小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

            『絶世の名剣と英雄龍の和解』




コカビエル襲撃事件を経て、リアス・グレモリーの眷属に新しい仲間が加わった。『絶世の名剣』と謳われた聖剣デュランダルの使い手にして元カトリック信徒。名をゼノヴィアという。与えられた駒は『騎士(ナイト)』だ。元々、眷族にいた祐斗が禁手(バランス・ブレイカー)の聖魔剣に目覚めたのに加え、デュランダルの使い手であるゼノヴィアが加わった事でグレモリー眷属は一回り強くなったと言える。

「……」

しかし、ゼノヴィアが仲間になったのをを良しと思わない眷族が一人いた。『兵士(ポーン)』、月光夜明だ。夜明はゼノヴィアのことを欠片ほども信用していなかった。常時敵意剥きだし、彼女が話しかけてもつっけんどんな反応しかしない。

「太陽、何とかならないかしら?」

彼らの主、リアス・グレモリーは困り顔で眷属であり、断金の友である太陽に相談した。ん〜、と軽く唸りながら太陽は頭を掻く。

「何とかって言われてもなぁ……正直、私が夜明(あいつ)でお前がアーシアの立場だったら、私はゼノヴィアのことを問答無用でぶち殺してるぞ?」

眷属になった事なんて関係無くな、と太陽は長い脚を組みかえる。ちなみにゼノヴィアは夜明以外の眷属には普通に受け入れられていた。特にアーシアは『魔女』呼ばわりされたにも拘わらず、異国の文化に四苦八苦するゼノヴィアに色々と教えていた。

「ファーストコンタクトが最悪だったからな、夜明とゼノヴィア」

「そうよねぇ……それに夜明(あのこ)、仲間に対しては絶大な信頼を寄せてるし」

そういう手合いから信頼を得るのは非常に難しい。元々敵対に近い関係だったのだから尚更だ。

「こればっかりはゼノヴィアに頑張ってもらうしかないだろ。信頼ってのは一朝一夕で生まれるものでもなし。まして言葉で紡げるほど安っぽくも無い」

口よりも行動で己を示すゼノヴィアなら尚の事だ。しかし、二人が面を合わせるたびにギスギスとした空気を作られるのも鬱陶しい。何か良案は無いかと考えていた太陽は徐に立ち上がった。

「仕様が無い、私が一肌脱ぐか。おい、リア。多少荒っぽくなるが、私に任せてもらっても良いか?」

「えぇ、お願いしてもいいかしら?」

「オーライ、任せとけ我が主。たしか、はぐれ悪魔討伐の任を出してる大公がいたよな……」

ぶつぶつと呟きながら太陽は動き始めた。














「んじゃ、これからはぐれ悪魔討伐に向かうぞ」

鬱蒼と茂った森の中、太陽は目の前に立つ三人、夜明、アーシア、ゼノヴィアにそう告げた。

「……」

「……」

「が、頑張りましょうね夜明さん、ゼノヴィアさん!!」

むっつりと黙っている夜明。ゼノヴィアが何回か視線を送っているが、全て無視している。何度目かのアイコンタクトをスルーされ、ゼノヴィアは力なく肩を落とす。暗い雰囲気を吹き飛ばそうとアーシアが努めて元気な声を出すが、物の見事に空回りしている。薄暗い森の陰気な雰囲気もその場の空気に嫌な拍車を掛けていた。

「(何もそこまで露骨に無視してやらんでもいいだろ)……はぁ。今回確認されてるはぐれは三体。この森に潜んで、人間を襲っている事が確認されている。どれも危険な奴等だが、私達が遅れを取るほどではない。三手に別れて行動するぞ」

太陽、夜明は単独行動。ゼノヴィアとアーシアはペアではぐれ悪魔を捜索することになった。ぎょっとする夜明を無視し、太陽はゼノヴィアに目を向ける。

「これから別れて行動する訳だがゼノヴィア。私がお前とアーシアを組ませた意味、解るよな?」

太陽の言葉にゼノヴィアは真剣な表情で頷く。アーシアと組ませる、それは太陽からゼノヴィアに対しての信頼の現われだった。満足そうに笑みながら太陽は二人を送り出す。

「頑張りましょうね、ゼノヴィアさん」

「あぁ。君には傷一つつけさせやしないよ、アーシア」

森の奥へと進んでいく二人の後ろ姿を見送ってから太陽は夜明と向き直る。

「太陽。お前、どういうつもりだ?」

怒気を隠そうともせず、夜明は太陽に噛み付くように訊ねた。太陽は額に手をやりながらため息を吐く。

「夜明、お前はいい加減ゼノヴィアのことを認めてやれ」

「あいつは元々神の信徒だったんだぞ!?」

「でも、今は悪魔であり、私達の眷属(なかま)だ」

どうだか、と夜明は鼻で笑う。

「存外、部長の眷属になったのも、悪魔を内側から瓦解させるためかもしれないぜ?」

「夜明。お前、彼女がそんな狡猾な事のできる奴に見えるか?」

太陽の静かな問いに夜明は押し黙った。夜明の相手を見極める目が完全に曇っていない事に安堵しつつ、太陽は諭すように夜明と視線を合わせる。

「夜明、お前の気持ちも解らなくもない。家族同然のアーシアを斬ろうとしたゼノヴィアに怒るのも理解できるさ。でも、お前の信頼を得ようと努力しているゼノヴィアの気持ちくらいは汲んでやれ」

ポンポン、と夜明の頭を軽く叩いて太陽ははぐれ悪魔を探すために森の深部へと踏み込んでいった。太陽が行ってから数分、夜明は何か考え込んでいたが、すぐに自分も森へと入った。














「これで、終わりだ!!」

デュランダルの一撃を胸に受け、はぐれ悪魔は煙を噴き出しながら消滅していった。デュランダルを油断無く構えていたゼノヴィアははぐれ悪魔が完全に消滅したのを確認してから肩の力を抜いた。

「お、終わったんですか?」

近くの木陰に隠れていたアーシアが顔を出す。ゼノヴィアはデュランダルを異空間へとしまい、アーシアに歩み寄った。

「あぁ。太陽が危険と言うだけあってかなり強かったが、まぁ問題はないさ」

「そうですか。ゼノヴィアさんが無事で良かったです……あ、ゼノヴィアさん、腕が」

アーシアはゼノヴィアの右腕に掠り傷があることに気付く。はぐれ悪魔との戦闘で出来たものだろう。大した傷でもなかったので、ゼノヴィアは放っておけば治ると言おうとしたが、それよりも早くアーシアが『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で傷を治した。

「これで治りました」

にっこりと笑うアーシア。ゼノヴィアはありがとう、とお礼の言葉を口にしようとしたが、何を思ったのか表情を曇らせる。

「? どうしたんですか?」

「いや、君は優しいな、と思ったんだ。自分のことを『魔女』と蔑み、あまつさえ斬られろと言った相手を受け入れてくれて、その上こんな小さな傷の治療までやってくれるのだからな。ふっ、斬られるべきなのは君じゃなくて私なんだろうな……」

自嘲の笑みを浮かべるゼノヴィア。アーシアはどうにかフォローしようとするが、言葉が見つからずオロオロしていた。このように、ゼノヴィアは時折自嘲してはそのまま深みに嵌っていくという妙な癖を持っていた。

「本来なら英雄龍のような態度を取られるのが普通なんだろうが……」

「……」

悲しげにため息を吐くゼノヴィアにアーシアはかける言葉を持っていなかった。自分のために怒ってくれるのは嬉しいのだが、かといってゼノヴィアをここまで邪険に扱わなくても良いんじゃないかとも思う。

(これが終わったら、夜明さんにゼノヴィアさんのことを許してくれるよう話してみよう)

アーシアが心中でそんなことを考えていると、暗いオーラを纏っていたゼノヴィアの表情が厳しくなった。異空間にしまっておいたデュランダルを素早く取り出し、アーシアを庇うように立つ。

「ぜ、ゼノヴィアさん?」

「静かにしろアーシア。この気配、悪魔祓い(エクソシスト)か」

それもはぐれではない、正規の。数は五、六人ほどだ。デュランダルを構えて待つこと数分、木々の間から修道服を纏った男達が現れた。手には刀身を持たない柄と拳銃を握っている。

(彼らもはぐれ悪魔討伐に来ているのか?)

だとすれば、下手に事を荒立てる必要も無いとゼノヴィアはデュランダルを異空間に戻した。だが、悪魔祓い(エクソシスト)達はそれぞれの拳銃を二人へと向けた。柄からも光の刃を出現させ、臨戦態勢に入っている。ぎょっとするゼノヴィアに悪魔祓い(エクソシスト)の一人が侮蔑と憎しみ、怒りを込めた視線をぶつけた。

「はぐれ悪魔がいるという報告を聞いて来てみれば……まさか貴様だったとはな、ゼノヴィア!! その後ろにいるのは『魔女』のアーシア・アルジェントか。異端者揃って悪魔に堕ち、その上人を襲っていたなんて……」 

「(まさか私達をはぐれ悪魔と勘違いしているのか!?)待て! 確かに私達は悪魔になったが、はぐれでは」

「黙れ!! 魔に魅入られ、神から背いた異端の徒め!! まだ神を信じる気持ちが少しでもあるのなら我々に斬られろ!!」

「っ!! 走れ、アーシア!!」

かつて、アーシアに言い放った言葉の刃が自分の胸を貫く。胸がずきずきするような錯覚を覚えながらゼノヴィアはアーシアの背中を押した。逃げるな! という叫びと一緒に祓魔弾が飛んでくる。ゼノヴィアは自分の身を盾にしてアーシアを護り、デュランダルで祓魔弾を防いだ。

(デュランダルで彼らを振り払うか!? いや、それは……!)

走りながらゼノヴィアはこのまま逃げるか、それとも取って返して追ってくる悪魔祓い(エクソシスト)に応戦するかで悩んでいた。幾ら悪魔になったとはいえ、追いかけてくる彼らはかつての仲間だ。その彼らに刃を向けるのは剛毅な彼女でも憚られた。そんなことを考えてる内に一発の祓魔弾がゼノヴィアの脚を撃ち抜いた。

「ゼノヴィアさん!」

「馬鹿、足を止めるな!!」

振り返ったアーシアの目の前でゼノヴィアは複数の祓魔弾で何箇所か撃たれた。デュランダルを落とし、その場に倒れたゼノヴィアにアーシアは悲鳴に近い声を上げて駆け寄る。そのすぐ後ろには光刃を構えた悪魔祓い(エクソシスト)達。

「神の名の下に断罪されろ!!」

先頭の悪魔祓い(エクソシスト)が光の剣を振り下ろそうとしたその時、天から閃光が飛来し、悪魔祓い(エクソシスト)を阻むように突き立った。そのまま何かは爆発し、爆風で舞い上がった粉塵が周囲に満ちる。砂塵が晴れた頃には既にアーシアとゼノヴィアの姿はなかった。

「くそ、まだ遠くには行って無い筈だ。探せ!!」














「ったく、無茶しやがる」

やれやれ、と夜明は両脇に抱えていたアーシアとゼノヴィアをそっと地面に降ろした。ゼノヴィアは身体の複数個所から血を流している。夜明は僅かに眉根を寄せて近くの木の幹にゼノヴィアを凭れさせた。

「すぐ治して」

「いや、後にしたほうが良い。もし祓魔弾が体内にあるまま怪我を治したらそれこそ大惨事だ」

自身の服を引き裂き、包帯代わりにゼノヴィアの傷口を塞ぎながら夜明はしかし、と呟く。

「いくら悪魔になったとはいえ、仲間だった奴をこうも簡単に殺そうとするなんて、信徒ってのはイカれてるな」

夜明の毒舌にゼノヴィアは激痛に顔を歪めながら苦笑いを浮べる。

「仕方ないさ。彼らにとって、私達はもう滅するべき悪魔なんだから。斬ることに躊躇いなんてあるはずが無い」

「ふぅん、昨日の隣人は今日の怨敵って訳か。嫌だねぇ」

深々とため息を吐きながら夜明は肩を竦める。苦笑を漏らすゼノヴィアの顔にふと、悲しみの影が映った。

「信頼というのは難しいな」

いきなりの台詞に夜明とアーシアは怪訝な表情を作る。構わずにゼノヴィアは言葉を続けた。

「積み上げるのはとても難しいくせに崩れ去る時は本当に一瞬だ。私を異端の徒と呼んだ彼らの目は忘れられないよ」

「……だからこそ、大切にしなくちゃいけないんだよ」

夜明はゼノヴィアの脇へと屈みこみ、彼女の顔に手を添えて目元から流れ落ちる涙をそっと拭った。

「英雄龍……」

驚いた表情を浮べるゼノヴィアに夜明は苦笑いを浮べて、夜明でいい、と言った。

「そういや、まだ礼を言ってなかったな。アーシアを護ってくれてありがとよ。にしても無茶苦茶やったな。手前の身を盾にしてアーシアを護るなんて」

「……ははっ、自分に向かってくる祓魔弾を防ぐならともかく、アーシアに向けて撃たれたものまでは防げないからな。だから、手近にあったものを盾にした、それだけのことさ」

「無茶しやがる。ま、嫌いじゃないけどな」

不意に夜明は表情を厳しくして立ち上がり、背中から『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』を広げる。数秒もしない内に三人は追いついてきた悪魔祓い(エクソシスト)達に取り囲まれていた。

「三体目のはぐれ悪魔まで見つけられるなんて僥倖。このまま神の名の下に斬り捨ててくれる!」

悪魔祓い(エクソシスト)の言葉を無視し、夜明は威嚇するように悪魔祓い(エクソシスト)を睥睨する。両手に銀翼蒼星を創り出し、何時でも戦闘に入れるよう態勢を整えた。

「手前等か? 俺の仲間に祓魔弾をぶち込んだくそったれ悪魔祓い(エクソシスト)共は?」

切っ先を悪魔祓い(エクソシスト)達に向け、夜明ははっきりと告げた。

「手前等、全員ぶちのめす」

「ほざけ!!」














「はぁ、雨降って地固まるってか?」

木の陰に隠れながら太陽は悪魔祓い(エクソシスト)相手に無双している夜明に視線を向ける。今回の一件は元々、夜明がゼノヴィアに対して抱いている不信感を取り払うために太陽がお膳立てしたものだ。

(クレアから悪魔祓い(エクソシスト)がはぐれ悪魔討伐に出ているって聞いた時は流石に焦ったが……ま、結果オーライか)

先ほどの夜明とゼノヴィアのやり取りを思い出す。もう、彼らの間にあった壁はなくなったと考えて大丈夫だろう。

(悪魔祓い(エクソシスト)には気の毒だが、二人の不和を無くすための犠牲になってもらうとしよう)

心の中で思いながら太陽は夜明に吹っ飛ばされる悪魔祓い(エクソシスト)達に合掌した。














「……太陽。確かに私は夜明とゼノヴィアの仲を何とかして欲しいって言ったわよ」

太陽達がはぐれ悪魔討伐に向かって数日後、部室のソファーに座りながらリアスは不機嫌その物といった表情を浮べていた。原因は目の前の光景にある。彼女の眼前では、

「おいゼヴィ。悪魔祓い(エクソシスト)に撃たれた傷は大丈夫なのか?」

「あぁ、問題ない。祓魔弾を抜き出した後、アーシアが治してくれたからな」

ほら、とゼノヴィアは悪魔祓い(エクソシスト)に撃たれたはずの腹部を晒して見せた。へぇ〜、と感心したように息を吐きながら夜明はゼノヴィアの腹を撫でる。

「綺麗に治るもんだな。さっすがアーシア」

「ん、もういいか夜明。直に触られるのは流石にくすぐったい」

悪い、と謝りながら慌てて手を引っ込める夜明。構わない、とゼノヴィアは微笑を浮べる。その頬がほんのり紅くなっているのに気付いてないのは部室にいる者の中で夜明だけだった。二人を指差し、リアスは太陽に詰め寄る。

「仲良くなりすぎてない? しかもゼヴィって何? 渾名、渾名なのね!?」

「落ち着けリア。私がお前をリアって呼ぶのと似たようなもんだろ」

女同士で呼ぶのと男が呼ぶのじゃ価値が違うのぉ! とリアスは頭を抱える。

「あぁ、また夜明の周りに女の子が増える。ただでさえお邪魔虫ドラゴンと朱乃に梃子摺ってるっていうのに……」

「何をぶつぶつ言ってんだ部長は?」

夜明の疑問にゼノヴィアは悪戯っぽい笑みを浮かべてさぁ? と首を傾げて見せる。

「まぁ、これから末永くよろしく頼むぞ、夜明」

そう言って、ゼノヴィアは魅力的な笑みを浮かべてウィンクして見せた。

-33-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D リアス・グレモリー (1/4.5スケール ポリレジン製塗装済み完成品)
新品 \0
中古 \
(参考価格:\16590)