小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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           『覚悟とは!!』




「とうちゃ〜っく、と……って」

あれま、と夜明は間抜けな声を上げる。『キャスリング』は無事成功し、二人は部室へと到着していた。ただ一点、ミスのようなものがあったとすれば、それは……。

「まさかここに転移してきたのか!?」

「悪魔め!!」

目の前で絶賛、怪しいローブを纏った魔術師共が慌てている事だろうか。ここまで見事な鉢合わせは想定しておらず、驚きでリアスは動きを止める。夜明も彼女の隣で固まっていたが、すぐに何時もの調子を取り戻し、素早く部室内を見回した。

「ぶ、部長! 夜明先輩!!」

ギャスパーは部室の奥にいた。椅子に座らされ、縄で括りつけられている。目立った外傷は見られない。ギャスパーの無事を確認し、リアスはホッと息を吐き出した。

「ギャスパー! ……良かった、無事だったのね」

「部長、夜明先輩……もう、嫌です……」

二人の姿を確認すると、ギャスパーはボロボロと大粒の涙を零し始める。

「僕は、死んだほうがいいんです。お願いです、僕を殺してください……この力で誰かに迷惑をかけるくらいなら……」

自分の力が敵に利用されたことが相当堪えているのだろう。啜り泣きながらギャスパーは二人に懇願していた。しかし、リアスは優しげな微笑を浮べる。

「何を馬鹿なことを言ってるの。私があなたを見捨てるわけないでしょ? それに言ったじゃない。私の眷属となった以上、自分が満足できる生き方を見つけて、それを全うしなさいって」

「結局、見つけられなかったんです……皆さんに迷惑をかけてまで、僕に生きる価値なんて……」

涙ながらにギャスパーは弱々しく首を振る。リアスが何か語りかけようとするが、夜明がそれを制した。一瞬、リアスは夜明に下がるよう命じるかどうか迷ったが、自分の最愛の人を信じることに。一歩後ろに下がったリアスへ微かに頭を下げ、夜明はギャスパーへと銀の双眸を向ける。そして、静かな声で問いかけた。

「……また逃げるのか、ギャスパー・ブラディ? あの時、部長が部屋の封印を解いてくれた時のように、泣き叫んで、拒んで、周りを停止させて、逃げるのか?」

静かだが、よく通る声だった。答えに窮するギャスパー。不意に夜明の頭部に何かが派手な音を立てて直撃する。ギャスパーを捕えた魔術師の一人が魔力弾を放ったのだ。しかも、よくよく見てみれば部室にいる魔術師は全員女だった。額からボタボタと血を流す夜明を、魔力弾を放った魔女は冷笑を浮べて見据えている。

「何をごちゃごちゃと言ってるのよ? こんな危なっかしくて碌に扱えもできないハーフヴァンパイアなんて、道具として有効に使えばもっと評価が上がったでしょうに。旧魔王派の言うとおり、グレモリー家は情愛が深くて力が強いけど、頭がわる」

「黙れ。それ以上、穢れた口と薄汚い言葉で俺の主を侮辱するな」

氷の刃のように鋭い語気。魔女はギャスパーの命を盾にして夜明を脅そうとするが、刀のように鋭い眼光に気圧され、逆にたじろいでしまう。夜明は額から流れ落ちる血を拭い取り、再びギャスパーに視線を向けた。

「ギャスパー。今、お前はこう思ってるんだろ? 少なくとも自分という人質が死ねば、俺と部長がこの場を切り抜けられると。大した犠牲の心だ。死を覚悟したその心意気、実に感動的だ」

だが無意味だ、と夜明は冷たい声でギャスパーの考えを斬り捨てる。

「いいか、よく聞けギャスパー。生きていく中で犠牲になるってのは、諦める事と同じくらい一番簡単なことなんだよ。後のことは自分以外の誰かに押し付ければそれでいいんだからな」

そんなものが覚悟と呼べるか? 否、断じて否だ。そう、覚悟とは犠牲の心ではないのだ。堂々と胸を張り、月光夜明は高らかに言い放つ。

「『覚悟』とは! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開く事だ!!!」

ギャスパー!! 大声で仲間の名を呼び、夜明は血を拭った右手で拳を作りながらギャスパーへと突きつけた。

「俺は前にも言ったな? そこがどんなに暗く広く、果ての見ないような荒野であっても、覚悟をもって進めば誰であろうと道は切り開けるんだ、と。お前はどうしたいんだ? このまま逃げ出すのか? それとも一歩を踏み出すのか? 安心しろ! お前の進むべき道は俺達が示してやる!!」

そうですよね! と夜明はリアスを振り返った。その言葉に大きく頷きながらリアスは夜明の前へと進み出て、ギャスパーに厳しく、それでいて優しく語りかける。

「ギャスパー! 私に何度でも迷惑をかけてちょうだい! 私はその度にあなたを叱ってあげるし、その度に慰めてあげる! 何度だって! 私は決してあなたを放さないわ!!」

「ぶ、部長、夜明先輩……!」

またギャスパーは目尻から涙を流し始める。だが、それは恐れや悲しみから溢れるものではない。喜びの涙だ。そして、夜明は涙に濡れた彼女の目にあるものを見る。小さいが鋭く輝く、暗闇の荒野に進むべき道を切り開くための光……『覚悟』だ。

「ギャスパー!! 受け取れ、英雄龍の血だ!!」

血が付着した拳から極小さな魔力が発射される。血と共に放たれた魔力弾は過たず、ギャスパーの口の中へと飛び込んでいった。夜明の意図を察したギャスパーは躊躇うことなく夜明の血を飲み下す。途端、部屋に何とも表現し難い、不気味な気配が漂い始める。

「っ!? ハーフヴァンパイアがいない!?」

魔女達が気付いた時には既にギャスパーの姿は椅子の上から消えていた。魔女達がギャスパーの姿を探している間に夜明は銀翼蒼星を創り出し、リアスは滅びの魔力を放ち始める。チチチチ、と薄気味の悪い声が聞こえてくる。見上げれば、天井付近を無数の赤い目を持ったコウモリが飛んでいた。

「この数のコウモリ……ギャスパーか!?」

驚きの声を上げる夜明にリアスは頷いてみせる。夜明の血、即ち英雄龍の血がギャスパーの内に眠る吸血鬼の力を呼び覚ましたのだ。魔女達が毒づいていると、彼女達の足下にある影から何本もの腕が伸び上がってくる。悲鳴を上げて魔女達は影の腕を魔力弾で撃ち抜くが、影は四散するだけだ。

『無駄よ、その影は私の本体じゃない。いくら攻撃したって、私自身は痛くも痒くも無いわ』

室内にギャスパーの声が響き渡る。おぉ、と感嘆の声を上げる夜明とリアスだが、ふと首を傾げた。ギャスパーの声はこんなに大人っぽかったか? 彼らの知るギャスパーはいかにも女の子然とした可愛らしい声の持ち主だが、今の声は艶のある大人の女性の声だ。ギャスパーの声ではない。それになにより、彼女はこんな挑発的な物言いはしない。一人称も“僕”から“私”になっている。

「えぇい! こそこそと逃げ隠れして! 正々堂々と戦え!!」

『和平を結ぶ会談の時を狙い、その上人質までとるあなた達テロリストが正々堂々と戦え? お笑いね』

クスクス、と笑い声が室内に満ちる。コウモリ達の目が赤色に輝いたかと思うと、足を絡め取ってくる影の腕をどうにかしようと躍起になっていた魔女達の動きがピタリと止まった。『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の能力だ。

『これで良し、と。どうでもいいけどあなた達、もっと特訓したほうがいいわよ? こんな一瞬で停止させられるなんて、鍛錬不足の証拠だよ』

チチチ、と鳴き声を出していたコウモリ達が夜明とリアスの前に集まっていき、コウモリの球体が出来上がる。いくらもしない内にコウモリ球の内側に人影のようなものが見えてきた。人影が完全に形を成すと、コウモリが周囲に散っていく。そして現れたのが、

「「誰(だ)、あなた(お前)?」」

二人に見覚えのない、金髪赤目の美女だった。ボンキュッボーン、のナイスバディで、スリーサイズはリアスに匹敵しそうだ。駒王学園の女性制服は美女のサイズに合わないためパッツンパッツン。男子の精神衛生上、非常によろしくない光景である。美女は肩にかかるくらいの金髪を後ろに払い、夜明の姿を認めるとニコニコと満面の笑顔をで手を振った。そして衝撃の一言。

「やっほ〜、ダーリン」

言われた言葉の意味が分からず、夜明は数秒の間固まる。正気に戻り、顔を真っ赤にしながら美女に指を突きつける。

「だだだだだだダーリンってどういうこっちゃお前ぇ!?」

その答えを知りたい者が彼の隣にもいた。両腕から滅びの魔力を迸らせながらリアスは光を失った瞳で夜明を見据え、地を這うような低い声で問う。

「夜明、ダーリンってどういうことかしら?」

背筋に液体窒素でも塗られたような悪寒が夜明を襲う。それほど今のリアスはおっかなかった。両手を顔の横でブンブンと振り、夜明は自分にも何のことかさっぱり分からない事を示した。

「というか本当に誰だお前!? お前みたいな見ず知らずの奴にダーリンなんて呼ばれる筋合いはねぇぞ!!」

すると、美女は夜明の言葉に酷く傷ついたように目尻に涙を溜め、両手で口元を覆いながら責めるような視線で夜明を睨む。

「酷い! 昨日はベットの上であんなに激しく愛してくれたのに……!  私とは遊びだったのねダーリン!!」

「よ、あ、けぇ〜……」

「誤解です、無実です、冤罪です濡れ衣です!! 俺は自分の身の潔白を証明するために弁護士を要求します!!」

というか昨日、夜明は何時も通りリアス、アーシアと一緒に寝た。間違っても目の前の美女が入り込む余地なんてない。訝しげな表情を浮べながら二人は美女を見やる。

「……ぷっ、あはははは! ごめんごめん、冗談だよ」

鈴を転がすような笑い声を上げ、美女は目元の涙を拭う。さっきの傷ついた表情とは打って変わり、実に楽しげな面持ちだ。コロコロと変わる美女の相貌に二人とも戸惑うばかり。

「あなたは、誰なの?」

リアスの問いに美女はにっこりと笑いながら答える。

「マスター……今の時代では部長でしたね。私、ギャスパー・ヴラディです。十年後の未来から来た、ギャスパー・ヴラディです」

予想の遥か斜め上を行く回答だった。夜明とリアスは顔を見合わせ、また視線を自称ギャスパーに戻す。暫しの沈黙。そして、

「「えええええええええええええ!!!!!!!!!!!??????????」」

二人の絶叫が旧校舎内に響き渡った。














ゴバァァァァァァンッッッッ!!!!!!!!!

太陽が放った拳がカテレアの防御壁をぶち砕いていた。幾重にも張られた防御壁は一つ一つが要塞並の堅牢を持っているが、太陽の一撃はそれらをいとも容易く貫いていく。

「ちぃ!!」

カテレアは小さく毒づき、後ろへと下がりながら極大の攻撃を放つ。

「がぁっ!!!!」

太陽はカテレア渾身の一撃を咆哮一つで相殺させた。両者の力量差には圧倒的な溝がある。太陽が薄ら笑いを浮べているのに対し、カテレアは終始余裕のない表情を浮べていた。それも無理からぬことで、太陽の放つ全ての一撃は文字通り必殺の威力を有している。一撃でもまともに当たればその時点で終わりだ。カテレアの攻撃も普通の敵に対しては相当な威力を誇るのだが、相手が悪すぎる。

「はっ、情けないを通り越して哀れだな、カテレア・レヴィアタン! 弱すぎて思わず抱き締めたくなるな!!」

現にカテレアの攻撃は太陽の身体に届く前に軽々と消し飛ばされている。稀に直撃したとしても、服がボロボロになっていくだけで太陽本人は傷一つついていない。

「ゴッドイーターを使うまでもないか。この程度の力で世界の変革など夢想を語るか、目障りだ……消えろ」

カテレアに冷徹な視線を投げながら太陽は右腕に禍々しい漆黒の魔力を纏わせる。彼女の右腕を覆う魔力は徐々に形を変えていき、巨大な一本の爪と化した。太陽が右腕を大きく引く。それに連動して魔爪も狙いをカテレアに定める。

(あんな馬鹿げた密度の魔力の塊、防げる訳がない!!!)

内心で戦慄しながらカテレアは懐から小瓶を取り出し、中に入っている黒い蛇のようなものを飲み込んだ。刹那、ドン!! と空間が激しく振動する。同時に太陽が作った魔爪が突き出された。漆黒の魔爪はそのままカテレアの腹部をぶち抜くかに思われたが、硬質な音を立てて何かに防がれる。

「……へぇ、やれば出来るじゃないか」

感心したように呟きながら太陽は魔爪を霧散させた。魔爪を防いだ何か、分厚い防御壁の向こう側では現四大魔王に匹敵するほどのオーラを放つカテレアが不敵な笑みを浮かべて太陽を見ている。

「差し詰めドーピングってとこか? 飲んだものからしてオーフィスのもんか。いいねぇ、他者の力に縋ってまで勝ちに行こうとするその姿勢、醜すぎて反吐が出る。ま、今のお前にならゴッドイーターを使ってもよさそうだ。精々、死なないように頑張ってくれ……っ!!」

予想外の方向からの攻撃を感知し、太陽は異空間からゴッドイーターを出現させると同時にトリガーを引いた。銃口から吐き出された弾丸と白い魔力弾がぶつかり合い、派手な音を立てて爆散する。はっ、と笑いながら太陽は銃口から出ている硝煙を吹き消し、攻撃の主を睨んだ。

「やっぱりお前が裏で手を引いてたのか……白龍皇」

「やはりばれていたか。流石と言うべきなのかな、『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』?」

再び鼻を鳴らし、太陽は眩い輝きを放つ彼、ヴァーリにゴッドイーターの銃口を向ける。

「少し考えれば分かるこった。お前みたいな、とにかく強い奴と戦えればそれでいい、みたいなタイプは餌をチラつかせれば簡単に靡くからな」

「その表現の仕方は些か不愉快だが……まぁ、あながち間違ってはいないさ。『アースガルズと戦ってみないか?』こんなことを言われては、自分の力を試してみたい俺では断れないさ」

んなこったろうと思ったよ、と太陽は吐き捨てるように呟く。

「んで、ヴァルハラに攻め込んだ後はどうするつもりだ? 勢いで須弥山やオリュンポスにでも殴りこむのか?」

太陽の問いにヴァーリはそれも悪くないな、と呟く。兜に隠れて見えないが、その顔には嬉々としたものが浮かんでいる事だろう。お前の考えなんてどうでもいいさ、と太陽はヴァーリ、それから背後のカテレアへと視線を移した。

「お前等『禍の団(カオス・ブリゲード)』は野放しにしておくには厄介すぎる……潰させてもらうぞ」

その時だ。太陽や三大勢力の面々は勿論のこと、『禍の団(カオス・ブリゲード)』ですら想像していなかった横槍が入った。太陽とカテレアの戦いを見ていたサーゼクス達、テロを起こしたカテレアとヴァーリですら急速な事態についていけていない。ただ一つ言えることは、

「……ごふ」

『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』と畏怖された夕暮太陽が謎の一撃を受け、血を吐きながら地面へと落ちていったということだけだ。そして響く謎の笑い声。

「呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵っ!!!!!!!!!!」














後書き、みたいな。

ども、こんばんわ、サザンクロスでっす。ぐだぐだな展開になることは目に見えてる今日この頃。とりあえず、十年後の大人版ギャスパーは月姫のアルクェイドを想像してください。後、最後の笑い声ですが、言わなくても分かりますか。では、次も読んでいただければ幸いです。サザンクロスでした。

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