小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『魔王来訪 征服王との顔合わせ』




「冗談じゃないわ」

上級悪魔、リアス・グレモリーは形の良い眉を吊り上げ、怒りを露にしながら自身の『兵士(ポーン)』である月光夜明を胸に抱き寄せて頭を撫でていた。当の本人は困ったような表情を浮かべ、この場で唯一主を止められそうな人物、太陽に視線で助けを求めるが、無言で首を振られるだけだった。アーシアが不機嫌そうに唇をへの字に曲げ、ゼノヴィアが羨ましそうにしているのは余談である。

「確かにこの町で悪魔、天使、堕天使のトップが会談を執り行われるわよ。だからって私の縄張りに堕天使のトップが侵入して、その上営業妨害されていたなんて」

「まぁ、確かにお茶目で済む次元ではねぇな」

憤懣やるかたない、と表情に表すリアスに太陽が適当に話を合わせる。本当よ! とリアスは太陽に意識を向けた。その間に祐斗達がこっそりリアスの腕から夜明を解放しようとするが、ガッチリとホールドしている。夜明を放させるのは至難の業だ。そうこうしてる間にリアスの意識が夜明へと戻る。

「しかも私のかわいい夜明に手を出そうとするなんて万死に値するわ! アザゼルは強力な神器(セイグリッド・ギア)に目がないと聞くし……」

神滅具(ロンギヌス)である『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』が狙われたとしてもおかしくない。その思考に至ったリアスは益々腕の力を強くして夜明を抱き締めた。

「大丈夫よ、夜明。私が絶対に護ってあげるから」

(お気持ちは嬉しいのですが部長、そうなっちゃ本末転倒です)

貴方のために在るのが俺の役目なんだから。更に言うなら、現状、リアスよりも夜明の方が強い。そのことを指摘しようとする夜明だったが、実際は出来なかった。何故ならリアスの豊満な胸で口を塞がれているからだ。つでに鼻も。む〜、む〜と必死でタップする夜明を見かね、太陽はリアスの腕から夜明を引き剥がした。

「リア、お前は夜明を窒息死させる気か? もう少し自分の胸のでかさを自覚しろ」

少なくとも、三桁越えのバストを持っている太陽の言える台詞ではなかった。あぁ〜、と腕を伸ばすリアスから遠ざけるように太陽は夜明をリアスの反対側にいるアーシア達に託す。

「しっかし何が目的なんだろうかね、あの堕天使総督殿は?」

「アザゼルは神器(セイグリッド・ギア)に造詣が深いと聞く。夜明の『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』に大きな興味を抱いているのは確かだろうな」

もっとも、とゼノヴィアは一旦言葉を切る。

「夜明が狙われるような事態になったら、私は問答無用でアザゼルを叩き斬るがな」

「その時は僕も手伝うよ、ゼノヴィア。グレモリー眷属に手を出す事がどれほど愚かしいか、『騎士(ナイト)』二人で思い知らせてやろう」

そう言って、グレモリーの『騎士(ナイト)』二人は実に剣呑なオーラを放ち始める。刃にも似たオーラを放つ二人を見ながら夜明は首を傾げた。

(ゼヴィはともかく、祐斗ってこんな性格だったっけか? ……ん?)

ふと見てみれば、アーシアが夜明の服をぎゅっと掴んでいた。不安そうな表情を浮かべ、上目遣いに夜明を見ている。

「夜明さん、大丈夫ですよね? どこか遠くに行ったりなんてしないですよね?」

アーシアの問いに夜明はん〜、と唸ってからにぱっと笑みを浮べる。

「ま、少なくともお前置いてどっか変なとこに行くなんてことは無いから安心しろ」

ポンポンと頭を撫でてやると、アーシアは安心した表情で夜明の手に身を任せた。夜明の手に髪の毛をくしゃくしゃにされながらも、気持ち良さそうに目を細めるアーシアをゼノヴィアは羨ましそうに見ていた。その視線に気付いた夜明はちょいちょいとゼノヴィアに手招きする。

「ゼヴィも頼りにしてるからなぁ〜(ポフポフ)」

「おぉ、これは……いいな」

撫でられ、やはり気持ち良さそうなゼノヴィア。撫でられる二人を見て、祐斗はにやっと夜明に笑いかけた。

「僕のことは撫でてくれないのかい?」

「頭を紅葉卸みたいにされたいってんならやってやってもいいぜ?」

グレモリー眷属男子二人のジョークである。三人に囲まれる夜明に視線を投げながら朱乃は頬に手を当てた。

「あらあら、夜明くんってば人気者ね」

「……心配しなくても、夜明先輩ならどんな相手でも何だかんだで倒すような気がします」

その認識はどうだろう、と思わないでもない朱乃だったが、先日のコカビエルを追い詰めていた夜明の姿を思い出し、そうなんだろうなぁ、と確信を覚えてしまうのも確かだ。

「しかし、どうしたものかしらね。あちらの動きがわからない以上、こちらも動く事が出来ないし……相手は堕天使の総督、下手な手は打てないわ」

「アザゼルは昔からあぁいう男だったよ、リアス。コカビエルのようなことはしてこないだろうから安心しなさい」

突如、この場の誰でもない声が聞こえてきた。全員が声のした方を向くと、そこには紅髪の男性が立っている。その人物を、夜明はどこかで見た覚えがあった。

「誰かと思えばサーゼクスじゃないか」

すぐに跪いた朱乃達とは真逆の行動を取る太陽。よぉ、と片手を挙げる太陽をリアスが諌める。どう反応して良いか分からず、アーシアとゼノヴィアはきょとんとしていた。

「お、お、お、お兄さま、何故こちらに?」

お兄さま、の部分で夜明はあることを思い出す。あれはリアスの婚約パーティーの会場に殴り込みした時、太陽が言っていた言葉。

『舞台はあのリアの兄ちゃんのサーゼクスが整えてくれている。一応、魔王だから敬意は払えよ』

「魔王様ぁ!?」

素っ頓狂な声を上げながらも夜明はその場に跪く事はしなかった。夜明の魔王様という叫びを聞き、アーシアとゼノヴィアも驚きの表情を浮べて紅髪の男性、現魔王『サーゼクス・ルシファー』を見ている。

「そう畏まらないでくれ。今日はプライベートで来ている」

サーゼクスの言葉に跪いていた三人が立ち上がった。

「何しに来たんだよサーゼクス。リアの顔でも見に来たのか?」

魔王を相手にしてるにも関わらず、太陽の態度は実にフランクだ。余りにも無礼講な太陽にサーゼクスの背後に控えていた銀髪メイド、グレイフィアは微かに表情を強張らせる。

「太陽様。幾ら友好的とはいえ、我が主は魔王です。もう少し言葉遣いを考えて」

「いや、いいんだよグレイフィア」

手を挙げてグレイフィアを制止する。しかし、と僅かに渋るグレイフィアにサーゼクスはこっそりと耳打ちした。

(実を言うと彼女の言葉遣いにはとっくの昔に慣れてしまってね。今更敬語で話されてもこちらが反応に困ってしまうよ)

まだ何か言いたそうだったが、己の主がOKを出しているのだからこれ以上は差し出がましい、とグレイフィアは一歩引いた。

「ま、差し詰め今度の授業参観が目的だろ? こりゃセラあたりも来そうだな」

「ご明察だよ。私も彼女も妹が勉学に励む姿を間近に見たくなってね」

そう言ってサーゼクスは一枚のプリントを取り出す。悪魔業界を担うはずの魔王様。そのノリは実に軽かった。まさか他の魔王もこんな感じじゃねぇだろうな、と夜明が密かに危惧していると、リアスは戸惑った表情を浮べてサーゼクスとプリントを交互に見ていた。

「な、何でお兄さまが授業参観のことを……」

「あぁ、私が伝えたからな」

「ライトぉぉぉぉぉ!!!!」

叫ぶリアスを太陽はにやにや笑いながら見ていた。傍から見ると微笑ましい光景にサーゼクスは朗らかに笑ってみせる。

「はっはっは、太陽には感謝しているよ。どんな激務があろうとも、休暇を入れて妹の授業参観に参加したかったからね。あぁ、父上もお越しになられるから安心しなさい」

どこに安心する要素があるのだろうか? リアスは顔を真っ赤にしながら魔王が家族とはいえ、一悪魔を特別視するなと顔を真っ赤にして言うが、サーゼクスは首を振る。

「いや、これは仕事でもあるのだよ。悪魔、天使、堕天使の会談をこの学園で執り行おうと思っていてね。会場の下見に来たのだよ」

流石に豪胆な太陽も今度ばかりは驚きに目を剥いていた。マジか、と問われてサーゼクスはマジマジと返す。余りのフランクさにグレイフィアに頭を軽く叩かれたのは余談だ。

「(いてて……)この学園は我々にとって何かしらの縁があるようだ。魔王ルシファーとレヴィアタンの妹、そして伝説の英雄龍、聖魔剣使いに聖剣デュランダル。それにコカビエルと白龍皇の襲来。これらを偶然で片付けるには余りにも事が大きすぎる。この学園では様々な力が入り混じり、大きなうねりとなっているのだろう」

そのうねりを加速度的に大きくしているのが……サーゼクスとグレイフィア、眷属達の目が一箇所に向けられる。全員の視線を一身に受けながら夜明はそんなこと言われてもなぁ、と困ったように頭を掻いた。














「本当に布団で良いんですか?」

「あぁ、やはり日本に来たからには布団で寝なくてはね!」

目をキラキラさせるサーゼクス。夜明は苦笑を浮かべながら自分のベットの横に布団を一式敷いた。サーゼクスとグレイフィア、ルシファー魔王御一行は夜明のマンションに泊まることになった。その事に関してリアスが「だめ、絶対だめ!」と可愛らしく抵抗してたが、魔王とその『女王(クイーン)』を止める事なんて出来るはずも無く……。

「その上夜明と一緒に寝れないなんて拷問よ……夜明、私が隣にいなくて平気? 一人で寝られる?」

「餓鬼じゃないんですから大丈夫ですよ……グレイフィアさん、お願いします」

「はい。お嬢様、あまり夜明さまを困らせてはいけませんよ。それではお休みなさい、サーゼクスさま」

グレイフィアはリアスの首根っこを引っ掴み、ずるずると部屋の外へと引きずり出した。私は夜明がいないと寝れないの〜、と涙をだばだばと流すリアスに夜明は手を振る。アーシアも夜明と一緒に寝れないことを残念がっていたが、笑顔で部屋から出て行った。

「さて、それじゃ寝ますか」

「そうしよう」

部屋の電気を消し、二人はそれぞれの寝具に潜り込んだ。真っ暗な天井を無言で見上げながら夜明はちらっとサーゼクスを見やる。悪魔の頂点に君臨する男が今、同じ部屋の空気を吸って寝ている。今更ながらに自分が異常な状況の中にいると夜明は痛感した。

「アザゼルに会ったそうだね?」

特に否定する理由も無かったので、夜明は素直にはいと返事した。

「何かされたかね?」

「いんえ。『今度、改めて会いに行く』と、それだけですね……そこまで悪い奴じゃないと思うんですよね」

「はは、まぁ悪い奴ではないのは確かだよ。度を越えた悪ふざけをすることはあるがね……アザゼルは神器(セイグリッド・ギア)に強い興味を抱いている。君のアンリミテッド・ブレイドも例外じゃないだろう。現に君と同じく『神滅具(ロンギヌス)』を宿す者を彼は集めている」

「……神殺しでもおっ始めるつもりなんですかね?」

「それは分からない。だが、アザゼルは天界、冥界、人間界に影響を与えられるだけの力を持つ組織のトップだ。何の目的も無く『神滅具(ロンギヌス)』保持者を集めている訳ではないだろう」

厄介なのに目ぇつけられたな、と夜明が愚痴ると、サーゼクスは頼もしい口調で話しかけてきた。

「安心しなさい。私が君の安全を保証するよ。赤白のドラゴンを止めた、英雄と謳われた伝説のドラゴン。せっかく悪魔側に来てくれたのだから優遇させてもらうよ。それに、リアスは君の事をひどく大切にしているようだからね。君といる時のリアスはとても楽しそうだよ……月光夜明くん、リアスのことをよろしく頼むよ」

「無論、死ぬまで部長に仕えますよ」

それは頼もしい、とサーゼクスは満足げに息を吐き出す。その後、何故かお義兄さんと呼んでくれという意味不明な展開になった。

「いや、流石にそれは畏れ多いと言いますか」

「ふむ、そうかね……まぁ、近い将来そう呼ばれることになるのだろうし急ぐ必要も無いか」

勝手に自己完結するサーゼクス。夜明は疑問符を浮べながら、眠りの中へと落ちていった。














「や」

「やっと来たか、奏者よ」

目を開くと、そこにはエジソンとブレイズハートの姿が。例によってエジソンに精神世界の中へと呼ばれたのだろう。相変わらず無数の歯車が浮かんだ世界を見回しながら夜明はエジソンを見やった。

「んで、俺をここに呼び出したってことは」

「うん、イスカンダルと話してもらおうと思って」

「あの筋肉達磨、ノリノリだったな。後の二人もこれだけ説得が楽だと助かるのだが」

はぁ、とため息を吐く二人。夜明が訝しげに首を傾げるが、二人から説明は無かった。気を取り直してエジソンは夜明の肩に手を置く。

「今から君をイスカンダルの精神世界に送るよ」

「ん、お前等はどうすんだ?」

「あの筋肉達磨は奏者と一対一で話したいそうだ。では、行ってこい奏者」

ブレイズハート、イスカンダルのこと嫌いなのかね? とそんなことを頭の片隅で考えながら夜明はエジソンの手から発せられた暗闇へと呑み込まれた。





熱砂を含んだ風が頬を撫でていく。夜明が目を開いてみると、そこはどこまで広がる砂漠だった。晴れ渡る蒼穹には灼熱の太陽が座し、焼け付くような熱風が吹き荒んでいる。

「……かつて、兵共が駆け抜けた大地。『征服王』と苦楽を共にした勇者達が等しく心に焼き付けた世界」

自然とそんな言葉が夜明の口から漏れていた。

「これがお前の世界か……イスカンダル」

「おうさ。待っていたぞ、現英雄龍」

振り返る。ごう、と燃え上がる炎を封じ込めたような光る双眸が夜明を射抜く。夜明は怖じるでも感嘆するでもなく、腕を組んだまま目の前の巨躯を見据えた。吹き渡る風にマントを靡かせて大男、『征服王』イスカンダルはにっと子供のように笑ってみせた。

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