小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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           『平和が一番、なんだけどねぇ……』




とうとうこの日がやって来た。三大勢力会談の当日である。部室に集まった眷属の面々を一人一人見回してリアスは深呼吸を一つ、ゆっくりと息を吐き出す。

「さて、行くわよ」

リアスの言葉に一同頷く。場所は会談の会場となる駒王学園新校舎にある職員会議室。今日は休日、時間帯は深夜だ。すでに各陣営のトップ達は新校舎に用意された部屋で休んでいるらしい。そして学校の周辺には結界が張られている。会談が終わるまでは中から出ることが出来ないし、外側からちょっかいを出す事も出来ない。更に言うなら、それぞれの陣営の軍勢がぐるりと学校を囲んでいるそうだ。

「もし、今回の会談が決裂することがあったら、そのまま即、戦争なんてこと」

「それはない、とは言い切れないよね」

夜明と祐斗が言葉を交わしていると、リアスが部員を引き連れて部屋から出て行こうとしている。

『部長、皆さぁぁぁぁぁぁん!!!』

そして部室には引き篭もりヴァンパイアin theダンボールが。

「ギャスパー。今日の会談はとても大事なものだから、時間停止の神器(セイグリッド・ギア)を使いこなせないあなたは参加できないのよ?」

仮にギャスパーが会談に出たとして、何かしらのショックで『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』を発動させて会談の邪魔をしたら本気で洒落にならない。夜明は安心させるようにダンボールをポンポン撫でる。

「心配しなくても大丈夫だ、ギャスパー。会談なんてすぐ終わるよ。その間、携帯ゲームでもやって待ってろ」

『は、はい、夜明先輩』

ギャスパーの返事に満足げに頷く夜明を太陽はにやにやしながら見ていた。

「面倒見がいいな、お前は」

「ま、小猫と違って弄り甲斐があるからな」

「……悪かったですね、弄り甲斐がなくて」

頬を膨らませ、そっぽを向く小猫。悪い悪い、と夜明は苦笑いしながら小猫の頭を撫でる。














一行が会議室に到着すると、既に他の面々は揃っていた。特別に用意させたらしい豪華そうなテーブル。それを囲んでいる面々はほとんど、夜明が顔を知っている人物達だった。いずれも真剣な表情を浮べている。悪魔側はサーゼクス、セラフォルー。給仕係にグレイフィア。天使側はミカエルと見知らぬ天使の女性。堕天使側はアザゼルと白龍皇、ヴァーリ。流石にアザゼルも今日は浴衣ではなく、装飾の凝った黒いローブを纏っていた。

「……」

ヴァーリは夜明の姿を認めると、無言で片手を軽く上げた。夜明も僅かに手を動かして応える。

「私の妹と、その眷属達だ」

サーゼクスが他の陣営にリアスを紹介する。リアスは軽く会釈し、夜明達も頭を下げた。

「先日のコカビエル襲撃では彼女達が活躍してくれた」

「そのことなら既に報告を受けています改めて礼を言います」

ミカエルの礼にリアスは再び会釈した。

「彼女達が活躍、って言っても、実質戦ったのは英雄龍だろ? って、んなことよりも悪かったな、ウチの馬鹿(コカビエル)が迷惑かけた」

とんでもない態度だ。とてもトップとは思えない。リアスは軽く口元を引き攣らせているが、他のお偉方にとってはアザゼルの態度は当たり前なのか、特に表情を変えることはない。

「その席に座りなさい」

サーゼクスが指示した席に向かう。そこには既に生徒会長のソーナが腰かけていた。リアスはソーナの横に座り、夜明を隣に据えた。他の眷属達も順々に空いた席に座っていく。

「全員が揃ったところで会談の前提条件を一つ。ここにいるものは皆、最重要禁則事項である『神の不在』を認知している」

サーゼクスの言葉を皮切りに会談はスタートした。














(暇だな……)

それが月光夜明の感想だった。目の前では各陣営のトップが何やら小難しい話をしているが、悪魔と関わりを持ってから日が浅い夜明にはちんぷんかんぷんだった。会議は順調に進行しているといえる。時々、アザゼルの発言で場が凍りつくことがあるが。所在なさげに夜明が会議室に視線を走らせていると、小さく欠伸を漏らしていたヴァーリと目が合った。

(退屈だな。そう思わないか月光夜明?)

目で問うてくるヴァーリに夜明は無言で肩を竦めて見せる。しかし、本当にやることがない。会談は各陣営のトップが進めているのだから当然といえば当然なのだろうが。余りにも暇だったので、夜明はリアスの横顔を見入る事にした。

(相変わらず綺麗な人だな〜)

そんなことを考えているとリアスが夜明の視線に気付く。少しばかり顔を赤くしながら苦笑いし、夜明の手を握った。緊張からなのか、繋いだ手からは震えが伝わってくる。夜明は無言でリアスの手を握り返した。

(おいお前等。こんな所でイチャついてんじゃねぇぞ)

太陽が呆れ顔を浮べながら小声で言う。

(夜明の手から勇気をもらってるのよ。これくらい大目に見てちょうだい)

へいへい、と太陽は苦笑しながら意識をトップの話し合いに戻した。こちらは夜明と違って真剣な表情をしている。会談は続き、ついにリアスの出番が回ってきた。

「リアス。そろそろ、先日の事件について話してもらおうか」

「はい、ルシファー様」

サーゼクスに促され、リアスは席から立ち上がった。リアスに続き、ソーナと朱乃も立ち、三人はこの間のコカビエル襲撃についての一部始終を話し始める。三大勢力の面々はリアスの話に聞き入っている。リアスは淡々と事件の概要を話していたが、極度の緊張からか手が微かに震えている。いくら豪胆とはいえ年相応の女の子ということか。

「以上が私、リアス・グレモリーとその眷属が関与した事件の報告です」

「ご苦労、座ってくれ」

サーゼクスの一言でようやくリアス達は席に座ることが出来た。そして再び始まるトップ同士の話し合い。主な事はコカビエルの処遇、そしてアザゼルが神滅具(ロンギヌス)保有者を集めている理由だった。

「アザゼル、何故ここ数十年、神器(セイグリッド・ギア)保有者をかき集めている。最初は人間を集めて戦力増強を図り、我々か天界に戦争を仕掛けるのではないかと予想していたんだが」

「そう、何時まで経ってもあなたは戦争を仕掛けてこなかった。『白い龍(バニシング・ドラゴン)』を手に入れたと聞いた時は強く警戒したものですが」

サーゼクスに続き、ミカエルも疑問を口にする。アザゼルが大人しくしていることがそんなに珍しいのか、それとも単に信用が無いのか。後者だろうな、と夜明は予想し、その考えは物の見事に的中していた。その後の短い会話で自分の信用が三大勢力の中でも最低ランクだと思い知らされたアザゼルは面白く無さそうに耳の穴をかっ穿る。

「チッ、先代ルシファーや神よりもマシかと思ってたが、お前等も同じくらい面倒だな。これ以上こそこそ研究するのも限界か。あ〜、分かった。和平を結ぼうぜ。元々、お前等もその気だったんだろ?」

和平。アザゼルの口から出てきた言葉に室内にいるほぼ全員が驚愕していた。まさかこいつの口から……といった感じの空気だ。その後はとんとん拍子で話が進んだ。悪魔や天使が和平を望んでいたという事も大きかった。今後の戦力の事や、勢力図のことやらを話し合っている。

「……と、こんなところだろうか?」

サーゼクスのその一言でお偉方は大きく息を吐き出す。大方の重要な話は終わったようだ。

「さて、会談も終盤だし、そろそろ俺達以外にも世界に影響を与えられそうな連中の意見を聞いてみるか。まずはヴァーリ、お前は世界をどうしたい?」

アザゼルの問いにヴァーリは凄みのある笑みを浮かべて見せた。

「俺は強い奴と戦えればそれで良いさ」

彼が生粋のバトルマニアだと分かる台詞だ。アザゼルの視線が今度は夜明を捉える。

「英雄龍、お前はどうだ?」

「主、リアス・グレモリーのために命を懸ける。それだけさ」

夜明の返事にアザゼルは面白そうに唇を歪ませた。

「それだけか? 神滅具(ロンギヌス)を含めた全ての神器(セイグリッド・ギア)を相手取っても渡り合えるほどのものを宿しているのに?」

「命を救われた。理由はそれだけで十分だと思うが?」

特に気負うでもなく、夜明は淡々と答える。言葉に嘘偽りは一切含まれていなさそうだ。これ以上は聞いても無駄だと判断したアザゼルは次に太陽を見る。

「『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』、お前はどうなんだ?」

「リアの眷属として生きていくだけさ。会談も一段落したことだし、話しておきたいことがある。この三大勢力が和平を結ぶにあたり、かなり重要なことだ」

徐に立ち上がった太陽に全員の視線が集まる。サーゼクスはちらっとリアスに視線をやった。主である彼女も何も聞かされてないのか、驚きを露にして太陽を見ている。

「太陽、どういうことかな?」

「今から説明する。おい、クレア」

太陽が呼びかけると、どこからともなくは〜い、と間延びした声が。

「紹介する。私の友人のクレア・サンドロだ」

「どうもぉ〜」

「「「「「「「「っ!!!!!!!!!」」」」」」」」

何の前触れも無く太陽の隣に現れた神父服姿のシスター、クレア・サンドロはペコリと頭を下げた。この場にいる全員が驚愕に目を見開く。それも無理からぬことで、彼らはクレアの出現はおろか、気配すら感じていなかったのだ。

「おいおい、銃剣(ベイオネット)がいるなんて聞いてねぇぞ」

「……太陽。彼女は何時からここに?」

サーゼクスの問いに最初っからだぞ、と太陽は何でもないことのように答えた。太陽が指をパチンと鳴らすと、皆の前に紙の束が現れる。

「その資料に目を通しながらクレアの話を聞いてくれ」

全員の視線がクレアに向けられる。相変わらずのおっとりとした微笑を浮べながらクレアは話を始めた。

「コカビエル襲撃事件の時、私は十三課(イスカリオテ)の任務であることを調べてたんです」

それはコカビエルのエクスカリバー強奪を手引き、もしくは協力した組織のことだ。

「そして調べていくうちにあることが分かりました……コカビエルに協力した組織に現赤龍帝が身を置いていることが」

再びの衝撃が室内に走る。白龍皇と対を成す存在、赤龍帝。神滅具(ロンギヌス)、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を宿した『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』。その力はヴァーリや夜明同様、世界に多大な影響を及ぼすほどのものだ。アザゼルがヴァーリを振り返る。

「アルビオンから赤龍帝が現れたという話は既に聞いていた。どこにいるか、等の詳しい事までは分からなかったがな」

「お前達『神の子を見張る者(グリゴリ)』が赤龍帝の存在を知らなかったのも、その組織が情報を隠蔽していたからさ」

赤龍帝だけじゃない、と太陽は組んだ両手に顎を乗せた。

「『二の打ち要らず』を謳われた最強の拳法家、魔拳士『李書文』。日本で五本の指に入る大妖怪、鬼頭領『酒呑童子』。他にも二大魔獣の片割れ、ヴァルログが封ぜられた『炎翼大魔の心臓(ヴァルログ・ムルシエラゴ)』。レヴィアタンの再来といわれた『皇鮫后(ティブロン)』を宿した奴までいる」

しかも、後者の二人は旧魔王の血を引いているのだ。そのことを教えると、ヴァーリがもっとも大きな反応を示していた。と、そこで無言で話を聞いていたアザゼルが手を上げる。

「おい死神、それに銃剣。一つ確認したいんだが、お前らのいう組織って」

「いや、『禍の団(カオス・ブリゲード)』じゃない。連中は自分達のことを『ミレニアム』、もしくは『最後の大隊(ラスト・バタリオン)』と呼称しているそうだ」

マジかよ、とアザゼルは額に手を当てて盛大にため息を吐く。

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』以外にもそんな面倒な組織がいたなんて……しかも赤龍帝持ちとか」

「アザゼル。その『禍の団(カオス・ブリゲード)』というのは……?」

その名に聞き覚えがないらしく、サーゼクスは眉根を寄せてアザゼルに訊ねた。ミカエルも同じらしく、アザゼルを見ている。

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』。すっぱり言っちまえばテロリスト集団だ。三大勢力の危険因子共を集めた極めて危険な組織。禁手(バランス・ブレイカー)に至った神器(セイグリッド・ギア)保有者もいる上に『神滅具(ロンギヌス)』持ちも何人か確認されてるぜ」

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』と『ミレニアム』だけじゃないですよぉ。今回の和平が他の神話体系にどんな影響を及ぼすか分かりませんし、それに」

そこでクレアは言い難そうに言葉を濁しながら太陽を見る。太陽は心底胸糞が悪そうな表情を浮べていた。

「あぁ、私のクソ親父も確実にイチャモンを」

そこまで聞いたところで夜明はある感覚に襲われた。最近、よく味わっているあの嫌な感覚。視界がホワイトアウトし、身体が硬直するような感覚。そう、ギャスパーの『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』で停止させられた時のような……。

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