小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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           『龍殺しの聖剣』




「ははは、お前が進もうとする恋路は前途多難だなぁ、リア」

次の日の夜の部室。ソファーに寝転びながら太陽は愉快そうに喉を鳴らす。笑い事じゃないわよ、と向かい側のソファーに腰かけているリアスは盛大にため息を吐きながらテーブルに突っ伏す。他の眷属達は契約を取りに夜の街へと繰り出していた。

「ギャスパーが前向きになってるんだ。それだけでも大した進歩だろ」

しかも夜明の子守つきとはいえ、自分から契約を取りに行ったのだ。以前では考えられないほどの前進だ。それはそうだけど、とリアスは口篭る。眷属の成長を喜ぶべきなのか、恋敵が増えた事を嘆くべきなのか。主としては心中複雑極まりなかった。

「ま、精々正妻の座を寝取られないように気をつけるこった」

「ライト!」

顔を真っ赤にして親友の渾名を呼ぶリアス。太陽は苦笑いを浮べつつ、悪い悪いと繰り返しながら上半身を起こす。

「ギャスパーも一皮剥けた訳だが、贅沢言えばもう一歩前に踏み出して欲しいな」

「? どういうこと?」

正直言って、これ以上彼女に望むのは酷なんじゃ。リアスが言わんとすることをすぐに察し、太陽は片手で彼女の言葉を制する。

「それは分かってるさ。だが、成長してくれるに越したことはないだろ」

太陽がギャスパーに望むこと。それ即ち、ギャスパーが自分自身に持つ恐怖への克服だった。

「あいつは自分自身が怖いんだよ。コントロール出来ない力を持つ自分にな」

その身に宿った『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』だけではない。類稀な吸血鬼、そして人間としての才能。彼女の力は望む望まないに関わらず、年を経ていくごとに強くなっていった。

もしかしたら自分はこの力で誰かを傷つけてしまうのではないか? もしかしたら自分は取り返しのつかないことの引き金(トリガー)となってしまうのではないか? その恐怖の結果、生まれたのが引き篭もり、対人恐怖症のダメダメ吸血鬼、ギャスパー・ブラディだ。

「ガキの頃から、人間との混血ってだけで親兄弟から差別やいじめを受けてきたんだ。自分を拾ってくれたリアや他の眷属達に迷惑をかけて嫌われないよう、あいつなりに必死だったんだろ」

そんな状況の彼女を救い出す事が出来る者がいるとすれば同じグレモリーの眷属であり、彼女以上に強大な神器(セイグリッド・ギア)、『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』を宿した夜明だけだろう。

「ま、ここは一つあいつに任せてみようや。私が考えているとおりに行ったら、ギャスパーは相当な戦力になるぜ、きっと」

根拠はないが、絶対の自信を表情に浮べて太陽は笑った。














「あぁ〜、それで部長。俺に何をしろと?」

「言った通りのことよ。今晩、ギャスパーの話し相手になってあげてちょうだい」

んなこと言って、何で少しだけ不機嫌そうなんですか? と自分から地雷を踏み抜きに行くほど彼も愚かではなかった。とりあえず、リアスに言われたとおりに旧校舎のギャスパーの部屋前にやってくる。

「しかし、話し相手って言ったってな。何を話せっていうんだよ?」

何時までも扉の前に立ってるわけにもいかないので、夜明は扉をノックする。少しして、扉がちょっと開いてギャスパーの赤目が隙間から覗いた。

「よっ」

「よ、夜明先輩。どうしたんですか?」

「ちょっと話でもと思ってな。入ってもいいか?」

若干、と戸惑い顔だが、ギャスパーは喜んで夜明を部屋に招きいれた。室内に視線を走らせる。相変わらず可愛らしい部屋、そして奥にあるベット代わりの棺桶の組み合わせはシュールだった。夜明がソファーに腰掛けると、ギャスパーは彼の隣にちょこんと座った。

「そ、それで話って何ですか?」

ギャスパーの問いに夜明はあぁ〜、と生返事をしながら頭を掻く。部長に言われたから来た、というのは余りいい返答ではないだろう。そこで夜明は自分が気になっていることを訊ねることにした。

「いや、特訓してみてどうだったか聞いてみたくてな。その後どうだ? 何か『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』が変な風になったりはしてないか?」

「いえ、全然。むしろ、今までよりも調子が良いくらいです」

多分、特訓した成果です、とギャスパーは笑顔を浮かべる。まだ十何回に一回しか成功してないとはいえ、自分の意思で『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』を発動できるようになったのが嬉しいのだろう。そっか、と夜明はギャスパーの頭を撫でる。嬉しそうに目を細めていたギャスパーだったが、ふと、遠い目をしていた。

「……本当はこんな神器(セイグリッド・ギア)、いらないんです。皆、停まっちゃうから。今まで僕の周りにいた人たちは皆、僕を怖がって、遠くに追いやりました」

時を停める混血の吸血鬼。同属からは忌み嫌われ、人間からは恐れられていた。『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の力で停めてしまった者達の顔。そのことを思い出すたびにギャスパーの『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』への嫌悪は強くなっていた。

「もう、仲間や友達を停めたくない……」

「だったら、これから一層頑張らないとな」

ポンポン、とあやすようにギャスパーの頭を軽く撫でる。でもな、と夜明は前置いてギャスパーに語りかけた。

「例え、お前がどれほど捨てたい、要らないと思っても、お前の神器(セイグリッド・ギア)、『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』はお前の力であり、一部なんだ」

恐れるなとは言わない。そう言うには、彼女の宿しているものは余りにも強大すぎる。そう、言うことがあるとすればただ一点。

「拒むな、自分の力を。どう足掻いたって『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』はお前なんだ。自分自身を拒むほど、辛いことはないぞ」

「……夜明先輩は怖くないんですか? 夜明先輩は僕の『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』なんかよりもずっと強い、『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』を宿してるのに」

ギャスパーに問われ、夜明は苦笑を浮かべながら全然、と首を横に振った。『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』を、英雄と謳われた龍(ブレイヴ・ドラゴン)ブレイズハートを恐れたことなど一度としてない。

「俺にとって『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』はただの力、道具でしかない。ま、その中に宿ってるブレイズハート達は大切な仲間だけどな」

にっ、と笑いながら夜明はギャスパーの頭をくしゃくしゃにする。止めてください〜、と可愛らしく抵抗するギャスパーを一頻り撫で、夜明は穏やかな表情でギャスパーの瞳を覗き込んだ。

「あんまり肩肘張るな、ギャスパー。お前の『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』も、突き詰めちまえばただの力、道具だ。それをどう扱うかは今後のお前次第だ」

困った時は何時でも頼って来い、と夜明は言う。

「今のお前は暗闇の荒野に立っている。そこからどう行けばいいかをお前に示すことは俺や部長、眷属の皆ができる。でも、進むべき道を切り開くのはお前自身だ……いいか、覚えとけギャスパー。そこがどんなに暗く広く、果ての見ないような荒野であっても、覚悟をもって進めば誰であろうと道は切り開けるんだ」

この時、夜明がギャスパーに語りかけた言葉が後々、彼女に多大な影響を与えることを夜明は知らなかった。ただ一つ言えることは、夜明争奪戦にまた一人、新しい乙女が加わったということだけだ。














次の休日、朱乃に呼び出された夜明はある場所へと来ていた。悪魔にとってはアウェーと言える場所、神社だ。

「朱乃さん、こんなとこに俺を呼んで何すんだろ?」

というか、神社って悪魔が入れない場所なんじゃ、と考えながら夜明は石段を一歩一歩登っていく。足を動かしている内に赤い鳥居が見えてきた。そこには見知った人物が立っている。

「いらっしゃい、夜明くん」

巫女服姿の朱乃だった。




「朱乃さん。神社(ここ)って悪魔が入れない場所なんじゃ……」

夜明は驚きながらも足を止めない。鳥居の先に立っている朱乃は特に気負うでもなく、普通に立っている。

「そのことなら大丈夫ですわ。裏で特別な約定が交わされていて、悪魔でも入ることができるんです」

朱乃の説明に成る程、と頷いて、石段を登りきった夜明は鳥居を潜る。奥には立派な本殿が建っていた。古くはあるが、汚れてたり破損している箇所は見られない。

「朱乃さんってここに住んでるんですか?」

夜明の問いに朱乃は肯定を返す。先代の神主が亡くなり、無人になった神社をリアスが朱乃のために確保したそうだ。へぇ〜、と夜明が頷いていると、第三者の気配が近づいてくる。誰だ、と夜明は僅かに眉を持ち上げながら気配の主に振り向いた。

「彼が英雄龍ですか?」

端正な顔立ちの青年が夜明に視線を送っていた。周囲には黄金の羽が舞い、頭上には光る輪が。頭上の輪っか、黄金の羽。ここから連想した青年の正体に夜明は少なからず驚愕の表情を浮べる。クスクス、と笑いながら青年は夜明に手を差し出した。

「初めまして英雄龍、月光夜明くん。私はミカエル、天使の長をしております。このオーラ、かつて共に戦ったブレイズハートのものとそっくりですね」

青年、ミカエルは背中から黄金の翼、十二枚を広げた。






朱乃の先導のもと、夜明とミカエルは本殿の中へと入っていった。中から言い知れぬ、力強い波動が溢れてきている。それは夜明の生存本能に逃げろ! と必死で叫ばせるような代物だった。扉を開ける。中には数本の柱、その中央に波動の発生源があった。

(これは……)

〔ちょっとちょっと、これは洒落にならないでしょ〕

頭の中でブレイズハートとエジソンが絶句している。それ程のものか、と夜明が静かに慄いていると、隣に立つミカエルが波動の発生源を指差した。

「実は、あなたにこれを贈ろうと思いまして」

それは一本の聖剣だった。夜明が創造した『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』、ゼノヴィアの『絶世の名剣(デュランダル)』に比べると力強さは見劣りする。だがオーラの質は異質だ。ドラゴンを宿す夜明に命の危機を感じさせる類のものだ。

「これはゲオルギウス……聖ジョージといえば分かりやすいでしょうか? 彼の持っていた龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖剣『アスカロン』です」

(これが龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)か!)

龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)。早い話が龍を殺す事を生業としている者達が持つ武具の総称だ。このアスカロンは龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の中でかなり有名なものだよ、とエジソンが夜明の中で囁く。

「特殊儀礼が施されているので、悪魔の眷属であるあなたでも扱えるはずです。あなたが持つというより、アンリミテッド・ブレイドに同化させるという表現の方が正しいかもしれませんね」

(出来るか?)

(うむ、任せぶふぅ)

ブレイズハートが進み出てきたが、エジソンの手に押し退けられた。

〔ブレイズハート。君はこの手の繊細な作業、死ぬほど苦手でしょうが。夜明に良いとこ見せたいのは分かるけど、今回は自重して〕

ちょっと準備するから待ってて〜、とエジソンの声がアンリミテッド・ブレイドの意識内へと遠のいていく。少し時間を持て余す事になった夜明は気になっていることをミカエルに訊ねた。

「ミカエルさん。何でこんな貴重な物を俺に?」

夜明の問いにミカエルはニッコリと笑いながら答え始めた。

「私は此度の会談、三大勢力が手を取り合う最大の機会だと考えているんですよ。すでにコカビエルから聞いているだろうから話しますが、我らの創造主、神と敵対していた旧魔王達は先の戦争で死んでしまいました。そして堕天使の幹部達も沈黙を貫いている。サーゼクスは勿論、アザゼルも建前上は戦争を起こしたくないと言っています」

これは好機なんです、とミカエルは多少熱の籠った口調で話を続けた。

「このまま小規模な争いが断続的に続けば、三大勢力はいずれ滅んでしまう。そうならなくとも、横合いから他の勢力が攻めてくるかもしれない。そのアスカロンは私達天使から悪魔サイドへのプレゼントなんです。勿論、堕天使側にも贈りましたよ? 私達も悪魔側からかの聖魔剣を受け取っているので、こちらとしてもありがたい限りなのですよ」

早い話、天使側は悪魔や堕天使達と和平を結びたいのだ。その意志を表明するためのプレゼント、と考えればアスカロンのことも納得がいく。

(一つ聞きたいんだがブレイズハート、ミカエルさんの言ってる他の勢力って)

(……聖書に記されたもの以外にも神話体系は存在している。北欧神話のオーディン、ギリシア神話のゼウスなどがよい例だな)

エジソンに役目を取られたのが気に入らないのか、ブレイズハートは若干拗ねた口調で夜明に知っている事を話した。へぇ〜、と夜明が頷いてる内に機嫌も直ったのか、ブレイズハートは何時もの尊大な口調を取り戻す。

(まぁ、通常は自分達の領域を飛び越えることはないのだがな)

その裏には神々の暗黙ともいえる不戦協定があったからだ。しかし、今は『聖書の神』が消失しているので、他の神話体系がどのような動きを見せるか分からないのだ。

「少し前に君のことを知りましてね。かつて、赤と白のドラゴンを止める際に協力してくれたドラゴン、英雄と謳われた龍(ブレイヴ・ドラゴン)が悪魔側についたと。ご挨拶と共に、悪魔側へ私達からのプレゼントとの一つとしてその剣をお渡しするのです。英雄龍であるあなたはこれから数多の敵に狙われるでしょうから」

龍王クラスのドラゴン。そして白と赤の『二天龍』。この先に待ち受けるだろう戦いを想像し、夜明は無意識の内に拳を握り締めていた。

「しっかし、何で俺なんですか?」

「かつて、英雄龍は手を取り合った三大勢力と共に戦いました。あの時のように再び手を取り合えることを願ってあなたに、英雄龍に願をかけてみました」

日本的でしょう、と満面の笑みの天使の長に夜明も笑顔で返す。

「えぇ。かつて、自分達に協力してくれたブレイズハートを封印したあなた達がかける願にしては随分とブラックユーモアに溢れてますね」

オブラートに包まない完全なる嫌味。真っ向正面からこんなことを言われるとは思ってなかったミカエルは顔を引き攣らせた。離れた所で二人のやり取りを見ていた朱乃も双眸を見開き、両手を口元に当てている。少しして、夜明はばつが悪そうに頭を掻きながらミカエルに頭を下げた。

「すいません。あなた達、天使だけがブレイズハートを封印したわけではないのに」

「……いえ、我々も少し虫が良すぎました。彼女には殺されても文句が言えないほどの怒りを買っているというのに」

〔夜明ぇ〜、準備終わったよ〜……って何なのこの雰囲気?〕

準備終了の報告をしにエジソンが意識内から戻ってきた。夜明とミカエルが何やらばつの悪い雰囲気を醸し出している。が、彼女はそれを一蹴した。

〔ほら、しゃっきりしなよ夜明! いくら特殊な儀礼が施されているとはいえ、アスカロンは龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)なんだから、最悪の場合、アンリミテッド・ブレイドと同化している最中に死んじゃうかもよ?〕

それからミカエル! と天使の長を呼び捨てで呼んだ。突如聞こえてきた声、そして呼び捨てのダブルパンチにミカエルは面食らう。

〔何をそんな暗い表情をしてるかはしれないけど、君は三大勢力が争いをしない未来を望んだから会談に臨んだんでしょ? だったらそんな表情は駄目! 笑顔で未来を見据えてなさい〕

エジソンの台詞にミカエルは目から鱗、といった風に驚きの表情を作っていたが、ゆっくりと笑顔を浮かべながら頷いていた。

「んじゃ、アスカロンとアンリミテッド・ブレイドを同化させるか……エジソン、具体的にはどうすればいいんだ?」

〔とにかく意識をアンリミテッド・ブレイドに集中させて。そこから先は私がやるから〕

言われたとおり、夜明は背中から『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』を発動させ、三対の翼を背中から出現させる。宙に浮かぶアスカロンへと手を伸ばし、オーラの波動を合わせていく。聖なるオーラが流れ込んでくるような感覚を味わうこと数秒、夜明の身体を眩い閃光が包んだ。閃光が晴れると、そこに立っているのは三対の翼を広げた夜明だけだった。アスカロンは影も形もない。

「……来い!」

夜明が片手を真横に突き出すと、手に龍殺しの聖剣、アスカロンが現れた。どうやら同化は無事に成功したらしい。夜明がアスカロンをアンリミテッド・ブレイド内に戻していると、ミカエルがポンと手を打った。

「無事に成功したようですね。そろそろ時間なので、私は行かねばなりません」

「ミカエル様からの贈り物、確かに受け取りました」

深々と頭を下げた夜明にミカエルは微笑んで見せ、全身を光に包んだ。閃光が走ると、既にミカエルの姿は無かった。

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