの連中にすら勝てなくなるぞ?」

「はっ、成る程。それで俺がぶっ放した『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の威力を減衰させたって訳か」

不意に夜明は足をふらつかせ、その場に尻餅をつく。エジソンから受け取った力、『新しき時代(ネクスト・ジェネレーション)』で創り出した『熾天を刺し貫く円環の花槍(ローアイ・ボルグ)』。そして最強の聖剣、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。それらを創造した夜明の体力は当の昔に限界を超えていた。慌てて駆け寄ってくるアーシアに大丈夫だ、と片手を挙げて見せながら夜明は顔を持ち上げる。視線の先では堕天使の幹部、コカビエルが白龍皇に弄ばれていた。

「あれが白龍皇、か……」

かつての戦争で赤龍帝と争った二天龍の片割れ。英雄龍に打ち倒された因縁の相手。それを目の前にして、夜明は妙に感慨深い感情を胸中に抱いていた。

「何時かそう遠くない将来、あいつと戦う日が来るんだろうな」

(そして赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)ともな)

二天龍の争いを止める。それが英雄龍の役割なのだから。勝敗はすぐに決した。コカビエル、堕天使の幹部は白龍皇の力の前になす術も無く沈黙した。顔面に一撃を加えられ、ぐったりと動かなくなったコカビエルを白龍皇が抱え上げる。

「さて、フリードも回収しなければな。聞きださないといけないこともあるし……」

倒れているフリードの下に足を運び、白龍皇はコカビエル同様にフリードを担いだ。それから彼は夜明へと視線を向けた。

「悪かったな、勝負の邪魔をしてしまって」

「……そう思うんだったら最初っから割り込んでくるんじゃねぇっての」

こちとら、これで格好良く決めるつもりだったのによぉ、と悪態を吐きながら夜明は黄金の剣を放り投げる。地面に突き刺さった最強の聖剣は数秒としない内に粒子となって夜空へと昇っていった。

『久しいな、白いの』

その時、夜明の方から可愛らしい声が聞こえてきた。発生源は彼の背にある三対の翼だった。微かな燐光を帯びながら三翼はゆっくりと上下に動く。

『そういうお前はまたその様なふざけたなりをしているのか、英雄の?』

白龍皇の鎧にある宝玉も光を放ち始めた。

『ふざけたとは何だ!! 奏者と同じ人の形になって何が悪い! それにあんな鱗だらけの姿よりもこちらの方が断然に美しいではないか!!』

ドラゴンの見た目を完全否定する英雄龍殿。こんなのがかの二天龍を止めたのかと思うと、眩暈がする心境だ。この場で唯一彼女に突っ込めそうな存在である夜明も、力なくため息を吐いている。

『相変わらずだなお前は。その所有者への異常なまでの愛着は俺や赤いのには理解出来ん。それにしても奏者か。今代の所有者には随分と肩入れしているみたいだな、英雄の?』

『そういう貴様こそ、以前とは比べ物にならないほど敵意が薄いではないか。貴様も戦い以外への興味対象が出来たか、白いの?』

『まぁ、そういうことだ。ドライグもドライグなりに楽しんでいるようだぞ』

『ほぉ、あの力の塊がかぁ……それも一興、だな。ではまた会おう、アルビオン』

『じゃあな、ブレイズハート』

ドラゴン同士の会話が終わり、二人を担いだ白龍皇は閃光と化して飛び立っていった。漆黒の夜空に白い鎧というのは非常に目立つが、すぐに見えなくなってしまう。ふと、夜明は隣に立つエジソンを見やった。かつての敵と重ねているのか、白龍皇の後ろ姿を見送るその横顔はどこか感慨深いものがあった。

「なぁ、エジソン。今の俺とあいつ、どっちが強い?」

「白龍皇の方に決まってるじゃん。向こうが禁手(バランス・ブレイク)に至ってるのが何よりの証拠でしょ?」

だよなぁ、と夜明はその場に仰向けになる。正直言って、目を開けている事すら億劫だ。ゆっくりと閉じていく視界にエジソンの顔がアップで映った。

「大丈夫。君もすぐに強くなっていくよ。殺人的な速さでね」

〔ま、私達がそうさせるんだけどね♪〕

溶けるように夜明の身体の中へと消えていくエジソンの声は楽しげである。お手柔らかに、と苦笑を浮かべながら夜明はそのまま暗闇へと意識を委ねた。

(強く、なんないとなぁ……)

そんなことを思いながら。














コカビエル襲撃事件から数日後。放課後に部室へと顔を出した夜明とアーシアはソファーに座っている先客の顔に驚いた。

「やぁ、英雄龍」

緑のメッシュを入れた青髪の聖剣使い、ゼノヴィアが駒王学園の制服を着てどうどうと部室の中にいた。夜明はアーシアを背に庇うように前へ一歩踏み出し、銀翼を創造してゼノヴィアへと突きつける。

「何でお前がここにいんだよ聖剣使い? まさか、まだアーシアをぶった斬ろうなんて考えてんじゃねぇだろうな?」

ドスの利いた夜明の問いに答える代わりにゼノヴィアは背中から黒い翼を生やして見せた。それは紛れも無く悪魔のもの。それが意味する事を理解した夜明はリアスへと視線を向ける。

「どういうつもりですか部長? こんな聖剣使いを眷属に迎え入れるなんて?」

「まぁ、デュランダル使いが眷属というのも頼もしいじゃない。これで祐斗とともに剣士の二翼が誕生したわね」

どこか楽しげなリアス。器が大きいというべきなのか、豪胆と言うべきなのか。言葉が見つからず、毒気が抜かれた夜明は銀翼を消し、視線でゼノヴィアに説明を求める。

「神がいないと知って破れかぶれになってしまってね。それで悪魔に転生した。あぁ、『騎士(ナイト)』の駒は一つで済んだよ。デュランダルはともかく、私はそこまで凄くないみたいだ。で、この学園に転入させてもらう事になった。今日から高校二年生。同級生のオカルト研究部所属だ。よろしくね、夜明くん♪」

「……」

「無言で一歩引くのはやめてくれないか? 流石の私でも傷つく」

知るか、と夜明は吐き捨てる。

「にしてもお前が眷属(なかま)になんのか……胸糞悪い」

「……覚悟はしてたが、私は君に歓迎されていないようだな」

当たり前だろうが、と夜明は歯を剥きだしにして唸る。彼女がアーシアへ刃を向け、自分達に斬られろといったことを夜明は忘れていなかった。ふん、と鼻を鳴らし、夜明は部室から出て行く。

「ごめんなさいね。あの子、凄く仲間想いだから」

「いや、良いんだ。信頼はこれから勝ち取っていく……」

そんな会話が部室から聞こえてきたような気がした。夜明はもう一度鼻を鳴らすと、屋上で昼寝しようと廊下を歩いていく。途中、三角頭巾にエプロン。そしてはたきと雑巾を装備した祐斗と出くわした。

「ん、やぁ夜明。もう彼女とは面通りを済ませたのかい?」

彼女が誰を意味するかは容易に理解できるので、夜明はただ黙って頷く。ちなみにこの二人、コカビエル襲撃から互いを呼び捨てで呼び合うようになっていた。勝手に動いた罰として、祐斗はリアスから旧校舎の大掃除を言いつけられていた。

「あぁ、そうそう。今回のことは堕天使の総督、アザゼルから直々に神側と悪魔側に真相が伝えられたそうだよ。エクスカリバー強奪はコカビエルの独断で、他の幹部たちは一切関わっていないって」

そしてコカビエルは神、悪魔、堕天使三竦みの状態を崩し、再び戦争を起こした罪により『地獄の最下層(コキュートス)』での永久冷凍の刑に処されたらしい。掃除の手伝いをしながら夜明は祐斗の話に相槌を打つ。

「んで、近い内に神、悪魔、堕天使の代表が集まって会談を開くんだよな? しかも今回の一件に関わってるから、その報告のために俺達も出席しなきゃならんらしいし……どうでもいいが、神側って誰が出てくるんだ? トップである神はとっくの昔に死んぢまってんだろ?」

「多分、ミカエル様辺りが出てくるんじゃないかな」

ふ〜ん、と頷きながら夜明は廊下に雑巾掛けする。頭の中には先日見えた白龍皇の姿がこびり付いていた。完全な禁手(バランスブレイカー)を会得した夜明の、英雄龍の宿敵。現時点では夜明の方が圧倒的に弱いのは火を見るよりも明らかだった。

「白龍皇がコカビエルとフリードを回収してたってことは」

「うん。彼は『神の子を見張る者(グリゴリ)』の一人だと思うよ。ゼノヴィアから聞いたんだけど、アザゼルは世界中から『神滅具(ロンギヌス)』の所有者を集めているんだって。その中でもトップクラスの実力を持っているのが」

「白龍皇(あいつ)って訳か……」

前途多難だな、と肩を竦める夜明に祐斗はだね、と同意の苦笑を浮かべる。まぁ、どんな困難が目の前にあろうと、リアス・グレモリーの『兵士(ポーン)』と『騎士(ナイト)』のやることに変りは無い。ただ、主を護り、道を切り開く。二人は無言で拳を突き出しあい、互いの誓いを再確認するように軽くぶつけ合わせた。














「あぁ〜、結局何も分からなかったな。少し雑魚連中に執着しすぎたな」

「そうねぇ。オマケに肝心のコカビエルは入れ違いに白龍皇ちゃんに回収されちゃったみたいだし……踏んだり蹴ったりねぇ」

「ま、私達は無駄骨だったな、私達は……ウォルター」

「ここに」

「……何時も思うんだけど、ウォルターさんってどこにいるの? 周りに気配は無いのに太陽が呼べばどこでも一瞬で現れるし」

「執事の嗜みでございますよ、クレア嬢」

「私、何でウォルターさんが執事をやってるのか分からない」

「まぁ、そこは置いとけ。それでウォルター、コカビエルを手引きした組織に関して何が分かった?」

「人数。及び要注意しなければならない人物達」

「……どうやって調べたのかは突っ込まないぞ。お前にそれを聞いてたら確実に日が暮れる。どれどれ……人数は千人。赤龍帝が身を置いているのは確実か。それに……うへぇ、とんでもねぇ面子だなこりゃ」

「本当ねぇ。赤龍帝に加えて魔拳士『李書分』。それに鬼頭領『酒呑童子』」

「オマケに『炎翼大魔の心臓(ヴァルログ・ムルシエラゴ)』と『皇鮫后(ティブロン)』の所有者までいるのか。『神滅具(ロンギヌス)』じゃないとはいえ、どっちも戦闘能力めっちゃ高いぞ」

「その事なのですがお嬢様。『炎翼大魔の心臓(ヴァルログ・ムルシエラゴ)』と『皇鮫后(ティブロン)』を宿した二人はどちらも旧魔族の血筋の方と思われます」

「……何なんだ、この組織は?」

「分かりません。ただ、名前だけは調べました。その者達は自分達のことをこう名乗っているようです」

『ミレニアム』

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