小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

           『旧魔王派、襲来』




「……何があったんだ?」

夜明が気付いた時、会議室の中の空気は一変していた。ミカエルは窓から外の様子を伺い、サーゼクスとグレイフィアは真剣な表情で話し合っている。

「お、英雄龍が復活したか」

アザゼルが夜明の方を見ていた。周囲を見回してみると、動けるものと止まっているもので分かれていた。トップ達は全員が動けている。ヴァーリも例外ではなく、クレアものほほんとしたオーラを引っ込め、鋭利な刀身を連想させるオーラを放っていた。

「部員で動けるのは私と夜明。太陽に祐斗、ゼノヴィアだけのようね」

リアスが苦々しげな表情で呟く。リアスが名を上げた者以外はソーナを含め、全員が停止していた。高い実力を有する朱乃、魔王の妹であるソーナまで止まっていることから、事態は相当切迫していることが窺える。

「夜明は英雄龍を宿す者、祐斗は禁手(バランス・ブレイカー)に至り、イレギュラーな聖魔剣を持っているから無事なようね。太陽は規格外だし、ゼノヴィアは停止させられる寸前にデュランダルを発動させたのね」

あぁ、と頷きながらゼノヴィアはデュランダルを異空間へと戻していた。

「時間停止の感覚は身体で覚えた。デュランダルのオーラで防げるのではないかと思っていたんだが、正解だったようだ」

「ゼヴィも大概チートだな……テロなのか?」

あぁ、と夜明の問いに首肯しながらアザゼルが窓の外を指差す。瞬間、窓の外で閃光が爆発した。遅れて新校舎がグラグラと揺れる。攻撃を受けていることは明白だった。

「いつの時代も勢力と勢力が和平を結ぼうとすると、それを嫌がる連中が現れるのさ」

新校舎の外は校庭、空中に至るまで人影で埋め尽くされていた。黒いローブを着込んだ、いわゆる魔術師みたいな連中だ。新校舎へ向けて魔力の弾を放っているが、サーゼクスにミカエル、アザゼルが張った結界を破る事は出来ずにいるようだ。アザゼルは太陽とクレアを振り返った。

「おい死神、銃剣。こいつはどっちの勢力の襲撃だと思う?」

アザゼルの問いに太陽は禍の団(カオス・ブリゲード)だと断言する。根拠は? アザゼルの疑問にはクレアが答えた。

「もし、ミレニアムが動いたらウォルターさん、太陽の付き人が連絡をくれるようになってるんです。それに、この会談を妨害してくるようなら全力で排除しろと太陽に指示を出されてたから」

「冥界最強の執事がか。あいつから何の連絡もないってことは、ミレニアムとかいう連中じゃねぇってことか」

成る程、と頷くアザゼル。今度は逆に太陽がアザゼルに問うた。

「おいアザゼル。さっき、時間が停止させられたのは」

「お前の考えている通りだろ。おそらくハーフヴァンパイアのガキを拉致って、力を譲渡できる神器(セイグリッド・ギア)か何かで『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』を一時的にだが禁手(バランス・ブレイカー)状態にさせたんだろ」

しっかし、視界に映すもの全てを停止させるとはな、とアザゼルも驚きを隠せないようだ。ギャスパー・ヴラディ、彼女のスペックの高さが窺える。

「ギャスパーは旧校舎でテロリスト達の武器にされてる……どこで私の下僕の情報を手に入れたのかしら?」

いや、そんなことはどうでもいい。今、重要なのはリアス・グレモリーの眷属が会談を邪魔するための戦力として使われたということ。これ以上の侮辱はない。怒りの余りリアスは全身から紅いオーラを放っていた。

「何の連絡もないところを見ると、この校舎を囲んでいた堕天使、悪魔、天使の軍勢も時間停止を喰らってるようだな。末恐ろしいな、グレモリー眷属は」

やれやれ、と苦笑を浮かべつつ、アザゼルは窓の外に手を向けた。それに連動して外に無数の光の槍が生み出される。アザゼルが手を振り下ろすと、浮かんでいた光の槍が文字通り豪雨となって魔術師達へと襲いかかった。

「それだけで全滅かよ」

「こっちだって伊達に堕天使総督名乗っちゃいねぇよ」

夜明の呟きにアザゼルは自慢するでもなく鼻を鳴らす。確かにアザゼルの一撃で今いる魔術師達は一掃出来たが、校庭の各所に魔方陣が出現し、輝きと共に無数の魔術師達が次々に現れてきた。

「ありゃ、結界内と外部が繋がれてるな。こんな大規模な転移用魔方陣を即興で作れるとは思えないし」

「そうね。それにタイミングもタイミングだし……内部から情報が漏れたとしか思えないわ」

太陽とクレアは鋭い眼光で周囲を睥睨する。ミカエルがため息を吐きながら窓際から離れ、二人に視線をやる。

「夕暮嬢、シスタークレア。とにかく今は現状を打破する事を考えましょう。テロを仕掛けられた原因を究明するのはそれからです」

ミカエルに諭され、二人はそれもそうだと殺気を収めた。

「んで、これからどうするんですか? まさか、やらっれぱなしなんてことありませんよね?」

夜明の一言に一瞬、全員が黙り込んだ。結界内から逃げ出すという手段は取れない。学校全体にかけた結界を解かないと彼らは外に出られないし、仮に結界を解いたら外にいる連中が人間界に甚大な被害を及ぼすだろう。

「ま、現状は敵さんの親玉が出てくるのを待つのが一番か? 俺たちトップが下手に暴れると敵の思う壺、なんてこともありえる」

「そうだな。我々は下調べ中で動けない。だが、まずはテロリストの活動拠点になっていると思われる旧校舎からギャスパーちゃんを取り返すのが目的となるね」

「お兄さま、私が行きます。私が責任をもって、下僕を取り戻しますわ」

強い意志を瞳に乗せたリアスがサーゼクスの前に進み出る。予想通りなのか、サーゼクスはふっと、小さく笑みを零すだけだ。しかしここで問題がある。旧校舎までどう行くか、だ。新校舎の外には魔術師がわんさかいる上、通常の転移も何らかのジャミングで阻まれている。

「おい、リア。旧校舎の部室に『戦車(ルーク)』の駒があったよな? そいつで『キャスリング』すれば」

太陽のいう『キャスリング』というのは『王(キング)』と『戦車(ルーク)』の位置を瞬間的に入れ替えるレーティングゲームの特殊技の一つだ。

「確かに『キャスリング』をすれば敵の不意をつけるかもしれない。しかし、リアス一人で行くのは無謀だな。グレイフィア、『キャスリング』を私の魔力方式で複数人転移可能に出来るかな?」

「はい。リアスお嬢様と、もうお一方くらいなら」

そこでサーゼクスとグレイフィアの視線が一人に集中した。二人の視線を受けながら夜明はコクリと頷き、リアスについていく意思を示す。次にサーゼクスはアザゼルに目線を移した。

「アザゼル噂では神器(セイグリッド・ギア)の力を一定時間内だが自由に扱える研究をしていたな」

「それがどうしたよ?」

「英雄龍の力を制御は出来るか?」

サーゼクスの言葉にアザゼルは少し黙り込み、顎に手を当てながら夜明をマジマジと見た。居心地の悪い数秒後、アザゼルはサーゼクスに首を振ってみせる。

「止めておいたほうがいいな。どうやってかは知らねぇが、こいつは独自の方法で英雄龍の力を伸ばしている。下手に俺が介入すると、その成長を妨げちまうかもしれねぇ」

そいつは避けたいからな、とアザゼルは懐から何かを取り出す。夜明には見覚えのない文字が彫られているが、それを除けばシンプルな形の腕輪だった。夜明はアザゼルが放り投げてきた腕輪を片手でキャッチする。

「そいつには神器(セイグリッド・ギア)の力を抑える能力がある。例のハーフヴァンパイアに使いな」

夜明はアザゼルに礼を言いながら腕輪をポケットにしまった。リアスはグレイフィアから特殊術式を額に施してもらっている。夜明とリアスの転移準備がちゃくちゃくと進む中、アザゼルはヴァーリに向き直った。

「ヴァーリ」

「何だ、アザゼル?」

「お前は外で派手に暴れてこい。白龍皇が前に出てくれば、連中の動きも乱せるだろうし、何か動きがあるかもしれない」

「俺がここにいることは向こうも承知済みだと思うが?」

「それでも『キャスリング』で英雄龍が中央に転移してくるとは思ってもいないだろう。注意を引きつけるのは多少だが効果はある」

囚われているハーフヴァンパイアごと吹き飛ばせばいいと思うが、とヴァーリは口を動かそうとするが、夜明と太陽に凄まじい怒気と殺気を叩きつけられ、押し黙った。ため息を吐きながらヴァーリは背中から光り輝く翼を展開させる。『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイング)』だ。

「……禁手化(バランス・ブレイク)」

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』

音声と共に光がヴァーリの身体を包み込む。光が止んだとき、ヴァーリの身体は一点の曇りのない純白の全身鎧(プレート・アーマー)で覆われていた。最後にマスクが顔を覆っている。ヴァーリは夜明を一瞥した後、窓を開け放って外へと飛び出す。コンマ数秒と経たずに白龍皇による蹂躙が始まった。魔術師達はなす術も無く白に吹き飛ばされていく。

「こりゃイタチゴッコだな」

外の様子を見て、太陽は独り呟く。ヴァーリの攻撃で魔術師達は片っ端から消し飛ばされていくが、すぐに魔方陣から同じだけの人数の魔術師が現れてくる。

「アザゼル、先ほどの話の続きだが、もしかしてあなたは備えていたのか?」

『禍の団(カオス・ブリゲード)』に。アザゼルは否定するでもなく、頷いて見せた。

「あぁ、そうさ。自衛の手段は多いに越したことはないしな」

「あなたが警戒するほどの組織ですか。相当に厄介そうですね」

ミカエルは難しそうな表情を浮べ、口元に手を当てている。当然だな、とアザゼル。

「何せ、そいつらの頭は『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』。『英雄と謳われた龍(ブレイヴ・ドラゴン)』を超える強さを持った兇悪なドラゴンさ」

アザゼルの言葉に夜明以外の面子は絶句していた。夜明は心の中でブレイズハートに訊ねる。

(ブレイズハート、誰なんだそいつ?)

(……『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。ドラゴン族最強のもの。神々にすら恐れられた、無限に等しい力を持った怪物。ドラゴン族の中で、唯一明確に余やドライグ、アルビオンを超えている化け物よ)

英雄龍ブレイズハートにここまで言わせるのか、と夜明が感心していたその時だ。。

『そう。オーフィスが我ら『禍の団(カオス・ブリゲード)』のトップです』

聞きなれない声だ。同時に魔方陣が会議室の床に浮かび上がってくる。見たことのない模様だ。魔方陣の紋様に見覚えがないらしく、リアスは首を傾げていたが、サーゼクスは鋭く舌打ちしている。

「そうか、そういう訳か! 今回の黒幕は……」

ちょうどその時、まるでタイミングを計ったように夜明とリアスの転移が始まった。光に包まれた二人の視界から急速に会議室が遠のいてく。

「こっちは任せろ。お前等はしっかりギャスパーを助け出して来い」

え、ちょ、と戸惑う二人が最後に見たのはピラピラと手を振る太陽だった。














「さって、これまた面倒なのが出てきたな」

リアスと夜明が無事に転移したのを見届け、太陽はサーゼクス達と同じように床に展開された魔方陣に視線を落とした。魔方陣の紋様を見て、アザゼルは愉快そうに笑い、サーゼクスは苦々しげに顔を歪めている。

「これはレヴィアタンの魔方陣……」

ゼノヴィアの呟きに祐斗は驚きの表情を浮べる。少なくとも、今、床に展開されている魔方陣は彼の知るセラフォルー・レヴィアタンのものではなかった。祐斗の疑問を察したのか、太陽は不愉快そうな表情を作りながら懐から煙草を取り出す。

「レヴィアタンはレヴィアタンでも、旧の方だよ」

太陽の言葉が終わると同時、魔方陣の中から一人の女性悪魔が現れた。大きく開いた胸元に深いスリットの入った服。痴女といわれても反論できないような格好をした女性悪魔だ。

「ごきげんよう、現魔王のサーゼクス・ルシファー殿」

不敵な物言いだ。同じ様にサーゼクスも女性に挨拶を返す。

「先代レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン。これはどういうことだ?」

先代四大魔王。旧四大魔王が滅び、新しい魔王を立てようとした時に徹底抗戦してきたのが彼女達先代魔王の血を引く者達だった。その思想が危険だったという事もあり、戦後で疲弊していた悪魔達は最後の力を振り絞ってタカ派である旧魔王軍を冥界の隅へと追いやった。

「旧魔王派の者達はほとんど、『禍の団(カオス・ブリゲード)』に協力することになりました」

挑戦的な笑みを浮かべ、カテレア・レヴィアタンは宣言する。それをアザゼルは人事のように笑っていた。

「ここにきて旧新魔王の確執が本格化してきたか」

悪魔も大変だな、と完全に今の状況を楽しんでいる。サーゼクスは一瞬だけアザゼルを睨み、それからカテレアへと視線を戻した。

「カテレア。その言葉、額面どおりに受け取ってもいいのだな?」

「その通りです、サーゼクス。今回のこの攻撃も我々が受け持っています」

クーデターか、とサーゼクスは苦々しげだ。現魔王派に対する、旧魔王派の反逆。

「カテレア、何故?」

「聞いたところで無駄さ、サーゼクス。どうせこいつらの考えてることなんて自分達の都合の良いようなことだけだ」

「随分な物言いですね、トワイライト=ヘルシング」

過去に捨てた名を呼ばれ、太陽は剣呑な表情で眦を吊り上げる。全身から漆黒と深紅が綯い交ぜになった魔力が漏れ出し、メキメキと空間を浸食していた。私をその名で呼ぶな、と警告してからカテレアを睨んだ後、太陽は大きく息を吐き出しながら煙草を口に咥える。

「はっ、下らない。どうせお前等のやろうとしていることなんて、世界の変革だろ? 随分と暇なんだな、旧魔王派は」

羨ましい限りだ、と皮肉な笑みを浮かべる太陽。太陽の乱暴な物言いにカテレアは目を剥くが、咳払いして気を取り直した。

「その通りです。新しい『システム』と法、理念を構築して理想の世界を」

「理想の世界? 言葉を間違えるなよ。自分達旧魔王派の都合の良い世界だろ?」

言葉は正しく使わないとな、と太陽はカテレアの言葉を遮って嘲笑する。ポケットからジッポライターを取り出し、煙草の先に火を点けながら太陽はカテレアを見据えた。

「お前等旧魔王の血筋が求めてるのは正しい世界なんかじゃなくて四大魔王の地位だろ? 民草の心も掴めないような負け犬集団がキャンキャンと喧しいんだよ。過去の栄光に縋りつくな」

はた迷惑すぎて笑えやしない、と太陽は言葉を続ける。

「今の冥界は現四大魔王、サーゼクス・ルシファー、セラフォルー・レヴィアタン、アジュカ・ベルゼブブ、ファルビウム・アスモデウスの統治の下、より良い道を歩んでいる。お前等旧魔王(爆笑)共なんてお呼びじゃないんだよ……過去の遺物如きが出しゃばるな。お前等は未来の邪魔にならないよう大人しくしてりゃいいんだ」

太陽の言葉にサーゼクスとセラフォルーは驚きと喜びが半々になった、複雑な表情を浮べている。まさか、最強の悪魔と恐れられる太陽からここまで評価されているとは思ってもいなかったのだ。二人とは対照的にぼろ糞に言われたカテレアは激怒し、全身から凶悪なまでのオーラを迸らせている。

「どこまでも我々を馬鹿にするか、トワイライト=ヘルシング!! 貴様とて、私達と同じだろうに!!」

ブチィ!! と太陽は咥えていた煙草を噛み切っていた。顔に浮かんでいるのは無表情だが、その内側には天をも焦がす怒りの炎、大地を凍てつかせる殺意の吹雪が荒れ狂っている。

「はっ、ここまでコケにされたのは生まれて初めてだな。忌み嫌い、捨てた名で呼ばれた挙句、同じ穴の狢扱いとはな……一週周って吐き気が殺意になったぜ。おい、クレア。サーゼクス達の護衛は任せたぞ」

床に落ちた、未だに火がついている煙草を踏み躙り、太陽は口元に三日月の如き薄ら笑いを浮べた。

「『終末の怪物』の一匹、レヴィアタン。お前は私、夕暮太陽が直々にぶち殺す……拘束制御術式第二号、解放」

ゆらり、と彼女を中心にどす黒いオーラが溢れ出す。時折、紅の雷を奔らせ、オーラは空間を捻じ曲げ、世界に悲鳴を上げさせていた。床にクレーターを生み出す彼女の両腕には紅の紋様が浮かび上がっている。太陽が片手を窓へと向け、無造作に一閃させた。それだけの動作で窓側の壁が綺麗さっぱり、跡形も残さずに消し飛ぶ。

「行くぞ、カテレア・レヴィアタン。ハルマゲドンを迎えずに死ね」

「望むところよ、ヘルシングの落とし子、『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』!!」

両者はその場から飛び立ち、校庭の上空で壮絶な戦いを演じ始めた。その様はまるで、ハルマゲドンと呼ぶに相応しかった。

-44-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える