小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『主の悩み 眷属の勘違い』




「どうぞ、粗茶ですが」

「すみません、わざわざ」

ミカエルが去った後、夜明は朱乃が自宅として住んでいる境内にある家へと足を運んでいた。和室へと通され、お茶を出されてもてなされている。夜明は出された湯呑みを口元へと運び、お茶を口に含んだ。思ってたよりも苦く、夜明は思わず顔を顰める。夜明の反応に朱乃はクスクスと小さく笑っていた。

「朱乃さんはここでミカエルさんとアスカロンを?」

「はい、この神社でアスカロンの仕様変更術式を行なっていたんです」

会談のセッティングなど、リアスと朱乃はとにかく多忙を極めていた。太陽も太陽で何やら忙しく動いているが、二人とは無関係だろう。

(そうだ)

今、ちょうど朱乃と二人きりだ。夜明は少し前から気になっていた事を朱乃に訊ねる事にした。

「朱乃さん、一つ聞きたい事があるんですけど」

「えぇ、勿論ですわ」

「コカビエルの言ってた、バラキエルの娘って……」

夜明の問いに朱乃は顔を曇らせたが、それでもはぐらかすことなく答えてくれた。こくり、と首を縦に振って肯定する。

「……えぇ、そうよ。私は堕天使の幹部、バラキエルと人間の間に生まれた者です」

少し辛そうな表情を浮べながらも、朱乃は夜明に自分の生い立ちを話した。

「私の母はこの国のとある神社の娘でした。そんな母の前にある日、傷つき倒れた堕天使が現れました。それが」

「バラキエルだったって訳ですか」

その後の展開はまぁ予想通りというかテンプレ通りというか。ありふれた恋物語のように二人は恋に落ち、その縁で生まれたのが朱乃ということだ。祐斗と比べる訳ではないが、朱乃も結構壮絶な人生を歩んでるんだなぁ〜、と夜明がしみじみと思っていると、朱乃の背中から漆黒の翼が広がる。

「っ……」

それは悪魔だけのものではなかった。片方が悪魔で、もう片方は堕天使のもの。自嘲気味に微笑みながら朱乃は堕天使の翼から舞い落ちた黒い羽を手に取る。

「忌々しい、穢れた翼。悪魔と堕天使、両方の翼を私は持っています……この翼が嫌で私はリアスと出会って、悪魔になったの。なのに、生れ落ちたのは堕天使と悪魔の翼を持ったもっとおぞましい生き物。穢れた血が流れている私にはお似合いかしら?」

朱乃の己を蔑むような声音。夜明は口を挟むでもなく、無言で話を聞いていた。

「この話を聞いて、夜明くんはどう思います? 堕天使のことは嫌いよね? あなたを殺しかけ、アーシアちゃんを一度殺し、あまつさえこの町を破壊しようとした堕天使にいい感情を抱くわけ無いわよね」

夜明ははっきりと己の心中を何一つ偽らずに語った。

「いえ、別にそんなこたぁないですよ」

え? と朱乃は素で疑問の声を返してしまった。それだけ夜明の返答は予想外だったのだ。頭をボリボリと掻きつつ、夜明は己の想いを話していく。

「まぁ、確かにレイナーレのクソ女(あま)は大っ嫌いですよ? それにコカビエルにだっていい感情は持てない」

でも、だからって、それは朱乃を含めた全ての堕天使を嫌う理由にはならない、と夜明ははっきり告げた。それに、と眼球を零さんばかりに目を見開いてる朱乃に言い聞かせるように話を続ける。

「朱乃さん、その堕天使の翼を穢れてるって言いましたよね? 俺はそうは思いません」

翼とは自由の証、夢を追い求めるための力なのだ。少なくとも夜明はそう思っている。何であろうと『翼』自体が穢れたものであるはずがない。もし『翼』を穢すものがあるとするなら、それは翼の持ち主の心だ。

「朱乃さんは凄く素敵で、その上優しい人です」

どSな部分がちょっと怖いけど、と少し苦笑しながらも夜明は断言する。自分の知る姫島朱乃が持つ翼が穢れたものであるはずがないと。

「だからそんな悲しいこと言わないで下さい、そんな辛そうな顔しないで下さい。俺は笑顔の朱乃さんが大好きです!! ……って、何言ってんだ俺は?」

若干、頬を紅潮させながら夜明は照れ臭そうに笑う。そんな夜明を見て、朱乃は泣いていた。朱乃が涙を流しているのに気付いた夜明はうぇっ!? と素っ頓狂な声を上げる。何か傷つけるようなこと言ってしまったのか? と慌てるが、朱乃は笑顔を浮かべて頬を伝い落ちていく涙を拭っていた。

「……殺し文句、言われちゃいました。そんなこと言われたら、本当の本当に本気になっちゃうじゃない……」

うぇ? と朱乃の言葉がよく聞こえなかった夜明は首を傾げる。朱乃は立ち上がると夜明に歩み寄り、ぎゅっと抱きついてきた。

「うぇい!? あああああああ朱乃さん!?」

顔を真っ赤にさせ、盛大にテンぱってる夜明の耳元で朱乃は囁く。

「決めた、私、決めましたわ。夜明くん、リアスのこと、好き?」

「す、好き? そ、そりゃ好きじゃなかったら眷属として仕えないし、ここまで付き合いませんよ」

「それは命を助けてくれた人、主としてリアスを好きってこと?」

それ以外に何があるんだ? と疑問に思いながらも夜明は頷いてみせる。すると、朱乃は夜明の身体に両腕を回したまま何やらぶつぶつと独り言を呟いていた。

「ということは、これからアプローチをかけていけば本妻になれるかしら? でも、リアスやアーシアちゃん、ゼノヴィアちゃんも本気でしょうし。ふふふ、ライバルは多いわね」

何故ここでリアス達の名前が? 首を傾げる夜明。夜明を強く抱き締めたまま、朱乃は胸を押し付けるように顔を近づける。

「夜明くん、もっと私に甘えてくれてもいいんですよ? 以前、夜明くんが言っていた膝枕しながら耳かきもしてあげますわ」

「えっ、何故に!? そりゃやってくれるんなら嬉しいですけど……」

「ねぇ、夜明くん。『朱乃』って呼んでくれる?」

流石にそれは抵抗があった。今までずっとさん付け呼んでいたのだから、いきなりそんなことを言われても、と夜明はやんわりと断ろうとするが、濡れた瞳で懇願され、折れることに。意を決し、唇を舌で湿してから夜明は朱乃の名を呼ぶ。

「あ、あ、ああああああああああああ、朱乃」

「夜明……」

感極まったように目を潤ませながら朱乃は更に夜明を抱き締める。リアス以上の双山が夜明の胸で潰れ、どえりゃあ凄いことになっていた。というか今、夜明のことを呼んだ声は駒王学園の二大お姉様の『姫島朱乃』ではなく、普通の女の子のそれだった。

「ねぇ、これから二人きりの時は朱乃って呼んでくれる?」

甘えるような声。その姿はもはやリアス・グレモリーの『女王(クイーン)』ではなく、一人の恋する女子高生のものだった。どぎまぎしながら夜明が頷くと、朱乃は嬉しそうに夜明の胸に頬擦りする。

「夜明くん、抱き締めて」

「はい?」

朱乃の要求に夜明は疑問符を浮べた。早くぅ、と甘え声で催促され、夜明はおっかなびっくり朱乃の身体に両腕を回す。軽く抱き締めると、朱乃は嬉しそうに桃色の吐息を漏らした。

「はぁ……身体が蕩けちゃいそう」

(俺も色々なものが蕩けそうです!!)

主に理性とか。ふと、朱乃の艶やかな黒髪を無意識の内に撫でながら夜明は思った。この場面をリアスに見られたら、俺死ぬんじゃないか? と。そして、そういうことを考えていると大抵、フラグが回収される。

「何をしてるのかしら、夜明、朱乃?」

脊髄に氷柱を突き立てられたような悪寒が夜明の全身を襲う。ギギギ、と油を差すのを忘れた自転車のようにぎこちなく振り返ると、そこには限界を天元突破したオーラを纏う夜明の主、リアス・グレモリーが仁王立ちしていた。

「本当に油断も隙も無いわ……!」

大股に部屋の中へと入ってくるリアス。何も言えず、あわあわと訳の分からない言葉を口にしている夜明の頬を摘んで思いっきり引っ張る。

「痛い! 痛いです部長!!!」

「アスカロンは?」

「い、いただきました!!」

「ミカエルは?」

「用があるということでお帰りに!」

「ならここに用は無いわね、帰るわよ!」

怒髪天をつく、という表現がピッタリのオーラを放ちながらリアスは踵を返した。夜明は朱乃に頭を下げつつ、急いでリアスの後を追いかける。

「うふふ、勝機は十分。負けないわよ、リアス?」

まるで挑発するような口調。いつもの朱乃のものに戻っていた。リアスは一瞬足を止めると、夜明の腕をむんずと掴んで、すぐにでもここから離れたいと言わんばかりの勢いで足早に歩いていった。







「……」

「……」

沈黙が痛いとは正にこの状況を言うのではないか? と夜明は先に石段を下りていくリアスの背を追いながら考えていた。見るだけで怒ってると分かる後ろ姿。どうしてリアスが怒っているのか分からなかったので、夜明は謝りようが無かった。

(俺、部長を怒らせるようなことしたっけか?)

こんなことを考えられるのが月光夜明クオリティ。足を動かしながら夜明があれやこれやと考えていると、前を歩くリアスが立ち止まって夜明を振り返る。

「……」

夜明の顔をじ〜っと見つめるリアス。謝罪の言葉を口にしようとするが、どう言っていいか分からず夜明は口を噤んでしまう。やがて、リアスはぷいとそっぽを向いてしまった。

「……朱乃ばっかり……」

そんな呟きが夜明の耳に届く。ふと、そこで夜明は何となく合点がいった。リアスは自分が夜明にやったことのないことを平然とやっている朱乃に妬いているのだ。

(そうしないと下についてる者に示しがつかないもんなぁ)

惜しいようで凄く遠かった。意を決し、夜明はリアスを呼び止める。無言で振り返るリアス。少し逡巡した後、夜明はゆっくりとリアスを抱き締めた。突然のことにリアスは彫像のように固まる。

「あの……部長。帰ったら膝枕してもらっても良いですか?」

「……どうしたの、夜明? 随分と甘えん坊ね?」

とか言いつつ、リアスの表情はさっきとは打って変わってご機嫌その物だった。自身も夜明を抱き締め、夜明の銀髪を指で梳いている。

「いいわ、家に帰ったらうんと甘えさせてあげる」

だから、早く帰りましょう、と夜明の手を引っ張ってリアスは石段を駆け下りていく。いきなり引っ張られ、転びそうになりながらも夜明はリアスの機嫌が治ったことにほっと安堵の息を漏らすのだった。





「〜♪ 〜♪」

「……」

「は、ははは……」

その夜、夜明に膝枕しているリアスが上機嫌で、アーシアが涙目で口をへの字にしていたことは言うまでも無い。














「さって、これで『ミレニアム』に関する情報は粗方纏めたか」

「分かってる範囲内だけどねぇ。太陽、今回の会談って三大勢力のトップが集まるんでしょう? 私みたいなものが出てもいいのかしら?」

「私みたいなって…・・・言っとくがクレア、お前の『銃剣(ベイオネット)』っていう渾名も結構なネームバリュー持ってるんだぞ? 出てくるタイミングは私が指示するから、それまで気付かれないように待っててくれ。それからウォルター、今回は色々と動いてくれてありがとうな」

「何を仰いますか。ライトお嬢様の望みを叶えることこそ、我が身の最上の喜び。どんどん、私を顎で使ってください」

「顎でって……まぁいい。もう一度確認するがウォルター。『ミレニアム』に動きは無いんだな?」

「はい。大きな動きは未だに見せておりません。しかし、赤龍帝を含めたトップ達の姿が見えなくなりましたので、恐らく」

「会談に殴り込みしてくると。どこで拾ってきたんだ、会談の情報? ウォルター、会談の間、周囲の警戒を頼めるか?」

「承知」

「太陽。気をつけなきゃいけないのはミレニアムだけじゃないわよぉ」

「分かってるっての。ったく、『ミレニアム』だけでも面倒だっていうのに……というか、『ミレニアム』の方がよっぽどイレギュラーか。最近出てきたこいつらに比べて、あいつらはかなり前から組織として出来上がってたらしいからな」

「三大勢力の危険因子を集めたテロリスト集団、『禍の団(カオス・ブリゲード)』。そして彼らがトップに据えた最強のドラゴン、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』、オーフィス、か……」

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